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ある開局薬剤師の日記-

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2012-02-11 09:46:23 lm236414の投稿

漢方実践シリーズ「加味逍遥散」2

テーマ:漢方薬について

漢方実践シリーズ「加味逍遥散」2


更年期障害へは月経の有無を問わずに処方できる


PMSの次に加味逍遙散を頻用するのは更年期障害です。更年期障害の治療は現在大きく分けて、HRT(ホルモン補充療法)、加味逍遙散を含む漢方治療、SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)を中心とした向精神薬療法の3つがあります。これらを患者さんによって、適宜組み合わせて用いることが原則です。


更年期障害に対しての漢方治療、HRT、向精神薬療法の3治療法を比較した結果では、どれも特に有意差は出ませんでした。つまり、漢方薬は単独でも他の西洋医学的治療法と有用性において変わらないという結果でした。

しかも漢方薬は、例えば乳癌手術後などのHRT禁忌例にも安心して用いることができます。

また、更年期症状が出ていても、まだ生理もある場合、ホルモン剤投与は少し抵抗がありますが、漢方薬は月経の有無に関係なく使えますので、非常に使い勝手がいいというメリットがあります。


更年期障害の病態は、漢方で言えば肝気鬱結と瘀血がメインと考えられますので、肝気鬱結をとるサイコは特に重要であり、これを構成生薬に含む漢方薬をよく用います。その代表的なものが加味逍遙散です。更年期障害の中心症状であるのぼせも非常によくとれます。


ここで症例を紹介したいと思います。

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症例2  更年期症状に加味逍遙散が有効であった例

患 者50歳,主婦,158cm,58kg(2回経産)

主 訴:のぼせ,うつ状態

既往歴49歳で乳癌の手術

現病歴:手術前は月経は順調であった。術後1ヵ月からGn-RHアナログ投与を受け,無月経となった。その頃からのぼせがひどく,気分が沈む。肩こりもひどい。

腹 候:腹力中,とくに所見なし

舌 候:薄紫,薄白苔

  :沈,弱

処方と経過:加味逍遙散を投与。のぼせ,肩こりは軽減し,気分も軽くなった。2ヵ月後SMIは58から25になった。乳癌治療を続ける自信も出てきた。

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症例2は更年期障害に加味逍遙散を用いた例です。

この方は49歳で乳癌の手術をし、それまで月経は順調でしたが、術後1ヵ月から乳癌の治療のためにGn-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アナログ投与を受けました。そのせいで無月経になり、のぼせやうつ状態、肩凝りに悩まされるようになりました。

加味逍遙散を投与したところ、のぼせ、肩凝りが軽減し、何より気分が非常に軽くなり、服用開始から2ヵ月後にはSMI(更年期指数)が58から25に下がり、乳癌の治療を続ける自信も生まれ、Gn-RHアナログも継続できたという患者さんです。


最近、乳癌手術に限らず、閉経間際の子宮筋腫や子宮内膜症では手術を回避する人が多いため、Gn-RHアナログをよく用いますが、これで更年期症状が現れたり抑うつ傾向に陥りやすくなります。これらの症状も漢方薬を用いることによって、Gn-RHアナログを当初の計画どおりに用いることができるというメリットもあります。

つまり、自然に閉経した人にも使えるし、薬剤によって起きた更年期症状にも使えるというわけです。

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簡略更年期指数(SMI)

症状の程度に応じ、自分で○印をつけてから点数を入れ、その合計点をもとにチェックをします。(症状:強、中、弱、無 の順に点数化している)

どれか1つの症状でも強く出ていれば、強に○をして下さい。

               (東京医科歯科大学方式)

①顔がほてる:10、6、3、0

②汗をかきやすい:10、6、3、0

③腰や手足が冷えやすい:14、9、5、0

④息切れ、動機がする:12、8、4、0

⑤寝つきが悪い、または眠りが浅い:14、9、5、0

⑥怒りやすく、すぐイライラする:12、8、4、0

⑦くよくよしたり、憂うつになることがある:7、5、3、0

⑧頭痛、めまい、吐き気がよくある:7、5、3、0

⑨疲れやすい:7、4、2、0

⑩肩こり、腰痛、手足の痛みがある:7、5、3、0


更年期指数の自己採点の評価法

0~25点・・上手に更年期を過ごしています。これまでの生活態度を続けていいでしょう。

26~50点・・・ 食事、運動などに注意を払い、生活様式などにも無理をしないようにしましょう。

51~65点・・・ 医師の診察を受け、生活指導、カウンセリング、薬物療法を受けた方がいいでしょう。

66~80点・・・ 長期間(半年以上)の計画的な治療が必要でしょう。

81~100点・・ 各科の精密検査を受け、更年期障害のみである場合は、専門医での長期的な対応が必要でしょう。

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婦人科領域の類似処方


婦人科領域で用いられる、加味逍遙散の類似処方と使い方について、具体的にもう少し見てみますと、加味逍遙散の類似処方としては抑肝散、加味帰脾湯、柴胡加竜骨牡蛎湯などがあげられます。また女神散が更年期障害によく使われています。


加味帰脾湯は、心と脾の虚、虚熱、肝火旺の症候に使われます。全体的な印象として加味逍遙散が適応の人ほどにはイライラしていない、よく不眠を訴える人が適応です。

抑肝散は構成生薬にチョウトウコウが入っており,加味逍遙散よりさらにイライラ感の強い人が適応です。

女神散もコウブシ、ビンロウジが入っていますので、鎮静作用が強く、加味逍遙散よりやや実証寄りの人に適応とされています。特にめまいを訴える更年期障害の方に適応します。

