中華の足跡・改

中国から帰り、北海道に暮らしつつ、台湾とつながる生活。

マジメな話からくだらないネタまで、国籍・ジャンル・多種多様。

いざ、情報発信~!


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「もう今日かえるのかよ」と、残念そうに谷本が言う。

「早かったなぁ」石原も相槌をうつ。

全く、5日間なんてあっという間だ。

「でも、楽しかったろ?」それが、俺が聞きたい一番重要な質問でもある。

「おう!」

「すげえ楽しかったぜ」

間髪いれずに返ってきたその返事が、俺にはとても嬉しかった。お世辞なんかを言っている目でもない。

こんなときは、笑うしかない。ふふっと笑って、言った。

「ま、今度は黒崎と一緒に来いや。他の連中連れてきたっていいしな」

朝、出発は早い。6時半にはホテルを出発し、タクシーに乗って浦東空港を目指した。

朝飯を食う時間もないので、空港で食べることにしていた。これがまあ、最後の失敗というヤツか。

チェックインをすませて、俺らはまずあるレストランに入った。

そこでは、メニューの1ページ目と2ページ目のセットメニュー、それから麺類が全部ないという。じゃあ何があるんだ、と聞くと、点心系ならあるというのだが、それも時間がかかる、とのこと。

説明を聞いて、あきれてしまった。一体何を考えて営業してるんだ?

ワンタンならすぐできるけど、という声を無視して、その店を出ることにした。昨日も一昨日もワンタンを食べたということもあるが、そうでなくてもこんな店で食べる気にはなれない。

ひとしきり文句を言いながら、また別の喫茶店風の店に入った。

だが、そこも状況的には大差なかった。メニューの中で、ご飯類は今ない、麺類でも炒めるものはない、という。怒る気力すら無くしていた俺らは、普通の麺類を頼むことにした。ちなみに後で思ったのだが、麺はあるのに炒めるものはダメ、というのはなんだ?調理人がいないってことか?なら、今から来る麺は炒め物すらできない人間が作ったものということになる。それとも、炒めるための油がないってことか?しかし、油もない料理屋など聞いたこともないが・・・。

そんな真実などどうでもいいほどに、やってきた麺はしみじみとまずかった。まずいというより、味が全くしないのだ。このうどんのような黒いスープは、何の色だ?なぜ味がしない?谷本も石原も、半分も食べずに箸をおいていた。無理もない。機内食まで、我慢してくれ。

そんなくだらないことに意外と時間を費やしてしまって、気がつくとフライトまで一時間を切っていた。別れの、時間がやってきた。

「サトシ、冬は帰ってくるんだろ?」谷本が訊いて来た。

「そうだな、とりあえず帰るつもりにはしてる。その後どうなるかはわからんけどね・・・」

「永住するなら、ときどき遊びに行くからな」にやりとしながら石原が言う。

「永住・・・すんのかなあ」仕方なく苦笑した。実際、まだ将来がなんともわからないのだ。

ひとしきり笑い合ったあと、石原が右手をさしだしてきた。

「お世話になりました」

「いえいえ、どういたしまして」俺も手を握り返す。

続いて、谷本も。

「楽しかったぜ。元気でな」あいかわらずのさわやかな笑顔だ。

「ああ、そっちもな。飛行機、落ちるなよ」

「・・・いや落ちるな言われてもな・・・」

またしばらくは、こんなくだらないやりとりもできなくなるのか。だが仕方がない、それが俺の選んだ道、か。

「じゃあ、行くぜ」

と、石原が荷物をかつぎあげた。

「おう。・・・じゃあな」

二人は係員にチケットをみせてゲートを抜け、そして一度振り返って、手を振った。俺も手を振り返す。やがて二人は角を曲がり、その姿を消した。じっとその姿を見送っていた俺は、もういちど口の中で、じゃあな、とつぶやいて、ゲートに背を向けた。そして、なんとなく、さきほど録画したメッセージを頭の中で再生していた。

別れる直前に、谷本が、そうだいいこと思いついた、と携帯を取り出したのだ。この携帯は動画も保存できるので、なんかみんなにメッセージ残してくれ、というので、慌ててセリフを考えて、録画したのだ。もっとも、考えなんかまとまってないから、途中から何言ってるんだか自分でわからなくなってしまったが・・・。

とにかく、俺は元気です、今回の旅も楽しかったです、なんてことを吹き込んだ。でもって、最後に付け加えた。

「ちゃんと案内するんで、中国来てね。ていうか、来い。いいから、来い!」

みんなに、会いたい――そんな本音が、出てしまったのかもしれない。

なんの、またすぐに会える。会って、バカなことをやって、笑い合える。きっと――。

俺は頭を一回、二回と振った。気持ちを切り替えるときの、これは癖である。まだ楽しい学生生活が半年も残っているのだ。俺はことさら明るい口調で一人ごちた。

「さ、帰るか・・・今夜はバイトだ!」

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問題は、肝心の俺らが乗ってきたバスが何色のボディーでどんな形をしていたか全く覚えていないことだ。この膨大な数のバスから探すのは不可能・・・となれば、人に訊くしかない。遠慮なんかしている場合じゃない。俺は手当たり次第に、さっき杭州からきたバスはどれですか、と訊いて回った。

