OL日記 濡れた札束 | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

「ラブハンター 熱い肌」(1972年/日活/67分)
監督/小沼勝、脚本/萩冬彦、撮影/前田米造、美術/渡辺平八郎、音楽/世田のぼる
出演/田中真理、相川圭子、吉沢健、織田俊彦、やかた和彦、原司郎、露木護、佐藤了一

「古都曼荼羅」同様、抑圧的な夫からの女性の自立がテーマなのだが、どうもおざなり、通り一遍な印象。

「OL日記 濡れた札束」(1974年/日活/76分)
監督/加藤彰、脚本/宮下教雄、撮影/萩原憲治、美術/川原資三、音楽/樋口康雄
出演/中島葵、絵沢萠子、堂下かずき、浜口竜哉、賀川修嗣、高橋明、叶今日子

私が今までに見たロマンポルノの中で、5本の指に入る傑作。
しかも、この映画の存在自体、私は知らなかった。自分の無知を恥じる、プログラムピクチャーのマキノ的な豊穣さにくらくらする。

「誰もが死ぬって言ってたのに、誰も死ななかった」戦後を、ずるずると引き延ばされたかのように、無為に生きる姉妹。
姉は、延期された死を待つようにひっそりと生き、銀行員である妹は、他人の名を騙り、金銭を受け渡し、セックスにふけることを生の証とする。

または、偽名(「恵む、と書いて恵子です」「カタカナでええな」)を使い、戦争で死んだ兄とつましい暮らしを送る。「にいやん」を仕事に送り、迎え、セックスし、翌朝、再び彼を送り出す。その事務的な生活、だからこそ彼女は生きることの素晴らしさを実感しているのか、もはや抜け殻なのか。

加藤彰は彼女のアップを執拗に捉え続ける。涙を流し、自分の名を読んでくれと哀願し、セックスの快楽にふけり、「にいやん」を待つ、その表情の生々しさ、そこにいて生きていることの美しさゆえに、そしてもちろん、「ケイコ」を演じる中島葵をもっと見続けていたいがゆえに、加藤彰はアップを撮り続けるのだ。素晴らしい。