柴胡加竜骨牡蛎湯はさらに実証の方が適応です。これも鎮静作用が強いのですが、加味逍遙散とは証が若干異なり、もう少し実証寄りの方に適応します。


コンプライアンスを高める


感覚的な話ですが、加味逍遙散は強い黄色調の色で、味は多少苦い感じです。

ときどき漢方薬の味を好まないという方がいますが、その場合は、オブラートを使ってもらいます。

自分に合った漢方薬は甘く感じるとよく聞きますが、苦いといわれる黄連解毒湯でも証に合ったら、飲むのが何も苦にならないと患者さんは言います。

加味逍遙散に限らず、どの漢方薬でもそうだと思います。


飲まれた患者さんに感想を聞くと、「普通」とか「あまり変わりがない」と言われる方がいますが、「変わりがない」というのは、評価の仕方が難しいのです。それは、更年期障害の患者さんにはよくなったと率直に言わない方がけっこうおられるからです。けれども、薬は継続したいと言われるかぎりにおいては、内心ではある程度満足しているのではないかと考えられますし、一つの症状が治まると次の症状が出てくる患者さんもいて、そのことが薬の効果の評価を複雑にしています。

副効用も含めて、何らかの意味で気に入っているから続けて服用されると解釈しています。


漢方薬は食間のほうが吸収しやすいと患者さんには説明しますが、これは腸内細菌との関係がありそうです。

漢方薬は腸内細菌で代謝されるものが多いですから、服用は空腹時が適していると考えられるのです。

しかし、現実問題として胃弱の患者さんなどでは空腹時では飲めないという人がいます。この場合、コンプライアンスを高めることが何より大事と考え、あまりうるさく言わず、まず服用していただくことを中心に指導します


また、飲み方ですが、加味逍遙散や当帰芍薬散を熱いお湯に溶いて飲んでもらうよう指導すると喜ばれます。特に、瘀血の場合、温めながら飲むのは効果があると思います。

しかも、本当はそういう飲み方が理想的です。香りも処方の一部として、味わいつつ飲んでいただくわけですが、忙しい現代社会ではなかなかそうも言っていられないかもしれません。

時間があるときは、ゆっくりとハーブティー感覚でというふうに勧めます。

また、漢方薬を飲んでいる女性は一様に肌がきれいに肌目が細かくなるようです。

女性は皆肌荒れを気にしていますから、そういう効果を上手に説明に織り込んで、さらにコンプライアンスを良くする様に指導するのも方法です。


広いスペクトラム


PMSと更年期障害以外にも、加味逍遙散は不妊症、手足の冷え、血の道症などに用いられています。

不妊症には、一番効果があると言う先生もいらっしゃいます。

ストレスの結果、不妊症になっている方は、それを取り除けば妊娠率が高まると考えるといいのでしょう。


妊娠後期の不眠症、うつ状態、イライラ、産後のマタニティブルーに加味逍遙散を用いることも症が合えば可能と考えられます。構成生薬にボタンピが入っていますが、妊娠のごく初期でなければ問題はないと考え、妊娠中でも慢性頭痛の方に加味逍遙散を飲んでもらう例もあります。もちろんマタニティブルーは問題ありません。


現代の女性は気虚・血虚、肝気鬱結、瘀血の病態が多く、ストレスに曝されています。その意味で、今回取り上げた加味逍遙散は、現代にマッチした漢方薬と言えます。

また、加味逍遙散は婦人科だけでなく、多くの診療科で多くの病状に使われています。

訴えが多い患者さんの場合、訴えごとにいろいろな診療科を受診し、それに西洋薬で対処するとなると、相互作用ひとつをとってみても大変なことです。

漢方薬が多くの症状に一つの方剤で対処できる可能性があるということは、膨らむばかりの医療経済にとっても、今後大きな意味があると考えられます。

2012-02-10 09:00:01 lm236414の投稿

漢方実践シリーズ「加味逍遙散」1

テーマ:漢方薬について

漢方実践シリーズ「加味逍遙散」


婦人科3処方


漢方を勉強し始めた婦人科医が、まずトライしてみる漢方薬は当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、それに加味逍遙散の3つと言われています。その意味でも、加味逍遙散は日常的に頻用される処方の一つと言えます


当帰芍薬散と桂枝茯苓丸はその出典が『金匱要略』であるのに対して、加味逍遙散は『和剤局方』(宋代)に記されている“逍遙散”が出典とされ、これにサンシシ、ボタンピを加えたものが今日の加味逍遙散です。したがって、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸に比べると、まだ歴史の浅い方剤ということになります


婦人科ではこの3つの処方を頻用します。漢方の習い始めの頃、タイプ別の処方を教わります。

虚証で弱々しく貧血のようなタイプには当帰芍薬散、少し冷えのぼせがあり、がっちりしたタイプには桂枝茯苓丸、いろいろな不定愁訴を訴えイライラした感じのタイプには加味逍遙散。

漢方を習いたての頃、この3処方を患者さんのタイプごとに使い分けるだけしか出来ませんでしたが、それでも、かなりの確率で効果を実感した方が多いと思います。


加味逍遙散の特徴


そこで、加味逍遙散ですが、構成生薬は全部で10種類(サイコ、シャクヤク、ソウジュツ、トウキ、ブクリョウ、サンシシ、ボタンピ、カンゾウ、ショウキョウ、ハッカ)です。この中で、トウキ、シャクヤクは血を補うとされています。ソウジュツ、ブクリョウ、ショウキョウ、カンゾウは脾胃を丈夫にし、胃内の停水をとる、要するに水はけをよくするといわれています。