何人目か、ようやく一人のおじさんが知っていた。

「アレ、あのバスだ」

「・・・えーと、あの、今動いているやつですか?」

「そうだ、早く走っていけ、もうすぐ発車しちまうぞ」

冗談じゃないぜ。谷本に説明してる時間もない。急げ、とだけいってそのバスへ走り出した。手を振って、そのバスを止める。

バスに乗り込んで、怪訝な顔をしている運転手に、さっきここに忘れ物をしたんだけど、と説明していると、乗務員が後ろの方から携帯電話を持ってやってきた。

「これですか?」

「それだ・・・ありがとうございます」

ようやく俺は安堵のため息をついた。そこで、汗をかいていたことに気付き、かるく手でぬぐう。電話を受け取り、谷本に渡す。

「すまん、ありがとう」

谷本は俺以上にほっとしていた。

「いや、気にすんな。間に合ったしな」

それから、俺はもう一度運転手にお礼を言い、石原のところへ戻った。

「見つかったかい?」待ちくたびれた様子の石原が尋ねてきた。

「ああ、ギリギリだったけどな。あと一分遅かったらアウトだったぜ」

「そっか、まあよかったな」

「ホントにすまん」谷本がもう一度謝る。

「いやいや、いいけどさ」石原も気にした様子はない。が、思いついたように続けた。

「待ってるとき、あのおっちゃんたちいろいろ話し掛けてきたんだけど、全然わかんなかった」

俺は笑って答えた。

「そうだろうな、しかもあの人たちなまりが強くて聞き取りにくいしな・・・」

いやあ、退屈しねえなあ、などとぼんやり思いながら、俺は空きタクシーを捜し始めた。

この日泊まるのは、初日に泊まったのと同じホテル。別のホテルを予約するのが面倒だったのだ。

チェックインして荷物を降ろし、俺たちはまたすぐホテルを出た。行き先は、今回の旅の集大成――というほどオオゲサでもないが――、上海雑技団。

会場は、外国人であふれていた。チケットを売っているおばさんは、初めから日本語で話し掛けてきた。以外だったのはチケット代で、一番いい席で200元。ガイドブックに書いてあるものよりも高い。怪訝そうな俺に、今年から値上がりしたのよ、とおばさんがいう。絶対嘘だ、と後ろで谷本がつぶやいたようだ。しかし今さら帰るわけにも行かないし、まあ日本円で考えればそれほどデタラメな価格でもない。その値段で行くことにした。

席は、意外にいい場所だった。会場はまるで映画館のようで、前方に舞台がある。その前から6列目、中央付近に俺らの席はある。これは意外にどころか、相当いい席だな、と、後で思った。

そして、雑技がはじまった。

演目は大体7,8演目くらいだっただろうか。さすが有名な上海雑技団だけあって、どれもすばらしいものだった。あるときは見ているこっちが冷や汗を握り、あるときはマジックのネタに頭を悩ませる。

中でも一番俺らにうけたのは、二人組みの女の子の演目。一人が横になって両足を上げ、もう一人がその足の上に座る。そう、少し前に「燃焼系」のCMで話題になった、アレだ。

ただ、やっていることは燃焼系を上回るものだった。CMでは足の上に座ったまま横にくるくる回転するだけだったが、こっちはというと、飛び上がって足の上に立ったり、そのままさらに跳んで空中で数回転してまた足の上に着地したり、と、たくさんの離れ業を披露してくれるのだ。上で飛び跳ねているのはまだ小さな女の子だが、たいしたものである。さらに、ある難度の高い(と思われる)技を決めた後、その子が控えめにくっとガッツポーズをしたのだが、それが石原のハートを射抜いたらしい。

「うわあ、あのイモウト、めちゃくちゃ可愛い!」と、一歩間違えればロリコンまがいのセリフを連発していた。萌え萌え全開だ。だいたい、イモウトって何だよ。オタクと間違われても知らんぞ。

俺はそんなに萌えたわけではないが、それでも素直に感動していた。死ぬほど練習して、失敗しては何度も死にかけたのかなあ、なんて考えると、200元が全然高い値段に思えなくなってきた。

とにかく、最後の夜にいいものを見ることができた。
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朝、ホテルに迎えに行くと、どうも石原が元気がない。疲れが溜まったせいかどうか、あまり具合が良くないようだ。それでも歩けないほどの重症でもないようなので、ここはひと踏ん張りしてもらうことにしよう。

この日、杭州は朝から気持ち良く晴れていた。どうせなら昨日この天気だとよかったんだけどなあ、と思ってしまった。でもまあもともと雨の予報だったわけだし、贅沢いったらキリがないか。

朝食を食べた後、まずは電子市場というところに行った。ここで、海賊版のCDやDVDを買えるはず、だったのだが・・・。また、俺の誤算だった。

しばらくここに来なかったのだが、警察の手入れがあったとかいう噂はどうやら本当だったらしい。恐ろしいほど警戒が厳しくなっていた。以前はやたらうるさかった客引きは姿を消し、ほとんどの店はシャッターを閉めて「部屋貸します」の張り紙。俺は途方にくれてしまった。ようやく一軒、見つけることができたのだが、そこも実にものものしかった。俺らがCDを探していることを確認したオヤジが、左右をさっと確認すると、ドアの鍵を開けて半開きにし、「早く中にはいれ」と俺らを促す。中に飛び込むと、そこは普通の店になっていて、他の客も数人いた。

店を出るときも、警戒は厳重。中にいる店員がドアをノックし、外側で安全を確認してからようやく鍵が開く。なんだか、犯罪者になった気分だ――と思ってから気がついた。海賊版の購入は立派な犯罪になるんだった。

