車通勤をしなくて良くなってから、早いものでもう一年になる。
1年前までは毎日のように乗っていた車も、週に一回乗るか乗ら無いかになった。
すっかり車庫で埃をかぶっている。
「あんまり乗ら無いでいると、バッテリー上がりますよ。」
そんな俺の現状を知ってか知人がそう教えてくれた。
それもそうだな。
上がると痛いものって言ったら、税とバッテリーだ。
よし、今度の休日はバッテリー充電も兼ねて、ちょいと遠出しよう。
俺はその週の休日、久々に車を運転すると、遠く湘南の地まで車を走らせた。
車はエンジンをかける際、ちょいと躊躇った感(キーを回せば瞬時にブルルルルンとかかるものだが、なんだか、ブル・・・・・・・ブルルルルンみたいな、「おっと、久しくかけられてなかったから、エンジンの掛けられ方ワスレッちまったぜオヤビン!」みたいな変な間が、エンジンがかかるまであったのだ。)があったのを別にすれば、いたって快調な走りを見せてくれた。
湘南の海に着いた。
これだけ走れば
バッテリーももう十分に充電できたことだろう。
駐車場に車を停めると、俺はそこからすぐの海岸へと向かった。
近くに江ノ島が見えた。
空気が透き通っていれば、雪のかぶった富士山も大きく見えるところなのだが、あいにくの曇り空、それは拝むことができなかった。
俺は海岸に佇むと、波や、それに乗って滑るサーファーたちをしばし眺めた。
風はまだ冷たく、裸足で波打ち際に立ち、海の水を楽しむことはやめておいた。
体がそこそこ冷えてきたところで、俺は車に戻ることにした。
駐車場に向かい、車のドアを開け、キーを差し込み、回す。
「キュル・・・・・・」
車はそう言ったっきり無言のままだった。
何度やっても同じだった。
終いにはキュルすら言わなくなった。
「あんまりほっとかれると、アタシだっていつか、あがっちゃうんだからね。」
隣で女がそう言った。