せん妄と薬剤 | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

私が経験したせん妄の大半は、脳幹部の一過性の虚血によって生じたものである。後は薬剤に誘発(眠剤など)されたケースも時にある。
脳幹部には、アセチルコリン系を主体とした「脳幹網様体~大脳賦活系}と呼ばれる意識の中枢が存在している。せん妄の時には、この脳幹網様体~大脳賦活系の障害はさまざまである。この系の障害が強くなると、低活動性せん妄と言う事に成る。
少し話がそれるが、意識レベルの低下に伴い大脳の活動性が低下して来るが、この時運動系(錘体路系)が、感覚系より早く低下する。いわゆる金縛りは、感覚系が覚醒しているが運動系の活動が低下しているため起こると言われている。
せん妄は、これだけでは起こらず、中脳皮質系の働きが低下し、前頭葉の機能障害→大脳辺縁系の活動更新(前頭葉でコントロール出来なくなった状態)が加わったことで起こると考えている。

中脳-皮質系のドパミンを抑制で、大脳辺縁系の暴走(陽性症状主体のせん妄)を起こしていると考えて良いと思う。リスパダールは、せん妄の治療薬として一般的であるが、長期連用すると中脳皮質系のドパミン減少により、陽性症状のみのせん妄を起こすことが有る。1例はニコリンが著効したが、もう一例は効果が全くなかった。セレネースも無効であった。
ニコリンが効果があったケースは、まさにピックであった。夜間の激しい周徊衝動があるケースで、ニューレプチルを使用した時は、夜間の周徊が治まり、激しいせん妄は影をひそめたのでセロトニン過剰が関与していた可能性がある。

私は参加できなかったが、第1回認知症研究会で入院中生じたせん妄にリバスタッチが効果があったことが報告されたようである。参加した医師に話を聞いたところ、リバスタッチ4.5mgを1枚貼っただけで、せん妄がすぐ治まったようである。
入院直後環境の変化などのストレスで生じると思われるせん妄は、私自身ほとんど経験したことが無いので、良く判らない。
ただリバスタッチが効果があったことから、中脳レベルのアセチルコリンとドパミンの不足が原因と推定できる。

ニコリンは、アセチルコリンの前駆物質であるCPコリンと呼ばれる物質が主成分である。脱幹部の血流を増加させる作用があると言われ、この事が脳幹部の虚血によるせん妄に効果があると考えていた。
低活動性線の場合、繰り返し投与によりアセチルコリン系の賦活作用により、覚醒状態が良く成って行くと考えられる。歩けるようになるのは、運動系の覚醒レベルが低下していたのが、アセチルコリンの増加により覚醒してくるためと考えられる。

昔繰り返し起こる脳幹部の虚血により、陽性症状が強いせん妄を繰り返すケースが多かった。この時ニコリンの投与を繰り返すことが、せん妄を引き起こしているのでは?と言う疑問をもったことが有る。この当時は、確証がなく考えすぎと思っていた。
最近、脳の機能の理解が進んでニコリンの作用を考えると、頻回投与によりせん妄を誘発していた可能性が高いと考えるようになった。その理由は、アセチルコリンを増やすことで迷走神経反射を起こしやすく成るためである。ニコリンを必要以上に繰り返し投与すると、それによりせん妄を起こす脳幹部の虚血が誘発されていたと考えて良いと思う。

今日の河野先生のブログに、グルタチオンの投与にシチコリン併用とソルコセリル併用について書いてあった。シチコリンはピック系には合わないと書いてあったが、アセチルコリンを増やす為合わないと考えられる。

セロトニンも脳幹網様体~大脳賦活系で重要な働きをしていると言われている。ただセロトニンの働きは複雑で、おそらく低下でも意識レベルの低下を起こすが、過剰が過ぎるとやはり意識レベルの低下を招くと思われる。
セロトニンは、大脳辺縁系に対しては、不足で活動を抑制する(うつ病など)が過剰で活動を亢進させると考えられる。
セロトニン過剰でも、せん妄が起こる可能性がある。ピックの低活動性せん妄は、セロトニン過剰により起こっている可能性もある。
最近セロトニン過剰による症状がだんだん判ってきた。河野先生も同意見である。私がセロトニン過剰による症状ではないかとメールした時、抗うつ剤投与で失敗したケースの多くが当てはまると返事が来た。
コウノメソッドではニューレプチルはサードチョイスになっているが、これは効果が無いためではない。適応をしっかりに極めれば、非常に効果がある薬剤なのである。ただ使い方が難しく合わないケースには、すぐ副作用が出てしまう。このため誰でも使いこなす事が難しく、一般に推奨できないのである。
私は、ニューレプチルをファーストチョイスにするLPCの方が少なくない。
これについては、いずれ書いてみたいと思う。