また、サイコ、ハッカは肝気鬱結1を解消するとされています。さらにボタンピには駆瘀血作用サンシシには清熱作用があるとされています。つまり加味逍遙散は基本的に、血虚・気虚、肝気鬱結、瘀血のある人のための方剤ということになります


漢方的には、加味逍遙散は虚証から中間証に適用し、不定愁訴の患者さんに非常に有効です

婦人科領域では、月経困難症、月経不順、それと、最近話題のPMS(月経前症候群)、このような月経をめぐるトラブルに頻用されます。また、自律神経失調症や更年期障害にもよく用いられます。

意外なことに便秘にも奏効し、湿疹にもよく用います。他の訴えを改善する目的で加味逍遙散を処方したところ、皮膚科医が治療に難渋していた湿疹がきれいに治り、患者さんから感謝されることもあります。


さらに、最近話題の男性更年期障害に加味逍遙散を用いている先生もおられます。特に難治性の慢性前立腺炎に加味逍遙散が効果をあげた例も報告されています。最近はストレス社会ですから、男性にも加味逍遙散が奏効する患者さんがいるのではないかと思います。

また、不眠に効果があったというお話をよく聞きます。肝気鬱結がとれるからなのだろうと思います。

1 肝気鬱結:神経症あるいは抑うつ状態として現れる。怒りなどが内向した状態。


ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用)

組 成

本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス4.0gを含有する。

日局サイコ…………………………3.0g

日局シャクヤク……………………3.0g

日局ソウジュツ……………………3.0g

日局トウキ…………………………3.0g

日局ブクリョウ……………………3.0g

日局サンシシ………………………2.0g

日局ボタンピ………………………2.0g

日局カンゾウ………………………1.5g

日局ショウキョウ…………………1.0g

日局ハッカ…………………………1.0g


女性の40%にPMS


月経の10日ぐらい前から月経直前までの間、体調が悪くなる症状を月経前症候群(PMS)といいますが、最近、このPMSの人がとても多いのです。症状が軽い例も含めますと、実に全女性の約40%にPMSがあると言われています

昔から漢方では、PMSの症状には、桃核承気湯がよく効くと言われています。しかし、桃核承気湯は実証の患者さんに用いられる方剤で、虚証、中間証では下痢を起こすことがあり、使えないこともあり、そのような時に加味逍遙散を試してみますと、非常に効果があることが分かりました。


PMSの患者さんを悩ませている症状で一番多いのが月経前のイライラ感とその後の気分の落ち込みという精神症状です。そのため会社での人間関係がうまくいかない、あるいは子どもに当たり散らしてしまい教育上も問題がある、さらに夫と衝突する、こういう症状が最も多いのです。二番目が頭痛・肩凝り、三番目が下腹部痛・腰痛でした。


以上のような症状の患者さん41人に約2ヵ月間飲んでいただき、その後、効果を判定しました。

症状が改善し、継続服用したい方が31人(約76%)いました。今ひとつ良い感触が得られず、たとえば低用量ピル、向精神薬(SSRIなど)に変えたいと希望した方が4人ほどありました。残りの6人は1ヵ月ほど服用したところ著明に改善し、服用を中止された方です。

全体の印象として、PMSに加味逍遙散はきわめて有効であると思います。


現代女性にフィット


ここで、PMSに加味逍遙散が有効であった症例(症例1)を紹介します。

36歳、キャリアウーマンの方ですが、主訴は月経前のイライラ、頭痛、倦怠感で、加味逍遙散が良く効きました。この症例では1年間加味逍遙散を継続され、その後は服薬を中止されています。飲まなくてもよくなったということは、ホルモンのバランスが整ったと考えています。

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症例1  PMS(月経前症候群)に加味逍遙散が有効であった例

患  者36歳,事務職,161cm,53kg(1回妊娠,未産)

主  訴:月経前のイライラ,頭痛,倦怠感

現病歴:1年前から高温期になるとイライラし,月経直前は頭痛がひどく,体がだるくて仕事に集中できない。

腹  候:腹力弱く,臍上悸あり

舌  候:薄白苔あり

  :沈,細

処方と経過加味逍遙散を処方したところ,1ヵ月で症状はほとんどなくなり,2ヵ月後,スコアは5から0になった。1年間同じ処方を続けた後中止した。現在はまったく問題ない。

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最近、若い女性にPMSが増えているのではないかと思います。

これは、最近の若い女性が、漢方でいう虚証タイプが多く、それだけPMSに悩まされる人が増えているためではないかと思われます。

学生さんの場合は、試験などもストレスになっているのでしょうし、最近の職場もストレスが強く、会社員の若い女性でもPMS症状や月経痛で悩んでいる方がとても多いのです。加味逍遙散は肝気鬱結をとる作用も含めて、現代女性によくフィットする漢方薬と言えます。
2012-02-09 09:15:28 lm236414の投稿

漢方実践シリーズ「補中益気湯」2

テーマ:漢方薬について

補中益気湯の副作用


補中益気湯の副作用は、少ないと思われます。ただ、構成生薬のカンゾウには偽アルドステロン症の副作用が指摘されています。補中益気湯では、カンゾウの量は少なく、確率は低いと思われますが報告例はあります。

