中華の足跡・改

中国から帰り、北海道に暮らしつつ、台湾とつながる生活。

マジメな話からくだらないネタまで、国籍・ジャンル・多種多様。

いざ、情報発信~!


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「参ったな、ホントに」

帰り道、やや気持ちが落ち着いたのだろう、横石がいつもの口調に戻って言った。

「急にどうしたんだろね、あの人たちは」

横石の疑問に、同行していた上山が黙ったまま徹司をちらりと見た。

その目つきを見て、徹司は先日の上山の言葉を思い出した。

トッコには敵が多い、と指摘したのはこの上山だ。

しかし。

「上山さ……こういうこと、予想してた?」

徹司の問いを、上山はゆっくり否定した。

「いや、直接行動に出るとは思ってなかったな。読み違えたかな?」

「何の話さ?」

後藤が割って入ってきた。

徹司は直接後藤には答えず、

「たぶん、俺のせい……だと思うよ」

と、つぶやいた。

上山、横石、後藤が徹司の顔を見る。

古兼は前を見たままだ。

徹司は、先日教室で春谷達と言い合いになった出来事を話した。

もっとも、トッコのことが好きなんじゃないのか――と言われたことは、伏せた。

「なるほどねぇ」

上山が頷いた。

「そういうことなら、わかるな。意地になったわけだ」

「ったく……くだらねぇな」

上山に続いて、横石が吐き捨てるように言った。

たしかに、くだらない話ではある。

だが、結果としてこういう状態になり、そして何より――

「モモ」

古兼が、軽い調子で徹司に話しかけた。

「どうせお前は、トッコたちにも迷惑かけちまったとかって、へこんでるんだろうけど」

徹司はぎくりとした。

図星だった。

「たいしたことないって。多数決で決めればたぶんレインディアに決まるだろうし、そうしたらまた堂々と再開すりゃいいじゃん。あっちの悪あがきにこっちが真剣につきあうことないって」

古兼のおどけた口調に、後藤と横石が吹き出した。

徹司もようやく心が軽くなってきて、

「そうだな……サンキュー」

と、応じた。


翌日。

演目を決める多数決は、古兼の予想通り、かなりの差をつけて「レインディアエクスプレス」が採用された。既に配役が決まっていることもあるし、今さらやり直すのは面倒、という気分がみんなの中にあったのだろう。

結果を見て、徹司は胸をなでおろした。

これで結果が覆ってしまっていたら、少なくとも朋子に対して合わせる顔がない。

その、朋子が徹司のところへやってきた。

「ごめんねモモちゃん、あたしのやり方がまずくて迷惑かけちゃって」

と、軽く頭を下げた。

徹司は慌てて手を振った。

「とんでもないとんでもない。むしろ、俺のせいで」

言いかけて、口をつぐむ。

朋子には、全てを話すわけにはいかない。

「文化祭委員なのに、全然まとめられなくて」

と、別の理由をくっつけた。

「でもまあ、これで心置きなく、スタートできるし。がんばろうぜ?」

「そだね。期待してるからね!」

朋子が、笑顔に戻って言った。


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昂ぶっていた徹司の気持ちに冷水をかけるような出来事は、そのすぐ翌日に起こった。

あらかじめ担任の小原(おはら)には話を通してあったようで、HR中に春谷・川下が発言を求めたのだ。

春谷は――あるいは徹司の意識過剰かもしれないのだが――挑むような目つきでクラス中を一瞥すると、しっかりとした口調で語りだした。

それは、朋子、或いは徹司への宣戦布告だったのかもしれない。

「演目も配役も決まってしまった後でこんなことをいうのは、すごく申し訳ないとは思っています。でも、せっかくやるからには、ちゃんと納得した上じゃないとダメだと思うんです。なんかこう、あんまり議論とかする間もなくポンポンと決まっていっちゃって、全員でやってる、っていう感じがしないんですよ」

一旦春谷は言葉を切る。

その後を、川下が引き取って、続けた。

「それで実は、他にも数人同じ意見の人がいたので、私たちでもう一つ、演劇の案を出そうと思うんです。すごくおもしろそうなのがあったので。それをみんなに一度見てもらって、『レインディアエクスプレス』かこっちの方か、決めてもらいたいんです。もしそれでまた『レインディア』に決まれば、私たちも納得して協力できると思うんです」

