青春の雨音-3-38

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2005-12-24 18:53:44

次のサヨさんの休日、俺は石田から借りたバイクにサヨさんを乗せて、新し
くきられた真新しい隣町へのバイパス道路を走り抜けていた。


言葉は話せないが、何か奇妙なうめき声を発しながら、サヨさんは俺の腹に
回した腕に力を入れてしがみついた。
サイドミラーで、俺にしがみつくサヨさんの顔を見た。


サヨさんは、頭を包んだマフラーをなびかせながら、目を閉じて俺にしがみ
ついていた。しかし、その顔は、決して恐怖心を持つ顔ではなかった。

石田のバイクは、バッバッバッと、腹に響いてくる。


「サヨさん、気持いいだろう?」

耳の不自由なサヨさんには聞き取れないと知っていながらも、俺は大声で言
った。
声を出した時、腹の振動で俺が何かしゃべっていると感じ取ったのか、サヨ
さんは閉じていた眼を開けて「ウッ?」といっている。


サイドミラーで、俺と目が合って、笑う俺に、片目をつむってウインクした。
俺は嬉しくなって、大声で笑った。
サヨさんも、声なしの大きく開いた口で笑った。
そのサヨさんの白い歯を目にして、俺は思わずサヨさんの口を吸ってみたい
と思った。
そう思うと、俺の下半身は燃え立つように勃起したのだった。
バイクの振動で、勃起した俺の一物も一緒に揺れた。


おそらく、こんなバイクに乗るのはサヨさんにとっても初めてのことなのだ
ろう。
俺はさらにスピードを上げると、後ろのサヨさんは「ダメよ」という合図を
送っているのか、俺のわき腹を叩くのだ。


12月初旬の風は、俺の顔に痛く突き刺さってくる。
俺はサヨさんの合図を無視してさらにスピードを上げた。
「これが、風だよ、サヨさん!」


俺は、大声でそう叫んだ。


隣町では、映画を見た。
映画館の中で、俺は思い切って、隣に座るサヨさんの手を握った。
サヨさんは、握り返すでもなく、引っ込めるでもなく、俺に握られたままに
されていた。


もうすぐ東京へ嫁いで行くサヨさん。
俺は映画に没頭できず、サヨさんのことばかりを考えていた。
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青春の雨音-3-37

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2005-08-29 20:42:39

石田の家は知っていた。
子供時代に父親を亡くし、母親の行商によって残された5人の子供は育てら
れたのである。
女3人、男二人。
石田は上から4人目で、今では姉たちはみな嫁ぎ、兄は東京へ出て働いてお
り、現在は母親と下の妹との3人暮らしである。
そんな石田は、中学卒業と同時に、大工の弟子に入っていた。


久しぶりに石田の家を訪ねると、古い江戸時代のような造りの家の玄関脇に、
にわか造りの車庫があり、そこに家に似つかわしくなく、あの光るようなカ
ッコのいいバイクが置かれていて、その上に毛布がかけてあった。
見るからに大事にしていることが伝わってくる。


石田の家の中からは、何やら数人の男たちの話し声や笑い声が聞こえている。
それでも俺は、前に進むしかなく、石田の家の玄関を開けて声をかけた。


賑やかさに打ち消されて、俺の来客が通じないようだったが、2度、3度と
声をかけると、しばらくして来客を石田に告げたらしく、石田が玄関に現れ
た。


最初は俺だと判らなかったらしく、すごい形相でにらんでいたが、俺だと判
ると、「おっ、桜木先生じゃないっすか」と、酔った酒臭い息を吹きかけな
がら、珍しい顔つきになって、それから急に笑顔をつくり、
「これは、珍しい。上がれよ、上がれ。」
と言って、中にいる男たちに大声をかけた。俺の手を引きながら、
「おおい、すごい珍しい人が現れたぞ。お前たちにも紹介するからな」


