ラフィンムーンカメラの日々のこと

撮ったり、つぶやいたり、美味しい記憶…全ては明日へのラブレター

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「結局これか・・」

浮気現場の張り込み。 それは松田の仕事の9割を占める“いつもの仕事”だ。

仕事終わりにスポーツクラブに行きそこで愛人と待ち合わせをし軽く体を動かした後、彼女のマンションへ向かった。

「準備運動かよ」

二人がマンションの部屋に到着後、しばらくして灯りが消えた。

「はいはい、じゃあ俺はディナータイムにするか」

お気に入りのミニクロワッサンとブラックコーヒー、これが松田の張り込みの時の定番だ。

コンコン、松田の車をノックする音がして助手席側の窓を見るとそこにはミチが立っていた。

「お前こんなところで何してんだよ」

「この前んとき調査報告書にここの住所書いてあったから・・」

「帰れ。こんな時間に、しかもよそのおっさんの浮気現場とかガキの来るところじゃない」

「だって、お父さんを殺したかもしれない人がどんなヤツなのか確かめたかったんだもん」

「終わったらちゃんと全部報告するからそれまで待て」

「だって・・」

「いいから帰れ」

いつになく少し強めの口調でそう言われたミチは仕方なく帰ることにして、来た方向へ歩き出した。ルームミラーでミチの姿を見送っていると二人組の男がミチに声をかけるのが見えた。

「はぁ・・」

松田はドアを開けて車から降りるとミチのもとへ行き

「こらこらミチ、さあお父さんと帰るぞ」

松田の声に振り向いた二人の男は、チッと舌打ちしてそそくさと夜の街へ消えていった。

「あぁ、もう、乗れ。後ろな」

松田はミチを自分の車の後ろのシートに座らせた。

「食うか?」

「おじさん、こういうの好きなんだ」

「中年がクロワッサン食べたらおかしいか。パンと言ったらクロワッサンだろ。ほら、ウマいパン屋を知りたければまずはその店のクロワッサンを食えって言うだろ」

「誰が?」

「俺が」

「何それ」

「文句あるなら食うな」

「あ、電気ついた。終わったんだね」

「お、終わったって、お前・・やらしいこというな!」

「だってそうでしょ」

「まぁ、そうなんだけど・・」

「あ、また消えた。え?もう一回?」

「だから、お前・・・。あいつら出かけるな。俺、ちょっと行ってくるからお前はこの中に隠れてろ」

「え、私も行く」

「いや、ここにいろ。その代わりあいつらが戻ってきたり、何かあればLINEよこせ」

「わかった」

馬場と愛人が出掛けた隙に松田は部屋に忍び込んで、裏金が愛人に振り込まれた証拠を探すことにした。

 

「あったあった。分かりやすいなぁ」

松田は愛人の部屋から馬場名義と愛人名義の通帳を見つけ出し、入出金を次々とカメラに収めた。

「あぁ、入ってる、入ってる。いくら大手たって、愛人にこの金額、サラリーマンにありえないだろ」

松田のスマートフォンにミチからLINEが入る。

 

“まだ?”

“もうすぐ戻る”

“了解”

 

“二人戻ってきたよ!”

“了解”

 

どこかで買い物をしてきた二人が戻ってきた。

松田は形跡を残さないように部屋を出てエレベーターへ向かう。昇ってくるエレベーターにはたぶん馬場と愛人が乗っている。そして到着したエレベーターから降りてきた二人に背を向けながら住人の振りをして、別の部屋のドアの前でゴソゴソと鍵を探すしぐさをし、二人が部屋に入ってゆくのを待ってからエレベーターに乗り込んだ。部屋に入った馬場は少し異変を感じてもう一度ドアを開けてどこかに電話をかけた。

「あ、俺だけど、なにか嫌な奴がマンションにいた。確認頼む」






To be continued

 

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「もしもし、リカ?あ、俺、松田だけど。最近まわりで変な事起きてないか?」

