ライスリングのブログ

文学に対する日々の思いを趣味的に綴っています!著書に『夢見る趣味の大正時代』(論創社)、『現代文 基礎問題集』(ベネッセコーポレーション)、編著に『聞書抄』(博文館新社)、『森下雨村探偵小説選』(論創社)、解説に『女難懺悔 須藤鐘一』(本の友社)など。


テーマ:
大正14(1925)年7月にラジオの本放送が始まり、翌15年からラジオが爆発的に広まっていくのですが、ラジオの電波は日本だけに限りません。海外のものもあります。それを聞いていたラジオファンも当然います。

『読売新聞』昭和2年12月15日付の「よみうり東京ラヂオ版」には、「ラヂオ問答」という読者からの質問に答えるコーナーがありました。それを見ると、こんな質問が載っていました。

【問】ニュージランドにある放送局を御記載下さい。小生はメルボルン其の他のオーストラリアを受けてゐますが、折々ニュージランド云々の放送をきゝます。切に御回答を乞ふ。(和歌山県潮岬ファン)

和歌山県の潮岬の近くに住んでいるラジオファンからの投稿です。潮岬ならば、オーストラリアの放送も聴けそうです。大きなアンテナに、強力なラジオがあったんでしょうね。

答えは、以下の通りです。

【答】今ニュージランドには十局位あります。主なるものは次の通りです。

局名   波長   電力   所在地
YA    330   500w  オークランド
YA    240   550   クリスチャーチ
YA    360   750   ダンデン
YM    260   500   ジスボーン
YK    295   500   ウェリントン

上記の数字は、新聞掲載の漢数字をアラビア数字に直して転記したものです。しかし数字が小さく、また印刷も不鮮明のところがあり、もしかしたら違っているところがあるかもしれません。御勘弁を。

さて、特徴的なのは、ラジオ局の出力が小さいことでしょう。日本のJOAKは、大正14年本放送時においては1kwでした。昭和3年度までにそれを10kw に増やしました。それに較べると、ニュージーランドの出力は最大でもダンデンの750w=0,75kwですから、小さいのがわかります。でも、この数字は古い資料を用いたのかもしれませんので、本当のことはわかりません。

それにしても、この和歌山県の質問者は、ニュージーランドのラジオ局をよく受信していますね。中波ですよ。聞いていたんですね。——レシーバーを耳にあて、静かな部屋で、息を凝らしながら、ラジオの声を聴く。遠い世界の音を聞く楽しさがわき上がってきます。世界は広いんだ。

小学生の頃、初めてゲルマニウムラジオを作って、聴いていたことを思い出しました。
AD
いいね!した人  |  リブログ(0)

テーマ:
(承前)記事には、4人の作家のプロフィールも紹介もされていました。

まずは、江戸川乱歩です。「怪奇探偵小説家」の位置づけですね。

・江戸川氏はその筆名が示すやうに、米国の怪奇小説家であり詩人であるエドガア・アラン・ポーに私淑してゐるだけに、同じく怪奇な探偵小説家として知られてゐて、その色彩は耽美的で日常我々の気がつかぬやうな處に非常な怪奇美を見出し、それをこくめいに描き出す変態心理の取扱つた作はこの作家の得意とするところ。

次は甲賀三郎です。甲賀は『支倉事件』で、同じ年(昭和2年)の前半に『読売新聞』を賑わせました。

・氏は本格探偵小説の大家で日本のルブランと云はれる人——ルブランは仏蘭西の探偵小説家モーリスルブランのこと「怪盗紳士アルセーヌルパン」の作者として知られてゐる人——甲賀氏は複雑な筋を巧みに書きこなす解決のつけ方は快刀乱麻的であるから、結局今度の即興合作の筋をまとめるのは此人らしいと思はれる。

3番目は、水谷準。

・氏は若いせいもあるだらうが、極めてフレツシユな感じのある作を書く人。童話めいた夢幻的な詩的な興味の豊富な作品が多い。

「童話めいた夢幻的な詩的な興味」とは、当時の水谷準の作品をうまく言い表していますね。

4番目は、横溝正史。

・最近モダーン探偵小説を気取つて独自のスタイルを持つ清心味のある、またナンセンス味の多い、機知に富む作を成す人である。定めて他の同人を困らせるやうな原案を持ち出すであらうと思はれる。