俺の手を引く石田の上腕には、桜に竜の刺青(いれずみ)が彫ってあった。
俺も、石田に誘われるままに、部屋の中に入るしかなかった。
部屋に顔を出すと、思わず歓声と拍手が上がった。


男たちは4人、どれもはじめて見る顔の男たちばかりである。
そのほとんどは年上らしかった。
石田とその男たちはどういう関係の男たちなのかは、まったく判らないのだ
が同類の仕事仲間に違いないと思った。


「お~い、みんな静かに。この先生を紹介するから静かにしろ」
と命令口調で言っている。
「このお方はな、すごいお方なんだぞ! 中学時代の俺の親分でな、桜木先
生だ。みんな、このお方に失礼なことをしたら、俺が許さないからな!」
と命令口調でわめいている。
それを聞いていたある年長の男は、ふざけて手を付け、頭を下げて、
「はは~っ、てか」
というと、みな大声で笑った。
石田は、その年長の男の頭をぽかりとげん骨で殴りつけた。
「いててて、」と男が頭を押さえると、また、笑い声が起こった。


「まあ、先生いっぱい飲めや」
人相や格好は建設現場の飯場にたむろする感じの男たちだったが、そう悪い
男たちばかりではなさそうだった。
俺は、すすめられるままに、茶碗酒を三杯ほど飲まされた。


「この男はな、すごかったんだぞ!」
石田の話はまだ続いていた。


ある程度付き合ったところで、俺は石田に話がある旨を伝え、ちょっと外へ
呼び出した。
「おお、連れションかっ?」
と二人の外に向かう姿に酔った男は声をかけた。


「お前、その腕は何だ。やくざにでもなったのか?」
外に出ると、俺は石田にいった。
酒に酔ってはいたが、俺に呼び出されたことに、石田も少しびびっていた。
「な~に、単なる俺の趣味で彫ったんだよ」
といいながら、テキやが着るようなダボシャツの袖口を左手でめくりあげて
竜の刺青を見せた。


「ところで、桜木の兄貴は何しに来たんだ?」
と石田は、今度は俺をみすえてそう言った。
目の前にいる男は、中学の頃の、俺の知っているダチの石田ではなかった。
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青春の雨音-3-36

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2005-08-28 19:24:59

サヨさんの部屋に行くようになってから、俺は中田陽子との逢引の回数が眼
に見えて減っていった。
山岳部の部活の練習を終えると、俺は足早に家に帰るようになっていた。


時おり、昇降口の俺の下足入れに、中田陽子からの手紙が入れられているこ
ともあった。
「今日の部活の後、いつものところで待ってます。ぜひ来てくださいね。
 陽子」


そんな中田陽子の誘いも無視して、俺は家に帰っていった。


俺は、中田陽子にすまない気持から、放課後の部活に顔を出さない日もしだ
いに増えていった。


また下足入れに、中田陽子からの手紙があった。
「満さん、何かあったんですか? なぜ私と逢ってくれないのですか? な
ぜ私を避けるのですか?」


俺にも中田陽子を避けるこれという理由はなかった。
ただ、彼女と逢っていても、心の中では、サヨさんのことばかりを考えてい
るのである。
こんなことを、中田陽子に打ち明けることなどできるわけがなかった。


「サヨさん、今度の休みの日に、外で俺とデートしませんか?」


コンニャクやに住み込みで働くサヨさんが、外に出ることなど稀にしかなか
ったことを知っている俺は、ある日筆談でサヨさんにそう書いた。


「どこか行ってみたい所はないですか? 何かしたいことはないですか? 
何でも言ってみて下さい。俺が何でもしてあげるから」


サヨさんは、「嬉しい・・・」と書いた後、
「あなたはオートバイで富士山まで行ったんですってね。私もオートバイに
乗ってみたい。あなたの運転するオートバイに乗って、風を感じてみたい。」


