八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の水没予定地にある川原湯温泉の老舗旅館の一つが、「生活再建の見通しが立たない」として、今月いっぱいで宿泊営業を休止する。

 前原国土交通相が昨年9月にダム建設中止を表明して以来、温泉旅館では初の休業宣言。「問題が長期化すれば衰退に拍車がかかる」と地元には不安が広がっている。

 休業するのは、明治以前の創業という「柏屋旅館」。24室で営業し、約120人を収容できる。温泉街の旅館は10年前の18軒から7軒に減り、最も大きい柏屋の宿泊客もピーク時の3分の1以下に減った。

 経営する豊田治明さん(74)は「中止表明から半年近くもたって何も進まない。代替地移転はいつまでも待たされるばかり。今のままでは赤字が続くだけで経営が成り立たない」と話す。日帰り入浴の営業は4月以降も続けるが、宿泊客を受け入れるには設備補修が必要で、経営的な余裕がないという。

 温泉街は数十メートル上に造成中の代替地に再建される計画で、約2年後には移転が始まる見通しだった。旅館関係者はダム湖による観光振興策を10年以上も練ってきた。柏屋も代替地に移転すれば営業を再開するつもりだが、豊田さんは「それまで生きていられるだろうか」と顔を曇らせる。

 ダム中止問題で脚光を浴びた昨年秋は観光客でにぎわったものの、その後、温泉街への客足は鈍い。川原湯温泉旅館組合長の豊田明美(あきよし)さん(45)は、「どの旅館も同じ苦境に直面している。次々に休業に追い込まれてもおかしくない」と心配する。

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