アイ・アム・レジェンド | 映画、その支配の虚しい栄光

映画、その支配の虚しい栄光

または、われわれはなぜ映画館にいるのか。

または、雨降りだからミステリーでも読もうかな、と。

または、人にはそれぞれ言い分があるのです…。

まさに完璧なデストピア、人類滅亡の日を見せてくれるわけだが、これが意外にも面白くない、怖くない。あ、こんなもん?と。

発電機が完備され、DVDも観れるし、どっちかつうと最高じゃん、とかそういう情緒的な理由からつまらないのではなく、人類が滅亡したら世界はこうなるであろうリアル以上の絵を示してくれないからつまらないのだ。

致命的なのは、リチャード・マシスンが提示した「吸血鬼」というビジョンをリアルの名の下に払拭してしまったことだ。この映画に登場する化け物は、紫外線に弱い「病人」にしか過ぎない。唯一怖かった絵は、天井にへばりつき壁をはがしている化け物の図であったが、それも単なるサスペンスに流れてしまった。

だからこの映画が示すモノは、「すべてのジュネーブから逃げろ逃げろ」という予言詩が張り付いた「ノストラダムスの大予言」に負けている。主人公の孤独な姿は、夜の海で巨大なクジラと対峙するトム・ハンクスに負けている。シベリアを行く列車に乗ったいしだあゆみに負けている。