秘密の関係~エピローグ~

テーマ:
>>プロローグ
>>第1章
>>第2章
>>第3章
>>第4章
>>第5章
>>第6章
>>最終章








1年前の今日、アタシとあいつは初めて顔を合わせ、初めてキスをした。

そしてその約1ヶ月後にエッチ未遂……




あの日からあいつは、たまにしかメールや電話をよこさなくなった。
仕事が忙しすぎて、友達と遊ぶ時間さえ全然ないのだという。

あいつのその言葉に、嘘はないと思う。
しかし、あれほど毎日のように送られてきたメールが、あの日を境に、びっくりするほど少なくなったのである。
仕事だけが原因だとは考えにくい。


意外と繊細なあいつのことだ。
もしかして、アタシに気を遣っているのか?




「後悔してへん?」

一睡もせずに迎えたあの朝、あいつは何度もそう訊いた。

「栞のこと、困らせてしまうんやったら、もう俺、『好き』とか言わへんし」


正直言って、この言葉がいつでもアタシを困らせていることは事実だった。
だけどそれは、あいつから好かれることにではなく、どう答えればいいのかわからないことに対してのもの。

そして、そのときの質問にも、アタシには返すべき言葉が見つからなかったのだ……。



最後の最後で結ばれることができなかったアタシたち。
あいつは、「今度会うときはリベンジしたい。初めてじゃなければちゃんとできるはずやし」と言っていた。


あの言葉の有効期限はいつなのだろう?
あと少しで1年になろうとしているけれど、まだ有効なのだろうか?
今度会えば、本当にそうなってしまうんだろうか?


心のどこかで、あのとき、結ばれなくて良かったのかもしれない、と思っている自分がいる。
そして、この先も結ばれないままのほうが……。



有効期限はともかく、会えばそういう雰囲気になってしまうような気がする。
ならばもう、二度と会わないほうがいいのかもしれない。


あいつは、いずれアタシがそう思うだろうことを察し、不用意にメールを送ってこなくなったのだろうか?
それとも、単にアタシへの興味を失っただけなのだろうか?



あいつの真意はわからないけれど、これだけは言える。




――あいつには守るべき家族がいるということ――




アタシはそれを壊したくない。
アタシが好きなのは、家族を愛しているあいつだから。

だからもし、アタシの存在が、あいつの家族との絆を弱めるようなことになるのなら、アタシはあいつから離れなければならないと思っている。




「もしさ、嫁より先に栞と出逢ってたら、俺はたぶん栞と結婚してたやろな」

エッチ未遂の数日後、あいつは電話でそんなことを言った。


「でも、結婚は今の奥さん以外にあり得へんって言ってなかった?」
「あれは、栞に出逢う前のこと。今はもう、栞と出逢ってしまったから♪」
「あぁそう……」



この人はどうしてこんなクサいセリフを飄々と口にできるのだろう、と思う。
だから、遊んでるように思ってしまうのだけど。


「……なぁ、栞は? もし彼氏より先に俺と出逢ってたら、俺と結婚してたと思う?」
「う~ん、そやなぁ……。まぁ、もし先に出逢ってたとしたら、今の彼氏を紹介されることもなかったやろうし、結婚してたかもね……」
「そうやんな! 俺やったら栞と家も近いし、結婚して栞がこっちに来たとしても仕事通える距離やから、何の問題もないもんな」
「……うん」
「俺らさぁ、もっと早くに出逢ってたらよかったよな」
「…………うん」


アタシは、電話越しのあいつの声を聞くうち、涙が出そうになった。







“もっと早くに出逢っていたら……”







お互いが生きている限り、出逢いを悔やむなんてあり得ないと思っていた。
もちろん、あいつと出逢えて、得られたものはとても多く、出逢いそのものには本当に感謝している。

だけど、出逢うのが遅かったために、アタシたちは、“秘密の関係”にならざるを得ない。
お互いに守りたい生活があるので、それが最善策なのだ。



「じゃあさ、俺と彼氏、ほとんど同じ時期に出逢ってたとしたら、栞はどっちを選んでると思う? もちろん、俺は結婚してないとして」
「……う~ん、それはその状況にならんとわからんよぉ」
「まぁ、そやけどな……。俺を選んでる可能性はある?」
「そりゃあ、もちろん。じゃなかったら、彼氏って即答できるはずやし」
「そやな(笑)」



あのとき、アタシは本当に、どちらかを選ぶことができなかった。

でも、1年経った今、1つだけ言えることがある。

それは、アタシが無条件の愛を捧げたいと思う相手は恋人のほうだということ。


いつでも自信満々で、アタシを引っ張っていってくれるあいつはとても魅力的だ。
恋人に負けないくらい、アタシのことを愛してくれるし、大切に想ってくれる。

でも、たとえば誕生日やバレンタインデーに、心を尽くし、手間をかけたプレゼントをあげたいと思うのは、やはり恋人のほうなのだ。
持てるすべての力を使ってでも喜ばせたいと思うのは、恋人のほうなのだ。