どうだ、という目で、春谷はクラスを――否、徹司を見ている。

こうなると徹司も悟らざるを得ない。

この動きは、明らかに先日徹司に言われたことへの意趣返しである。

正論と、対案の準備。

これでは、徹司も文句のつけようがない。

徹司は、湧き上がる怒りを必死に抑えていた。

「じゃあ、後で視聴覚室をまた押さえてもらってますので、移動をお願いします」

川下が、締めくくった。

一旦HRは終了となり、教室内はなにやら浮き上がるような空気に包まれた。

朋子や古兼がどのような表情をしているものか、その時の徹司には確認するほどの心の余裕もなくなっていた。


春谷達が用意した作品は、「WINDS OF GOD」という映画だった。

この日に上映したビデオは映画版だったが、舞台作品でもあるらしい。

売れない若手芸人のコンビが、交通事故のショックで太平洋戦争末期にタイムスリップし、当時の軍隊の特攻隊員と入れ替わってしまう。

当時の時代や仲間達に影響を受け、だんだんと変わり始めたコンビの一人は、やがてゼロ戦に乗り込んでの特攻に挑むことになってしまう。もう一人の相方はそれを止めるべく、やはりゼロ戦に乗って必死の説得を試みる。

だが説得に耳を貸さない彼は、敵戦艦への特攻を敢行してしまうのだった。

そして、現代の病院で目覚めるもう一人。

相方を失った彼は、その精神を受け継いで、芸人として生き続ける道を選ぶのだった……。


作品そのものは非常におもしろかったものの、徹司の心境としては、それを素直に受け止めることはできなかった。

なんとなれば、徹司の中では既に「レインディアエクスプレス」がスタートするはずだったのだ。

再び壇上に立った春谷と川下を、徹司は苛立った眼で眺めていた。

「明日にでも、決を採って、どっちの作品にするか決めたいと思います」

すっかり春谷ペースで会を取り仕切っているのが、徹司にはまた腹立たしい。

とはいえ、今の徹司には何の有効な手段も思いつけなかった。


この日は、これで解散になった。

雑然とした教室の中で、徹司は春谷のつぶやきを聞いた。

「まったく、何でわたしがこんなことまでしなくちゃいけないのかしら」

瞬間、徹司の中で何かがはじけるような感覚。

――誰がお前に仕切ってくれと頼んだ!勝手にでしゃばってきたくせに何を言ってやがる!

肩に、古兼の手が置かれるのがもう1秒遅ければ、徹司は立ち上がって叫んでいただろう。

振り返った徹司は、珍しく真剣な表情をした古兼が、ゆっくり首を横に振るのをみて、力を抜いた。

横石も、傍らに立って、やはり真剣な、困惑したような表情を見せている。

ふう、というため息が、期せずして三人の口から出た。




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この時期は、通勤は主に自転車。

朝から雨が降ってたりしたら車で行くし、逆に帰る時に降ってたら自転車を置いて地下鉄で帰ることが多い。

会社の最寄り駅は南北線のすすきの駅。

すすきのから北へ行くと大通、札幌・・・と続き、さらに北のほうへ。

逆に南にいくと、中島公園、幌平橋・・・となり、終点が真駒内である。


さて、金曜日。

終業時間の頃は、外はかなりの雨足。

ちょっと自転車での強行突破はつらそうだったので、地下鉄帰りにした。

金曜夜のすすきの駅はいつも大混雑だが、この日はやけに浴衣姿が目につく。

それもそのはず、豊平川花火大会の日だったのだ。


会場へは、この地下鉄南北線の中島公園或いは幌平橋。

つまり俺の帰宅方向と一緒。

すすきのから乗る人は、それほど多くは無いようだったが、やってきた地下鉄はほぼ満車状態。

札幌や大通から乗ってきた人が非常に多いようだ。


札幌の地下鉄が満員になるというのは、実に珍しい。

東京のようなラッシュは、まずありえない。

だからだろうか、「満員電車の乗り方」がわかっていない人が多い。

すすきの駅で、俺は無理やり体をねじ込んだわけだが、俺の後ろに並んでいた女性二人組は、あっさりと断念したようで、「次の電車にしよっか?」「でも次も満員だよ・・・」などと困惑していたが、結局乗り込んでくる度胸はなかったようで、あきらめていた。