電子市場を出て、少し歩いて大きなスーパーへ行った。ここは家電、生活用品、衣服に食料と、ほとんどなんでも売っている巨大な店。こういう店を見ておくのもおもしろいかな、とも思った。ただまあ、誤算とまではいわないが、失念していたこともあった。俺自身がこういうちゃんとした目的のないショッピングなどあまり興味がないんだから、二人だってそう興味があるとも思えない。石原の体調のこともあるし、ざっと眺めて見るだけでそこを出ることにした。

まだ昼飯には時間があったので、とりあえず隣接したマックに入り、一休み。飲み物を飲みながら、会話をかわした。

昼過ぎには、杭州を発って上海へ行く。今回の移動手段は、高速バスだ。列車より高くつくが、杭州から列車で行こうと思ったら座れない可能性が高いのだ。

バスの中でも、大体ずっと隣の谷本と会話。くだらない話もあれば、将来にからんだ重い話題もあったりした。とりあえずここはそんな話の内容に触れる場所ではないので、それはおいておこう。

高速道路を順調に走っていたバスが、途中渋滞につかまった。どうもただの自然渋滞ではないようで、ぴくりとも動かなくなってしまった。窓から路上を見ると、他の車線の車も動かず、何人かの運転手はあきらめたように外に出て散歩したり、小用を足す人もいたり・・・。事故でもあったのだろうか?

何十分止まっていたかわからないが、ようやく車の列が動き出した。やがて、俺らはその渋滞の原因を目にすることができた。炎上して黒焦げの骨組みを残したトラックを。

高速バスを降りて、トイレにより、その巨大な駐車場から出た所で、谷本がハッと気付いたように声をあげた。

「やべえ、携帯がない・・・」

ぎょっとした。

「バスの中か?」

「わからんけど、たぶん・・・。乗る前はポケットに入れたし」

「じゃあ間違いないな。急げ!」

そのときの俺は、実はまだそんなに焦ってはいなかった。まだバスを降りて10分も経っていないし、その場に停まっているかとさえ思っていた、が。

俺らが降りた場所には、すでに車の影はない。その奥の方に、大きな駐車場があり、たくさんのバスが停まっていた。あの中のどれか一台なのだろう。

そちらへ行こうとしたら、係のじいさんに止められた。

「どこへ行くんだ?」

「いや、忘れ物しちゃって・・・」

「じゃあ一人でいいだろう、三人で行くことはない」

この急いでいるときにそんな些細なことで文句つけやがって。いらいらしながら答えた。

「いや、忘れ物は彼のだけど、彼は中国語話せないから・・・」

「じゃあ二人で行け、一人はここにいろ」

なんてえらそうなジジイだ、とは思ったが、けんかしている場合じゃない。

俺は石原を見やった。

「すまん、ちょっとここで待っててくれ」

「オッケー」

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夜はまだ終わらない。

次には、夜市を見に行く。

それと、こいつは俺がうっかりしていたのだが、ほんとは昼間に行くつもりだったところを飛ばしてしまったので、そこも一緒に行くことにした。

その場所とは、河坊街、別名仿古街ともいい、有名な観光通り。古い街並みを意識して作られていて、工芸品やお茶を売る店などが連なっている。

お茶の土産を買うならここだろ、と思い、セッティングしておいたが、昼間は忘れてしまっていたのだ。

ただ結果としては、「けがの功名」の使用例に載せたいくらいの好結果になった。

これは全て茜さんの力による。

その通りの中に一軒、有名なお茶の店があるのだが、何度かお客さんを連れて行っている茜さんはすっかりVIP待遇になっていたようだ。

こんなにもてなされたのは初めて、という話だったが、その言葉どおり、店の奥のテーブルに案内されて、お茶を入れてくれたりいろんなお茶菓子を出してくれたり。そのときに出されたお茶菓子の一つがものすごくおいしくて、みんなそれを買い求めていた。もちろん、お茶も買い込んでいた。

もてなされたこっちも悪い気はしないし、向こうは向こうでいいカモだったと思ったかどうか、ともあれ店員みんなすごい笑顔で送り出してくれた。

さて、続けて夜市。

そもそも、この夜市という言葉、日本人にはあまりなじみがないかもしれない。簡単にいうと、夜になると屋台のような店が連なり、縁日のような雰囲気を作り出す場所を言うのだ。市内の何箇所かにあり、食い物が多いところもあれば、日用品や本、CDなどを売るところもある。今日行く場所は、観光客目当ての夜市で、土産になりそうな小物があふれているところだ。

ひやかしているだけでもけっこう楽しいのだが、店の人たちはどんどん声を掛けてくる。日本人だとわかると、たちまちあやしげな日本語に切り替えてくる。

「トケイ、ヤスイヨ」ってなもんだ。

それと、当然覚悟しておかなければならないが、こういうところで言い値で物を買うのは自殺行為だ。必ず値切る必要がある、といっていい。というわけで今の俺と茜さんは通訳兼値段交渉係というわけだ。

お、これは土産になるな、といってまず石原が目をつけたのは、毛沢東ライター。ジッポのようになっていて、上部を開けると中国国歌かなにかが流れるというシロモノだ。値段を聞くと、35元という。ふっかけてきやがった。

あとはひたすら交渉。俺流のコツは、あまりもの欲しそうにしないこと、か。最後のツメのところでは、「じゃあほかの店行くからいいよ」とその場を離れる。すると、大抵背後から、「わかったわかった、もってけドロボー!」ということになる。

