放射性物質を経口摂取した場合の摂取量と被曝量との関係の2つの捉え方 | renormalization

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再規格化(くりこみ)

線量換算係数を用いる方法と体内に蓄積されるBq数に着目する方法の内部被曝量についての捉え方の違いについて確認してみたいと思います。


●線量換算係数を用いる方法

この場合は、経口摂取した放射性物質のベクレル数から等価線量換算係数を用いて各臓器の等価線量が算出され、それと各臓器の組織荷重係数をかけて和をとり、実効線量が算出されます。(途中の計算をくくりだし実効線量換算係数を直接使っても同じです。)


この方法の利点は、線量換算係数を算出するという面倒な部分が主な核種については実行されていて、その結果が表になって公開されていることです。しかし、その結果だけが示されているため、専門家以外が線量換算係数の算出方法や意味をきちんと理解することを困難にしています。


線量換算係数を算出するためには、核種の体内動態とその核種から放出される放射線の種類とエネルギー分布とその放出確率などがまず必要です。β線についてはそれを放出する臓器がそのエネルギーをほぼ吸収するので扱いは比較的簡単ですが、γ線は透過率が高いため臓器の配置と大きさが強く影響します。γ線の扱い方については次の資料にまとまっています。(単位系は古いですが)

http://ci.nii.ac.jp/els/110003455177.pdf?id=ART0003915440&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1319908963&cp


各臓器の等価線量換算係数から実効線量換算係数を算出するには組織荷重係数が必要ですが、それは次の資料の相対損害を丸めたものを用いています。

http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09020305/02.gif


各臓器のその値の和が1になるように規格化されているため、その意味を誤解しやすいので注意が必要です。たとえば、現在の甲状腺の組織荷重係数は0.04ですがそれ自体に本質的な意味はありません。本質的に意味があるのは0.04/(甲状腺の質量/全身の質量)の値で、60kgの人の場合は甲状腺の質量を20gとすると、その値は0.04/(20g/60kg)=120になります。この意味は、仮に全身の細胞の放射線に対する感受性が等しいと考えた場合、成人についての甲状腺の組織荷重係数は20g/60kgになることが理解できるとわかります。この120という値は、甲状腺の放射線に対する感受性は平均的な細胞のその値の120倍であることを意味します。


こんな感じの意味をもつ組織荷重係数を用いて実効線量換算係数は算出されるため、その意味を誤解している方が多いようです。つまり、線量換算係数を用いて被曝量を捉える方法は、多くの人に取っては途中がブラックボックスになっているため、小学生でも線量の値は計算できるようになっていますが、その本質的な意味を理解することができるのは極一部の人に限られてしまうという難点があります。


●体内に蓄積されるBq数に着目する方法

この考え方の利点は、同じBq数ならば核種が異なっても1秒あたり崩壊する原子核の個数が同じになるので瞬間瞬間の被曝をイメージしやすいことが挙げられます。


ただし、核種の体内での蓄積量を推定するためには、その体内での動態を知っている必要があります。セシウムの場合はその生物学的半減期が次の資料のようにわかっているので、それをもとに推定します。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001cyyt-att/2r9852000001cz7c.pdf p.15



体内での核種の蓄積量を推定しただけでは瞬間瞬間の線量は算出できません。ここで、核種から放出される放射線のデータを利用します。


具体的に、K40とCs137について考えてみることにします。


K40はβ線の平均エネルギーが大きく、Cs137はγ線の平均エネルギーが大きいことがわかります。ただし、β線の平均エネルギーとγ線の平均エネルギーを足すことはできません。それはγ線は透過率が高いからです。しかし、KとCsの場合はそれぞれ体内にほぼ均一に分布するので、γ線による寄与を近似的に見積もることは可能です。

http://ci.nii.ac.jp/els/110003455177.pdf?id=ART0003915440&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1328576470&cp

 

fig.5によると、成人の場合、全身に均一に放射性物質が分布した場合、30%程度のγ線が体内で吸収されるようです。1崩壊あたり体内で吸収される放射線の平均エネルギーは、次の資料の値を用いることにします。

http://www.ead.anl.gov/pub/doc/potassium.pdf

http://www.evs.anl.gov/pub/doc/Cesium.pdf


K40の約90%はβ線を放出し、約10%はγ線を放出します。それらのK40の1崩壊あたりの平均エネルギーは、


β線(内部転換電子も含む):0.52MeV、γ線(光子):0.16MeV


となり、一方、Cs137の大部分はβ線を放出し中間体であるBa137mになってから、さらにγ線を放出します。それらのCs137の1崩壊あたりの平均エネルギーは、


β線(内部転換電子も含む):0.25MeV、γ線(光子):0.57MeV


ぐらいです。したがって、γ線の全身による吸収率を33%とすると、1崩壊あたりで体内で吸収されるエネルギーは、K40については


0.52MeV+0.16MeV×0.33≒0.57MeV


となり、Cs137については

0.25MeV+0.57MeV×0.33≒0.44MeV


になります。したがって、およその見積もりをするのであれば同程度と考えてよいでしょう。


また、各臓器の等価線量率(単位時間あたりの等価線量)を等しいと近似すると、実効線量率(単位時間あたりの実効線量)は、全身の質量が60kgの成人なら、次のように見積もれます。K40の場合は、体内の蓄積Bq数×0.57MeV/60kg、Cs137の場合は、体内の蓄積Bq数×0.44MeV/60kgという感じになります。


実効線量が知りたければ、この実効線量率を時間積分すればいいだけです。しかし、実際の経口摂取は毎日同じだけのBq数を摂取するわけではないので、Csの場合の実効線量は体内での飽和量×時間というわけにはいかないことに注意する必要があります。(およその目安の計算ならもちろんOKですが)こんな感じで2つの考え方(捉え方)は時間積分を先(線量換算係数を用いる)にするか、時間積分を後(体内に蓄積しているBq数とその分布に着目する)にするかの違いだけです。ただし、この捉え方の違いを理解してきちんと適用すためには、途中の過程をブラックボックスにするのではなく、それぞれどんなことが考慮されているのかを知っておくことが重要だと思います。


●K40の場合について2つの捉え方の比較

60kgの人の体内に4000BqのK40が飽和した状態であるとしてみます。K40の生物学的半減期は約30日とされているので、体内に4000Bqの状態で飽和するためには、1日あたりのK40の平均摂取量Bは次のように求めることができます。


B=ln2×4000Bq/30day

 ≒92.4Bq/day


となります。


したがって、実効線量換算係数6.2nSv/Bqを用いて1年間に摂取したK40による実効線量ED1を求めると


ED1=6.2nSv/Bq×92.4Bq/day×365day

 ≒2.1E-4Sv

=0.21mSv


となります。一方体内に飽和している量が4000Bqであることより1年間での実効線量ED2を求めると


ED2=(4000Bq×0.57MeV/60kg)×365day

  =(4000Bq×0.57×1.6E-13J/60kg)×(365×8.64E+4s)

  ≒1.9E-4Sv

 =0.19mSv


となり、ED1とED2はほぼ一致していることわかります。違いが少し出た理由は、生物学的半減期をちょうど30日にしたこと、成人の実効線量換算係数を算出する際に想定された成人の質量が60Kgではないこと、時間積分の区間が少し異なることなどが挙げられると思います。