車内の中のほうを見ると、無論混雑はしているものの、密度からいえばまだまだ詰められるように思われる。

とはいえ、ラッシュを知らない人々には十分酷な環境だったようで、あちらこちらから不満の声や悲鳴が洩れ聞こえてきた。


東京に転勤になったりしたら、初めのうちはさぞ苦労するだろうなぁ。

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「……というわけで、配役の投票結果はこのようになりました。当人から異議が出なければ、これで決めようと思いますが、どうでしょうか?」

ざわめく教室内の何人が、司会の徹司の言葉を聞いていたものか。

ほとんどの人の目は、黒板に書かれた配役を追っている。

北条雷太・・・桃井(ももい)徹司(てつじ)

大岡騎一郎・・・内建武士(うちだてたけし)

遠山陣八・・・横石(よこいし)寛一(かんいち)

朝倉ナオ・・・鈴本(すずもと)朋子(ともこ)

朝倉拓也・・・西崎(にしざき)(ひで)(ひと)

朝倉ユカリ・・・大弓(おおゆみ)(ふゆ)()

池田永吉・・・古兼(ふるかね)(つよ)()

池田歌子・・・鈴本(すずもと)()千子(ちこ)

酒井こずえ・・・島山(しまやま)五月(さつき)

鍋島教頭・・・後藤(ごとう)(しゅん)

牧野先生・・・安野(やすの)美佐子(みさこ)

小田切先生・・・谷崎(たにざき)大輝(だいき)

村上健・・・加古井(かこい)靖男(やすお)

村上真理子・・・鈴本(すずもと)()()

総勢14名。

徹司も、あらためて黒板を眺めた。

自分の名前が先頭に来ているのが、未だに不思議な気分である。

が、その他は――

(ま、順当というところかな……鈴本三姉妹もみんなしっかり入ってるし、剛志のやつも入ってるしな)

そして思考は、また自分のところへ巡る。

主役――務まるのだろうか、と。

徹司としては、実に複雑な心境である。

やってみたいという気持ちが日々強くなってきている中で、出番が多い役というのはそれなりに魅力的ではある、が。

何しろ初体験である。

あまり責任重大なところを回されるのも怖い。

――とはいえ。

文化祭委員という立場からしても、役を辞退してさらにややこしい事態を招くのも避けたい。

そして、何よりも。

涼子をはじめ、多くの人が推薦してくれたことが、やはり徹司には嬉しい。

(ハラを、くくるか!)