「別に無いと思うけど、なんで?」

「ウチのまわりでここんとこなんだかおかしな奴らがうろうろしてんだよな。だからそっちは大丈夫かなと思ってな。ミチやサクラさんは?大丈夫か?」

「うん、今のところ特に変わったことは起きてないみたい」

「しばらくはちょっと気を付けろよ」

「うん、わかった。そうする」

 

「ただいま」

「あ、ミチおかえり。ねぇ、最近ミチのまわりで変な人見たとか何か変わったことはない?」

「今、外でスーツ姿の知らない人がお店の中のぞいてたよ。お客さんかなと思ったけど行っちゃったから違ったみたい。どうかしたの?」

「うん、最近松田君とこの辺りでおかしな人がうろうろしてるらしいのよ。だからウチも気を付けてって」

「ふ~ん。分かった」

 


ガチャガチャと松田の部屋のドアノブを回す音に、松田は目が覚めて身構えた。

「おじさん、起きてる?」

いつものようにノックと同時に松田の部屋のドアを開けようとしたミチ。

「なんだ、お前かぁ。寝てる」

ベッドの中からドアの外に向かって答える松田。

「ねえ、なんで鍵掛かってんの?今日は」

「学校さぼって勝手に入ってくる女子高生が時々現れるからだ」

「ねぇ開けてよ~。目玉焼き焼いてあげるから」

「遅刻すんぞ。早く学校行け」

パンッ!と破裂音が響いてミチの横を何かがかすめた。そしてそれはミチの正面にあるブルーグレイのスチールドアに食い込んだ。

何が起きたのか分からず一瞬固まるミチ。異変に気付いた松田は慌ててドアを開け、ミチを室内に引き込んだ。

「怪我は?」

「大丈夫」

「来たな。おかしな奴らが」

そして、松田の携帯電話が鳴った。それは見知らぬ番号からだった。

「命が惜しければそれ以上首を突っ込むな」

見知らぬ番号からの電話は忠告だった。馬場側の人間であることはたぶん間違いないだろう。

「ポチ、タクシー呼んでやるからお前はそれでとりあえず学校へ行け。ここにはしばらく来るな」

「おじさんは?」

「俺はもう少しだけ馬場のことを調べたらその証拠を持って警察へ行く。俺の仕事はそこまでだ」

そう言って松田はタクシーを呼び、ミチを見送った。

 

松田はリカやミチに危険が及ばないようにしばらく調査を中断して様子を見ることにした。

忠告に従ったと思ったのだろう、周辺でそれ以上危険なことが起こることはなかった。そして松田は静かに馬場の調査を再開していった。

 





To be continued

 

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「おじさん、起きてる?」

8時5分前、ミチが松田の部屋に現れた。

「また学校サボるのか?」

「違う。今日はちゃんと間に合うから大丈夫。朝ごはんだって食べてきたし」

「じゃあなんだ、今朝は。俺を起こしに来たのか?お前は俺の彼女か」

「え、おじさん、女子高生とかもOKなの?」

「バカヤロウ。ガキとEカップ未満には興味ねえよ、俺は」

「ふ~ん、私こう見えてFなんだけど」

チラリとミチの胸元を見た松田。

「ダッシュ、Aダッシュだな」

「・・・まだこれからだから」

「お前、そんなことあちこちの男に言うんじゃねえぞ」

「言わないよ。そんなこと。あ、そう、お母さんに聞いた。おじさん、お父さんのこと調べてくれるんだね。ありがと。それだけ言いに来た。じゃあね、いってきまーす」

「おう、遅刻すんなよ」

ミチを見送り朝食を済ませ、松田はケンジが生前勤めていた、海外にも事業部を持つ山戸建設について調べ始めた。

 