そう書いたサヨさんに、
「ああ、そんなことたやすい御用でござんすよ。俺もサヨさんを後ろに乗せ
てぶっ飛ばしてみたい。」


「そしたら、私はあなたにしがみつくしかないわね。思い切りしがみついて
やるわよ」


そんな風にして、俺とサヨさんのデートの約束は決まった。
が、俺は人を乗せるオートバイなど持ってはいない。まさか家にある牛乳配
達用の原付バイクの荷台にサヨさんを乗せるわけには行かない。


いまさら、サヨさんに、やっぱりダメだったとは言えないし、言いたくもない。
何か方法はないだろうかと頭を絞っていると、俺の中学の時の同級生で、一度
おれのダチになったこともある石田を思い出した。
高校へは行かず、大工の見習いになった男である。
先日、町中で、石田が格好のいい中型バイクを乗り回していたのを思い出した
のだった。
赤色に、黄色の流線型の線が描かれ、タイヤカバー部分は前輪も後輪も鏡のよ
うに銀色に磨かれて光っていて、乗り回している石田よりもそのオートバイは
人目を引いていた。
さすがに給料取りは違うものだな、と、そのときも感じていた。


しかし、中学を卒業していらい一度も会ったこともないし、口を利いたことす
らないのだった。
果たして、あんな素晴らしいバイクを、いくら昔は俺のダチだったからって、
すんなりと貸してくれるだろうか?
でも、今は石田のところに行って、頼み込むしかないと思った。
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青春の雨音-3-35

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2005-08-27 19:45:40

何度かサヨさんの部屋に遊びに行っているうち、俺のオナニーの相手はサヨ
さん以外にいなくなった。


特に遊びから帰った日の夜など、布団の中でサヨさんを思いながらオナニー
にふけるのが日課になってしまった。


筆談は面白い。
サヨさんは顔も美人だったが、文字もきれいで、なおさら惹きつけられた。


「私、本当は結婚なんてしたくないのよ」


「どうして?」


「こういう障害者ということもあるけど、男が嫌いなの」


「えっ? どうして?」


「嫌いといったらいいのか、怖いといったらいいのか、・・・」


「じゃ、俺も嫌いなんだ? 怖いんだ?」


「そう、嫌い。そして、怖い。」


とサヨさんは書いて、俺を見つめていつもの笑顔をつくった。


「いろいろあったのよ、こう見えても。」
と書いて、サヨさんはしばらく鉛筆の走りを止めた。


「でも、今度結婚する人は、別なんでしょ?」
と俺は書いて、サヨさんに見せる。


「同じよ。男だもの。・・・好きでもないし。」
そういうと、サヨさんは引き出しから一枚の写真を出して俺の前に置いた。
結婚相手の男の写真だった。


四角い顔に、眼が細く、体だけはがっしりしているが、とても女に縁があ
るとは思えない顔の男だった。
俺は、その写真を前に、何をサヨさんにいったらいいのか、俺の鉛筆も止
まるのだった。


サヨさんは、昔から結婚をあきらめていて、一人で生活していけるよう、和
裁の免状を取ったり、高校卒業の資格も取りたくて、通信教育も受けていた
という。


「でも、親を安心させることを考えるとね・・・」
そう書いたサヨさんの眼から、一筋の涙が流れ落ちた。
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青春の雨音-3-34

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2005-08-26 19:24:02

俺は、和哉さんが家庭教師の夜をねらって遊びに行くようになった。

仕事と夕食を終えたサヨさんがいる部屋を、俺は恐る恐る訪ねたのだった。


部屋をノックしていいものか、ノックしたら音の振動で分かるかもしれな
い、などと思い迷いながら、軽く唐紙の戸をノックした。
案の定、サヨさんは気付いてくれて、戸を開けてくれた。


泊り込みの女の部屋を、廊下から覗いたことは子供の頃にはあったが、中
に入ったのは初めてのことだった。
きちんと片付けられた部屋を見て、真面目なサヨさんらしい人柄がしのば
れるのだった。


