「今まで頑張ってきたのを本店の方にも認めていただけたんですね。嬉しゅうございますわあ」



なんて訳じゃない!



とんでもない!!!





それなのに、社長が「出店」の2文字を口にした瞬間から道は一本。



社員、バイト一同、出店に向かって全力で走りださねばならないのだ!

あの駅店でのオープンからの日々が津波のように脳内を駆け巡る。



疑問ばかりが声にならない叫びになって沸き出してしまう。



ふと横を見ると、



アリサも、小林さんも、表情が苦しいとか辛いとか切ないではなく、

「痛い」感情そのものだ。



社長をはじめ部長や丸さん達にアリサと二人、疑問の嵐をぶつけ続けても、それは『決定』の2文字の前に何の力も持たないただの言葉の羅列に終わってしまう・・・・。





「そう。行くべき道は一つだけ。」



"ヨチヨチ歩きの栄店。赤ちゃんの名駅店。たとえていうならうちらは保母さん"



ありさがワタシ達4人を表現してノートに書いた私の大好きな言葉。



もう行く道が一つしかないのなら、もう一人大変な赤ちゃんをまさに今ここから産み出すしかないのだ・・・!



<たったの33日間しか与えられない>



これから待っている慌しい準備の嵐、ミーティングの嵐はそれこそ陣痛。



この痛み、しんどさがあるからこそ、そしてこの苦しさのおかげで後押しされて、お腹の中から、あの狭い苦しい道を通ってこの世へと誕生できるのだから・・・





今からが本店、出店への産みの苦しみ。



苦労して産んだ我が子は、誰よりも愛おしい。

アリサもみかちゃんもタカミーも小林さんも、みんながこの駅店でそうなったように。



さあ、今度は「本店」の子を産みましょう!

そして皆で育てましょう!

母の仕事はスバラシイですよ!



なんてったって笑顔の仕事ですもーん。





大変だけど、楽しんで、いくしかないっか!!



―驚きを通り越して"驚愕"

信じられなさを通り越して"不信と不安"が渦巻いて

それなのにやっぱり・・・・

前を向くしかないんだなあ。



仲間から前を向く力をもらっちゃうんだなあ。



今はもう、何も分からずにガムシャラに突き進んだ(進むしかなかった)過去のワタシ達とは違う。



「百貨店に出店する」という事の重大さを知った。



ただの一店舗ではない。

小さなテナントにも、百貨店としての信用が肩にかかっている事を痛感した。



そして今、ワタシ達が愛するこの店の「店としての未熟さ」も思い知った。



それは、この店の現場に関わる者は皆知っていた事実。

本当なら、こんな未熟な店のオープンはあり得なかったはず、心の底から痛感した。



―そこまで知って尚、進むこと。これからの道は名駅店のときと同じようになる可能性の高さを背負いつつ、目の前に現れた。"その道を歩く覚悟"



ただ突っ走るだけではもうできない。

覚悟の前向きさを必死に握り締めながら・・・・・



決めた夜。



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第三章 2号店オープン~ツボミ、形になる前が一番難しい


2月22日オープン!!





ワタシのお気に入りの手帳には、毎月コラムがついている。



そこにはネイティブアメリカンの人達が一月のことを"大地の生まれ変わる月"と呼び、暮らしを自然の大きな流れの中で楽しむ様子が描かれている。"大地"という言葉の響きにどこか心惹かれてずっとワタシの中に残っていた言葉。

遥か遠くの大陸で生まれた一月の呼び名はここでも大きな意味をもってワタシ達の目の前に居場所となって訪れた。





06年1月20日



今年初めてのミーティング。



なぜかこの日はいつもよりも何か異質な雰囲気に包まれていた。

どこか落ち着かないのだ。



それは頭の隅に引っかかるあの言葉のせいなのかもしれない。



――時々現れる本店のオエライさんがその日に限って売り場でいった謎の言葉。「社長に来年のはじめでも、落ち着いた頃に一回お会いしたいと伝えておいて。ん??まあ悪い話じゃないからさ。」





「悪い話ではない」といわれるほど居心地が悪くなるのはなぜだろう?

年を越しても持ってきてしまった妙な居心地の悪さを忘れようと、ネイティブアメリカンの希望の言葉を重ねてみる。



「大地が生まれ変わる月」

この言葉に間違いはなかった。



社長が笑顔で宣言する。



「2月22日に百貨店の本店に惣菜店の2号店を出店することに決定しました。」





・・・・





・・・・・







ワタシと年の変わらない若い社長の彼女がいう。



「ついては、ありさとヒゴさんのどちらかがオープンから最低2週間は売り場に必ずいること、というのが百貨店側から出された条件なんで・・・・こんなこと言われるなんて珍しいよねーワタシも驚いたんだけど・・・・」



まずワタシは使わないし、言いたくない言葉だけれど、それしか表現できない。



「信じられない!!!」







―売り上げ、今だに平日目標までいってませんよ?



―年末はうちの店だけ、おせちも出せなくて、新メニューも出せないで、売り上げもガタ落ちで3、4万台の辛い日もありましたよ。



―2店舗目って・・・。今売り場は11月からずっと1店舗でも足りない4人ぽっちなんですが・・・?



―キッチンなんて栄のレストランですよ。ここでさらに調理するんですか?

物理的に・・・・



―そもそも、2月22日2号店って語呂合わせじゃないですか?あと一ヶ月、そう33日後ですが・・・・ええええ~~





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~~もう一枚の表彰状~~



実はワタシには、ワタシだけの大切な表彰状がある。



それは一年生の下の息子が『おかあちゃん』にくれたじょうじょう

(賞状のこと)



週末は眠った後しか帰って来れないお母ちゃん。

平日もすっかり暗くなってからやっと帰ってきてセカセカとご飯を作りくたくたでねちゃうか仕事をおうちでもするおかあちゃん。



話したいこともいっぱいだろうに余裕のないこの母ちゃんを、兄ちゃんと一緒に応援してくれる。

内緒の話だけれど、やっぱりワタシは百貨店店長の肩書き付で立派な

"汚名返上"の賞状よりも、息子のお絵かき半分の"えんぴつじょうじょう"のほうが何倍も嬉しいんだ。

それからこの"じょうじょう"はワタシの仕事鞄の中分厚いファイルの「一番目」でいつも笑ってくれている。





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