更新滞っていてすみません。

今月は短縮版で失礼します。


作品Ⅰ


歌詠めぬ四、五日飢うるごとくにて越後の米をゆつくりと噛む      橋本喜典



風花の空へと莟突きあぐるごぶしにそひゆく駅までの道         篠弘


十桁の番号ふいによみがえりしか認知症の姉が電話かけくる     小林峯夫


納骨の経誦する墓所この後は親しくあまた落ち葉が降らん       大下一真


わが知らぬ坊ノ崎沖に朽ちゆける戦艦おもひ煙草ともすも       島田修三


子の病みて遅刻をしたつ理科教師白衣を肩に羽織りつつゆく     柳宣宏


冬眠といふ他はなき暮らしぶりインフルエンザAもBも来ず       中根誠


自動車の死角のやうなる闇われに増し来てしばし物忘れする     柴田典昭


山羊の乳搾りしことも夫は言ひ雪降れば雪の信濃人なる        今井恵子




まひる野集



貿易の湊ほろびてゆふ風の駿河屋跡はいづこなるべし         加藤孝男


おおいなる暇つぶしなる老後かなざっくり混ぜて鴨を見ている     市川正子


さむぞらに何を掴めるかへりきて卓に十指をひらく軍手は       竹谷ひろこ


消滅は隣の字(あざ)に迫りたりとりあへず今日どんど焼きする    麻生由美


コラーゲン配合フードを食む犬の主(あるじ)とともに永らへてあれ   升田隆雄




マチエール



アマゾンよ三途の川よ「商品をカートに入れる」そして「確定」      山川藍


骨という骨が抜かれてニュースショー食べやすければいいのであろう   米倉歩


ネイチャーでファビュラスだという恭子さんの日常を綴る美香さんの誤字   小原和


吾のあとに子を産まざりし母は吾がために貞操を守りしごとし      加藤陽平


あのとき、と語る言葉のほのかにも思い出めいて吐き気がするな    北山あさひ


林檎ひとつをステンレスの刃に切りたればひとしく切らる冬の気配も  後藤由紀恵


午後3時ブラインドの影深くさし同僚のほほを刻んでいたり        佐藤華保理


「経営難、高齢化など」その「など」にばかり降るなりスギの花粉は   染野太朗


肉球のあいだ毛深しさくら踏むときに染みくる甘い水分          立花開


究みゆくことしかできぬ女いてうつわうつくし湖(うみ)の顔せり     富田睦子