――それが、徹司の結論だった。

もうすぐに夏休みに突入してしまうという日程のせいもあって、ここからの動きは早かった――もちろんそれは、朋子を中心としたものだったが。

台本を人数分コピーし、さらに役者たちには「キャラメルボックス」の劇のビデオをダビングして配布。

各自でしっかり研究せい、ということだろう。

徹司は、台本をぱらぱらとめくってみた。

各人のセリフの羅列。これを、おぼえなければならない。

かすかな緊張感と、それを凌駕するほどのわくわく感。

いよいよ、スタートだ。

徹司は、台本をポンと軽く叩いて、カバンの中に大切にしまいこんだ。

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その翌日。

教室で顔を合わせた春谷や川下は、少なくとも表面上は、いつもと変わらない様子だった。「反対派」のことは気にしないことにした徹司にとっては、ある意味好都合だった。

そして徹司にとっては嬉しいことに、クラス全体の雰囲気としては、明らかに演劇というものに対する期待感が高まりつつあった。

配役の投票具合からも、それが読み取れる。

予想以上のペースで、用紙が回収されていく。

そうなると今度は、どのように配役が決定されるかが注目されるわけで――

「どうだ、配役とかもう決まった?」

投票用紙を整理している徹司のところに、人が集まる。声をかけてきたのは横石だ。

「ん?ああ、大体ね」

いささか歯切れ悪く、徹司は答えた。

結果が少々――いや、徹司にとってはかなり、意外なものだったからである。

「どんな感じさ?」

と、覗き込んできたのは西崎。

「どうもこうも……これさ。何で北条雷太が、俺なんだ……?」

徹司は本気で首をひねった。

どう考えても主役などというガラではないだろうと思うのだが……。

「はは、やっぱな。俺もモモに投票入れたからな」

あっさりという横石。

徹司は不審の視線を横石に向けた。

「何でそうなる?」

「そうだなぁ……北条雷太って漁師もやってたじゃん?モモ色黒だし、漁師似合いそうじゃん」

「あ、なるほどね」

と、西崎が相槌をうった。

「そういう理由かよ」

ほっとしたようながっかりしたような、なんともいえない複雑な気持ちになった徹司だったが。

「わたしもモモちゃん雷太に入れたよ」

と、話に加わってきたのは、栗橋涼子。

「え……あ、えーと、ありがとうというべきなのかな」

何故だかいささか慌てて、徹司は軽く頭をかいた。

「やっぱり、声かなぁ。モモちゃんの声って低くて落ち着いてて、なんか、『主役の声!』って感じがするのよねー」

「ああ、それ俺もわかる」

またも西崎が相槌。

またも反応に困った徹司の肩を、ぽんと叩いたのは、古兼だった。

すました顔をしているが、目は笑っている。

徹司にだけ聞こえるような声で、「決まりだな」と、ささやく。

(剛志……絶対いつか、殴る!)

半ば以上本気で、徹司は心に決めた。

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徹司はすぐには答えなかった。

ちょうどミニゲームの中では、キャプテンの西園がディフェンスを抜き去ってシュートを決めたところだった。

「うん、いいフェイントだ」

「西園はあれ得意だよね」

どことなく上の空の会話のあと、再びわずかな沈黙の間。

「……なあ、ソトム」

「うん?」

「去年の、文化祭のときさ。ソトムのクラス、えっと、なんていうか……トラブルみたいなの、なかったかい?」

「トラブル?」

外村は驚いた表情になる。

「いや、特にはなかったと思うけど……ていうか、トラブルってどんな種類の?」

徹司は慎重に言葉を選んで言った。

「その、要は人間関係の、っていうのかな。ソトムのクラス、劇やったっしょ?それで、やりたくない人とかでてきたりとか」

いぶかしげな顔で徹司の言葉を聞いていた外村が、やがて得心した表情になった。

「モモ、もしかして……トッコがらみ?」

「……思い当たる節でも?」

「いや、うちらがやったときは、特に大きなゴタゴタはなかったけどね。僕もあんまり積極的に関わってた方じゃなかったし。でも、なんとなく想像はつくよ……たぶん」

外村はいったん言葉を切って、またもあっさりと言った。

「で、なに?モモのクラスで、トッコと反対派の戦争でも始まったの?」

「そこまで大袈裟なもんでもないけどさ」

徹司はひょいと肩をすくめた。

「モモはどっち派なの?」

「俺?俺は、演劇やってみるのもおもしろそうかな、と思ってるんだけど」

語尾が小さくなったのは、先ほどの春谷の捨て台詞を思い出してしまったからである。

「ただ、俺いちおう文化祭委員だし、まとめもしなきゃならない立場もあってさ」

「ははぁ、板ばさみなワケだ」

外村は納得したようにつぶやく。

「でも、しょうがないと思うな、僕は」

「え?」

「トッコみたいな人って、やっぱり少ないもの。どうしたって一緒にやれない人だって出てくると思うよ」

「一緒にやれない、か……」

「けどさ、僕はそこまで深刻に考えなくてもいいと思うけど。しょせん――というのもなんだけど、お祭りでしょ?やりたいって強く思ってることがあるなら、やってみればいいんじゃない?」