サヨさんは、数枚の紙と2本の鉛筆をコタツ兼テーブルの上に置くと、硬
くなっている俺に微笑みかけながら何やら書いているのだった。


「来てくれて、ありがとう。本当にうれしい」


書き上げた紙を、俺の方に向けて手で押して寄こした。
そして、今度は俺に向かって、鉛筆を渡し、「あなたも何か書いて」とい
う仕草をした。


俺はいざ何か書けと催促されても、何を書けばよいのかさっぱりと思い浮
かばないのである。
そんな俺を無視して、サヨさんはさらに何やら書いているのだった。


「こういうの筆談っていうのよ。だから、普通に話すように書けばいいの
よ。何か質問などがあれば書いてみて」


そうか、これが話し合いなんだ。
俺はあまり考えずに、こんな風に書き出した。
「あなたは何人兄弟の何番目ですか?」


それを読んだサヨさんは、笑顔を浮かべながら、
「8人兄弟の上から3番目よ」


「あなたはどんなところで生まれ育ったんですか?」


サヨさんは、口を開いて笑いながら、
「いなかもいなか、山の中、熊とサルと相撲をとって育った」
と書いて寄こすのだった。


そんな喜ぶサヨさんの顔は、これまで見たことがなかった。
そして、とても美しい顔だった。
俺が年上なら、サヨさんと結婚してもいいとさえ思えるのだった。


サヨさんは、指先で、紙をつんつんと突っつき、次はあなたの番よという
仕草をした。


「サヨさんは、とってもきれいな顔をしてますね。美人です。」
と書いて、サヨさんに押しやると、
「ありがとう、とても嬉しいけど、マセてるよ、あんたは」
と書いて、軽くにらんだ。


「でも、本当の気持ですよ。あなたがここへ来た時からそう思ってました」
「それはそれは、うそでも、うれしい!」
「うそなんかじゃないって」


俺は、本当なら、なぜサヨさんは耳が聞こえないのかを聞きたかった。
でも、それは聞いてはならないことだと、自分にいい聞かせた。


そんな風にサヨさんと二人きりで筆談をやっていると、これまでにない世界
というものがあるんだ、ということに俺は気付かされた。
二人の空間には、たださらさらと鉛筆を走らせる静かな音だけが部屋に響い
ているに過ぎないのに、二人の間には、あきらかに活きた交流があるのだった。


和哉さんが帰って来たようだったので、俺は静かにサヨさんの部屋を出た。
サヨさんは、最後に、「また、遊びに来てね」と大きな文字で書いた紙を、
戸を締める間際の俺に、子供のようなはにかんだ顔で見せた。
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青春の雨音-3-33

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2005-08-25 17:51:26

ある日、俺はなにかお祝いの気持をサヨさんに知らせたくて、あれこれ
と考えた。

口の利けないサヨさんへ俺の気持を伝えるのは、やはり文字しかないの
だった。手話でもできれば伝えらるのだろうが、手話はまったく分から
ない。


和哉さんの母親とは、大きな口をパクパクさせて何度も同じ事を言って、
唇の動きと、それに手の動きを取り入れて会話をしているのを見たこと
がある。だからって、俺にもそれができるとは考えられなかった。


俺は小さなメモ用紙に、「結婚おめでとう」と書いたのを、誰にも見ら
れない所でサヨさんにそっと渡した。


サヨさんは、そんな俺の初めての行動に、最初は手を引っ込めていたが、
辺りを見回してから、受取った。


それからしばらくした日の夕方、和哉さんを訪ねた時に、今度はサヨさ
んが、誰もいないところで素早く俺に折りたたんだ紙切れを渡して、そ
そくさと消えた。


紙切れは便箋を四つに折ったもので、中には「ありがとう」とだけ書か
れてあった。
それでも俺の気持が通じたことが、とても嬉しく思えた。


その頃、和哉さんは、近所の中学生の親に頼まれて、家庭教師のバイト
をやっていた。
時間は夕食後の7時から9時までの2時間であり、それが週3回の日程
だった。だから帰りは9時半頃になった。
それでも俺は、ときどきは留守の和哉さんを訪ねては、和哉さんの部屋
で和哉さんの帰りを待ったり、一人で過ごしては帰ったりしていた。