「モダーン探偵小説」、「ナンセンス味の多い、機知に富む作」など、昭和2年当時の横溝の作品評価が伝わってきます。

最後は、大下宇陀兒です。宇陀児は、合作するのではなく、作品を解説する役回りだったようです。

・氏は探偵小説の本格物と変つた味のものとを巧みに混合させる人。そのプロツトだけでも面白いし、各同人の気持をよく知つてゐるだけに定めて要領の好い、ピリリとした解説をする事であらう。

——以上のように、作家の紹介がされていました。これらを読んだラジオの聴取者は、夜が楽しみだったでしょう。それがわかるようなラジオ版になっていました。
AD
いいね!した人  |  リブログ(0)

テーマ:
昭和2(1927)年12月15日夜、JOAK(東京波長375)では「探偵小説の夕」という番組を放送しました。午後7時25分から始まって、以下のような内容でした。

1、探偵小説の話 森下雨村
2、面白い探偵小説 甲賀三郎
3、探偵小説の出来るまで 合作者→江戸川乱歩、横溝正史、水谷準、甲賀三郎、大下宇陀兒
4,探偵ラヂオドラマ 「深夜の客」探偵趣味の会原案、本郷春治郎脚色
   場所 山の手の或る住宅
   配役 泥棒、原口(医師)→山田隆彌、若い婦人→六條波子、主人→土田純

『読売新聞』昭和2年12月15日付の「よみうり新聞ラヂオ版」に載っていたものです。ほぼ一面でその番組の紹介が二つの大きな写真入りです。大々的に紹介されていました。

さて、記事によれば、3の「探偵小説が出来るまで」は「江戸川、甲賀、水谷、横溝四氏のこの即席合作」作品でした。その物語の冒頭が取り上げられていました。

・~甲賀三郎氏がある日電車乗った。すると一人の若い女が乗ってゐてしきりに笑ひかける。元来甲賀氏はその本名を春田能為と云はれて工学学士温厚無類なる紳士であるので、少からず困っていると、突然この女が甲賀氏に百円札を一枚出した——と甲賀氏が他の三人に話す。「ホホウ、面白いな」。すると、四人のうち最もモダン・ボーイを以て任じてゐる横溝正史氏が、その不良性のありさうな眼を光らせつゝ「甲賀さん、その女はどんな風態をしてゐました」ときく。よくきいて見ると、どうも横溝氏の知つてゐる女らしい。前夜も一しよに自分は銀座を散歩した。すると江戸川氏はツルツルに禿た顔をなで乍ら、その明晰なる頭のよさを発揮して甲賀氏とその女との関係へつつこんで行く。かくの如くして話が進行して行くが、次第にこんがらかつて分からなくなりかける。とそこで、これも矢張り工学士の大下宇陀児氏が現れて、得意の窒素の分析なんかをやるつもりで、その話を各作家のの性質に照し合せ乍ら解剖解説して一つの通つた筋を作り上げる。そしてそれからまた次へと話を進めて行くのである。だから筋だけなら大下氏の解説をきいてゐれば分るのである。が、さてどんなものが出来上るか。即席だと云ふのだから、今晩まで楽しみにして待つことに致しませう。

長くなってしまいました。なんか、ほのぼのして、面白そうです。横溝は、この時期モダンボーイがウリでしたね。——ラジオの聴取者に期待を持ってもらうような書き方になっていました。(続く)
AD
いいね!した人  |  リブログ(0)

テーマ:
大正14(1925)年、ラジオ放送が始まった頃、巷にはいろいろな噂が流れました。その一つにラジオを聴くと、頭が悪くなるというのがありました。「ラヂオの流行から家庭児童の成績が悪い」という以下の記事。『中央新聞』大正14年5月12日付のものです。

・東京市の小学校の某教員は「ラヂオ放送の為め児童の成績が悪いといふ事は事実である然も首位を占めて来た児童が昨今非常な不成績を調べるとラヂオを聞くのを日課として復習等の如きは問題とされてゐなかつたと云ふ驚くべき事が判つたが之等の流行が益濃厚となつてくればくる程児童の成績が低下されはせぬかと今から教育方針に苦労してゐる」。