人は、喩えて言うなら、ジグソーパズルのようなものだと思う。

似た形のピースはあるものの、みなそれぞれに異なった個性を持っている。

そして、自分がより自然でいることのできる相手にめぐり逢うために、時間をかけてたくさんのピースと接してみるのだ。


なかには、形が全く変わってしまうほど、影響力の大きいピースに出逢うかもしれない。

だから、相性がいいと思っていた相手でも、時間が経てば形が変わり、合わなくなったりもするわけだ。



そもそも、相性って何なのか?

――アタシは、足りない部分を補え合える相手のことだと思う。


“足りない部分”は“短所”とはまた違う。
というより、“短所”と“長所”は表裏一体だと思うのだ。

一見、長所に思えることでも、時と場合によったら短所になるし、もちろん、その逆もあり得るのだから。


例えばアタシは、食事にしても、文章を書くにしても、とにかく人より時間がかかってしまう。
それは、“早さ”を求められている場においては、短所以外の何ものでもないだろう。

しかし、健康を考えた場合、ゆっくり食べることは良いことであるし、誤字脱字のない精確な資料を求められていれば、たとえ遅くても丁寧にするほうが認めてもらえるのだ。


だから、短所を改めようとすることはとてもいいことだけれど、もしそれによって長所が削がれてしまうようであれば、無理に改める必要はないと思う。
そこを補ってくれる誰かを見つければいいのだ。




“凹”と“凸”
合体させると、ちょうどお互いの足りない部分を補い合う格好となる。

まるで、男女がセックスをしているかのようにも見えてしまう形……。


これが、凹と凹、凸と凸だったりすれば、ちっとも噛み合わず、合体させたとしても、ちょっとした衝撃で崩れてしまう。
お互いが補っているからこそ、安定し、強力に結びつくことができるのだ。

これが、“赤い糸”の本当の意味なのかもしれない。



今、アタシにとって一番相性のいい近い形をしているのが、恋人なんだと思う。

この先、どちらかに、もっとシックリくる相手が見つかるかもしれないし、どちらかの形が変わって、噛み合わなくなることもあるかもしれない。

だけど今、アタシを補ってくれるのは、そしてアタシが補ってあげられるのは、恋人だけだと思うのだ。



恋人とあいつ、何が違うのかと訊かれると困る。

ただ、あいつに対して、アタシが無条件の愛を捧げたいという気持ちになれなかったのは、おそらくあいつが妻子持ちだからだと思う。

アタシが注がなくたって、充分すぎる愛情を受けていると感じたから。
あまりに何もかもが余裕で、自信に満ちていたから。

だから、あいつの言う、“今の恋人と同じ条件で出逢った場合”というのは、やはり想像ができない。

惹かれることは間違いないと思うけれど、恋人と比較してどうかなんて、その状況になってみないことにはわからないのだ。




「30過ぎても栞が結婚してなかったら、俺がもらったるわ」

電話口で、あいつがそう言う。

6年も経てば、あいつもアタシも、きっと今とは形が変わっていることだろう。

だけど、6年先はどうであれ、“今”のあいつの気持ちがそうである以上、“今”のアタシは、その言葉をありがたく受け取っておくことにする。

結局アタシたちは“今”を懸命に生きるしかないのだから、その中で、大切にすべきものは何なのかを見極めていくべきなのだ。










どうしてあんなことをしてしまったのだろう。


――いや、本当はわかりきっている。

“今”のアタシがそれを望んでいたからだ。
“今”のアタシがそれを大切だと思ったからだ。




だからアタシは決して後悔しない。

今も、そしてこれからも……。





☆お・わ・り☆



AD

秘密の関係~第6章~

テーマ:
>>プロローグ
>>第1章
>>第2章
>>第3章
>>第4章
>>第5章






用をたしたあいつが戻ってくるのが、ガラス越しに見えた。
アタシは慌てて座りなおし、何事もなかったかのような、とり澄ました顔であいつを迎えた。


「おかえり」
「ただいま。はぁ、めっちゃすっきりした!!」
「良かったね(^_^;)」


アタシは苦笑する。

あいつは運転席から乗り込み、アタシの待つ後部座席に移動、そしてまずバストタッチをした。

「な、何?」
「やっぱ栞、大好きや♪」
「え?」
「ブラ、外したままやったから!」
「あぁ、だって留めたらさっきみたいに怒るやろ」
「うん! わかってるねぇ!!」


そう言って、あいつは覆いかぶさってきた。

(誰だって、つい数十分前のことなら学習するって!)

