数えきれないほどの贈り物を、ひとつひとつ丁寧に箱に入れて、ラッピングをして。
この箱の蓋を開けたとき、どんな笑顔が弾けるのだろうと想像するだけで、ふんわりと胸が温かくなります。
そう、世界中の子どもたちへと込められる愛は、サンタさんからだけのものではありません。
どんなものが欲しいのかを見に行ったり、 贈り物に相応しいリボンを作ったり、『メリークリスマス』とカードに書いたり……そんな、いわゆる裏方さんたち。
彼らもまた、この、年に一度の奇跡のお仕事に誇りを持って、ここ、〝クリスマス星〟で頑張っているのです。
そんな彼らーーエルフたちは、最後のひとつの贈り物の箱を白くて大きな袋に入れると、ほっと胸を撫で下ろしました。
そんなときでした。
「みんな、本当によくやってくれた。きっと今年もまた、子どもたちが大喜びしてくれる」
天にまで届きそうなほどの白い袋を見上げ、サンタさんはニコニコしながらお髭を梳かしました。
サンタさんがくれるこの言葉は、エルフたちにとって何よりの自慢なので、ますます嬉しくなります。
「いつもわたしを助け、贈り物を用意してくれる君たちに、今年はお礼をしたいと思う。何でも欲しいものを言いなさい。どんな願いも、きっと叶えてあげよう」
エルフたちは驚き、隣にいる仲間と顔を見合わせ、えっ! と一斉に声を上げました。
ここにいる、僕も含めて。
「なんでも……ほんとうに、なんでもいただけるのですか」
こわごわとしながら一人が確認すると、サンタさんは、もちろんだとも! と頷きました。
わあっと、歓喜の叫びが湧き上がります。
「じゃ、じゃあ! あの、僕は」
自分が贈り物をもらえる日が来るだなんて、夢にも思わなかったーーわけじゃなかった、ずっとずっと、もしも願いが叶うなら、いつか叶うなら、と温めてきた想いがあったのです。
「言ってごらん」
誰より先にねだろうとした僕に、サンタさんはより一層笑みを深くしました。
「僕は……あの、人間に、人間の子どもに、なってみたいんです」
辺りはしんと静まりかえり、絞り出すような小さな僕の声が響きました。
「わ、わたしも!」
サンタさんが何かを言おうと口を開けたとき、斜め向かいにいた、調査隊のエルフが走りよって来ました。
「わたしも、わたしもずっと、人間の子どもになりたかったの!」
「オレも、オレもです、サンタさん!」
「あたしも、人間の子どもにしてください!」
驚くことに、なんとほとんどのエルフたちが同じことを夢見ていたとわかり、みんなが頬を真っ赤にさせて、思いの丈を話し始めたのです。
毎年贈り物を準備しながら、いつか自分も人間の子どもになって、贈り物を受け取ってみたいとひそかに思っていたこと。
クリスマスを楽しみに待つことのワクワクを味わってみたかったこと。
何よりーー
「僕は、クリスマスが終わっても、あの子たちの傍にいたいんです。友達になりたい。サンタさんはいるよって教えてあげたい。どんな時もみんないい子だよって、言ってあげたいんです」
みんないい子だよって、みんなみんな、サンタさんの、僕らの宝物で、悪い子なんて一人もいないってことを教えてあげたかった……最後は言葉にならなくて、涙がぽろりとこぼれ落ちました。
贈り物の蓋をするときに込めて来た気持ち。
みんな愛されているんだよ、みんな大切なんだよ。みんな特別なんだよ。
どうか全ての子どもたちが、しあわせでありますようにと、願ってきたのです。
「そうか……そうか。よくわかったよ」
サンタさんは、僕の肩にそっと手を置いて、トントンと優しく叩きました。
「よし、みんなに望み通りの贈り物をしよう。ただし、いっぺんにいなくなっては困るから、順番に、ではどうだろうか? 毎年必ず、君たちを送り出してあげよう」
わああっ! という大歓声が、先ほどより大きく上がりました。
みんな、嬉しくて嬉しくてたまらないのでしょう。
僕も、胸がいっぱいです。