「なるほど。そういう考え方もアリか」

徹司は、腕を組んだ。

やりたいことがあるなら、やりたいように――

単純な話だ。

だがその単純なことを、徹司は今まで、できなかった。

だからこそ、それを実践している人間――たとえば朋子のような人間が、まぶしくみえたのかもしれない。

そう思った瞬間、徹司の心の中の霧が、さっと晴れた。

出口を求めてさまよっていたものに、方向を示されたようだった。

朋子の影響だろうがなんだろうが、そんなことはどうでもいい。演劇というものを、やってみたい。それで、いいじゃないか。

徹司の眼が、陽気に踊りだした。

「ソトム」

「うん?」

「もう一回、PTの勝負しない?そうだな、『ガリガリ君』でも賭けてさ」

外村も、さわやかに笑った。

「いいよ。ちょうどアイス食べたいところだったしね」

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ワールドカップが、閉幕した。

優勝、スペイン。

ようやく。

予想が当たったというか、期待に応えたというか。

いやあ素晴らしい。


決勝戦のカードはスペイン-オランダ。

俺的に、かつてのサッカーゲームでは、一番対戦数が多かったカードかもしれない。

会場の家主がオランダを使ってたということもあるのだが・・・。


夜中の3時半というなかなか厳しい時間帯ではあったが、今大会はけっこう頑張ってみた。

4年に一度、というフレーズは、自分を騙すにはなかなか効果的な言葉である。


ワールドクラスのプレーを見ていると、当然のようにいろいろと触発されて、毎週のフットサルにも力が入る。

が、もちろん観たからと言って同じプレーができるはずもない。

イメージだけが先走り。

例えば、イニエスタのプレー。

相手ディフェンスに背を向けて、右足でボールをコントロール。

足の裏でスッと背後にボールを流し、さらにすかさずその右足のヒールで相手の横を抜けるようにポンと蹴り出し、低い姿勢で体をねじ込んで抜き去る・・・というプレーがあったが。

いやあすごいテクニックだ、と。

ダメモトでちょこっとマネしてみたけど、案の定出来るはずもなく。

ヒールで蹴る力加減が非常に難しい。

それに、あの角度で反転するのは思った以上に膝に負担がくるから、相当練習しないとキレが出ない。

・・・まあわかってたことだが。

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コートには数人の後輩部員がいたが、まだ練習は始まっていないようだった。ベンチの周辺で、おしゃべりに興じている。

徹司は片手を上げて簡単に挨拶をした後、ボールをとって外村とキャッチボールを始めた。

しばらく肩をあたためて、二人はPTで勝負をするべく、ゴール前へ向かった。

「PT」とは、ペナルティースローの略称で、サッカーでいうPKのようなものである。シュート体勢のときにファールを受けたときなどに与えられるもので、ゴールキーパーとの1対1の勝負になる。

もっとも、PTの成功率はPKほど高くはない。ゴールからの距離7mラインからシュートするのだが、そのラインに軸足(右投げの場合、左足)のつま先を固定させたまま投じなければならないルールがあり、助走をつけることも出来ないし、投げる体勢も万全ではないということもある。

そしてもちろん、ゴールキーパーの力量によっても成功率は大きく左右される。

徹司も、部活中に遊びで他の部員とよくPTの勝負をする。

一応レギュラーの一角である徹司だから、決して不得意ではないのだが、外村にだけはなかなか勝てないのだった。

なにしろ、高校からハンドボールを始めた部員が多い中で、外村は唯一、中学校からの経験者である。

シュートスピードにしろテクニックにしろ、掛け値なしに部内ではトップである。

今日も、徹司は勝算があって外村に挑んだわけではなく、PTの勝負に集中して余計な考え事を脳裏からたたき出したかったのだった。

「よっしゃ、始めようぜ。ソトム、先攻と後攻どっちがいい?」

「僕はどっちでもいいや。モモ好きなほうでいいよ」

「じゃあ先攻でいこうかな。……今日は勝つからな!」

気合を入れる徹司に対し、外村は不敵な笑みを浮かべる。

そのままゴール前までゆっくり歩き、振り向いて構える。

「さ、来な」

徹司は無言で構えた。一投目の狙いは、ゴールの右上の隅。一番得意なコースである。フェイントは、かけない。全力で射抜く。

徹司は体重を後ろにかけ、大きく振りかぶった。




夕方といわれる時間帯になっても、まだ日は高い。

それでも、昼間に比べて熱気はやや薄れつつある。

その柔らかい日差しを背中に受けながら、徹司と外村はコート内のベンチに腰を下ろし、後輩たちのミニゲームを眺めていた。

なにかといい加減な性格のものが多かった徹司たち三年生と違い、今年の二年生はしっかりものがそろっている。きっと俺らの代より強くなるだろうな、と、徹司は頼もしく思いながら後輩たちの動きを追っている。

「どうだいモモ、だいぶさっぱりした?」

「え?……ああ、まあね。勝てなかったのは悔しいけどな」

「ふん、まだまだ。僕に勝とうなんて10年早いよ」

相当に集中して挑んだPTの勝負。

徹司の調子は悪くなく、5本中4本のシュートを決めたのだが、外村のシュートを1本もとめることができず、4対5で敗れ去ったのだった。

それでも、気分は悪くない。何につけ、体を動かして発散させるタイプの人間なのだろう。

「モモが部室にきたときは随分暗い顔してたからね。……なんかあった?」

外村は、ミニゲームの行方を眼で追いながら、さらりと聞いてきた。


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映画はあまり観ない方なのだが、映画化された原作には興味がある。

映画化されるからにはそれなりの理由があるのだろう、と。

なので時々、そういう作品を探して読んだりするのだが。


で、今回は、2009年に映画化された「笑う警官」(佐々木譲)。


警察小説は、もともとあまり読まない。

せいぜいが大沢在昌の新宿鮫シリーズくらいか。

田中芳樹の薬師寺涼子シリーズは・・・ジャンル的には警察小説ではないよな・・・?