和哉さんも俺同様に、俺の家にいつの間にか来たり帰ったりと、同じ事
をしていたから、親も兄弟も、何とも思わないのだった。


ある日の夜、和哉さんが家庭教師に出かけて留守の部屋に、あのサヨさ
んがそっと戸を開けて俺を手招きした。
近寄ると、以前のような四つ折の紙切れを手渡したのだった。


俺は、今度は何が書いてあるんだろうと、サヨさんの足音が遠のくのを
まってから、そっと紙切れを開いた。


「今度、時間があったら、私の部屋に来ませんか? でも、来る時は一
人で来て下さい。また、和哉さんにも内緒にして下さい。」
と書いてあるのだった。
俺の胸は、割れ裂けんばかりに高鳴るのだった。
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青春の雨音-3-32

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2005-08-24 12:46:41

10月に入ると、次第に家の新築工事は拍車がかかり、まだテントで囲
われて外からは見えなかったが、店舗兼住宅という形が現れていくのだ
った。


10月のある日、和哉さんの家に行くと、あのサヨさんがいた。
いつもは11月に入ってから来るのであるが、今年は少し早いのだった。
サヨさんは、俺と顔を合わせると、笑顔で会釈をした。
サヨさんも3年目の出稼ぎになるのである。3年にもなるとやはり打ち
解け合えるものだな、などと、サヨさんから会釈されたのが嬉しく、俺
は何やら心がはしゃぐのだった。
それに、やはり相変わらず美人だった。スタイルも良かった。


和哉さんはまだ大学から帰っておらず、俺は和哉さんの部屋でくつろぎ
ながら、雑誌を読んでいると、珍しく弟の芳登君が顔を出した。
「おう、この時間にいるなんて、珍しいじゃないか?」
と俺がいうと、
「今日は仲間が集まらず、バンドの練習ができないんだ」
と芳登君はいった。


同じ高校だから、時々は顔を見かけてはいたが、あきらかに、以前の芳
登君ではなかった。
髪は当時はやりだしたグループサウンズのタイガーズばりに長く伸ばし、
雰囲気もあきらかに不良っぽい格好になっていた。
このことが原因で、父親とよく衝突してこまっているんだ、と和哉さん
はよく最近こぼしていた。


俺もそうだったが、和哉さんもグループサウンズというものにあまり興
味はないのだった。当時人気絶頂のベンチャーズが隣町の県都である

県民会館にやってきたときは、さすがに俺も和哉さんも見には行ったが、

どちらかというと、映画を多く見るせいか、映画音楽に関心があった。


芳登君は、蔵を持つ友人がいて、いつもはその蔵の中で練習をしてい

るんだ、などと話し合っていると、和哉さんが学校から帰って来た。
それを機に、芳登君は自分の部屋に戻っていった。


和哉さんが戻ってくるなり、
「サヨさん、もう来たんだね、今年は」
と俺がいうと、


「ああ、来年早々お嫁に行くからって、今年は少し早めに働かせてくれ
って言って来たらしいよ」という。
「ええっ、あのサヨさんがお嫁に?」

俺はおどろいた。
「何でも、今年の夏にお見合いしたらしいんだ、それで決まったらしい」
「相手は、普通の人なのかな?」
サヨさんは口がきけない聾唖者ってことが気になって、俺はそんなこと
を和哉さんに聞くと、
「普通の人らしいよ。里が同じで、今は東京の建設関係の会社で働いて
いるという人らしいんだけどね、つまりは、地下鉄工事なんかで働いて
いる土方らしいよ。東京じゃなかなか結婚相手を見つけられないから、
出身地の人に紹介を頼んだらしいんだ」


