漢方実践シリーズ「加味逍遥散」2
テーマ:漢方薬について漢方実践シリーズ「加味逍遥散」2
更年期障害へは月経の有無を問わずに処方できる
PMSの次に加味逍遙散を頻用するのは更年期障害です。更年期障害の治療は現在大きく分けて、HRT(ホルモン補充療法)、加味逍遙散を含む漢方治療、SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)を中心とした向精神薬療法の3つがあります。これらを患者さんによって、適宜組み合わせて用いることが原則です。
更年期障害に対しての漢方治療、HRT、向精神薬療法の3治療法を比較した結果では、どれも特に有意差は出ませんでした。つまり、漢方薬は単独でも他の西洋医学的治療法と有用性において変わらないという結果でした。
しかも漢方薬は、例えば乳癌手術後などのHRT禁忌例にも安心して用いることができます。
また、更年期症状が出ていても、まだ生理もある場合、ホルモン剤投与は少し抵抗がありますが、漢方薬は月経の有無に関係なく使えますので、非常に使い勝手がいいというメリットがあります。
更年期障害の病態は、漢方で言えば肝気鬱結と瘀血がメインと考えられますので、肝気鬱結をとるサイコは特に重要であり、これを構成生薬に含む漢方薬をよく用います。その代表的なものが加味逍遙散です。更年期障害の中心症状であるのぼせも非常によくとれます。
ここで症例を紹介したいと思います。
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症例2 更年期症状に加味逍遙散が有効であった例
患 者:50歳,主婦,158cm,58kg(2回経産)
主 訴:のぼせ,うつ状態
既往歴:49歳で乳癌の手術
現病歴:手術前は月経は順調であった。術後1ヵ月からGn-RHアナログ投与を受け,無月経となった。その頃からのぼせがひどく,気分が沈む。肩こりもひどい。
腹 候:腹力中,とくに所見なし
舌 候:薄紫,薄白苔
脈 :沈,弱
処方と経過:加味逍遙散を投与。のぼせ,肩こりは軽減し,気分も軽くなった。2ヵ月後SMIは58から25になった。乳癌治療を続ける自信も出てきた。
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症例2は更年期障害に加味逍遙散を用いた例です。
この方は49歳で乳癌の手術をし、それまで月経は順調でしたが、術後1ヵ月から乳癌の治療のためにGn-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アナログ投与を受けました。そのせいで無月経になり、のぼせやうつ状態、肩凝りに悩まされるようになりました。
加味逍遙散を投与したところ、のぼせ、肩凝りが軽減し、何より気分が非常に軽くなり、服用開始から2ヵ月後にはSMI(更年期指数)が58から25に下がり、乳癌の治療を続ける自信も生まれ、Gn-RHアナログも継続できたという患者さんです。
最近、乳癌手術に限らず、閉経間際の子宮筋腫や子宮内膜症では手術を回避する人が多いため、Gn-RHアナログをよく用いますが、これで更年期症状が現れたり抑うつ傾向に陥りやすくなります。これらの症状も漢方薬を用いることによって、Gn-RHアナログを当初の計画どおりに用いることができるというメリットもあります。
つまり、自然に閉経した人にも使えるし、薬剤によって起きた更年期症状にも使えるというわけです。
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簡略更年期指数(SMI)
症状の程度に応じ、自分で○印をつけてから点数を入れ、その合計点をもとにチェックをします。(症状:強、中、弱、無 の順に点数化している)
どれか1つの症状でも強く出ていれば、強に○をして下さい。
(東京医科歯科大学方式)
①顔がほてる:10、6、3、0
②汗をかきやすい:10、6、3、0
③腰や手足が冷えやすい:14、9、5、0
④息切れ、動機がする:12、8、4、0
⑤寝つきが悪い、または眠りが浅い:14、9、5、0
⑥怒りやすく、すぐイライラする:12、8、4、0
⑦くよくよしたり、憂うつになることがある:7、5、3、0
⑧頭痛、めまい、吐き気がよくある:7、5、3、0
⑨疲れやすい:7、4、2、0
⑩肩こり、腰痛、手足の痛みがある:7、5、3、0
更年期指数の自己採点の評価法
0~25点・・上手に更年期を過ごしています。これまでの生活態度を続けていいでしょう。
26~50点・・・ 食事、運動などに注意を払い、生活様式などにも無理をしないようにしましょう。
51~65点・・・ 医師の診察を受け、生活指導、カウンセリング、薬物療法を受けた方がいいでしょう。
66~80点・・・ 長期間(半年以上)の計画的な治療が必要でしょう。