そして一週間後、調査の進展具合を聞きにリカとミチが松田の事務所に来ていた。

二人分のコーヒーと、グラスにオレンジジュースを注ぐ松田。

「ポチも一緒か」

「ポチじゃない」

不満気にそう答えるミチ。

「この子もお父さんのことだから聞きたいっていうから・・」

「大人の話だぞ。大丈夫か?」

「うん。まだEじゃないけど、子供でもない」

E?」

「あ、あぁ・・い、いい、よし、じゃあお前も一緒に聞け。

「早速だけどまず上司の馬場って男、こいつとんでもない奴だった。真面目そうな顔をして裏で15年も付き合ってる愛人がいて、彼女に買い与えたマンションや車の代金はどうやら下請け業者に架空発注したり水増し請求させたりして一旦振り込んだ金の一部を現金でキックバックさせて自分のポケットに入れて愛人に貢いでいるらしい。で、ケンジの同僚の安藤、彼は難病を抱える自分の娘の治療費にするために消費者金融から金を借りて、最初の内は何とか返済してたものの徐々にそれが厳しくなってきてお金に困ってたようだ。そんな時に馬場の裏金を知ってしまった。で、馬場を脅して金を受け取っていた」

「ケンちゃんは?ケンちゃんはその不正には?」

「ケンジはたぶん何にも知らなかった。ただ安藤が娘のことで消費者金融に借金をする時に事情が事情だけにあいつは安藤を信じて連帯保証人になったみたいだ。で、ある日安藤はかなりの額を馬場から脅し取り、消費者金融への返済もしないまま消えた」

「安藤さん、そんなことを・・」

「で、安藤が残した借金の取り立てがケンジにまわってきた。あんまりガラがいいとは言えない取り立て屋に不安を感じたケンジはお前たちの身に危険が降りかからないように離婚してお前達から少しでも遠くへ離れようとした」

「お父さんは悪い事してなかったって事?お父さんは私たちを捨てたんじゃないんだよね?お母さん、そういう事だよね?」

「そうね。お父さん、な~にも悪いことしてなかった。私たちのことを嫌いになった訳じゃなかった。守ってくれたんだね、命がけで」

「当たり前だろ。ケンジが悪いヤツのはずないだろ」

「で、お父さんは何で死ななきゃいけなかったの?」

「ケンジはお前たちから離れるために安藤に続いて突然会社を辞めたもんだから、馬場はケンジが安藤とグルで奪った金を持ってると思ったんだろうな。で、金を取り返すためにちょっとおかしな奴らを使って安藤とケンジの行方を探させて、運悪くケンジは見つかってしまった。でもケンジはその金を1円も持ってなかったし、安藤の行方も知らなかった。だけど生かしておくのは馬場にとっては危険だった。もし自分の不正が会社にばれたら奴はきっと全てを失うことになるからな。それでケンジを・・」

「それで馬場は今でもその愛人と・・人の命奪っておいてそんなの許せない」

「私も許せない!ねぇ、おじさん、その馬場って人の不正をぜ~んぶバラしちゃおうよ」

「そうだな。でもここから先は危険すぎる。あとは警察に任せよう」

 

 

 

To be continued

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「あかり、あかり・・確かこの辺なんだよなぁ・・」

松田は昔の記憶を頼りにリカの店を探していた。そこへふっと目に入ってきた居酒屋『あかり』。新しいビルにはさまれて、店先に赤いちょうちんと自転車。松田がケンジと一緒にリカを送り届けた懐かしい店。周りはあの頃とはすっかり変わってしまっているけれど居酒屋『あかり』だけは、赤いちょうちんがぶら下げられた以外はリカの父親の明が寿司屋をやっていた時のままだった。松田は少し手前で足を止め、一瞬あの頃のことを思い出していた。

 