あまり読まないにしても、ハードボイルドは嫌いじゃない。


で、今回のシリーズ。

主人公が北海道警察の大通暑の刑事ということで、舞台も札幌市内中心部。

地名やら何やら、土地勘があっていい。

大通周辺や薄野周辺は、俺もだいぶ詳しくなったこともあって、臨場感があるしわかりやすい。

ストーリーも切迫感があって、一気に読みきれるエンターテイメント性もある。

主人公達の別々の行動と視点がからみあう手法も、目新しくは無いのだろうけど、うまくできている。


そんなわけで非常におもしろかったので、すかさず続編を探す。

「警察庁から来た男」と、「警官の紋章」と。

一気読み。

期待に違わぬおもしろさ。


人間関係などを見る限り、まだ続編は出そうである。

気長に待つか。

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自分自身が、ガラにもなく演劇というものをやりたがっている。

そのことを、今は徹司は肯定的にとらえるようにしていた。

新しいことへの挑戦。

未知の世界の体験。

自分が変われるかもしれないという期待。

――自分自身を納得させるだけの完全無欠の理由は、そろえてあった。

が。

それが、違っていたとしたら。

単に、「朋子のため」という理由だったとしたら。

「違う!――そんなことは……ない……」

廊下を歩きながら、徹司は小さく一人ごちた。

そんなことは、あってはならなかった。

徹司にとって、劇をやってみるということは、今までの自分の価値観をひっくり返すほどの決断ともいえる。それが、ただひとりの女の子のためだなどと、徹司には認めることが出来なかったのだ。ましてや、朋子への恋愛感情など意識したことがなかったのである。

――少なくとも、この時までは。

混乱した思いを抱えたまま、徹司は部室の扉を開いた。

「お、モモ、久しぶりじゃん」

と声をかけてきたのは、外村(そとむら)だった。

「や、ソトム。そっちこそ久々だな」

「ちょっと体動かしたくなって――モモ、なんかあった?」

「ん?」

「なんか不景気な顔してるね」

徹司は思わず苦笑いした。

「あは、鋭いな。ちょっとね……今日は、ストレス発散だな」

それを聞いた外村は、ニヤリと笑った。

「じゃあまあ話は後で聞かせてもらうとして……、PTの勝負でもしようか?」

「お、いいな。ちょっと待ってて、すぐ着替える」

答えて、徹司は手早く着替え始めた。

どこの高校でもそうかもしれないが、大金高校も学校指定のジャージというものがある。体育の時間などに着るものだが、御多分に洩れず、センスのいいものとはいいがたい。ごくシンプルなデザインで、学年ごとに色分けされている。徹司たちの学年は、紺色である。

そのため、ほとんどの運動部では、それぞれの部活ごとにその部のオリジナルのジャージをそろえている。ただ、ハンドボール部は伝統的にそのあたりがしっかりしていない――つまり適当な部で、部内で代々決められているジャージ、といったものがなかった。

だから、徹司たちの学年はしばらくは学校のジャージで練習を続け、やっぱり部でジャージをそろえよう、ということになったのは、半年以上経ってからの事だった。

みんなでカタログとにらめっこした結果、最終的に「kappa」ブランドが選ばれた。

黒を基調として、白と青のラインがほどこされていて、徹司も一目見て気に入ったデザインだった。

そのジャージも、すっかり汚れちまったな、と、徹司はあらためて思う。なんといってもハンドボールは、滑り止めの松ヤニを使うし、接触も激しいスポーツだから、ジャージの汚れもやはり激しい。松ヤニの汚れは簡単に洗ったくらいでは落ちないから、汚れも増える一方なのだ。

もっとも、いちいちジャージの汚れなどを気にするような繊細な性格を持ち合わせているような人間は、少なくとも今のハンドボール部には在籍していなかったから、問題になったことすらない。

着替え終わった徹司は、急いでシューズをはき、外で待っていた外村におまたせ、と声をかけ、コートに向かった。

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