優奈が顔をあげると、
そこにはあの205号室のお婆さんがいた。
・・いいや。
よく似た人物と言ったほうがいいかもしれない。
あのみすぼらしい毛皮のコートとは全く違い、まるで生きているかのようなフワフワな毛皮が、そよ風で揺れて、つやつや煌めいている。
疲れきったようなたるんだ目元、年老いた肌の毛穴の開き、歪んだ化粧が印象的だったその顔は、
今や、小綺麗なお金持ちのお婆様と見えるほど、きめ細やかでふっくらとした輝きを見せている。
優奈は、お婆さんのその変貌ぶりに気をとられ、落ち葉の地面に座りこんだままの自分を忘れていた。
お婆さんは、そっと優奈の手を拾いあげ、
「まぁ、まぁ、まぁ~。」
などと言葉を発しながら、優奈の部屋着のピンクのジャージにくっついた、落ち葉のカスを掃ってくれた。
「さぁ、ついていらっしゃいな。」
そういうと、お婆さんは優奈に背を向けて歩きだした。
優奈はハッとして、
目の前の光景を見て驚いた。
落ち葉の地面のまわりには、まるで雲の絨毯のような真っ白な地面が、雲一つない青い空の下で、煌めいている。
お婆さんの背中ごしに見える緑の球根のような形のドームには、三角やハート形など様々な窓がついている。
そのてっぺんから高く伸びた茎には、大きな葉っぱが3枚ついていて、何かを探しているか、この建物の付近を偵察しているのか、機械的に動いては止まりを繰り返していた。
そして、茎の上には大きな大きなヒマワリの花。
植物らしいというよりも、劇場のセットを思わせるような、独特な雰囲気だ。
優奈は、夢見心地で辺りを見渡しながら、お婆さんの後についていった。
お婆さんはドームに近づくと、小さなドアを開き、中に入った。
「おう、マダム!!」
まるでゲームのキャラクターのような、ツイストパーマをツンツン立たせた金髪の男の子が、寝転んだソファーの上から声をかけた。
お婆さんは正面に置かれたテーブルの脇にあった、アジアンテイストの少し広めの椅子に腰掛けた。
そっとお婆さんの後ろから部屋に入った優奈を見つけ、男の子は手に持っていた漫画を床に落とした。
「おいおいおいっっ、
・・もしかしてそれっ!! 新入りさんかい?」
男の子は優奈に近づくと、シルバーのゴツゴツした指輪だらけの手を差し出して、挨拶の握手をもとめた。
ハーフを思わせるような綺麗な顔立ちをしているに、新入りがそんなに気になるのか、二重でパッチリした目をさらに見開いて、優奈をギョロギョロ観察している。
優奈は恐る恐る手を差し出すと、男の子は痛いぐらいに優奈の手を強く握り、ぶんぶん揺さ振った。
「俺の名前はロク。 数字の六って書いて、六。夢はでっかくロックミュージシャン!! ロックを聴きたくなったら、すぐに俺様を呼んでくれ!!」
六は少し興奮気味にそう話すと、満足げに手を離した。
「ちょっと、アンタねぇ。 そんなだからいつまでたっても彼女できないのよ。」
チッ。
六は舌打ちをして、不機嫌な態度でしぶしぶソファーに戻って、また座り、煙草に火をつけた。
色気のある声の方を向くと、そこにはまさしく声の通りの女の人が、煙草をふかしていた。
艶やかな長い黒髪を無造作に束ね、流れ落ちる髪の先が、セクシーなキャミワンピからチラリとのぞく小さな谷間へと視線を向かせる。
その華奢な体つきのせいか、煙草をしきりにふかしている様からか、少し神経質に見えた。
「こんにちは、新人さん。 私の名前はお嬢。 仕事上、夜はあまりここには来れないの。 今日もそろそろ帰ろうと思ってたから、会えて良かったわ。」
お嬢はそのすらりと長く、綺麗に整えられたジェルネイルが光る指先で煙草の火を消して、優奈に近づき手を差し出した。
「あ、あの、はじめまして・・・。」
優奈は折れてしまいそうなその白くほっそりとした手を軽く握ると、ひんやりと冷たかった。
お嬢は少し微笑んで、後ろを振り返ると、部屋にいる人々を見渡してこう言った。
「私からみんなの紹介をしちゃっていいかしら?」
○●第6話へ続く●○
そこにはあの205号室のお婆さんがいた。