ラジオを聴くことで、学校の授業の復習時間が勉強時間が削られるということです。これはラジオに熱中するだけで起こるとは限りません。たとえば、何か好きなことがあれば、そちらのほうをやってしまい、勉強時間は少なくなるのは当然です。——でも、ラジオのせいにしていました。

次に挙げるのは、同じく『中央新聞』からです。大正14年6月8日付の広告から抜き出してみます。ちょうど今頃です。

・「快楽はラヂオ電波の如く 広き人生を通じて漲ぎりつつあり 電池たる生殖器を健全にして各自享楽せよ」 頭脳=精力、生殖機能、若返り 一回一錠トツカピン 強精強脳、健康作用。丁子堂薬房。

トッカピン。今でも同じ名前の健康ドリンクがあります。こちらのほうは錠剤です。その宣伝でした。以前ブログで話題にしたカルピスよりも、強烈な謳い文句で新聞を賑やかにしているのがわかります。

頭脳=精力? おおっ! なんか凄いです。さらにここでも「若返り」です。精力は若さの源ということですね。

コピーの冒頭、「快楽はラヂオ電波の如く 広き人生を通じて漲ぎりつつあり 電池たる生殖器を健全にして各自享楽せよ」ですって!!

ラジオの電波は、快楽であり、電池たる生殖器を健全にして各自享楽せよ、なんて……。過激です!当時のラジオの電波は、6月の梅雨の鬱陶しさを吹き飛ばすパワーがありました。素晴らしい。
いいね!した人  |  リブログ(0)

テーマ:
先の戦争中、日本はラジオの短波放送が聴けませんでした。禁止されていたからです。次のような証言があります。

それは『日の出』昭和19年10月号に掲載された、情報局情報官田中寛次郎と毎日新聞社欧米部長工藤信一良、それから同盟通信社長谷川才治の座談会「敵謀略宣伝の実体はこれ!」で語られたものです。

田中「日本にたいする宣伝の狙ひは、短波の放送は、日本では一般のものは聴いてゐない。聴いてゐるのは一部の役人か特殊の地位にゐるものだけだ。だから放送の内容もさういふ連中に聴かせるやうに編輯してやつてゐると向ふでも言つてゐます」。

座談会は、冒頭、昭和19年夏のサイパン島陥落のため、島に敵の放送局ができたらたいへんだ、どういう対策をとったらよいかというところから始まっていました。サイパンからの放送で、日本にもアメリカの放送が聞こえるようになったら、日本人が惑わせられるという心配でした。

実はそれ以前にも、アメリカはサンフランシスコから日本語放送をやっています。

田中「桑港の日本語放送ですが、たとへば五月五日には今日は端午であります。皆さんの故郷の庭には鯉幟りが立つてゐるでしょう。鯉幟りの鯉は勇気と自由の表徴です、と言うやうな調子で一応聞かせておいて、それからアメリカは自由のために戦つてゐるのだと言つてくるのですが、さういふことで、昔の日本の仕来りなどもなかなか研究はしてゐます」と。

日本人の心にしみていく話題を提供していたんですね。

先に、短波放送は禁止されていたと書きましたが、実際には一般人で聴いていた人もいるようです。ラジオの内容から、いろいろと考え、空襲がいつどこに起きるかもわかっていた人もいたそうです。また軍上層部の人間のなかには、アメリカの放送から、日本軍のあり方を考えさえられたこともあったそうです。そのあたりの事情は、社会学者の山本武利さんの「太平洋戦争下における日本人のアメリカラジオ聴取状況」に詳しいです。

いいね!した人  |  リブログ(0)

AD

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス

      ランキング

      • 総合
      • 新登場
      • 急上昇
      • トレンド

      ブログをはじめる

      たくさんの芸能人・有名人が
      書いているAmebaブログを
      無料で簡単にはじめることができます。

      公式トップブロガーへ応募

      多くの方にご紹介したいブログを
      執筆する方を「公式トップブロガー」
      として認定しております。

      芸能人・有名人ブログを開設

      Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
      ご希望される著名人の方/事務所様を
      随時募集しております。