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茨木のり子
はじめての町に入ってゆくとき わたしの心はかすかにときめく そば屋があって 寿司屋があって デニムのズボンがぶらさがり 砂ぼこりがあって 自転車がのりすてられてあって 変わりばえしない町 それでもわたしは十分ときめく。
道でばったり奥様に出会い 買い物籠をうしろ手に 夫の噂 子供の安否 お天気のこと 税金のこと 新聞記事のきれっぱし 蜜をからめた他人の悪口 喋っても 喋っても さびしくなるばかり 二人の言葉のダムはなんという貧しさだろう やがて二人はいつのまにか 二匹の鯉になってしまう 口ばかりぱくぱくあけて 意味ないことを喋り散らす 大きな緋鯉に!そのうち二匹は眠くなる 喋りながら 喋りながら だんだん気が遠くなってゆくなんて これは
いとしい人には 沢山の仇名をつけてあげよう 小動物やギリシャの神々 猛獣なんかになぞらえて 愛しあう夜には やさしい言葉を そっと呼びにゆこう 闇にまぎれて。
わたしが一番きれいだったとき わたしはとてもふしあわせ わたしはとてもとんちんかん わたしはめっぽうさびしかった だから決めた できれば長生きすることに 年とってから凄く美しい絵を描いた フランスのルオー爺さんのように ね。
一人でいるのは賑やかだ 誓って負け惜しみなんかじゃない 一人でいるとき淋しいやつが 二人寄ったら なお淋しい おおぜい寄ったなら だ だ だ だ だっと 堕落だな 。
ひとりの人間の真摯な仕事はおもいもかけない遠いところで小さな小さな渦巻きをつくる。
大人になるというのは すれっからしになることだと 思い込んでいた少女の頃 立居振舞の美しい 発音の正確な 素敵な女のひとと会いました そのひとは私の背のびを見すかしたように なにげない話に言いました 初々しさが大切なの 人に対しても世の中に対しても 人を人とも思わなくなったとき 堕落が始るのね 堕ちてゆくのを 隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました 私はどきんとし そして深く悟りました。










