アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)/森 絵都
¥460
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 「旅のおともに角川文庫フェア」にラインナップされていた作品です

 『アーモンド入りチョコレートのワルツ』と言うのは、ジムノペディで有名な作曲家・サティの『子ども曲集 第1巻 短い子どものお話』の中の一曲です

 3曲の曲集ですが、どれも明朗で可愛らしい曲です(こちらのサイト から試聴できます)

 曲のイメージそのままに森絵都さん作の『アーモンド入りチョコレートのワルツ』も可愛らしい

 ただし、必ずしも明朗とはいきません

 子供心の繊細さは優しさも意地の悪さも内包しています

 でも子どもは可能性そのもので、夢と希望で構成されている、と私は信じています

 きっと作者も信じていると思います

 本当に愛しくて胸が震えるような短編集です

 この作品を持って、心の旅に出てみませんか?

 この作品も以前、他のブログに書いた記事を再掲載したいと思います


 この作品は、表題作を含む三篇の物語から成っている。

 その中で私が一番惹かれた作品「子供の情景」について書いてみようと思う。丁度、季節もぴったりなので。



 このお話の主人公は従兄弟同士5人組。少年たちは年上の従兄・章くんに、毎夏別荘に招待してもらいたいがために、反発を抱きながらも章くんのご機嫌をいつも伺っている。

勉強・スポーツは章くんより劣っているフリをしているし、章くんの命令には絶対服従だ。特に章くんが決めた日課のクラシック鑑賞は退屈この上ないのに、誰一人文句を言わない。

 しかしある日、みんなの芝居がばれてしまう…。

 最後の日。いつもは眠ってしまうクラシック鑑賞で最終曲まで起きていることができた恭くんは、章くんの予想もしなかった一面と、クラシックに対する想いを知って思うのだった。



「そんなにまでしてぼくらにシューマンを聴かせたかったのなら、聴いてやりゃあよかったんだ。何回でも、何時間でも、聴いてやりゃあよかったんだ。そして一言でも、なんでそんなにピアノが好きなのか、訊いてみるんだった。もっと早く、いろんなことを、話してみるんだった。」



 このフレーズに、少年がひとつ大人の階段を登ったような微笑ましさを感じて、とても好きだ。

 章くんの本当の姿を知って自省する恭くんにも。

 横暴な態度が、どこか照れとか、責任感に繋がっているような章くんにも。

 いつか来た道。いつか見た光景。

 ぐっとくる。



 読んでいただきたい。あの頃を忘れかけたみんなに。