添付文書では、2.5g以上を含む製剤は、アルドステロン症や低カリウム血症には禁忌となっています。1日3gを超えなければ問題は少ないようですが、別の処方で1.5gでむくみ、血圧上昇がみられたことがあり成人以降の女性で確率が高いようです。副作用は非常に稀ですが、絶対に安全とは言えません。


もう一つはアレルギーです。補中益気湯に含まれる生薬中ではオウギによる薬疹があります。また、オウギを含む方剤では稀ですが肝障害も報告されています。その他、トウキには腸管を潤す作用があり、人によっては便通が緩くなる、あるいは胃にさわるという方がいます。これも多量には含まれていませんが、こうした反応の可能性は否定できません。

基本的に、作用の強い生薬は含まれていないので、過敏症や極度に胃腸が弱いということさえなければ量に関してはそれほど心配はいらないのですが、消化器系の副作用が出ている、もしくは改善しないという印象があった場合は、合っていないと考えるべきでしょう。


西洋薬では胃薬を飲みながらでも服用を続けることがありますが、漢方薬の場合は症状の悪化は原則的に認めません。そのために多彩な組み合わせとなっているわけです。良い作用は当然で、悪い作用が出てはならない。これが西洋薬と違うところと思われます。


症例:遷延した風邪症状が短期に改善

49歳、女性。

<現 症>11月25日、2日前に風邪をひく。咽頭痛(+)、咳嗽(+)、喀痰(-)、口渇(+)、悪寒は自覚なし、無汗、皮膚湿潤、脈やや緊。

<経 過>桂枝湯+越婢加朮湯(桂枝二越婢一湯)各7.5g/日を3日分処方。

12月2日。風邪は軽快したが咳嗽が残り、痰がからむ、咽喉乾燥感ややあり、寒気(-)、熱感(-)。多忙で疲れている。だるいが食欲はある。目に力がない。脈やや浮・緩・弱、舌腫大気味、歯痕(+)、薄い白苔。腹力弱・軽度胸脇苦満。ツムラ補中益気湯エキス顆粒(医療用)7.5g/日(分3)を7日分処方。2日後に咳と痰が軽減、服用中止。


症例は、風邪のセカンドステージですから小柴胡湯の類を考慮しましたが、眼勢、舌、脈、腹部などの所見から気虚(元気がなく気が弱い状態)と考えました。

軽度の胸脇苦満(肋骨弓かの抵抗・圧痛)がみられますが、小柴胡湯はこれがもっと強い時に使うものです。少し元気をつけようと補中益気湯7.5g/日(分3)を7日分出しましたが、2日で治ってしまいました。

熱性疾患の亜急性期で遷延し、しかも仕事の忙しさもあって元気が失われている状態が短期間で改善した症例です。


漢方薬は、急性症状が治まってしまえば止めてもかまいませんが、止めるタイミングは大切です。普通は「治ったと思っても1日分くらい余計に飲んでください」とお話しします。

薬の味が変わった、飲むとかえって体調が悪いという時はもちろん止めてもらいます。

飲んで悪化するということはあってはならないからです。


ただし、慢性疾患では事情が違ってきます。

喘息やアレルギー性鼻炎など季節性のものを本格的に治そうというときには症状にかかわらず飲み続けてもらいますし、喘息ならば少なくともすべての季節で発作が起こらなくなるまで最低1年間は継続します。


風邪には葛根湯といわれますが、葛根湯は少陽病期の一つ手前の薬です。

熱性疾患の急性期で寒気がして熱が中心の病態が立ち上がっていく初期の段階で使います。遷延したときは原則としては使いません。まさに、風邪かなと思ったくらいのときに服用すると効きます。

寒気がするのは、生体が体温を上げたくて産熱を開始する時期と考えられます。ひどいときはふるえが来て熱を上げる訳です。それを助けるのが葛根湯です。この時期にも、病態に応じていくつかの薬があります。


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3 主な類似処方との鑑別


(処  方 :使用目標)

補中益気湯:体力低下・全身倦怠・食欲不振・微熱・盗汗・

       胸脇苦満(軽度)など
十全大補湯:使用目標は近似。顔色不良・貧血傾向など。

胸脇苦満なし。食欲不振などの胃腸症状がある

場合は慎重投与。
人参養栄湯:使用目標は近似。咳嗽・動悸・不安・不眠など。

胸脇苦満なし。
清暑益気湯:使用目標は近似。軟便・尿量減少・発汗・手足熱    

       感・喉の渇きなど。胸脇苦満なし。

症状が夏季に現われるものに頻用される。
小柴胡湯:一部症状が近似。

体力中等度・胸脇苦満が明らかなものを目標とする。

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体力が低下した例にさまざまな効果


表3に、補中益気湯と鑑別の必要な類似処方をまとめましたが、補中益気湯は、体力の低下した様々な例に使用できます。

面白い例では、補中益気湯は、透析に入っている方の皮膚掻痒症の改善にも寄与する可能性があります。よく、痒みがなかなか取れないと、患者さんが相談に来られます。

45歳くらいの女性の透析患者さんで、皮膚が痒く、夏でも汗をかかない、冷たいものを飲みたくても水分制限があるという方を、補中益気湯中心で治療したところ、「痒みが軽減し、かさつきが取れて、暑ければ汗をかき、透析中の体重増も減り、冷たい水が一杯余計に飲めました」と言う例がありました。



この処方で、なぜ痒みがとれるのか考えて見ますと、一つはオウギの働きではないかと思われます。オウギを含む薬はアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患や寝汗に使われます。