「そうか、サヨさんも結婚するんだ」
と俺はすこし寂しさを感じた。

サヨさんなら、口が利けなくたって、もらいては多勢いるだろうと思った。


「でも、サヨさん行きたくないらしいんだ。あの体だし、東京だろう、
親に諭されて、ずいぶん泣いていたそうだよ、話では。でも、もう26
歳だから仕方ないんだろうな。あの体だし、本人もまともな結婚なんて
できると思っていないんじゃないのかな」


それもそうだろうけど、サヨさんのあの美しい顔とスタイルで、普通に
口のきける健常者であったならば、きっと素晴らしい人と結婚できたか
も知れないと思う。

そんな事を思っていると、俺の身内の者が嫁ぐような複雑な心境に

なるのだった。
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青春の雨音-3-31

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2005-08-23 09:49:30

中田陽子と付き合い始めても、キスまでは果てしなく遠く感じられた。


週数度は、いつものつり橋で部活の帰りに待ち合わせ、橋の上で30分
ほど、たわいもない話で盛り上がっては別れるというパターンが続いた。


日曜日に映画に誘って一緒に出かけたこともあるが、町中を昼日中から
若い男女が二人で歩くというのは人目を引く時代だった。だから、大人
からも若者からもじろじろと見つめられるのは気持ちの良いものではな
かった。


なかには、わざと聞こえるような声で、
「昼間からいい若者がつるんで歩くとは…」
などという大人の声が聞こえることもあったし、また、不良などから、
「ヒュー、ヒュー」とひやかしの声などもかけられることも多かった。


だから、映画の場合は、もっぱら隣町の大きな映画館で見ることにした。
町中を歩く時は、夜暗くなってから歩いた。


そんな隠れるようにして付き合っても、まだ手をつなぐこともできない
のだった。
俺は、俺のいくじなさに裏切られた思いだった。


俺の中では、キスなどは自然とさらりとこなせる行為だとずっと思って
いた。
それが、デートを重ねるうちに、体はそばにありながら、キスという行
為はどんどん遠く逃げていくように感じられるようになった。

そんなデートの積み重ねだったから、逢っても、しだいにつまらない雰
囲気が漂うようだった。


和哉さんにそのことを話すと、
「みっちゃんはカッコ付け過ぎなんだよ」という。
「もっと強引に自分をさらけださなきゃ」といった。


思えば思うほど、数学の話の途中で強引にキスをしたという和哉さんの
度胸に、畏敬の念が立ち上ってくる。


しかし、和哉さんは和哉さんで、ある意味で悩んでいた。
あのキス事件いらい、彼女との付き合いはまだ続いているのだが、どう
しても相手が警戒しているように思えて、次の行動に移れないのだどい
う。


次の行動とは、やはりセックスとなるのだが、あの日以来、暗いところ
へ誘っても行こうとせず、キスすらままならないのだという。


「やはり、こんなときは自分でアパートを借りている奴らがうらやまし
いよ。俺は自分の部屋があるといっても、ここに連れてくることはでき
ないもんな」
といっては、ため息をつくのだった。
聞けば、彼女も親元から通学しているので、どうにもならないのだとい
う。


俺は、和哉さんに背中を叩かれたからというわけではないが、次にいつ
ものつり橋で逢った時、何もいわず、手だけは握ってみようと決意した。

人間、何事も行動を起こさなきゃ、進歩も前進もない。


人目がないことを確認すると、並んで川面を見つめているとき、俺はそ
っと手を伸ばし、左側にいる彼女の右手を俺の左手で握りしめた。
中田陽子は、握り返すこともなく、振り払うこともなく、俺から握られ
るままにしていた。


俺の胸の高鳴りは最高潮に達し、心臓の鼓動が相手に伝わっているに違
いなかった。それにともない、俺の下半身は盛り上がり、体はまさにウ
ソはつけない事を実感するのだが、そのふくらみが彼女にばれはしない
かと、俺はびくびくしていた。


