修行時代日記~第22話~
199×○月×日
フランス・リヨン・リエルグ村にある辻調フランス校、
<シャトー・ド・レクレール>にやってきた。
シャトー・ド・レクレール・・・・・レクレールとは、L’ECLAIR エクレール(稲妻・稲光)という意味。実際、この辺に稲妻がよく落ちるのかどうかは知らないが・・・
日本語に訳すとさしずめ<稲妻城>といったところか。
ちなみにお菓子のエクレアはシュー生地を横長に焼き上げ中にクリームをたっぷり詰めグラッセ(艶出し)したお菓子だが、このシュー生地が焼きあがった時、横に割れて入った亀裂が稲妻の様に見えることからエクレアという名前になったらしい。
バスから降りて施設内を案内された。
いくつかの建物がある。
調理場、仕込み室、パティシエの調理場、講義室兼食堂、ゴミ捨て場。
これらと別の建物に宿舎がある。
自分の宿舎はシャトーだ。そこの2階201号室の4人部屋。
4人部屋だけあって結構広い。
ドアを開けてすぐ右手が自分のベットだ。
各自にデスクもある。
同部屋の人は・・・・・皆おとなしそうだ。(自分を除いては)
そのうちの一人、体格の良いG藤君。
兵庫県出身、辻調大阪校。
だそうだが、いかにも美味しそうな料理をつくりそうなオーラを放っている・・・・。
「ムムッ!!」・・・ライバルになりそうな予感。
ちょっと話しかけてみた。
「どうもはじめまして。石井 剛です。よろしく。」
「あ~~どうも。G藤です。よろしく。東京からきたん?」
「そうです。東京校から。食べ歩きとか行く予定ありますか?」
「そうね、色々行きたいね。まあ、最低でも三ツ星は全部行きたいね。出来れば二つ星もね・・・・。」
「!!!!?・・・・・三ツ星全部って!?何軒あるかわかってるの?」
「一応食べ歩きだけで100万位は使おうかなって思ってる。」
「・・・・・・・・。お、お金持ちなのね。G藤君。」
「いやぁ~。そんなことないよ。でもせっかく来んだから、後悔はしたくないしね。」
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その日の夜はウェルカムパーティーを開いてくれるらしい。
と言っても準備は自分たちでするのだが。
コックコートに着替え調理場に集まる。
先生方があらかじめ準備をしていてくれた。最後の盛りつけなどを手伝う。
「おい!!そこの!!ちょっと肉切ってくれるか?!」
「えっ!俺?!あ・・・はいっ!」
あの、怖そうな髭の先生だ。B林先生というらしい。
「これ切ってくれ!!!」
目の前にローストポークが焼きあがっている。
「スライスにすればよろしいですか?」(っていうか、怖っ!!)
「おお、そうだ。」
焼きあがったばかりのローストポークの紐を外しスライスに切り出していく・・・・。
「熱っ!!せ、先生ちょっと熱いんですけど・・・」
「アホっ!!!熱ない!!!さっさと切らんかい!!」
「まマジすか・・・・。う~~~~、あ熱っ!!う~~~~~怖っ!!」
「熱いと思うから熱いんじゃ!腹に力を入れて息を止めて一気に切るんだ!!」
「は、はいっ!!」
「はい、じゃない、ウィーだ!!ここはフランスだぞ!」
「ウ、ウィー!!!シェフ!!」
ふ、ふ~~~。何とか切れた。
しかし、しょっぱなから・・・・これか・・・・・。
こ、怖い。
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パーティーは楽しくすぎていった。
ここで先生が締めの挨拶に入る。
「ふ~~。もうすぐ終わりか。やっと休める・・・。」
先生の挨拶の後に、生徒代表の挨拶があるらしい。
「生徒代表、G藤!」
「あっ!!」・・・・同じ部屋の・・・・・。
その瞬間、背後からヒソヒソ話が聞こえてきた。
「あ、あれあれ!G藤君。なんだか、奨学生らしいよ。」
「へーすごいね!!主席間違いなしだね!研修も三ツ星行っちゃうんじゃないの!?」
・・・・・・・そ、そうなんだ。どうりで、オーラが・・・・。
奨学生なら、そうか!奨学金で来てるって事は、食べ歩きに沢山使えるってことか。
ラ、ライバルどころか、自分とは全然レベルが違う。(しかも同じ部屋)
しかし、負けない。
雑草魂を見せてやる!!
稲妻城にいる俺の心に一本の稲妻が走ったような気がした。