ちなみにこのライター、15元で購入。とりあえず半額以下ではあるが、実はそれでもボられている可能性もあったりする。しかしそこまで考えるとキリがないので、安くなった、と自己満足できればそれでいいかな、とも思うのだ。

他にも、石原が悪趣味な石のアクセサリー(置物か?)を先輩に買っていくというので、やはりそれも半額程度にして買う。谷本のほうは、と見ると、サークルの後輩たちへの買物で、茜さんが値段交渉の真っ最中だった。任せておけば大丈夫だろう。

それから、偽ブランドの腕時計の店がある。ここは元留学生のおじさんに紹介してもらった店で、俺も茜さんも顔なじみ。ニセモノはニセモノだけど品質は保証する、とそのおじさんは力強く宣言していたので、とりあえず全面的にそれを信じている。実際今まで買ったもので問題があったということも聞かないので、谷本たちもその店へ連れて行った。石原はこの時計に惹かれたらしく、ブルガリかなにかのを買っていった。

本日の最後の締めは、ウチの近くの店での真珠奶茶――タピオカ入りミルクティーだ。これもまた俺らの大好物。どこの店でもけっこう扱ってはいるが、味はここの店のが一番いい、と俺は思っている。せっかくだからそれを飲ませてやろうというわけだった。まあ、この奶茶、どちらかというと「クセになる味」なので、初めて飲んだときにすごくうまいと思うかどうか、わからないのだが・・・。とりあえず二人とも、おいしいと言っていたのでよしとしよう。

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店内は、薄暗く、香のにおいがたちこめている。店員の態度も、中国にしては悪くない。

三人で部屋に入り、ソファに腰をおろした。

二人の顔を眺めると、何が始まるんだ、という期待と不安が入り混じったような顔をしていたが、こんな時は意味もなく笑ってしまうもので、みんなで曖昧な笑みを浮かべながら店員を待っていた。

やがて店員がやってきて、一抱えほどの樽を持ってきた。お湯が入っている。さらにこのお湯の中に何かをいれ(漢方薬らしい)、そこに足を浸すのだ。ほどほどの熱さで、気持ちよい。またも俺は意味もなく足をぱしゃぱしゃさせてしまう。

その後、まずは肩や首、腕のマッサージからはじまり、その後足ツボの本格的なマッサージが始まる。

それでこのマッサージ、実はけっこう痛い箇所もあったりする。当然体のどこが悪いかによって違ってくるし、またこのマッサージ自体に慣れてるかどうかによっても違ってくるらしい。初めての人は大抵痛がりますよ、と言っていた。

それにしても、俺の左右に座っている谷本と石原、随分とリアクションが違っていた。

体がガタガタなのは石原のほうらしく、あちこちで悲鳴をあげていた。心臓やら胃腸やら首の後ろやら腰やら、なんだか問題だらけ。ま、SEという仕事がら、無理もないのかもしれないが。

谷本はそれほど痛くもないらしく、気持ちいいぜ、めちゃくちゃ眠くなってきた、と余裕の表情。それでもやっぱ胃腸にやや問題あり、それから胸の上のほうの部分(知らない単語だった)がよくないとか。どこなんだよそれは、とちょいと心配そうな表情の谷本だった。

そんなこんなで、あっという間の90分。

どうだ、元気になったろ、という俺の問いかけに対して、

「おお、気持ちよかったぜー」

ってのが谷本で、

「痛くて逆に体力ドレインされたよ」

とぐったりしているのが石原。

ちなみにこの店、昼間のお値段は48元。夜は倍近くになるのだが・・・。

店を出てタクシーを拾い、西湖の右下をぐるりと回りこむように走って、雷峰塔へ。この塔、白蛇伝などの民間伝承で有名な塔なのだが、一度崩壊し、数年前に再建されたものだ。そのため、外見は古めかしいのだが、中身はエレベーターが設置されているという一風変わった観光地になっている。やはりここからの西湖の眺めがすばらしいと聞いていたので、行って見ることにした。

その噂の眺めは、たしかになかなかのものだった。宝石山からとは角度が異なるため、また別の西湖を見ることができる。つまりは、両方行っておいて正解だったのかな、と思った。

西の空を見ると、やや雲が切れてきて、傾きかけた日がうっすらと見えていた。

――グッド。

この夕日の中で蘇堤を歩くと、西湖がまた綺麗に見えるのだ。

流れはこっちのもんだ、と、何の根拠もなくつぶやいた。

「よし、あそこを、歩くぜ。準備はいいかい?」

と、俺は、眼下に伸びる、西湖の西側を縦に貫く緑の道を指差した。

「おうよ!」

何割かは空元気かもしれないが、ともかく二人も気合い充分。

蘇堤というのは、以前杭州長官だった蘇軾が築いた堤だ。蘇軾といえば有名な詩人でもあるから、名前を聞いたことがある人もいるだろう。

地元民も観光客も、この蘇堤を通る人間は多い。もっとも、歩いて縦断しようという人間は珍しいかもしれないが。それでも、やっぱり西湖にきたら蘇堤を歩かなきゃ、と思うのだ。

この道を夕暮れ時に歩くと、西側の湖は紅に染まり、東側の湖はまだ昼間の青を残してさざめくという美しい対比が見られる。つい最近発見したばかりなのだが。

ただ残念なことに、俺らが歩いているころは、夕日は雲の後ろにその姿を隠したままだった。やがて稜線に消えようというころ、ごくわずかながらオレンジ色の光を発し、湖に一筋の光の道を描き出した。それだけでも、おお、と息を飲んでしまうような美しさとはかなさがあった。

