滝田ゆうと吉行淳之介

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『滝田ゆう名作劇場』(文春文庫)には吉行淳之介の小説「深夜の散歩」が漫画で描かれている。そこに登場する学生は、まさに吉行先生を連想させる絵(他に登場する作中人物も、みな作家先生そっくりなのであるが…)で、滝田ゆう独特の味わい深い画風が、どれもほんわりと暖かみに満ちている。この「深夜の散歩」は昭和三十四年十月号の「オール讀物」されたもので、『悪い夏 花束 吉行淳之介短編小説集』(講談社文芸文庫)にも収録されているので、今のうちなら手軽に読むことができる。せっかくなので漫画を読んだ後に小説も読み直してみたのだが、すでに滝田ゆうの強烈な作品イメージがすり込まれているため、読み進めれば進めるほどに、実は滝田ゆうのオリジナル作品だったのではないかという錯覚に陥ってくるのだ。気づかぬうちに滝田ゆうの世界観の中に取り込まれているのだ。それほどに完成度が高いのである。その他にも安岡章太郎「質屋の女房」、木山捷平「苦いお茶」、永井龍男「名刺」、遠藤周作「四十歳の男」、野呂邦暢「ロバート」、藤沢周平「意気地なし」、高井有一「祭り火」など二十二編が収録されており、どれも秀逸な作品に仕上がっている。ちなみに2002年に再版された『滝田ゆう名作劇場』には、全22本に加えて、野坂昭如原作『骨餓身峠死人葛』も特別収録されている。


吉行の作品には、滝田ゆうの対談や話も収録されている。分かる範囲で紹介すると、『躁鬱(そううつ)対談』(角川文庫・昭和六十年)で「抜けられるか抜けているか」というタイトルのつけられた対談が収められている。滝田ゆうの育った町「玉の井」について語られ、娼家や電気ブラン、路地の話などで盛り上がっている。また『街角の煙草屋までの旅』(講談社文庫・昭和五十六年)のエッセイ集には、「滝田ゆうと玉ノ井と」が収録されている。そこではこんなことが書かれている。


クレパックスと対蹠的に、滝田ゆうの絵の線はあたたかくて人間味がある。私の好きな滝田ゆうとつげ義春の作品は、劇画とはもちろんいえず、独立した一つのジャンルで、しいていえば「文学的雰囲気をもった連続画」とでもいうことになろうか。


実にうまい表現である。さらに続けてこのようにも云っている。


さらに、はるかに重要なことは、その作品がその狭い場所の雰囲気を伝えるだけにとどまらず、広い世界に出ていってそこにいる人間たちをあたたかくしみじみと包みこむことである。つまり普遍性をもっていることで、これがなくては一部好事家の愛好する絵に終わってしまう。


また、滝田ゆう独特の「吹き出し」に描かれてある小さな絵から、滝田ゆうの人間性まで言及している。


その作品の一つ二つを取り上げてみても、木が一本生えた無人島・出刃包丁・落下してきたドクロ・尿器・金槌・電球などで、そのほかしばしば見かけるものに、風鈴・蚊遣り器・ジョウロ・鼻緒の切れた下駄などがある。 そして、これらにどんな阿呆らしい意味をつけても、それが愛嬌になるのは、滝田ゆうの絵に滲みこんだ人徳、つまり彼自身の人徳によって支えられているもので、こういう哀しくやさしく淋しく愉しく薄倖のようで豊かな作品は、めったにあるものではない。


なにはともあれ、理屈抜きに『滝田ゆう名作劇場』は面白いのである。


『滝田ゆう名作劇場』(文春文庫・初版1983年)。

残念ながら絶版なのである。


◆2002年に発売されたもの。古書なら入手可

滝田 ゆう

滝田ゆう名作劇場



『躁鬱対談』(角川文庫・初版昭和六十年)



『街角の煙草屋までの旅』(講談社文庫・昭和五十六年)


◆「深夜の散歩」収録

悪い夏・花束―吉行淳之介短篇小説集/吉行 淳之介

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◆その他関連本

寺島町奇譚/滝田 ゆう

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怨歌劇場/野坂 昭如
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