・・いいや。
よく似た人物と言ったほうがいいかもしれない。
あのみすぼらしい毛皮のコートとは全く違い、まるで生きているかのようなフワフワな毛皮が、そよ風で揺れて、つやつや煌めいている。
疲れきったようなたるんだ目元、年老いた肌の毛穴の開き、歪んだ化粧が印象的だったその顔は、
今や、小綺麗なお金持ちのお婆様と見えるほど、きめ細やかでふっくらとした輝きを見せている。
優奈は、お婆さんのその変貌ぶりに気をとられ、落ち葉の地面に座りこんだままの自分を忘れていた。
お婆さんは、そっと優奈の手を拾いあげ、
「まぁ、まぁ、まぁ~。」
などと言葉を発しながら、優奈の部屋着のピンクのジャージにくっついた、落ち葉のカスを掃ってくれた。
「さぁ、ついていらっしゃいな。」
そういうと、お婆さんは優奈に背を向けて歩きだした。
優奈はハッとして、
目の前の光景を見て驚いた。
落ち葉の地面のまわりには、まるで雲の絨毯のような真っ白な地面が、雲一つない青い空の下で、煌めいている。
お婆さんの背中ごしに見える緑の球根のような形のドームには、三角やハート形など様々な窓がついている。
そのてっぺんから高く伸びた茎には、大きな葉っぱが3枚ついていて、何かを探しているか、この建物の付近を偵察しているのか、機械的に動いては止まりを繰り返していた。
そして、茎の上には大きな大きなヒマワリの花。
植物らしいというよりも、劇場のセットを思わせるような、独特な雰囲気だ。
優奈は、夢見心地で辺りを見渡しながら、お婆さんの後についていった。
お婆さんはドームに近づくと、小さなドアを開き、中に入った。
「おう、マダム!!」
まるでゲームのキャラクターのような、ツイストパーマをツンツン立たせた金髪の男の子が、寝転んだソファーの上から声をかけた。
お婆さんは正面に置かれたテーブルの脇にあった、アジアンテイストの少し広めの椅子に腰掛けた。
そっとお婆さんの後ろから部屋に入った優奈を見つけ、男の子は手に持っていた漫画を床に落とした。
「おいおいおいっっ、
・・もしかしてそれっ!! 新入りさんかい?」
男の子は優奈に近づくと、シルバーのゴツゴツした指輪だらけの手を差し出して、挨拶の握手をもとめた。
ハーフを思わせるような綺麗な顔立ちをしているに、新入りがそんなに気になるのか、二重でパッチリした目をさらに見開いて、優奈をギョロギョロ観察している。
優奈は恐る恐る手を差し出すと、男の子は痛いぐらいに優奈の手を強く握り、ぶんぶん揺さ振った。
「俺の名前はロク。 数字の六って書いて、六。夢はでっかくロックミュージシャン!! ロックを聴きたくなったら、すぐに俺様を呼んでくれ!!」
六は少し興奮気味にそう話すと、満足げに手を離した。
「ちょっと、アンタねぇ。 そんなだからいつまでたっても彼女できないのよ。」
チッ。
六は舌打ちをして、不機嫌な態度でしぶしぶソファーに戻って、また座り、煙草に火をつけた。
色気のある声の方を向くと、そこにはまさしく声の通りの女の人が、煙草をふかしていた。
艶やかな長い黒髪を無造作に束ね、流れ落ちる髪の先が、セクシーなキャミワンピからチラリとのぞく小さな谷間へと視線を向かせる。
その華奢な体つきのせいか、煙草をしきりにふかしている様からか、少し神経質に見えた。
「こんにちは、新人さん。 私の名前はお嬢。 仕事上、夜はあまりここには来れないの。 今日もそろそろ帰ろうと思ってたから、会えて良かったわ。」
お嬢はそのすらりと長く、綺麗に整えられたジェルネイルが光る指先で煙草の火を消して、優奈に近づき手を差し出した。
「あ、あの、はじめまして・・・。」
優奈は折れてしまいそうなその白くほっそりとした手を軽く握ると、ひんやりと冷たかった。
お嬢は少し微笑んで、後ろを振り返ると、部屋にいる人々を見渡してこう言った。
「私からみんなの紹介をしちゃっていいかしら?」
○●第6話へ続く●○
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