蘇堤を渡り終えたころは、もう既に6時を回っていた。夕食の時間だ。

少し前に茜さんから電話があり、今日は部長がいなくて残業がないので、また夕食から合流したい、ということだった。無論大歓迎だ。

一度ホテルに戻り、そこで茜さんと合流した。一休みして、夕食へ。今回は、蘭州拉麺だ。ここが本命、といっても過言ではない。

この店、綺麗でしゃれた店などでは断じてないのだが、値段は安いし、味もいい。俺の行きつけの店の一つだ。店員とももう知り合いになっている。それに、やっぱりこういう庶民的な店を味わってみないと中国の味は語れないんじゃないかな、と思うのだ。

そして、もう一つ面白い点は、店の中で麺を伸ばしたり切ったりするのが見れるのだ。この職人芸を見るのも実に楽しい。

小麦粉やらなにやらの塊が、まずドンとおいてある。それを手練の技で、あやとりをするかのようにのばしていくのだ。

通常の麺以外に、刀削麺というのもある。これも、例の塊を左手に持ち、右手に構えた特殊な刀(包丁とも違うのだ)でカツオブシを削るようにしゃっしゃっと高速で削るのだ。削られた面は桜吹雪のように大鍋の中へ飛び込んでゆく。

このパフォーマンスを初めてみる谷本と石原は大喜び。わざわざその削るところを動画に収めていた。するとこんどは店のにいさんがそれに気付いて、なんだなんだ、とのぞきにきた。そこで、ほらあんたの勇姿だぜ、といって動画を見せてあげると、ほう、これが俺か、なんていって照れていた。

肝心の味の方も気に入ってもらえたようだ。特に宇都宮出身で餃子にこだわりのある石原は、羊肉餃子をしっかりと吟味していたようだ。
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西湖の中には小さい島が三つあり、その中で一番大きい島が「三潭印月」で有名な島だ。船はまず小さい島に着き、その島からまた船を乗り換えて大きい島に行くことになる。

この大きい島は、島の中にさらにいくつかの池があるというおもしろい特徴がある。地図で見ると「田」の字に見えたりもする。この池にはハスの花が咲き、鯉や名前のわからない小さな魚も多く、西湖を背景とした味のある光景が見られる。島の南側には、3本の石灯籠のようなものが湖の中にたっている。まさかブイじゃあるまいし、あれはなんだろうと思っていたら、夜に茜さんが教えてくれた。中秋の名月の時にはそこに火が燈されるという。なるほど、それはさぞ綺麗だろう。

ちなみに、新発行の一元札の背景はここからの景色なのだ。それで、杭州市はもともと紙幣よりも硬貨を使おう、というスタンスをとっていたらしいのだが、今回西湖が一元札のデザインに使用されたということで、いささか今後の方向性に苦慮しているらしい。

島から、今度は西湖の東側の湖浜公園へ渡った。すでに時間は1時半。だいぶハラが減ってきた。

中心街の延安路を目指して歩いていると、一軒の日本料理屋が目に付いた。「福港日本料理」という、杭州ではそこそこ有名な日本料理屋だ。一度、行ったことがある。

「あそこ、店員がみんな浴衣着てるんだぜ」

「え、マジで?」

石原が食いついてきた。続けて言うには、

「じゃあ、『フジヤマ、ゲイシャ』とか言ったら怒られるかなあ?」

一瞬考えてから、俺は答えた。

「・・・いや、店員は中国人なんだけどね」

「なんだ、日本人じゃないのか」

「ああ、残念ながらね。ほとんど日本語も話せないよ」

ちょっと歩いてから、また石原が言い出した。

「じゃあ『日本萌えー』とか教えようかな」

「・・・」

「今日本で一番流行ってる言葉、とかいってさ」

どうぞご自由に。

昼食は、天徳坊という名前の、ワンタン専門店。俺も入るのは初めてだったりする。

卵黄鮮肉、牛肉セロリ、海老鮮肉の三種類を注文した。すると、店員が聞いてきた。

「香菜は入れますか?」

何ていおうか、ちょっと考えた。谷本たちへの嫌がらせで、ちょっとだけ入れてください、とでも言おうかな、などと考えていると、こういうときだけ何故か聞き取れたらしく、背後から「いらないいらない!不要、不要!」との必死な声が。うーむ恐るべし谷本。伊達に二年間勉強してないな。石原は、笑顔で谷本に言っている。

「ナイス谷本!」

このワンタン、なかなかの美味だった。俺の好きな、一つ一つが大きいタイプで、食いでがある。量も申し分ない。石原も谷本もすっかり気に入ったようで、うまいうまい、を連発しながら食べていた。朝飯時はあまり元気のなかった石原もここへきてエンジンがかかってきたようで、持ち前のスピードを発揮しだしたようだ。俺が半分食い終わろうかというころには、すでに器は空になっていた。

胃袋を満足させたところで、続けて身体をリフレッシュさせよう、ということで、次なる目的地は「足浴」――つまり、足ツボマッサージというやつだ。

中国全体ではどうか知らないが、少なくとも杭州にはこの足浴の看板がたくさんある。場所によっては少々いかがわしいところもあるという話も聞くので、実は俺もつい最近まで行った事がなかったのだ。ただ、日本から来る客人にやらせるにはちょうどいいかもしれないと思いつき、コースに組み入れることにした、という次第だ。

さすがに何も知らないまま連れて行くわけにも行かなかったので、事前に茜さんにオススメの場所をいくつか聞いて、また実際に数軒(二軒だけなんだけど)行ってみたりもした。

