【青春の轍-1-11】

テーマ:ブログ
2006-11-07 10:08:52

農家ではたいてい猫を飼っている。
いや飼っていたが正解かもしれない。


ペットという意味合いもあるが、たいていはネズミ対策の一環
として飼っていた。


その農家が家を建て替えると、そこでは猫は邪魔な存在に一変
する。


かつては家族の一員として家の中で食事をしていた猫は、玄関
の外に置かれた食器で食事をさせられる。


たいていの農家の玄関口に猫の佇む姿が眼にされたものだ。


夜になると、寂しがり屋で寒がり屋の猫は「ミャーオ、ミャー
オ」と家の中に向かって玄関口で鳴く。


今はそういう光景もあまり眼にすることもなくなった。


それよりもネズミをくわえた猫というのを見かけなくなった。


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【青春の轍-1-11】


そんな風にして、父の牛乳製造販売店「白雪牛乳」は誕生した
のだった。


改装された借家の店舗には、「白雪牛乳」の大きな看板が掲げ
られており、店に入ると、これまで見たこともない不思議な機
械類がところ狭しと設置されており、また大きな冷蔵庫があり、
それに塗装されたばかりのあの香しい匂いが室内にたちこめて
いた。


安長屋から移った俺ら兄弟は、信じられない夢心地の中で父の
得意気に説明する声に耳を傾けるのだった。


店の真向かいが国内でも大手のM乳業で、バターや粉ミルクを
造っていた。


その玄関口の所に毎日近隣の酪農農家から絞りたての牛乳が運
び込まれて来る。


それらの集められた牛乳の一部を、父はリヤカーで買い付けに
行くのである。


父はどこで牛乳製造の技術を覚えたのかは知らない。
どこかに研修に行ったという話も聞いたことはない。


ボイラー室でボイラーに火を炊きつけ、そこから蒸気をパイプ
で製造工場の各機器に流し、全ての工程でその蒸気を利用する。


回転プロペラの付いたステンレス製の大きな寸胴で買い付けて
きた牛乳を熱する。
一定時間熱された牛乳は、今度は隣のすだれ状の冷却器の上部
から滝のように流されて急激に冷却される。

「これがホモジナイズ牛乳だ」

と、当時導入されたばかりの牛乳処理技術を口にした。


冷却された牛乳は貯蔵タンクに集められ、そこから最終段階の
瓶詰め処理される。
瓶詰めされた牛乳にキャップをすれば完成である。


それら一連の処理機器類が、改装された狭い空間に所狭しと並
んでいるのだ。


キャップをするのは足ふみ式の機械で、うまく中心に合わせな
いで踏み込むとキャップがずれてしまう。
家族みんなが交代しながら体験する。
失敗する度に狭い店舗兼処理工場内に笑い声が響いた。


終戦後の混乱期もようやく治まった時期とはいえ、まだ物不足
は続いており、牛乳もまた一般的な飲み物とはいえない時代で
あった。
牛乳を飲む人は病人か、または生活に余裕のある人に限られて
いた。


それでも父の眼の付け所は正しかったのか、程なくして注文が
次々と入り、配達用の自転車が一台、また一台と増えていき、
配達人のアルバイトの数も増えていった。


俺の長男と次男も登校前の朝の牛乳配達に駆り出された。

長男は中学2年生、次男は小学5年生だった。


そんな風にして、俺の家族の生活様式は一変したのである。
父は連日午前3時には起きてボイラーに火を入れた。
配達に駆り出された二人の兄たちも午前5時には起こされる。
俺が眼を覚ます午前6時半頃には二人の兄は配達から戻って
くるのだった。
(次号へ)

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