ダイヤモンドの評価を巡り、大手鑑定会社「全国宝石学協会(全宝協)」が、かさ上げ鑑定をしていたとの疑いが明らかになった。宝石の代表として「別格」扱いされるダイヤ。しかし、消費者の目では、その価値判断は困難で鑑定書を信用するしかない。全宝協側は「許容範囲の修正」と主張するが、統一基準を定めた業界団体や外部に報告せずに独断で「修正」した経緯は不透明感がぬぐえない。背景には、消費者より業界の利益を優先しようとする企業論理と体質が浮かび上がる。【阿部周一、河津啓介、馬場直子】

 「多い日で100個以上鑑定した。ばれたら逃げられないと思っていた」。約1年8カ月にわたり、鑑定の操作に携わったと証言する30代の元社員の男性が毎日新聞の取材に応じ、会社から受けた指示の内容や、かさ上げの手口を語った。

 「日がたつにつれ、段々気持ちがマヒしていった……」。男性は全宝協福岡支所(福岡市博多区)で鑑定業務を担当していた。証言によると、東京本社から支所幹部に電子メールで指示書が届いたのは07年2月。「こんなことしなくちゃいけない」。「決定内容」と書かれた書面を見せる上司の苦しげな表情を今も記憶している。

 指示書には「1カラット以上の石についてD~Fを決定する場合半ランク、カラレス側へ修正」「G~Kまでを1ランク、カラレス側へ修正」と「カラー(色の濃淡)」の評価を甘くするよう記載されていた。

 全宝協側は「ボーダー(ランク間の境界)付近のダイヤに限って修正する趣旨であり、鑑定担当者には別途口頭で周知していた」と反論する。だが、男性は「そんな説明はなかった。ボーダー付近だけでなく1日90個なら90個、一律に甘く鑑定した」と語った。

 ダイヤの鑑定は、流通過程で行う業者向けの「簡易鑑定」と、消費者に渡す「鑑定書」の2種類がある。特に鑑定書は、消費者が購入を決める重要な手がかりとなるだけに、業界団体も信頼性の向上に努めてきた。

 鑑定担当者は基準石セットを並べた専用ケースに対象のダイヤを入れ、肉眼で見比べてランクを判定する。最も無色に近い最高級をDとし、以下E、F……とアルファベット順に分類する仕組みだ。

 ところが、福岡支所では本社からの指示後、基準石と見比べて「E」なら一つ上の「D」、「G」なら同様に「F」などと、甘く判断したデータをパソコン入力するようになったという。

 「これ、まずいんじゃない?」。職場は混乱した。男性は当時、「不況で業界全体の売り上げが減る中、(鑑定依頼の)受注を増やすためだろう」と推察した。全宝協の収入源の中心である鑑定料(簡易鑑定を含む)は1件4200~1万7850円。依頼主の宝石業者は販売価格が上がる甘い評価ほど歓迎しがちだという。結局、「逆らっても変わらない」と指示に従い、疑問がわく度に「これが仕事」と自らに言い聞かせたという。

 かさ上げ鑑定は08年10月、東京の宝飾店から指摘を受けた後に終わった。だが、今も全国の宝石店にはそれまでに鑑定されたダイヤの一部が在庫として残り、インターネットでも取引が続く。

 男性はその後退社した。「会社の指示とはいえ、買った人には謝罪したい。消費者に問題を黙ったままでいる会社が許されていいはずがない」と語った。

 ◇信頼喪失に危機感 宝飾店関係者「情報公開を」

 消費者にとってダイヤの品質は専門家の目が頼り。それだけにかさ上げ鑑定が明らかになったことは、信頼で成り立つ宝飾産業界全体を揺るがしかねない問題だ。店関係者は「日本のダイヤ市場は不透明な部分が多い。市場を透明化しなければ業界は信頼を失う」と危機感を募らせる。

 市場調査会社「矢野経済研究所」の推計では、09年の国内宝飾品小売市場規模は約9283億円。ダイヤはその半分を占め、婚約指輪などとして親しまれている。

 全宝協側は「自社評価のずれは、多数の依頼主から指摘があり、独自収集したデータでも裏付けられている。修正範囲も結果的に誤差とされる限られたものだ」と主張する。

 だが、宝石鑑別団体協議会に誤差の存在を説明し、修正の承認を得ることはしていなかった。業者が勝手に「許容範囲」として評価に手を加えれば、統一基準はなし崩し的に破綻(はたん)する。

 また、技術的な限界で生じたやむを得ない誤差と、基準に基づく結果を操作する行為は同程度の修正幅としても全く意味合いが違う。協議会幹部は「鑑定会社から自分たちの見方が正しいかどうか協議会に相談を持ち込まれることはある。そうした作業はいくらでもできたはずだ」と疑問を投げかけた。

 一方、こうした実態は消費者にほとんど知らされていない。かさ上げ鑑定されたダイヤは、今も市場に出回り、購入者自身はそのことに気付いてさえいない。ある宝飾店関係者は「消費者自身が声を上げられる情報公開が必要」と指摘する。それには、業者名や不正の内容のみならず、鑑定書に記載されたダイヤのシリアル番号などを公表し、誰もが賠償などを請求できる仕組みが求められるという。

 業界の自浄能力に任せるだけでなく、消費者庁や経済産業省も、監督機能の強化を検討すべき問題ともいえそうだ。

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