日々、リーガルプラクティス。

企業法務、英文契約、アメリカ法の勉強を
中心として徒然なるままに綴る企業法務ブログです。
週末を中心に、不定期に更新。
現在、上場企業で法務を担当、
米国ロースクール(LL.M.)卒業し
CAL Bar Exam合格を目指しています。


テーマ:
先日、企業法務マンサバイバルのはっしーさんから以下のような質問をいただきました。


米国に現地法人を置かない日本法人が、ディスカバリで提出命令食らった実例って存在するんでしょうか?ディスカバリベンダがよく説いているような、法理論上ありうるという程度のリスクとかではなく。



難問。。。とはいえ、このような質問をいただけるのは有難いことで、しかもなんだか気になったので、色々調べてみました。

結論、独占禁止法に関連する事案は1件見つかりました!!しかし、通常の民事訴訟に関する具体的な事例は見つかりませんでした。(2週間前くらいまでは、LL.M.で利用していたLexisNexis AdvanceとかWestlaw Nextが使えていたので、その時だったらもう少し調べられていたかも、と思うと残念。。。これらのサービスの凄さを今回思い知りました。またそういったサービスを利用していたこともあり、PACERはまだ登録していないので使っておらず、PACERを使えばもう少し探せるのかもしれませんが、、、ただ当てがない検索なので、PACERでも容易ではないかと。)

また他にもいくつか参考となる事例はありました。そしてこの疑問にまつわるルールも色々と分かりました。と同時に、日本に所在する日本企業へのディスカバリーというのは、特に文書提出命令については、かなり特殊な問題が存在する、ということが分かりました。

結論、今の自分の考えとしては、こんな感じになりました。

・ルールとしては、海外に関連会社や財産を置かない日本企業が米国の訴訟においてディスカバリーにおける文書提出命令を受ける可能性はあり(かつ事例も必ず存在すると思う)、少なくとも、米国のDOJやIRSが原告となるような独禁法違反事例や脱税事例の場合は、文書提出命令を受ける可能性が更に高い。ただいずれにせよ、多くの日本企業は自主的に文書提出に応じているのではないか*1

・文書提出命令に従わなかった場合に制裁を下される可能性も当然あるが、これは事例はないのかもしれない。ただ米国に関係会社がある場合の事例はあり、いずれの場合においても日本に所在する日本企業に対するディスカバリーの強制に関するルールは、(日本で当該ディスカバリーを元に下された判決を日本で執行することを求める段階までは)双方に違いはあまりない(全くないとは言えない*2)(ただし、日本企業が保有する情報でも、米国関係会社の"possession, custody, or control"の情報とされたものについては、全然話が違う*3。)。

・当該制裁によって導かれた判決が日本で執行できるか、という事例は見つかっていません。ただ、日米領事条約第17条(後述)のことを考えるとできない気もします。

・しかし、米国の訴訟で被告となった日本企業が引き続き米国に関係してビジネスを行なう場合は、日本での執行が拒絶されることを期待してディスカバリーの文書提出命令がなされた事案の判決に従わない、という行動を起こす合理性はあまりないので、結局任意的に関連文書を提出しているのが現状なのではないか。



正直、正解はよく分かりません。ただ一応、この結論に至っている理由は以下の通りです。具体的事例や参照した資料・論稿も挙げて説明します。


*1 文書提出命令が出た、という事例を探すには、相手方当事者が文書提出命令を出してくれ、という申立となるMotion to compel production of documentsとそれに対するMotion for protective orderを検索するか、それらの申立に対する裁判所の決定、といった単位の文書検索が必要ですが、やっぱりPACERとかLexis/Westlawなどでないとなかなか難しい気が。

*2 米国に所在する関連企業との関係性や、原告として米国企業を訴えた、という観点から当該原告の日本企業に対するディスカバリー手続きの強制が認められた事案として、Japan Halon Co., Ltd. v. Great Lakes Chem. Corp. (155 F.R.D. 626)。

*3 FRCP§34(a)において、ディスカバリーの文書提出義務について、各当事者は"responding party's possession, custody, or control"にある文書や電子情報を提出しなければならない、とされています。よって、日本企業と米国現地法人の双方が訴訟で被告となった場合、日本企業が日本に保有する情報であっても、米国現地法人の"possession, custody, or control"にある情報とみなされれば、その情報の提出強制や米国現地法人に対する制裁の行使には、(無理矢理日本で書類やデータを閲覧する、といった行為がない限り)日本での国家権力の行使としての問題はほとんど生じないはず。