「ただ、ひとつ。最初に人間の子どもになる者たちは、大変な思いをするかもしれない。まだあの世界は、この小さなモミの木と同じだ。ほんの少しの寒さでも枯れてしまいそうになるし、ぶつかれば折れてしまう。水も栄養も、愛も、何より必要だ。それでも、負けないように踏ん張って、なんとか強く大きくなろうと未来を目指しているんだよ」
サンタさんが身をかがめて、そうっと撫でたのは、まだ生まれたばかりのモミの木の芽でした。
「毎日をクリスマスのように過ごすには時間がかかる。だけど、その日を迎えるためには、とても、とても大切なときだ。それでも、行くかい?」
ドクン、と心臓が鳴りました。
不安で、怖気づいたからではありません。
胸が、期待で高鳴ったのです。
不思議と、ちっとも怖くありませんでした。
何故なら……
「もう、ここで見ているだけじゃなくて、自分の力で動けるんです! だから、行きます! 行かせてください!」
「そうだよ……そうだよな! その通りだ! サンタさん、お願いします」
誰もやめたいと言う仲間は出てこず、むしろ賛同しながら口々に手を挙げ、我先にとサンタさんに頼みます。
仲間っていいなあ、と僕は思いました。
少し難しい顔をしていたサンタさんは、すぐにホッホッホと笑い出し、そしてズボンのポケットのなかから、何かを取り出したのです。
「わかった、わかった。では、約束しよう。みんなも知っていると思うが、人間になる前に、今の記憶はここに置いていくことになる。だが……印を与えておくから、きっと思い出すだろう。そのときはーー……」
ーーまだ暗い明け方の、インディゴブルーの空を通って地上に降りた僕らは、なんと贈り物の箱に入って、あちこちに配られました。
欲しかった家族、なりたかった友達。
そして憧れていた、自分だけの名前。
サンタさんが言っていた通り、大変なこともたくさんあって、大変なことしかないこともあって、クリスマスを楽しむことすら出来なかったこともあったけれど、
クリスタルのように透き通った月の光を浴びて人間になった仲間たちや、七色に彩られたレインボーブリッジを渡って人間になった仲間たちが次々やってきて、思い出し始めたのです。
「サンタさんがくれた印……」
身体のなかにある心臓のもっと奥の、ハートのもっと奥の奥に、小さなきらめきの種があることを。
大好きだったトナカイさんの鼻のようにピカピカな、クリスマス星の種があることを、僕は思い出したのです。
「メリークリスマス!」
天使がラッパを吹き鳴らすと、インディゴブルーの空にオーロラのカーテンが広がり、ダイヤモンドのような美しい粉雪が舞いました。
シャンシャンシャンシャンと、どこからか鈴の音が聴こえて来ます。
サンタさんの元気な笑い声も風に乗って近づいて来ました。
みんなで手を繋いで、いつか全員揃ってサンタさんにお礼を言おう、そう決めた約束が果たされるのです。
今宵やっと、やっと。
この地球で、この場所で
願った通り、愛しい子どもたちの傍で、また贈り物を受け取る。
サンタさんに、これまでのことを話してあげようと思います。
やっぱりみんな、とても良い子でしたよ。
どの子もみんな、宝物ですって。
サンタさんはもちろん、わかっているでしょうけれどね!
きっとまだまだこれからも、僕の仲間たちは胸を弾ませて誕生することでしょう。
さて、今度はどこを通り、何色の光を身に纏って来るのでしょうね。
僕らに与えられたこの種(しるし)は、ぐんぐん育ち、大きなモミの木になり、やがてみんなのクリスマスツリー(希望)になる。
この、輝くツリーが世界を照らし、毎日を特別な日に変えてゆくのですからーー。
これはそんな、ここから431光年ほど離れた先にある、クリスマス星からやってきた、秘密の贈り物たちのお話。
End.
ちょっぴり早いですが、
クリスマスのお話でした
ありがとうございました
世界中の人たちに、
幸せの贈り物が与えられますように
あなたにとって素晴らしい出来事が起こりますように。
あなたの大切な人が幸せでありますように。