皮膚の締まりをよくする、ある意味で皮膚の免疫作用を調節する作用だと思います。

もう一つ、トウキには血を補う作用があります。血の機能低下を血虚といいますが主な症状は皮膚のかさつき、痒み、色素沈着などです。その点にトウキが作用していると思います。


現代医学的には、サイコやショウマには抗炎症作用が指摘されています。また、皮膚が乾燥するとアレルギー機序が働き異物が侵入して痒みがひどくなりますが、サイコ、カンゾウ、トウキ、タイソウはそれを改善するという報告があります。


男性不妊症に対する効果も指摘されています。

明確な作用機序は不明ですが、精子の運動能あるいは濃度が上がるといわれています。ただ、精子濃度が著明に上がることは考えにくく、運動が良くなるからではないかと考えられています。その他、IL-6と精子濃度は相関するそうですが、男性不妊症では相関しなくなる。それが反応するようになったという報告もあります。



不安な時はいったん服薬を止める


お薬を使用する時は、どんな薬にも言える事ですが、薬に効果が認められるか認められないかという判断をする時期についてですが、少なくともよくなる気配、生気が出てきたというサインが出てこないといけません。

判定が難しい慢性疾患で4週間くらい、そうではない慢性疾患ならば2週間前後、急性疾患は2~3日が目安と考えます。


合わない症状ということでは、頻繁ではありませんが、「暝眩」と言う現象があります。

暝眩の定義は「合っているはずの人が服用したところ、思いもかけない異常な副反応が出る。しかし続けていると副反応は収まり、やがて劇的な効果に変わる」ということです。これは、良くなる前の副反応ですが、その判定はとても難しいもので、暝眩として押し切るには勇気がいります。続けるべきかどうかは主治医と相談して、判断の難しい時は、一度止めるほうがいいと思います。


患者さんからある変化を聞かされ、その判断の受け答えに困る場合があります。中途半端に暝眩を意識すると継続・中止の判断がつかない場面に出くわします。

かりに合わない患者さんが来られて主治医とすぐに連絡が取れない場合、判断の難しい場合は、いったん中止して後に指示をもらうほうが安全だと思います。


薬ですし、自信がないときは止めたほうがいいと思います。私たちが暝眩かなと思ったときも、連絡先をきちんと伝え「もう1服飲んでだめならこうして」と次の手まで説明し、責任が取れる状態で続けます。


1日量をきちんと服用すること


西洋薬との相互作用ですが、補中益気湯が合わないという典型的な例を考えますと、強いていえばカンゾウが入っていますから、利尿剤を使うときには注意したほうがいいかと思います。


基本的に、補中益気湯は、非常に使いやすい薬です。体全体を包んで持っていくような薬で、すぱっと切る薬ではありません。

多愁訴の患者さんによく出すという先生もいらっしゃいます。

気をうまくめぐらせようという狙いだと思います。

また、主症状がうまく言えずに「だるくてしょうがない」という方で、検査をしても正常だという場合にも使えます。


コンプライアンスの問題ですが、長期に処方された方が飲みにくいという場合は、どうしたらよいでしょう?


「補中益気湯の場合ならば、一日3回空腹時、温かいお湯で飲むのが最も効果的です」とまず理想的な飲み方を伝え、食前か食間かはその方の生活パターンになるべく合わせます。

ただ、食後に飲んでも大丈夫ですよと付け加えます。服用時間に関してはまだ議論があるほどですから。

「飲み忘れたら食後でいいですよ。そうするとチャンスが2回めぐってきますよ」という言い方をします。それでも忘れたときは「この薬は生体内の反応が比較的穏やかなので、慢性疾患ならば間隔が近くてもかまいませんから飲んでください。1日分をきちんと飲むことが大事なのです。
」とお話しします。


もっとも、風邪など、時間を追って飲まないとだめな場合があります。漢方ばかりでなく薬全般に言えることですが、急性疾患はきちんと飲まないと効かないことが多いと思います。


補中益気湯は「現代」の薬


副作用を抑えるために一緒に摂るとよいもの、あるいは、治療上良くないものは、反応が弱って冷えの傾向もありますから、生体を冷やす食物はよくないでしょう。果物や酢もけっこう冷やします。

さらに消化吸収能が弱っていますから、脂っこいものや刺激物は避け、さっぱりした温かいものがいいと思います。


補中益気湯は、漢方医学が集大成された後に出来たもので、平和で、むしろ食べ過ぎなどが問題となってきた時代に役に立つ薬です。感染症などはある程度コントロールできたが、元気が出ないものをどうするかという時に役に立ちます。

西洋薬を補う薬という意味もあるのですね。


今回の話題をまとめると、補中益気湯は、熱性疾患の急性期を過ぎて亜急性期、遷延期に入ってきたとき、慢性疾患でも元気がなくなっているときに使える薬です。

中焦の働きをよくして元気を補うのに役立ちます。それによって食べたものや飲んだ薬がうまく吸収されていくと思います。

副作用も多くはないと思われます。ただ、絶対に安全だとは言えません。訴えがあったときは、まずは副作用を念頭に置いた判断が必要です。


非常に幅広く使える薬で、生体が極端に弱っていなければ比較的安全に使えます。検査では異常はないが疲れが強い、あるいは消耗が進んでいるときに応用が可能だと思います。

まさに現代の薬です。今の時代によく合います。

2012-02-08 17:35:29 lm236414の投稿

漢方実践シリーズ「補中益気湯」1

テーマ:漢方薬について

今回から、代表的な漢方処方の解説を書きとめていきましょう。


漢方実践シリーズ「補中益気湯」1

  消化吸収能を補い、元気を益す薬


今回のテーマは、代表的な補剤として知られる補中益気湯です。

漢方薬の多くは紀元前後に集大成されましたが、補中益気湯は12~13世紀に活躍した李東垣の創生といわれ、出典は『弁惑論』とされています。


漢方医学では体を「上焦・中焦・下焦」に分け、なかでも中焦を重視する考え方があります。

ここには「脾」「胃」があり、食物から生命の源泉を吸収しています。脾は、漢方医学的に消化吸収に関わる重要な臓器とされ、まったく同じではありませんが、現在の膵臓と似ています胃は、今でいう胃も含まれますが、消化吸収のうち吸収のほうが主で、消化管全体の働きも指しています