米国のディスカバリー手続きとハーグ証拠調べ条約、及び日米領事条約の特殊性


連邦民事訴訟規則による*4ディスカバリーを国外に所在する個人や企業に対して強制する場合、その行為は国権の行使とみなされますので、日本の主権(Sovereignty)との関係が問題になります。

ただ、そうするとクロスボーダーの訴訟で外国にある証拠の証拠調べをすることがどんな訴訟でも難しくなるため、多くの国は「民事又は商事に関する外国における証拠調べに関する1970年条約(CONVENTION ON THE TAKING OF EVIDENCE ABROAD IN CIVIL OR COMMERCIAL MATTERS)(ハーグ証拠調べ条約)」を締結しています(現在50カ国を超える国が締結している模様)。

そして米国の連邦民事訴訟規則によるディスカバリーの強制とハーグ証拠調べ条約との関係性については、すでに米国連邦最高裁でそのルールが明確化され(Societe Nationale Industrielle Aerospatiale v. United States, 482 U.S. 522 (1987))、その後の判例も踏まえて、そのあたりのルールはRestatement (Third) of Foreign Relations Law §442にまとめられています。結論、ハーグ証拠調べ条約の成立の歴史と、当該条約の文言が各国の自国法による証拠調べを禁じていない点に鑑み、いくつかの利益を比較衡量し、ハーグ証拠調べ条約の加盟国に対しては、仮に当該加盟国において米国のディスカバリーに応じることが当該国の自国法違反になったとしても、米国連邦民事訴訟規則によるディスカバリーを強制し得る、というルールになっています。

このハーグ証拠調べ条約、及びその加盟国とクロスボーダーのディスカバリーに関する資料や文献はたくさんあるんですよね。事例もたくさんある。有名なところでは、米国のディスカバリーについての有名な会議であるSedona ConferenceのWG6というワーキンググループが"THE SEDONA CONFERENCE Framework for Analysis of Cross-Border Discovery Conflicts"という報告書を発行していて、そこに色々と詳しく記載されています*5

しかし、このルールは日本には上手くフィットしないんですね。なぜなら、日本はハーグ証拠調べ条約を締結も批准もしていないためです。そのため、上述の米国連邦最高裁判例であるAerospatiale事件で確立されたルールは日本企業には適用できません。そのように判断している事例も現に存在します*6

その代わり、日本と米国は、双方の国でのクロスボーダーの証拠調べについて、1963年に締結した日米領事条約第17条でその詳細を定めました。

そしてこの日米領事条約の条文が見つからないんです。。。なので正確なところはわかりませんが、本条約第17条では、どうやら"voluntary"な文書提出しか認められていないようです*7。よってこの日米領事条約第17条と米国連邦民事訴訟規則によるディスカバリーとの関係が問題になるのですが、、、この問題についてばっちり言及している事例がなかなか見つからない。

と思ったら、独禁法関連事案で1件事例が見つかりました(下記注釈にも記載の、IN RE VITAMINS ANTITRUST LITIGATION 120 F. SUPP. 2D 45 (D.D.C. 2000))。

その他にも関係する事例はあるので、そのあたりを紹介したいと思いますが、長くなったので、エントリーを分けて、次のエントリーでご紹介します。

(勉強もあるので、次回のエントリー以降、当分の間はこのくらい詳細なブログは書けそうにありません。。。自粛。。。)


*4 当然ですが、日本企業のみが被告となる米国の訴訟においては、被告(の弁護士が)間抜けでない限り(または何かしらの狙いが特にあるのでない限り)は、Diversity Jurisdictionが成立するので州裁判所で仮に裁判を起こされても、連邦裁判所への移管(Removal)が認められるので、州の民事訴訟規則を論じる意味合いはないはず。

*5 その他に参考文献・資料としては、米国連邦裁判所の裁判官向けに Federal Judicial Center が作成している"Manual for Complex Litigation"の"Extraterritorial Discovery"の項(Forth Editionの場合は§11.494参照)や、米国のDepartment of Stateが作成している"Obtaining Evidence Abroad (2007)"など、多数。

*6 IN RE VITAMINS ANTITRUST LITIGATION 120 F. SUPP. 2D 45 (D.D.C. 2000)