気持ちいいのだ、これが。

――よし、これならOKだろ。
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さて、本日第一のチェックポイントは、宝石山である。西湖の北側に位置するこの山は、標高は200m程度と大したことはないのだが、この山から見下ろす西湖の眺めは非常にすばらしいので、ここは是非アタックしておきたかったのだ。

登り口までは、大学正門前からのバスですぐ。この宝石山の北側、つまり山を挟んで西湖の反対側になる。ややマイナーな登り口だが、ここから登れることは実証済み。さ、登山開始だ。

道は、階段のようになって整備されていて、至極歩きやすい。ただ傾斜はそこそこあるので、まもなく石原が半分冗談半分本気という表情で、音をあげだした。

竹林に両側を挟まれた山道を歩きながら嘆く。

「うわぁ、もう俺ダメだぁ」

「おーいしっかりしろよじいさん」

適当なことを言いながら歩いていると、急に背負っているリュックがずしりと重くなった。何が起こったか、すぐに想像はついたが、とりあえず言ってみる。

「うおっ、急になんか重くなったぞ?」

後ろからの声は、

「お、なんか軽くなった」

俺の隣を歩いていた谷本も、やはりずしりときたようだ。

「サンタクロースのソリみたいだ、俺」

と、石原がまた後ろで何かいっている。つまり俺と谷本はトナカイに成り下がってしまったわけか。

そんなこんなで山道を登り、時には下り、ようやく見晴らしのいい岩場に到着した。この岩場からは視界をさえぎるものはなく、眼下に西湖、目を転ずれば杭州の中心部が見渡せる。さらに俺が好きなのは、湖から吹き渡ってくるこの風!火照った身体には最高のプレゼントなのだ。

「うわー、涼しいー!」

風の中で石原があげた声は、まさに全員の気持ちの代弁だった。

少し休憩した後、山を西湖の側に降りていく。次の予定は、船に乗り込んで西湖の中心の島に渡るというものだ。有名な「三潭印月」の島へ。

西湖の周囲にはこの船の乗場が点在している。また、これとは別に小さい船をチャーターすることも可能で、やはりあちこちに小舟が泊まっている。

俺らは45元を払って、20人くらいは乗れそうな船に乗り込んだ。

谷本と石原という組合せにボートという単語を足すと、楽しい思い出が浮かび上がる。

あれは去年の夏、富士の河口湖で起きた、「タイタニック事件」である。

その時俺らは、他のサークルの友達と、富士へスポーツ合宿(遊び程度だが)に行ったのだ。それで、河口湖でボート遊びをした。二人乗りボートに分乗し、みんなで河口湖へ漕ぎ出した。

のんびりと湖に浮かんでのほほんとしていると、谷本から携帯に連絡が入ってきた。

「あのさ、そっちのボート大丈夫?」

「・・・は?いや別になんも問題ないけど?」

「なんかこっちのボート、水が入ってきたんだけど・・・」

「なに、それ・・・?」

「とにかく、ちょっときてくんないかな」

「ああ、わかった」

電話を切って見渡してみると、すぐに谷本・石原組のボートを発見。とりあえず近づいていってみると、確かにボートがやや傾いているようだ。

「おーい、どうしたー?」

訊いてみると、

「穴あいてるみたいでさ、水がどんどんはいってくんだよ」

とのこと。のぞきこむと、もうけっこうな水位である。このまま放っておけばどうなるか・・・疑う余地もない。沈没する。

そう思った瞬間、おもわず吹き出してしまった。

「なんでこんなところでタイタニックやってんだ、おまえらは!」

石原が憤然として言い返す。

「しょうがねえだろうが!俺だってやりたくねえよ!」

同乗者の裕樹もおもしろがって口をはさんだ。

「あーあ、こりゃTISの将来も危ないなぁ」

そんなこと言っている間にも水はどんどん増えてゆく。

ぼちぼち冗談にならなくなってきたので、とりあえず人間をこちらの船に移し変えることにした。その後、ボート屋のおじさんがモーターボートで来てくれたのだが、この惨状をみるなり、あっはっは、と豪快に笑い出した。その気持ちはよーくわかるのだが、この態度に石原は激怒したらしく、もう俺はボートのらねえ、と宣言して陸にあがっていった。

と、これがいわゆる「タイタニック事件」だ。

今回乗った船は、そう簡単には浸水しないような大きな船なので、やや安心。ゆったりと心地よい風に吹かれながら、湖中の島へと向かっていった。
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9月の6日月曜日。今日この日こそが、今回の旅行の最重要日。比較的慌しいこの日程の中、今日だけはまるまる杭州に費やせるのだ。

今日の予定は、一週間前から検討を重ね、夏休み中の学生の強みを生かして、コースをたどってみたり、行く予定の店に行ってみたりと、準備は万端。

ただ一つ心配だったのは、天気。雨に降られたりすると、俺の計画はおじゃんになりかねない。目がさめてすぐ、昨日と同じように窓から外の様子をのぞいてみた。

――曇、だ。ただ、雲の厚さはそれほどでもない、か・・・。

信用度ゼロの天気予報によると、一日中にわか雨という予報だった。たのむぜ、今日一日はもってくれよ、とつぶやきながら、家を出た。

9時ちょうどにホテルの部屋に彼らを迎えに行き、その後朝食に出る。お粥を食べたいというリクエストがあったので、大学内の店に案内することにした。

ちなみにこの百合花ホテル。三ツ星ではあるが、日本人の利用客もどうやらそこそこ多いようで、フロントの人は片言の日本語を話せるし、あちこちに日本語の案内板もある。ところが、この案内板、訳が微妙に間違っていたりする。一番面白かったのが、「マッサージサービス」とあるべきところが、「マサージサーゼス」となっていたもの。言いたいことがわかるだけに、なんとも笑わせられてしまう。他には、「プール」とだけ書けばいいところを、「プールなどが」と書いてあるものもあった。プールなどが、なんなんだよ、とこれもまたみんなで大笑いだった。