また漢方医学では、人間の体には「気」という目に見えないエネルギーと「血」という生命現象を支える物質的なものが混在していると考えます気は生まれた時に親から受け継がれ、腎というところに宿っています。ただ、それは先天的なもので生後に補うわけにはいきません。それを補うのが中焦だと考えます。

要するに、生命活動を行っていく源泉となる中焦のファンクションを補う。補中益気湯とは,エネルギーを取り込む躯幹の中心を補い(補中)、結果として気を益す(益気)。後天的に元気を益すという意味の命名です。


ツムラ補中益気湯エキス顆粒(医療用)

組成本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス5.0gを含有する。

日局オウギ…………………………4.0g

日局ソウジュツ……………………4.0g

日局ニンジン………………………4.0g

日局トウキ…………………………3.0g

日局サイコ…………………………2.0g

日局タイソウ………………………2.0g

日局チンピ…………………………2.0g

日局カンゾウ………………………1.5g

日局ショウマ………………………1.0g

日局ショウキョウ…………………0.5g


構成生薬の特徴


西洋薬は、成分単味を追求しますが、漢方方剤は生薬を組み合わせて使うことで効果を高めたり、副作用を減少させたりします。

補中益気湯の構成生薬は10種類で、気を補う意味で最も重要な生薬はオウギ、ニンジン、(ソウ)ジュツ、カンゾウです。オウギは気を補いながら、免疫の調整能があるともいわれています。ニンジンは古来より元気をつける薬といわれ(ソウ)ジュツは心窩部の水をさばき、働きをよくしますカンゾウも同じように元気をつけ、全体の調和にも働きます

その他、トウキには血を補う作用があり、血のめぐりが悪い状態(瘀血)を改善させます。サイコは漢方医学でいう肝のめぐりをよくする薬で、その延長線上でこの生薬を含む薬は昔から肝臓疾患などにも使われてきました。ショウマは、体の中軸が下に落ちていくものを持ち上げる作用(升堤)があります。チンピは脾を整えて、中焦を元気づけます。ショウキョウタイソウはよくあるペアで、西洋医学的にいえば処方の際に胃薬を加えるようなものでしょうか。タイソウにはATP様作用、ショウキョウには健胃・消化作用もあります。


「少陽病の虚証」に適応


次は、漢方医学的な適応です。

漢方では、病態を体力が消耗して産熱もできず冷え込んでいる陰証と、まだ体力のある陽証の二つに大きく分けます補中益気湯の適応は、体力は低下していますが体は冷えきっていない状態です。慢性疾患が長引くと冷えが強くなりがちですが、まだ少し体力があり、冷えはそれほどでもないのですが、急性症のごく初期でもない、亜急性期、慢性期に使う薬です。


この時期は「少陽病」と呼ばれます

風邪を例にとれば、罹患後1週間経ち、食欲がなく、舌に苔が生え、ものの味が悪くなるなどの時期です。

この病期の代表的な薬として知られているのが小柴胡湯で、慢性期あるいは熱性疾患の亜急性期が適応となり生体はまだ緊張感を保っています


一方、すでに気が抜けてしまった状態が補中益気湯の適応です。漢方的な用語では少陽病の虚証といいますが、血よりも気の力が抜けてしまっていることが特徴です。

具体的には、顔に表情が乏しい、目に力がない、皮膚につやがない、倦怠感がある、ただ極端には弱ってはいないというイメージです。トーヌスが落ちたものを持ち上げる作用もありますが、一番の特徴はやや慢性期に入った病態で、元気がなくなっている状態に使うということです。


江戸時代の津田玄仙という人が使用目標八か条を示しています(表1)。

非常に有名な指針で、手足倦怠、語言軽微、眼勢無力という最初の三つはかなり参考になります。他は私の経験では必ずしもあるとは限りません。脈は、「脈散大而無力」(橈骨動脈に触れると表在性に太い血管があって、いかにも元気そうだがよくみると緊張感がない)があれば確実だと思っています

白湯に溶かして飲んでみると、少しショウキョウ(生姜)の味がしますが、飲みにくくはないと思います。香りもそれほど悪くありません。

比較的体力が低下し、刺激物が合わないという方には飲みやすい薬です。

現代では、各種疾患・術後などの体力低下を目標に、さまざまな領域で活用されています(表2)。


1 津田玄仙(1737-1809)による補中益気湯の使用目標


1、手足倦怠(手足がだるい)

2、語言軽微(言葉に勢いがない)

3、眼勢無力(目に力がない)

4、口中生白沫(口中に白沫がたまる)

5、食失味(食べ物がおいしくない)

6、好熱湯(温かいものを好む)

7、当臍動気(臍傍動悸がある)

8、脈散大而無力(脈が散大で力がない)