誰かがつり橋に近づくのに気付いて、俺は握っていた手を離した。
しかし、手を離しても、俺の下半身のふくらみはあいかわらずふくらん
だままだった。


近づいた人はリヤカーを引いていて、俺たちはつり橋から移動しなけれ
ばリヤカーは通り過ぎることはできないのだった。
そこで、俺と中田陽子はリヤカーと反対方向へ歩いて移動したのだった
が、俺はズボンのテントを張ったようなふくらみを彼女からばれないよ
うに、すこし前かがみで歩かなければならなかった。


「どうしたの? 腹でも痛いの?」
と彼女は聞きながら、俺の腹部付近を見る。

前かがみになっても、あきらかにズボンの前チャック付近が膨らんでい
るのを見た彼女は、あとは聞くことはしなかったが、俺ははっきりいっ
て、歩くだけであそこの先っぽがこすれて、発射寸前だったのである。

女は生理で悩むが、男は精液で悩むのだ。
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青春の雨音-3-30

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2005-08-22 10:22:35

中田陽子はひとりで来るとばかり想定していた俺は、少しがっかりした。
これでは、落ち着いて二人で話す時間など取れるわけがなかった。


中田陽子は、俺の前に来ると、ぴたりと止まり、こちらを見ていた。
俺は心臓の音が相手に聞こえはしないかと思うほどの胸の高まりの中で、
平然をよそおい、
「やあ」
と声をかけた。


彼女は、ただ笑顔で会釈をしただけだった。


「来てくれないのかと思ったよ。びっくりさせて悪かったね」
俺がそういうと、中田陽子は「う~ん」と低くいい、首を横に振った。


少し落ち着いたところで、俺は両手で橋げたを握って川の流れに眼をや
ると、中田陽子も俺と並んで同じポーズでつり橋の下を流れる川面に眼
をやった。


俺はわざとふざけて、握った橋げたを体重を移動させて大きく揺らした。
「うわっ」と声を上げながら、中田陽子も体重を移動させて揺らしに加
わった。鉄製のつり橋はきしみ音を立てながら、ゆらりゆらりと大きく
揺れた。


向こうから自転車に乗ったおじさんがつり橋に入ってくる姿が眼に入っ
た。俺たちは揺らすのをやめたが、おじさんは揺れる橋の上でバランス
をくずし、倒れそうになりながら自転車をこいでいたが、途中であきら
めて自転車から降りて引いてきた。


俺たちは何食わぬ顔で川面を眺めるそばを、おじさんは何か言いたそう
なそぶりで通り過ぎて行った。
俺と中田陽子は顔を見合わせて声を上げずに笑った。


「時々、こうして逢って欲しいんだ」
と俺は相手に聞こえる音量で、川面を見つめながらいった。


中田陽子は、同じように川面を見つめながら、しばらくしてから、
「うん」
といった。


その返答ははっきりと俺の耳に聞こえていたが、川の流れの音で聞こえ
なかった振りをして、「えっ、今なんていったの?」と俺は中田陽子に
聞き返した。


中田陽子は、今度は俺のほうを見て、
「だから、いいよって、いったの」


えくぼがさらに大きく見えて、俺は彼女を思い切り抱きしめてやりたい
ほどに嬉しかった。
異性と付き合うということは、俺にとって初めてのことだった。


「じゃ、また今度連絡する」
と俺はいい、
「うん」
と彼女はいった。


つり橋の渡口に待たされていた吹奏楽部の彼女の友人は、二人の会話の
じゃまにならないようにと気づかったのか、少し離れたところに移動し
て退屈そうにしていた。


「彼女待ち疲れているぜ。今日はもういいよ」
と俺はいうと、「うん」と会釈して中田陽子は待つ友人のもとに戻って
行った。

二人は何やら話し合いながら、また笑い声を上げながら、来た道を学校
の方へと戻って行き、やがて消えた。


俺は、胸の高鳴りをおぼえながらも、しばらくはつり橋から川の流れに
眼をやっていた。こうしてずっと、喜びの余韻にひたっていたかった。
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青春の雨音-3-29