浙江大学の正門をくぐる。もうすっかり見慣れた風景だ。

「ああやっぱ大学って感じがするねえ」

と、谷本。確かに、そうかもしれない。

図書館、バスケットコート、病院などを経過して、目的の店へ。この店ではお粥やゆで卵や粽など、安くてこまごましたものが食べられる。特に1元のピータンと肉の赤身が入ったお粥が絶品で、俺はちょくちょくここに食べに来る。他に、豆腐干(別名香干)という、豆腐を薄く切って干し、たれにつけて煮た様なもの(正確な作り方は知らないのだが)も一元で買えて、これもうまいのだ。

お粥とこの豆腐干があればとりあえず朝食としては充分なのだが、残念ながら今朝は豆腐干が品切れだった。それで、みんなでお粥と粽を食べたのだが、とりあえずこのおかゆの味は谷本も石原も気に入ってくれたようで、一安心。

この後、飲み物を買うため隣のスーパーへ。ここで谷本に勧めたのが、「紅牛」というドリンク。中国での、リポビタンDのような位置付けの飲み物だ。しょっちゅうテレビで宣伝もしている。

もともと、俺のクラスメートのガタイのいいロシア人が毎日のように飲んでいたので気になり、俺も飲んでみたらなかなかうまかった、というものだ。他の飲み物よりやや高いのだが。

昨日の疲れもあるだろうし、ということで勧めてみた。こういうものに関しては、谷本はノリがいい。よし、飲むぜ、と二つ返事。

味の方は、と訊くと、

「まあ、思ったより普通かな。炭酸の抜けたオロナミンCみたい」

と、わかりやすいお答え。

一口飲んだ石原は、カキ氷にかけるイチゴシロップみたいだ、とまた妙なことを言っていたが、さすがにそれは俺は賛成できなかった。

ともかく、これを飲んだ谷本と飲まなかった石原。今日の体力勝負の中で、明暗を分けることになった――本当にこれのせいかはわからないが。
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我が家。

ドアを開けるとすぐ居間があり、そのすぐ右手が俺の部屋になる。

「へぇ」谷本が感嘆の声をあげた。

「けっこう綺麗にしてるじゃん」

「いや、物が少ないだけなんだけどね」

そう、この家の中では、俺の部屋が一番広いのだが、逆に俺のものはおそらく一番少ない。

なんでこういう部屋割りになったか・・・別にたいそうな意味はない。

同居人のダーシャンはまだ帰ってきていない。先週末から出張で北京に行っているのだ。今日帰ってくると言っていたから、もう帰っているのかと思っていたのだが・・・。

俺の部屋にみんなで座り込んで、彼らのお土産の人形焼をあけた。キティーちゃんの人形焼だ。なかなかいいセンスをしている――まあ、俺の好みくらいわかっているのだろう、なにしろ長い付き合いだ。

「いやあ、ホントは新撰組のはっぴとかがよかったんだけどさあ」石原が言った。

「でも空港で売ってなくてなぁ・・・」

「アレならサトシ、着てくれるだろ?」

いい読みだ、谷本クン。

「喜んで着るだろうね、間違いなく」

残念残念。

突然、俺の携帯が鳴った。ダーシャンだ。

とりあえず家に友達がきていることだけ、説明しておいた。

「で、ダーシャンは?今も北京?」

「いえ、もうすぐ家に帰りますよ。今、西渓路です」

じゃあ、すぐ近くだ。

「あの、ちょっと、帰ったらすぐトイレ行きたいんで、シャワーとか入らないでおいてくれますか?」

「・・・オーケー」

そんなに切羽詰っているのだろうか。まあ、いいか。

食べてるうちに、紅茶飲みたい、と石原が言い出した。

無論、さして考えて口にしたセリフではないことくらい、俺にはわかる。

だが、ヤツは言い出す場所を間違えた。

傍らにいた茜さんが、石原の言葉を聞くなり、すっと立ち上がって、言った。

「ちょっと待っててくださいね、すぐに淹れますから」

慌てたのは石原だ。

「あ、うそうそ、冗談です!」

しかし、もう遅い。

茜さんはにこりとして、台所へ向かった。

俺も立ち上がり、茜さんの後を追った。と、背後から石原のザンゲと谷本の追い討ちが聞こえてきた。

「うわあ、俺って最悪だ・・・」

「ホント、ひでえよな、おまえは」

台所で茜さんはくるくると立ち働き、手早く紅茶の準備をする。手伝うつもりでやってきた俺だが、実は出番などありはしない。お湯の沸いたポットを手渡すくらいが関の山だ。

そもそも俺は、家事全般が苦手なのだ。いばることでもなんでもないのだが。

いやに恐縮している石原にカップを渡し――もちろん、みんなも紅茶を飲んだが――、まったりとしたティータイムに入った。

そんなときに、ダーシャンが帰宅した。

「ああどうも、にぎやかですねえ」

と、にこにこしながら挨拶をする。

そして、右手に下げたお菓子を差し上げながら、

「これ、北京のお土産ですんで、よかったらどうぞ」と言った。

同居人であるダーシャンのことは、事前に二人には話してあった。

漫画がうまく、ジャンプデジタル漫画賞を受賞したことを話すと、すげえじゃん、と驚いていた。俺もその受賞を知ったときは確かに驚いたものだ。

漫画の内容は確か、留学していたときのSARS騒動をユーモラスにえがいたもので、うまいなあ、と素直に感心させられたっけ。

そのダーシャンも話の輪に加わって、場は盛り上がってきたのだが、いかんせん一日中歩き回り、あげく中距離ダッシュを強いられた二人は体力の限界にきていたようで、顔に疲労の色が浮かび上がってきていた。時間も時間だし、ということで、その場はお開きとした。