2 補中益気湯の応用と薬理作用


●現代医学への応用


・感染防御機構の改善・賦活MRSA感染症 等)

・生体防御機構の修復COPD患者に対する補助療法、体力・免疫能の回復、慢性疲労症候群、癌化学療法・放射線療法時の副作用軽減 等)

・外科的侵襲からの回復SIRS・CARSの制御、体力・免疫能の回復、栄養障害・消化管機能障害の改善等)

・精神的ストレス障害の改善(神経系の調整機能、ストレスによる生理機能障害の改善等)

・肺結核の補助療法・高齢者慢性肝炎・胃切除後骨障害・男性不妊症・腎下垂症・子宮脱・腹圧性尿失禁・小児ネフローゼ症候群


●薬理作用


1.病後の体力低下に対する作用

1)免疫不全状態の改善(マウス)

2)感染時の体力低下に対する作用(ラット、マウス)

3)担癌状態の生体防御機構の修復(ラット、マウス)

4)抗癌剤・放射線の副作用軽減(マウス)

5)胃切除後の体力低下に対する作用(ラット)

2.高齢者の体力低下に対する作用(マウス)

3.感冒に対する作用(マウス)

4.作用機序

1)白血球に対する作用(マウス)

2)免疫調節作用(マウス、ラット、in vitro)

3)精巣に対する作用(in vitro)


●応用疾患・症状


1.全身症状:各種疾患・術後の体力低下、食欲不振、虚弱体質、

       疲労倦怠、易疲労、夏やせ、腺病質、膠原病の体

       力低下、癌化学療法・放射線療法時の副作用軽減

2.呼吸器 :かぜ症候群、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息、気管

       支拡張症、肺結核、肺炎

3.消化器 :機能性上部消化管症候群、痔核、痔疾、脱肛、

       痔瘻、肛門周囲膿瘍、急・慢性肝炎、肝硬変

4.循環器 :低血圧症

5.神経・筋:脳血管障害後遺症

6.皮 膚 :アトピー性皮膚炎

7.耳鼻咽喉:慢性中耳炎、慢性副鼻腔炎

8.その他 :貧血症、盗汗、多汗症、陰萎、内臓下垂症、子宮下

       垂、男性不妊、慢性腎炎、慢性化膿性の諸疾患

2012-02-04 09:46:40 lm236414の投稿

冷えと漢方を考える17:耳鼻咽喉科領域の冷えと漢方治療

テーマ:漢方薬について

冷えと漢方を考える17:耳鼻咽喉科領域の冷えと漢方治療


耳鼻咽喉科領域と冷えは、なかなかつながらないものです。

しかし、耳鼻咽喉科領域の患者の半数を占めるアレルギー性疾患の患者さんの多くが冷えを抱え、耳鼻咽喉科領域では「冷え」に対する手段を持つことが治療の成否に不可欠と考えられます。

特に、西洋薬が効きにくい症例に冷えがかくれていることも多く、生活や食習慣の注意に加え、冷えの症状を的確に把握することから、有効な漢方薬を選択することで、治療に大いに役立てることができます。

冷えが関与したアレルギー性鼻炎と所見のない耳痛の症例等を例に解説します。


1.耳鼻咽喉科領域と冷えが採りあげられているのは


先に書いたように、耳鼻咽喉科領域で患者数の多くを占めるアレルギー性疾患の患者さんの多くが冷えを抱えており、「冷え」に対する手段を持つことが治療の成否に不可欠と考えられるにもかかわらず、版を重ねて、2009年版で第6版となったアレルギー性鼻炎の診療ガイドラインである「鼻アレルギー診療ガイドライン」にも、当然と言えば当然なのかもしれませんが、その病態や治療に関連して「冷え」という考え方は一言も出てきません

それは、西洋医学的には冷えという概念が無いからと思われます。

しかも、このガイドラインの中で漢方薬は、治療薬の一番下方のその他の項目に一言、「漢方薬」と書いてあるのみで、それについての解説もありません。巻末に治療薬一覧表があり、漢方製剤として、葛根湯、柴朴湯、小柴胡湯、小青竜湯の4製剤が掲載されているのみというあつかいです。


冷えが関係していることを端的に示す例として、アレルギー性鼻炎の主な症状であるくしゃみ発作ですが、くしゃみ1回で体温が0.02度上昇すると言われますまた、アレルギー性鼻炎の症状も喘息も早朝に悪化することが多く、外気温の低下や薄着などの条件による直接的な冷えに反応していると考えられる例になりますまた、冷たい飲み物や食べ物などの摂取による胃腸の冷えによって症状が悪化することも考えられます。これらは、漢方医学で「肺中冷」「胃寒」と言っている状態といえます。

 

アレルギー性鼻炎の病態は、西洋医学的にはI型アレルギーという免疫グロブリン(IgE)が関与するものですから、物理的な刺激は二次的なものと考えられています。しかし、慢性化したアレルギー性鼻炎では、鼻の粘膜の過敏性が強くなり、気温の変化やたばこの煙などの刺激によっても誘発されることはよく知られています。

 

アレルギー性鼻炎以外でも、冷えが関与していると思われる疾患があります。よく見られるのは所見のない耳の痛みです。下記に症例を挙げてみたいと思います。


2.症例紹介


1)附子剤の併用で軽快したアレルギー性鼻炎の症例

 (小青竜湯と麻黄附子細辛湯の併用例)


