アグラを出てどれくらい経っただろうか。
眼が覚めると、品のよさそうなインド人親子3人が座っていた。
小学校低学年くらいの男の子が
物珍しそうに、私を見ている。
私はにこっと微笑を返した後で、窓の外に目をやった。
そこには、インドの枯れた大地が広がっていた。
しばらくすると、私は便意をもよおした。
決して、朝方の雄大な排便風景に影響されたわけではない。
ただの生理現象である。
ご存知の方も多いと思うが、インドでは左手は不浄の手とされている。
だから、食事も右手だけで食べる。
では、なぜ左手が不浄の手なのか。
代弁をした後、左手で拭くからである。
しかも紙を使わずに、素手で・・・・・。
素手といっても、ただおもむろに拭くのではない。
カップに水を汲み、その水を左手でかけながら拭くのである。
そのため、どんな安宿や安食堂でも
大便器のすぐ横には蛇口があり、カップが置いてある。
言うなれば『手動ウォシュレット』である。
しかし、列車の便所に蛇口はあるが
手洗いカップは備え付けられていない。
用を足す寸前に気付いたために危うく難を逃れたが
本当に不浄の左手になるところだった。
念のために、と日本から持参したトイレットペーパーで用を足した私は
『インド人はどうするんだろう』と不思議に思い
しばらく観察した。
するとどうだ。
彼らは、マイカップを持参していた。
列車が駅に到着すると、色んな物売りが声を張り上げる。
チャーイやピーナッツ、バナナなどなど・・・・・。
なかには、列車に乗り込んでくる強者もいる。
とりわけ私が興味を持ったのは
靴磨きの男の子である。
列車が発車しても靴を磨き続けている。
ど~するんだろうと思ってみていると、次に停車した駅で
何食わぬ顔で列車を降りた。
私は、ピーナッツを一袋買い、目の前の男の子にあげた。
するとお礼に、お母さんが三太郎のような果物をくれる。
これをきっかけに、私たちは色々コミュニケーションをはかる。
私の名前をヒンディー語で書いてもらう代わりに
カタカナで名前を書いてあげたり・・・・・。
最初のうちは、名前や仕事、年収などの簡単な会話だったので
私の英語力でも問題なかったが
そのうちに会話が複雑になる。
当然会話に詰まる。
私は日本から持参した『トラベル英会話』を取り出し
単語を調べることになる。
それを見た父親は、本を取り上げて読み始めた。
そして、英語文を指さす。
私は指差された文の『日本語』を読み、返事をする。
その時である。
『英語を勉強しよう』とおもったのは----------。