日本法の場合、ソフトウェアの開発請負契約は、「売買」ではないために商法526条2項は適用されず、民法637条が適用となる、という話がありますが、これは(商人間の)「売買」か否か、という観点であって、「物品」の「売買」か、という観点とは異なっています。
一方、U.C.C.(Uniform Commercial Code/米国統一商事法典)のArticle 2については、物品の売買(Sales of Goods)に適用される法律となっています(商人間の取引かどうかは、Battle of forms関連の2-209条など一部の条項を除き関係ない)ので、適用される要件として、①物品の②売買であること、という2つの要件が課されています。(とはいえ、この2つを区別して2要件としている、という感じよりは、"sales of goods"なのか、それとも"service"契約なのか、という判断をしている場合が多い感じはしますが)
それで、ある契約が「物品」の「売買」であるか否かの判断基準は州によって異なりますが、多くの州では"Predominant test"という、「どちらが主な契約の目的であるのか」というアプローチがとられており、それ以外のいくつかの州では、"Gravamen test"というアプローチが採用されています。これは契約の内容というよりは、訴訟における原告の請求内容に着目して、どちらの内容についての請求なのか、というのを判断する手法となっています。(*1)
そしてこのいずれのアプローチにおいても、ソフトウェア関連の取引においては、U.C.C.が適用となるか否かというのはケースバイケースの判断となっている模様で、非常に難しい問題を孕んでいると思われます。
それで具体的にいくつかのケースを見てみる前に、そもそも「ソフトウェア関連の契約にU.C.C.が適用となるとどういった問題が生じえるのか」という点について少し考えてみます。
まずソフトウェアを何らかのかたちで提供する側(ベンダーなど)からすれば、U.C.C.というのは「買手」に有利と言われることもあり、細かいところで色々と嫌な条項があります。その最たるものが、
・Implied warranty(Merchantability; Fitness for particular purpose)(§2-314, 2-315)
・Warranty for title and non-infringement(§2-312)
といった条項かと思います。特に、前者はU.C.C.の適用があってもなくてもみな気にしてきちんと契約書なり約款をドラフティングされているかと思いますが、後者については、意外と「定めていなければ保証していないことになるから大丈夫だろう」と安心してしまっている企業法務担当者もいるのではないでしょうか。(というか、仮に弁護士にドラフティングしてもらっていたとしても、このあたりが抜け落ちていないかは要検討。ただし、後述の観点から、前者のImplied Warrantyの除外規定も含め、逆にドラフティングをしていいのかも要検討。)
その他にも色々とベンダー側からすると嫌な条項も多く、また現場側でU.C.C.を意識した行動をとってもらう、ということも到底無理があるので、そういった意味でベンダー側の法務担当者としてはU.C.C.を適用させたくない、というのが通常の考え方となります。
しかし、米国弁護士にとってみれば普通の検討事項であっても、米国企業以外の企業法務担当者にとってみれば、普通に考えて「物品」の「売買」には当たらないような契約の場合にはそのような考えが及ばないことも当然あるはず。なので注意すべき、とは思っていました。ただ、自分は少し前までは「というか、他の細かい条項もあるだろうけれど、とりあえずImplied WarrantyとかWarranty for non-infringementなどは、保証しませんという内容を定めておけば問題は少ないのでは」と思っていました。
しかし、例えばMirsky & Company, PLLCという組織のブログにて、米国弁護士のMirsky氏は、自身のエントリにて、「そういった責任除外の規定を定めること自体が、黙示的に双方でU.C.C.が適用となることを合意していると捉えられかねない。そもそもU.C.C.が明らかに適用とならないのであれば、U.C.C.にのみ定められている責任の除外規定を設ける必要もないでしょう?」と言って、U.C.C.にて定められたImplied Warrantyの適用除外条項を定めることのリスクについて警鐘を鳴らしています。
そのMirsky氏のエントリでは、U.C.C.が適用とならないような確認規定の例として、オラクルのSaaS利用約款の以下の条項を取り上げています。
(emphasis added by Mirsky)
これは、いつくかの判例(*2)で、ソフトウェアのライセンス関連契約においては、ソフトウェアの権原がベンダー側に留まっているのか、それとも利用者側に移っているのか、という点がU.C.C.が適用となるか否かの重要な判断要素である、と述べられている点を踏まえたもののようです。Mirsky弁護士はそのようなことを述べています。
うーむ、なかなか深いですね。。。いずれにしてもMirsky氏のエントリでは「SaaSなどは明らかにU.C.C.は適用とならないはず」とは言いながらも、ソフトウェアのライセンス契約でさえU.C.C.が適用となっている事例があることから、きちんとオラクルのように対処すべきである、という示唆を含んでいるような気がしていますが、実際にとるべきスタンダードとしてはどうあるべきなのでしょうか。
きちんと調べているわけではないので、正解は分かりませんが、何となくオラクルのやり方が正しい気がしています。ただし、ソフトウェアの「売買」の要素が強い契約の場合は果たしてどうなのか。。。
ということで、どういった検討を経てソフトウェア関連契約にU.C.C.が適用され、それによってベンダーがどういった不利な状況に立たされているのか。今度時間があるときには、いくつか判例を見てみて、今度続きのエントリにて紹介させていただきたい、と思います。(すぐにはできないと思いますが、あしからず。。。)
*1 Predominant TestとGravamen Testについて記述されている資料の例として、ABA(American Bar Association)のコチラのNews Letterなどが参考になるかと。
*2 その一例が、Mirsky弁護士も取り上げている Digital Ally, Inc. v. Z3 Technology, LLC, 2010 WL 3974674 (D. Kan. Sept. 30, 2010)