そんな憎まれ口を叩くつもりだったが、「わかってるねぇ!!」というひと言にくすぐったくなる。
このときすでに、アタシはやられてしまっていたのかもしれない。




あいつは服の上から胸のあたりをまさぐってきた。
そして、小さな突起を見つけ、そこを中心に指でいじる。

「ん、はぁ……」

また濡れちゃう……と思いつつも、感じずにはいられない。



あいつの手が再び服の中に忍び込もうとする。
アタシは反射的にそれを防御する。

すると、あいつはまた、アタシに熱烈なキスをして力を吸い取り、すばやく手を突っ込んで胸を揉み始めた。


さっきの名残なのか、アタシは即効で目が開けられないほどに感じてしまう。
下着の奥がむず痒くなり、腰がくねりそうになる。
慌てて片膝を曲げ、その衝動をやりすごした。



あいつの手は、次第に脚に向かって下りてくる。

そして、いつの間にかスカートの中に潜り込み、お尻を撫でてきた。


「なんか肌触り悪いと思ったらストッキングか。俺、絶対生脚のほうが好きなんやけどな」
「だって、まだ寒いもん。もうちょっとあったかくなったら生脚になるけど」
「じゃあ、今だけ生脚になって! すぐ破れそうで怖いし、俺、触られへんわ」



仕方なく、アタシはストッキングを脱ぐ。

するとあいつは、
「あぁ、これこれ!」
と言って、アタシの脚に沿って、手を上下に滑らせた。


「やっぱ生脚はいいなぁ!」

そう言いながらあいつの手は、どさくさに紛れて内腿にまで上がってくる。


(ヤバイ! 濡れてるのがバレちゃう!!)

そう思ったアタシは、下着に触れそうになった瞬間、あいつの手をつかむ。

すると、またしてもあいつはアタシにキスをしてきた。
そしてやはり、アタシは抵抗できなくなる。



完全に弱点が読まれていた。





濡れた下着を触られながら、思わず、
「ずるい……」
という言葉が漏れる。


「何がずるいの?」

あいつは、おもしろがるように訊いた。
それでも手は止めない。


「あ……んん……何でも……ない」


しゃべることさえうまくできず、恥ずかしくなる。
でも、もうどうにもできない。


「言わへんかったらやめへんで!」


あいつは下着の脇から指を入れてきた。


「やだ……もう……だめって」
「じゃあ、なんで俺がずるいのか教えてくれる?」



アタシは首を横に振る。
下着の奥がクチュクチュと妖しく鳴っていた。





そのときだった。

突然、二人の吐息と、それに似た話し声しか聞こえなかった車内にEXILEが響き渡ったのだ。
アタシたちは思わず飛び上がる。


「ごめん、アタシや……」

そう、アタシの携帯の“着うた”が鳴ったのだった。


アタシは逃げるように助手席に移動し、確認する。

最近、しつこくデートに誘ってくる男性からのメールだった。

“今日は少し寒かったね。明日も仕事頑張ろう!!”

一気に疲れた気分になる。
アタシは無言で携帯をしまい、後部座席に戻った。


「返信せんでええの?」
「うん、いいねん」
「もしかして男? 浮気せんといてや!」
「浮気って……、うちら付き合ってもないのに~」


アタシはそう言って笑う。
当然、あいつも一緒に笑ってくれると思っていたのだが、あいつは黙ってしまった。


「栞さぁ、俺のこと好きって言ってくれたやんなぁ」
「え……うん」



あいつは、大きなため息をついた。


「俺、欲張りなんかなぁ……」
「なんで?」
「俺さ、これまで、好きな女はどんなことをしてでも手に入れてきたねん。前にも言ったと思うけど。だから、好きやったら付き合う、それ以外はあり得へんの。でも栞はさ、好きとは言ってくれたけど、付き合うことはできんのやろ?……あ~あ、栞は、生まれて初めて俺をふったひどい女やぁ」
「ふったって……。だって奥さんいるやん……」
「あのな、嫁にはもう、恋愛感情はないねん。もちろん、家族としての愛はあるけど、恋愛の対象としては見られへんの。だから彼女の席は空いてるわけよ」
「でも、アタシの彼氏の席は空いてへんもん」
「だから俺は座られへんわけやろ。やっぱりふってるやん」
「…………」



あいつの屁理屈にアタシはどう答えていいのかわからず、うつむく。


「ごめん、変なこと言った。忘れて」
「……気持ちだけじゃアカン?」
「え?」
「形にせんとアカンの?」
「……別に形にこだわってるつもりちゃうねん。ただ、言葉だけやったら不安で仕方ないねん。……正直に言うとな、こんな気持ちになったのも初めてかもしれん」



あいつはそう言うと、今までになかったくらい、優しく口づける。
せつなさに似た痛みが、胸の奥に突き上げ、アタシはそのままあいつをギュッとだきしめた。



つづく ……



AD