折りしも降り始めた雨の中を、二人は足を引きずるように帰路についた・・・。

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話は、尽きない。

茜さんにウチのサークルや友達の話をしているうちに、「もう一人来るはずだった人」に話が及んだ。

そう、黒崎。

あれは、計画が煮詰まってきたころ、8月の23日。

突然、黒崎から衝撃のメールが飛び込んできた。

『谷本さんにはお伝えしてあるのですが、ワタクシ危うくなってまいりました。

今の案件の延期が取り沙汰され始め、今週中には確定しますが、そうなった場合、高確率で棄権となってしまいます。

いろいろと、問題を含んでいるので、ちょっと説明はしかねるんだけど、ご了承ください。』

冗談だろ、というよりも、冗談であって欲しい、と思った。会社の都合に振り回されることがあることくらい元社会人としては承知しているけど、まさか今回に・・・。

なんとかなってくれ、という俺の祈りもむなしく、26日、無情の追加連絡が入った。

『まだ、確定ではないものの、ほぼ断念です。

案件の一ヶ月延期・一人残って引き継ぎ&運用、となりそうです。

一人になるので、そう易々と休めるわけが無く、夏休みってなぁに?って感じです。

実はこの案件、社長直々のお達しでもあるわけで・・・

弊社新路線開拓の初号機として働かされているわけで・・・

皆々様には、ご迷惑お掛けしました。

ここ1年、ぬるま湯で生活してきたツケがこの2ヶ月に一気に来ている感じです。

行かれる御両名は、思う存分楽しんできてください。

哲にも会いたかったのに・・・』

俺はパソコンの前に座ったまま数秒間硬直していた。それから、深く深くため息をついた。

なんてこったい、と力なくつぶやいて、よろよろと立ち上がり、ベッドに倒れこんだ。

――黒崎。あいつ、とことん運が悪いんだな。

そうだった。今年の冬のスキー旅行のときもそうだ。急に出勤しなければならなくなり、一日予定を繰り上げて一人車で帰っていったっけ・・・。

「大変なんですね、やっぱり」

「そうだね、この二人も残業やら土曜出勤やら、けっこうあるみたいだし」

SEってのも楽じゃない。いや、楽な仕事などありはしないのだろうけど。

7時45分、杭州東駅に到着した。

まだ半年しか住んでいないのだが、それでも、帰ってきたな、という気分になる。

外は、雨。今夜は別に雨でもいいのだが、明日降られると厄介だ。

タクシーの運転手に聞いてみると、今日は杭州一日中雨だったという。今日たくさん降ったんなら、明日はもう降りはしないだろう、と無理やり妙な理屈をつけて自分を慰めてみた。だが、やっぱり少しも気は楽にならなかった。

夕食は、杭州料理を食べさせてやろう、と茜さんと相談済み。市内には「知味観」という、杭州料理で有名なチェーン店があり、ある場所に最近きれいなレストランのような内装の支店ができたので、そこに行くことにしてある。俺は行った事がないのだが、茜さんはお客さんを連れて何度か行った事があるという。ほとんどの人が満足していたとのこと。

ちなみにこのレストランの席の予約も茜さんがやってくれたのだが、日本語の名前を伝えても向こうがなかなか聞き取ってくれないというので、中国語の偽名(というと印象が悪いが)を使っていた。すると、拍子抜けするほどスムーズにいった。

「羅って名字を使いました。友達の名前なんですけどね」

「へえ、おもしろいもんだ」

レストランについて、中に入ると、待ち構えていた店員が声を掛けてきた。

「羅様ですね」

茜さんは堂々としたものだったが、俺は下を向いて失笑をこらえなくてはならなかった。

――俺もなんか中国名でも作っておこうかなあ。

食事は、俺は満足。有名な東坡肉(トンポーロー)が品切れだったのが少し残念だったが、他の杭州料理はみな美味しく、ビールも飲んで、すっかり満腹になった。4つしかなかったライチのジャム漬けを3つ石原に食われてしまったのが心残りだったが・・・。

その後は、またタクシーに乗ってホテルへ行き、チェックイン。

それから俺のアパートをちょっと見にやってきた。

ホテルから我が家までは、近い。歩いて5,6分程度である。

それはいいのだが、俺には歩き慣れているアパートの階段が、彼らには難攻不落の城塞のように見えたらしい。

「まさか、五階じゃないよな?」げんなりとした顔で石原が訊いてきた。

「悪いな、そのまさかだ」

そう、我が家はアパートの五階。もちろん、エレベーターなんて気の利いたシロモノは、ない。

「うげえ」

などと、カエルが自転車に轢かれたかのような悲鳴をあげたのは、たぶん石原だろう。

「はいはい、文句言わないで登った登った!」

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