*7 Foley & Lardner LLPのニュースレター、Conducting Discovery in Japan: Depositions, Letter Rogatory, and Production of Documents(2012-9-1)や、Craig P. Wagnild, Civil Law Discovery in Japan: A Comparison of Japanese and U.S. Methods of Evidence Collection in Civil Litigation 参照。




4月26日追記:参考資料及び学説


今日、出身大学の図書館で勉強をしている最中、ふと「あぁ、参考文献とかあるじゃんここに」と思い、ちょっと調べたら色々とありました。そしていくつか当たってみると、自分の考えに大きな間違いはなさそうな気がしています。

例えば、道垣内正人先生は、澤木敬郎先生との共著『国際私法入門[第7版]』(有斐閣, 2012年)でこのように述べています。

渉外事件においては(中略)民訴条約、二国間取決といった司法共助協定があれば、それに従って証拠調べをすることになる。(中略)しかし、その種の条約がなければ、任意の協力を待つほかない。わが国の主権の及ばない者に対して、不提出、不出頭などを理由として過料に処すことはできない。(中略)
司法共助によらない一方的な証拠収集としてのアメリカの証拠開示手続(discovery)が日本で問題を惹起している。アメリカでの裁判のために、アメリカの弁護士が来日して証言録取を行なう事例が相当数に及ぶからである(中略)。これを主権侵害とみる見解もあるが、外国での裁判自体が国際法上問題なく、かつ、その裁判と証言録取との間に合理的関係があれば、国際法違反の問題は生じないと解される。(同書P.324-326)


と、日本が外国にある証拠調べをすることについては、司法共助によらないとだめ、と断定していますが、アメリカのディスカバリーについては、デポジションについてのみ触れており、文書提出命令については特に触れられていません。

なお、少し古い書籍ですが、春日偉知郎「証拠収集及び証拠調べにおける国際司法共助--執行管轄権の視点を交えて--」中野貞一郎先生古稀祝賀『判例民事訴訟法の理論(下)』(有斐閣, 1995年)では、本論点については非常に詳細な分析がなされています。特に面白いのは以下の部分。

アメリカの受訴裁判所が自国の領域において外国人の当事者に対して(文書等の)不提出の場合に不利益を課すことにより証拠提出を要求することが、主権侵害にあたるかどうかが問題となる。(中略)しかしながら、当事者には、開示に応じ不利益を回避するか、それとも開示せずに不利益な認定を甘受するかについて選択権があり、開示命令に従わないときでも強制力が行使されるわけではない。こうした意味において、当事者に対して開示「強制」又は「義務」が課されているのではなく、「不利益(効果)」又は「責任」が及ぶにすぎず、強制力の直接行使であるとは認められない。
これに対して、同じく制裁といっても、本来的な強制力の行使(特に強制金の賦課)については、他国が外国主権を侵害せずには外国人に対して要求することのできない行為を事実上強制することになり、右の場合とは事情が異なる。(中略)ディスカヴァリーに応じない場合の制裁を規定しているアメリカ連邦民事訴訟規則第37条は、開示の非協力に対して不利益制裁をするにとどまらず、開示の懈怠に対して敗訴判決、法廷侮辱罪、費用負担をもって臨んでおり(特に法廷侮辱罪は刑罰的色彩が濃い)、当事者に開示を強制している。したがって、裁判所がこのような制裁を行使してする開示命令(アメリカ対外関係法第3リステイトメント442条1項参照)は、明らかに主権侵害性を帯びており、わが国からすれば許されない。(同書P.462)


この説に従えば、日本に所在する日本企業の文書提出命令を拒否した場合に、Adverse Inference Jury Instructionあたりまでは主権侵害とはならないが、Default JudgmentやContempt of Court、Attorney's Fees等の負担という制裁については、主権侵害となる、ということでしょうか。

いずれにしても、なかなか難しい問題であることは理解でき、また自分の考え方に大幅な間違いがないことが分かり、ほっとしました。(なのではっしーさん、本エントリーの内容に大きな間違いはないと思いますのでご安心を。。。)

なお、他に参考文献としては、もっとも新しいものだと、多田望『国際民事証拠共助法の研究』(大阪大学出版会, 2000年)が詳しそうです。

あと、日米領事条約も、日本語は見つかりました。

いずれにしても、後は次回エントリーで。

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