ガラガラガラーっと木製の引き戸が開いて赤ら顔のご機嫌な60代くらいの男性二人が出てきた。そしてその二人を見送りに店先に出てきたのはリカの母、サクラだった。

「ごちそうさまー。サクラさんじゃ、またー」

「はい、ありがとうございました。」

しばらく客を見送った後、サクラは松田に気が付いた。

「あら?ひょっとしてあなた松田君?松田君よね。あらぁ、何年振りかしら?寄ってくでしょ?さ、入って入って」

「お久しぶりです」

「ほらとりあえず入って入って」

「リカ、お客さんだよ」

「いらっしゃい・・え、松田君?久し振りー!いらっしゃいませ。どうぞ。ビールでいい?」

「うん、あぁ」

「リカ、キリがいいし、お客さん松田君だけだし、もう今日はちょうちんいいんじゃない?消しとくよ」

「そうね。懐かしい顔が来てくれたし、3人で飲んじゃお」

「賛成」

そういうと、サクラは店先のちょうちんの灯りを消した。

「ゆるい店だな」

「おつまみ適当に出していいわよね?」

にんにく醤油味の唐揚げ、大根おろしを添えただし巻き卵、それにピリッとわさびがきいて白ごまをトッピングした山菜入りのいなりずし。あかりの人気メニューが並んだところでリカも席に着いた。

「はい、おつかれさま」

と、サクラは3つのグラスにビールを注いだ。

「久しぶりの松田君との再会を祝して乾杯」

「おつかれーっす」

ゴクゴクゴクと一気に飲み干し

「んー、うまい!」

と思わず声がそろった3人。

「松田君、今なにやってるの?」

と、言いながら空いた3つのグラスに再びビールを注ぐサクラ。

「今、探偵やってます」

「へぇ、探偵? 探偵ってほら、むかしあの、あのー誰だっけ?・・・あ、そう松田優作がテレビでやってたじゃない。あーいうの?」

「まぁ、そんな感じです」

「そういや苗字も松田だし、ほら、このもじゃもじゃっとしたとことか、ちょっと優作ふうじゃない?ひょっとしてちょっと意識してたりして」

「してないっすよ~」

ただのくせ毛なんです」

「探偵やってるんだ、松田君。探偵ってどんなことするの?やっぱり浮気調査とか?」

「うん、まぁ、人探しとか・・」

「へぇ~。大変そう。でもなんだかちょっと面白そうね」

「う~ん・・・どうかなぁ」

少しシワができたところをのぞけば、昔と変わらない無邪気なリカの笑顔に、懐かしさと同時に松田は胸の奥の方にキュンと一瞬痛みを感じていた。

「あ、そうそうミチっていうんだっけ?お前んちの娘」

「え?松田君、なんでミチを知ってるの?」

「ネコ・・あぁ仕事で人さがしてる時に偶然知り合ったんだ」

「へぇ、そうだったのね」

「アイツ、時々学校サボってウチに来てるぞ」

「あぁ、そうなのね。時々担任の先生からまだ登校してきてないですけど具合でも悪いんですか?って連絡来てたけど、でも松田君ちに行ってるなら安心したわ」

「サボってる事知ってたのか。叱らないのか?」

「だって困るのは私じゃないわ。ミチ本人。一度くらい困ればいいのよ。それで、しまったー!ってどこかで気が付けば」

「大丈夫か?グレちゃったりとか・・」

「私は信じるわ。あの子を。子供なんて親の思い通りにならなくて当然だし、自分で気付いて自分で考えられる人になってほしいの。それでどんなことが起こっても乗り越えていってほしい。他人や自分の命さえ大切にしてくれたらそれでいい。あとはミチが好きなようにすれば」

「あら、リカ、あんたいつの間にかずいぶんとお母さんぽい事いうようになってたのねぇ」

「ぽいって、一応17年ほど母親させてもらってます」

「命かぁ・・そうだな。・・・あ、ケンジ・・・」

「ケンちゃん、死んじゃった」

「あぁ、アイツから聞いた。自殺なんだって?」

「そうらしいんだけど、私、何がなんだか全然わからないの。理由も言わずに突然離婚して欲しいって言ってそのまま出ていっちゃったの」

「オンナとか・・」

「私もそうなのかなと思って聞いたんだけど、ケンちゃん、何にも答えてくれなかった。で、居場所が分かった時にはもう、ケンちゃん、この世にいなかった。勝手よね。私のこと一生大事にするって言ったのに・・ウソばっかり。ねぇ、松田君、ケンちゃんに何があったのか調べることできる?」

