クライマーズ・ハイ (文春文庫)/横山 秀夫
¥700
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 この作品も文春文庫「いい男の35冊」に選ばれていた作品です

 感想を書くに当たってまず悩んだのがジャンル分け(汗)

 Wikiによるとミステリとは、


 “何らかの犯罪の発生(法律上は犯罪と定義されないケースも含む)に起因する物語を言う。”


 と定義されています

 日航ジャンボ機墜落事故の真相を暴くのが作品の趣旨だとしたらミステリと言えなくないのかなぁと悩んでいたのですが、決め手は「2003年週刊文春傑作ミステリベストテン」の第1位を獲得していること

 これをもって公式にミステリと認定されていると判断しました


 作品の舞台となるのは、日航機の墜落現場である群馬県の地元新聞社

 主人公は、事故報道の全権デスクを任せられたベテラン新聞記者の悠木です

 この悠木という記者、全権デスクを任せられるくらいだから、余程の切れ者…かと思いきや、管理職ではない一介の遊軍記者です

 遊軍記者とは聞こえがいいかもしれませんが、ちょっとしたはみ出し者です

 社内での評判が悪いわけではありませんが、以前自分のせいで(と本人は思っている)部下を死に至らしめてしまったことがトラウマになり、管理職就任の打診を固辞し続けています

 また、家庭でも親子関係で悩みを抱えている鬱屈した男です

 その上、懇意にしていた同僚が病床に伏し、気掛かりでなりません

 そんな主人公がどのように日航機墜落事故の報道に向き合うか

 そう、この作品は事故のドキュメンタリではなく、世紀の大事故によって引き起こされた人間ドラマなのです

 ですから、作品中では事故の悲惨さを伝える描写よりも、スクープ争い、社内の政治や権力争い、個人の名誉欲など、人間の暗部が描かれます


 新聞というと公のもの、というイメージが私にはありました

 しかし、紙面を作る現場で繰り広げられていたのは、社会正義も道義も何もない、人間の骨肉の争いでした

 事故を報道する立場では個人の政治的・思想的信条は優先されるものではないだろうと思ってきましたが、実際にはそれが優先され、のみならず自己の利益のため派閥争いがあり、正しいと思うことが罷り通らない

 そこに居るのは、もろくて弱くてずるい人間でした

 主人公は自身の内外にある問題と向き合い戦いながら、困難を乗り越えていこうとします

 その様は、情けなくも人の気を逸らさない、素晴らしいドラマ

 私は一晩で一気に読み進めました

 作品最後の爽快感は目頭が熱くなりました