七章 【逆境を超えろ】 4 (54) | 中華の足跡・改

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残り準備期間は1週間を切り、空気はさらに濃密さを増していった。

生徒の自主性を重んじるこの高校では、様々な行事においても運営等は基本的に生徒に任されていて、あまり教師は口を挟まないのが通例である。

そのためなのか、担任の小原(おはら)はこれまで、演劇部の顧問であるにもかかわらず、芝居についてもほぼ口出しはしていなかった。

或いは、演劇部顧問であるからこそ、自分のクラスにだけ助言をすることに抵抗があったのかもしれない。

だが、ラストスパートに入ったこの段階で、ついに稽古の指導を始めるに至った。やはり血が騒ぎ出したのか――或いは初めから最終段階に少しだけアドバイスをする計画だったのか。

いずれにしても、徹司たちにとっては心強い助勢となったのは間違いなかった。

今日も、また――

「ちょっと、ストップ。桃井、今のところな」

「はい」

「まだ雷太の必死さが足りないぞ。嵐の海で、絶対に徳造を死なせないという気持ちがあるんだからな。お前の呼び方じゃあ、それが感じられない。『とくぞー』って、街中で呼びかけてるわけじゃないんだ。『とくぞぉ!』って、しっかりと叫んでくれ」

――わかりました」

「それから、目線も。徳造のジャンパーを見つけたんだ。そうしたら、絶対に見失っちゃダメなんだから、その一点を凝視する。そうしないと、観客に徳造の姿が見えないぞ」

「はい!」

こうなると、徹司も意地である。

この小うるさい担任を黙らせるような演技をしてやる――と、これまで以上に熱が入るのだった。

9月19日の木曜日。本番の二日前である。この日は、仕上げのための通し稽古が行われた。

そして、その翌日の20日には、その通し稽古での反省点や改善点が、演出サイドから提出された。

御丁寧に文章を作って印刷までしてくれたのは――無論というべきか、朋子だった。

『これより、演出からのいわゆる「ダメ出し」です。もちろん良いところもいっぱいあったけど、直すところは、まだまだあるぞ!これから上げること以外でも、もう一回自分の台詞の言い方、反応の仕方、動き方を確認してみて下さい。役者同士で話し合うと良いかも。今日がとうとう練習最終日、みんな集中していこう!』

そして、各シーンごとに、演出の遅坂(ちさか)や朋子が気付いた点が書かれている。A4の用紙の表裏に、びっしりと。

徹司はまずは、自分の名前が出てくる場所を目で追った。当然のように、雷太の名前がたくさん挙げられている。つまり、明日本番までの間に修正しなければならない箇所である。

自分ではあまり意識しなかった箇所、すぐに修正できそうな箇所もあれば、表現に苦闘しているもののまだ満足の行く結果が出せていない箇所もある。

『雷太さんへ いつも熱演ですごーいと思うのだけど、「徳造!」とか「それでも武士か!」とかの台詞と「何がよしだ!」の叫び方が全く一緒なのは、やっぱりまずいと思います。シリアスなシーンじゃない所は、もっと力を抜いてリラックス、リラックス。ただのつっこみにしては、迫力ありすぎです。』

むむ、と徹司はうなった。

確かに、全くその通りである。

初体験の演劇に挑戦する――という意識が強すぎて、あらゆるシーンに全力で挑んできた。そして今度はその中で、力を抜くことを意識しなければならない。

それは、当然の話だ。スポーツであっても、全力で試合をすると言っても、全ての瞬間で全力疾走するということにはならない。

あと一日でどこまで直すことができるか、自分自身でもいささか心もとなかったが、とりあえずは『リラックス、リラックス』のキーワードを、徹司は心に刻んだ。