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2005-08-21 17:01:30

キスを和哉さんに先を越されたことで、俺も少しあせった気持になった。


熱を上げ始めた山岳部の後輩の中田陽子とは、俺が一方的に熱くなって
いるだけで、二人きりで話し合ったことすらないのである。


オナニーの空想の世界では、何度も彼女のパンツを脱がせ、肌も合わせ
ているのに、現実の世界では彼女は遠い手の届かないところにいた。


しかし、人間とは不思議なものである、と思う。


俺が中田陽子を胸の中で熱く思っているのが通じているのか、彼女の態
度にも変化の兆しが見て取れるようになったのだ。
彼女の俺を見るときのぽっと紅くなった頬を俺は見逃さなかった。


以心伝心という言葉があるが、まさに思っていれば通じるのかもしれな
いのだった。

俺もそれとなく、彼女には優しく接していたし、嫌われているとは思わ
れなかった。


9月のある日、俺は意を決して部活後に彼女を誘ってみようと決心した。
しかし、どう誘えばいいのか、どう切り出せばいいのか、見当が付かな
いのだった。


彼女の家は町の北方向にあり、俺の家は南方向だから、帰り道は逆方向で、
彼女の帰りを待ち伏せて偶然を装って近づくというのにも無理があった。


しかし俺は意を決して、前日に彼女宛のメモを書いた。
「今日の部活の帰りに、つり橋の上で待っているので、来てくれないか。
ちょっと話したいことがあるので」


翌日の部活の練習の後、着替えに戻る中田陽子を呼び止めて、
「ああ、ちょっとこれ見て」
といって、何気ないそぶりでメモを渡した。


こそこそとした態度を取らなかった分、周りに怪しまれることもなかった。
ただ、俺の心臓は破れそうなくらい高鳴っていた。

俺が彼女と話し合うことすらなかったのを、名前を呼ばれて何やら手紙ら
しきものを手渡された中田陽子は、きょとんとした眼差しで俺を見ていた。


あ~あ、後は彼女が待ち合わせ場所に来てくれるかどうか?
それだけが気がかりだった。
同じ部活にいる分、断られたら部内に居づらくなる。


俺は、汗ばんだシャツを着替えると、急いで学校を後にした。
彼女がつり橋に先に居たりしたらハナマルものであるが、そんなことは考
えられなかった。また、女を先に待たせるなんて事は男としてしてはなら
なかった。


彼女の家はそのつり橋を渡ると近いのだが、たいていの生徒は大きな通り
を渡って登下校していたから、そのつり橋を渡る生徒は少ないのだった。
その分、逢引には丁度いい場所と俺は考えた。

つり橋とはいっても鉄製でできた橋である。ただ車が通れるほどの広さは
なく、人の他には自転車やバイクが渡っていた。


俺は汗をふきながらつり橋に着いたが、やはり彼女の姿はなく、一応早く
着いたことに安心した。
しかし、10分も過ぎると、今度はやはり来ないのではないのか…、とい
う不安にかられた。


30分も待っただろうか、あきらめかけた頃、中田陽子は一人の女性と共
に二人で現れたのだった。
彼女の一番の友人であろうか、吹奏楽部に在籍する、顔だけは見たことの
ある女と一緒だった。


中田陽子は、友達をつり橋の渡口に待たせると、橋の中央で待つ俺に一人
で近づいてきた。
顔を少し斜めにし、恥ずかしそうに笑顔を作りながら、頬にえくぼを作っ
て静かに俺に近づいてきた。
つり橋は、彼女の歩く歩調に合わせてゆったりと揺れた。
(次号へ)

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