81~100点・・ 各科の精密検査を受け、更年期障害のみである場合は、専門医での長期的な対応が必要でしょう。
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婦人科領域の類似処方
婦人科領域で用いられる、加味逍遙散の類似処方と使い方について、具体的にもう少し見てみますと、加味逍遙散の類似処方としては抑肝散、加味帰脾湯、柴胡加竜骨牡蛎湯などがあげられます。また女神散が更年期障害によく使われています。
加味帰脾湯は、心と脾の虚、虚熱、肝火旺の症候に使われます。全体的な印象として加味逍遙散が適応の人ほどにはイライラしていない、よく不眠を訴える人が適応です。
抑肝散は構成生薬にチョウトウコウが入っており,加味逍遙散よりさらにイライラ感の強い人が適応です。
女神散もコウブシ、ビンロウジが入っていますので、鎮静作用が強く、加味逍遙散よりやや実証寄りの人に適応とされています。特にめまいを訴える更年期障害の方に適応します。
柴胡加竜骨牡蛎湯はさらに実証の方が適応です。これも鎮静作用が強いのですが、加味逍遙散とは証が若干異なり、もう少し実証寄りの方に適応します。
コンプライアンスを高める
感覚的な話ですが、加味逍遙散は強い黄色調の色で、味は多少苦い感じです。
ときどき漢方薬の味を好まないという方がいますが、その場合は、オブラートを使ってもらいます。
自分に合った漢方薬は甘く感じるとよく聞きますが、苦いといわれる黄連解毒湯でも証に合ったら、飲むのが何も苦にならないと患者さんは言います。
加味逍遙散に限らず、どの漢方薬でもそうだと思います。
飲まれた患者さんに感想を聞くと、「普通」とか「あまり変わりがない」と言われる方がいますが、「変わりがない」というのは、評価の仕方が難しいのです。それは、更年期障害の患者さんにはよくなったと率直に言わない方がけっこうおられるからです。けれども、薬は継続したいと言われるかぎりにおいては、内心ではある程度満足しているのではないかと考えられますし、一つの症状が治まると次の症状が出てくる患者さんもいて、そのことが薬の効果の評価を複雑にしています。
副効用も含めて、何らかの意味で気に入っているから続けて服用されると解釈しています。
漢方薬は食間のほうが吸収しやすいと患者さんには説明しますが、これは腸内細菌との関係がありそうです。
漢方薬は腸内細菌で代謝されるものが多いですから、服用は空腹時が適していると考えられるのです。
しかし、現実問題として胃弱の患者さんなどでは空腹時では飲めないという人がいます。この場合、コンプライアンスを高めることが何より大事と考え、あまりうるさく言わず、まず服用していただくことを中心に指導します。
また、飲み方ですが、加味逍遙散や当帰芍薬散を熱いお湯に溶いて飲んでもらうよう指導すると喜ばれます。特に、瘀血の場合、温めながら飲むのは効果があると思います。
しかも、本当はそういう飲み方が理想的です。香りも処方の一部として、味わいつつ飲んでいただくわけですが、忙しい現代社会ではなかなかそうも言っていられないかもしれません。
時間があるときは、ゆっくりとハーブティー感覚でというふうに勧めます。
また、漢方薬を飲んでいる女性は一様に肌がきれいに肌目が細かくなるようです。
女性は皆肌荒れを気にしていますから、そういう効果を上手に説明に織り込んで、さらにコンプライアンスを良くする様に指導するのも方法です。
広いスペクトラム
PMSと更年期障害以外にも、加味逍遙散は不妊症、手足の冷え、血の道症などに用いられています。
不妊症には、一番効果があると言う先生もいらっしゃいます。
ストレスの結果、不妊症になっている方は、それを取り除けば妊娠率が高まると考えるといいのでしょう。
妊娠後期の不眠症、うつ状態、イライラ、産後のマタニティブルーに加味逍遙散を用いることも症が合えば可能と考えられます。構成生薬にボタンピが入っていますが、妊娠のごく初期でなければ問題はないと考え、妊娠中でも慢性頭痛の方に加味逍遙散を飲んでもらう例もあります。もちろんマタニティブルーは問題ありません。
現代の女性は気虚・血虚、肝気鬱結、瘀血の病態が多く、ストレスに曝されています。その意味で、今回取り上げた加味逍遙散は、現代にマッチした漢方薬と言えます。
また、加味逍遙散は婦人科だけでなく、多くの診療科で多くの病状に使われています。
訴えが多い患者さんの場合、訴えごとにいろいろな診療科を受診し、それに西洋薬で対処するとなると、相互作用ひとつをとってみても大変なことです。
漢方薬が多くの症状に一つの方剤で対処できる可能性があるということは、膨らむばかりの医療経済にとっても、今後大きな意味があると考えられます。
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