しばらくして、彼は体を起こした。バッグをひきよせ、サービス・エリアでミネラル・ウオーターを入れてきた
シグのボトル
、
シエラ・カップ
で、黒くエナメルを塗った取手のついたアルミ・カップ、
エスビットのポケット・クッカー
、そして
固形燃料
と
ウインド・プルーフのマッチ
を、彼は取り出した。
ポケット・クッカーを半開きにし、固形燃料の箱から角砂糖のような燃料をいくつか、砂の上に出した。そのひとつに、マッチで、火をつけた。燃えているのかいないのかわからないような淡い炎をあげて、固形燃料は燃えはじめた。ポケット・クッカーのなかにそれを置き、さらにその上に、固形燃料をいくつか、要領よく重ねた。
半開きのクッカーの上にシエラ・カップをのせ、ボトルの栓をとり、水をカップに静かに注いだ。
ジャンパーのポケットから、彼は、朝子にかえしてもらったバンダナをとり出した。砂の上に置き、立ち上がってオートバイまでひきかえした。工具ボックスから七インチの
ヴァイス・グリップ
をとり出し、もとの場所へもどった。
コーヒー豆をくるみこんであるバンダナを注意深く持ち、スロープをさらにすこし下へ降りた。手ごろなサイズの岩をみつけてそのかたわらに両ひざをついた。コーヒー豆が外へこぼれないようにつつみなおしてしぼりこむようにバンダナを持ち、岩の上にあてがうように置き、ヴァイス・グリップの頭で叩いた。
しばらく叩いてからバンダナのなかの豆に外から指を触れてみると、豆は充分にこまかく砕けていた。
ポケット・クッカーのところへもどり、固形燃料をいくつか加え、しばらく待った。やがて、シエラ・カップのなかで、湯が沸いた。
もうひとつのカップの上に、広げたバンダナをフィルターのように置き、砕いたコーヒー豆が中央へ来るようにした。シエラ・カップを持ち、コーヒーの粉の上に熱湯をおだやかに注いだ。
ドリップによる熱いコーヒーが一杯、アルミニウムのカップのなかに出来あがった。黒い取手を持ち、彼は今日はじめてのコーヒーを、楽しんだ。
「その日はじめてのコーヒー」より
(『月刊 小説王』1984年12月号/角川書店)