体育館裏で玉野君の追っかけ連中に囲まれた東瀬。
会話の内容はここじゃ詳しく聞き取れないけど、穏やかな交渉って雰囲気じゃないことくらいわかる。
男勝りの東瀬なら、人数の不利なんか関係なく取っ組み合いのケンカを仕掛けても不思議じゃない。
僕はそれが心配で追けてきたんだ…。その時は止めなきゃ…。
「はぁ?私がなんで自分の行動をあんたらに命令されなきゃいけないわけ?
ファンクラブ?勝手にやれば?
私はあんたらの邪魔しないし、私は話したい人と好きに話すし、野球部マネージャーの仕事を一生懸命やって、チームに貢献するだけよ!」
「それが信用ならないんです。告白する勇気もないクセに、マネージャーという安全なポジションから玉野君に私的に接近しない保証はありませんから!
東瀬さんが玉野君を野球部に勧誘したのは私達だって知ってますから。」
「全く、あたしって信用ないなぁ。
日頃の行いが悪いからねぇ。
いいわ、貴女達を相手にしない証拠に、玉野のマル秘情報教えてあげる!」
「え?何ですか?
玉野君誰とも喋らないから…。」
「玉野は関東から受験してきたけど、親の引っ越しとかじゃなくて、こっちで働いてるお姉さんと二人暮らしよ!」
「え~、そうなんですか~?お姉さん綺麗なのかな?」
「ウソー、誰よ、一人っ子て言ったのは?」
「あ~、わかる!お兄ちゃんより、弟っぽいよね~」
「バカね、まだ他に兄弟居るかもしれないでしょ!」
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女子達が急に楽しく盛り上がりだした。
東瀬が何を言ったかわからないが、喧嘩にはならなさそうだ。
もう安心かな?と思った時、僕の背後から肩を叩いた者が居た。
「金城、こんな所で何をしてる?」
「玉野君、どうして?」
「テニスボール拾ったんだ。キャッチボールしないか?」
あぁ、いいよと、言おうとした時、玉野君は、僕の視界の前方に居る東瀬に気付いたようだった。
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「続けていい?
GW明けの三者面談で、教室がわからないお姉さんを偶然案内したのが私と慎太郎よ!
その時から何となく話が弾んで野球部に誘っただけよ!
ねぇ、わかる?
私が玉野に気があるなら、あんた達にこんな話しないわよ!」
東瀬が何を言ったかわからなかったが、大声で歓喜する女子の声は響き、玉野君のお姉さんの話題ってことはわかった。
玉野君は東瀬や女子達に見向きもせず、「チッ」と小さく舌打ちして、僕を連れて体育館裏から去った。