53歳、女性、1月末に受診

≪主症状≫

くしゃみ発作、水ばな、鼻づまり。

特に、気温が下がると悪化する傾向があり、冷房が苦手で、庭で草むしりをすると症状がひどくなり、ちょっとした庭仕事も出来ない状態です。

受診した医療機関では、アレルギー性鼻炎の診断で、抗ヒスタミン剤やロイコトリエン拮抗剤(抗アレルギー剤)をもらっておりますが、良くならないといいます。アレルゲンの検査では、ハウスダストは陰性で、スギと草の花粉であるヨモギが陽性でした。

≪検査・診断≫

鼻汁中の細胞検査でアレルギー性鼻炎に認められる好酸球が認められました。鼻粘膜はやや赤く、水性鼻汁が認められました。

投与された西洋薬が余り効いていないという点と冷えると悪化するという訴えから、体を温めて水を捌く必要があると判断しました。冷えが強いようですので、通常良く使う「小青竜湯6g」と冷えを改善する生薬である附子の配合された「麻黄附子細辛湯5g」を併用して、朝夕必ずお湯に溶いて呑む様に指導しました。


1週間後、水性鼻汁は改善され、寒い朝でもくしゃみや鼻水で悩まされなくなりました。「肺中冷」の例と思われます。小青竜湯は、基本は甘草、乾姜ですが、それに表の寒をさばく生薬の入った方剤です。麻黄附子細辛湯を合方するとこの病態に特によく効きます。


2)おなかの冷えとアレルギー性鼻炎と喘息の合併例

 (桂枝人参湯と抗アレルギー剤の併用例)


37歳、女性

≪主症状≫

鼻汁と鼻づまり、咳。

喘息とアレルギー性鼻炎で治療中でしたが、風邪をひいた後から症状が悪化して、副鼻腔炎も起こしてしまいました抗生物質やステロイド剤などの内服や吸入等で改善して来ましたが、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤を継続して服用しても、鼻汁や咳が止まらないといいます。

症状を良く聞くと、足が冷えて眠れないことがあり、おなかが冷えて、よく下痢をするといいます

おなかを触ると、心下(みぞおちのあたり)がとても冷たく感じます。

症状が完全に改善しないのは冷えが原因していると判断して、桂枝人参湯7.5gを抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤と併用して処方しました。

1週間後、咳も鼻汁も殆ど気にならないぐらいに改善しました。

この方は、胃寒がベースにあると考えられます。日本では、内臓の冷えによって、本例のようなケースだけでなく色々な病状が出てきます。桂枝人参湯、これも甘草、乾姜をベースに桂皮、蒼朮、人参が加えられ、お腹の冷える頭痛などにもしばしば使用されています。


3)所見のない耳痛と冷え

 (桂枝加朮附湯と当帰芍薬散の併用例)

 

31歳、女性

≪主症状≫

真夏の8月中旬。起床時のこめかみ痛と両方の耳痛以前から、片頭痛と言われており、時々、キーンという耳鳴りもあった。数日前から、朝起きる時に両方のこめかみ部分の痛みと同時に両耳の中の痛みが起こるようになりました。痛みは1-2時間で治まりますが、頭痛が治まると耳の痛みも取れるということです

家族歴は母親が片頭痛。既往歴では気管支喘息があります。生活歴では、喫煙1日20本10年間。飲酒はたまに呑む程度です。体格は中肉中背で特に痩せても太ってもいません。色白で、見た目はややポッチャリとした印象です。血圧は正常。

≪検査・診断≫

鼓膜や外耳道に異常所見はなく、聴力検査でも正常。耳鳴りは、高い周波数(8000ヘルツ)ですが、常時あるわけではありません。頭痛スコアは18点で、片頭痛を疑わせる数値(10点以上が陽性)でした

 

東洋医学的な問診では、両側の肩こりがひどく、足がとても冷えて、冷房が大変苦手だということでした立ちくらみがすることがあり、人の車に乗ると酔うことがあるそうですどちらかと言えば軟便傾向で、下痢しやすいようです。頭痛は天候には左右されないとのことでした。

舌は、白色でやや腫大しており、舌の辺縁に軽度の歯形が認められます。触診では、両手足が冷たく、発汗はありません。脇腹やみぞおちのところの圧迫感はありません。脈は沈んでおり、細い感じです


以上のことから、頭痛や耳痛には、冷えと水湿が関係していると判断して、桂枝加朮附湯5gと当帰芍薬散5gを朝夕に併用して処方

1週間後、痛みは、まったく解消。その後、患者さんの希望で、しばらく薬を継続しておりましたが、薬が切れた後に、再燃して再投与しております。その後は経過良好で、何カ月かに1度、薬をもらいに来られます。冷えと水湿が如何にこの病態に関与していたのかがよく分かります。


3.まとめ


鼻の病気は、耳鼻咽喉科では一番ありふれたものですが、通常の西洋薬が効きにくい症例は少なくありません。そういう時には、冷えが隠れている事があります。

手足の冷えに加えて、入浴や飲食物の嗜好性、下痢や便秘の状態など細かく質問してみるとヒントが得られることが多いようです

また、外耳や中耳に所見がないにもかかわらず、耳の痛みを訴える人も外来では比較的多く見られます。特に、春先にはなぜか多いようです。帯状疱疹ウイルスが関連する痛みであることもあり、きちんとした西洋医学的な診断は大事です。

しかし、検査に引っかからない場合でも、冷えなどの症状をきちんと把握すると有効な漢方方剤が見つかることがあり、抗けいれん剤などを使わなくても治る症例も多く、患者さんは大いに助かります。

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