「娘とおんなじこと言ってる」

「え?」

「アイツもそう言ってた」

「そっかぁ・・やっぱり無理よね。今さら死んじゃった人のこと調べるなんて」

「まぁ、簡単じゃないことは確かだな。それに、もし真相がわかったとして、リカが知りたくないようなことが出てくる可能性だって充分ある。そして全てが分かったとしてもケンジはもう戻ってこない」

「うん・・だけど私、ケンちゃんが自殺だなんてどうしても信じられなくて。何か事件とかに巻き込まれたのかな・・とか・・。ねぇ、松田君調べられない?もちろんちゃんとギャラは払うから仕事として正式に受けてくれない?」

「う~ん・・・で、何か少しくらい手がかりはあるのか?」

「あら?契約成立?さぁ、松田君、ほら、唐揚げ食べなさい。冷めちゃうじゃない。今夜はせっかくの再会の夜なのに、二人とも難しい顔しちゃってー。ビールもぬるくなっちゃうわよ」

「あ、うん、いただきます。うん、うめぇ、サクラさんの唐揚げ最高っす」

「でしょ。これが代々伝わる遠野家秘伝の味」

「代々ってこの味の初代は私よ。そんな死んじゃった人みたいに言わないで頂戴。私はまだまだ現役よ!

「あ、そうね。お母さん、ごめんごめん」

「はい、ビールも飲んで飲んで」

松田がこの街を出て20年ぶりくらいの再会だったけれど、まるでつい先週もこうしていたかのような、それはとても自然な時間だった。

 

 

 

To be continued

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「ねぇハルト、今日ヒマ?ちょっと面白い人んとこ行かない?」

「面白い人って?」

「行けば分かるよ」

「うん、まぁ暇だけど・・」

「よし、行こ」

ミチは街で偶然知り合った探偵という職業の松田に興味と、初めて会ったのに不思議と安心感を抱いてすっかり懐いていた。

昭和レトロな小さな古いビルの5階、そこに『松田探偵事務所』がある。

 

「おじさん、いる?」

ブルーグレーのスチールドアをノックと同時に勢いよく開けるミチ。奥から松田の声がする。

「仕事中だ。ここは遊び場じゃないんだぞ」

めずらしく真剣な顔で松田が見つめていたパソコンを覗き込んだミチ。

「へぇ~。オセロするのも探偵の仕事なんだ」

「三手先を読んで相手の動きをイメージする。これ探偵にとっては必要不可欠な能力だ。それを俺は日々鍛えてんの」

「ふ~ん」

「なんだ、今日は彼氏も一緒か。デートならもっと楽しいとこ行けよ」

「彼氏じゃない。ただの友達」

チラッとハルトの表情を見た松田、

「残念だったな。彼氏じゃないんだってさ」

静かに微笑みながら松田に向かってうなずくハルトだった。

「学校が終わったら寄り道せずに帰れ。学校でそう習うだろ。ここは探偵事務所。仕事の依頼があったら来い」

「ある。仕事の依頼、ある」

「なんだ、猫さがしか、それともインコか。そういう仕事ならしねえぞ」

「そういう仕事じゃない。調べて欲しい事ある」

といつになく真剣な表情を見せるミチ。

「お前、金あんのか?探偵に仕事依頼するってただじゃねえんだぞ。」

「お年玉とかお小遣いためたのがある。足りない分は出世払いって事で」

「出世って、時々学校さぼるようなヤツが出世できんのか?調べモノなら図書館とかGoogle先生にでも聞け」

「そうじゃなくてお父さんのこと調べて欲しいの。私のお父さん、私が5歳の時に私とお母さんを捨てていきなり出ていっちゃってそのあと勝手に死んじゃったんだって。お父さんは何で私たちを捨てたのか、お父さんにいったい何があったのか知りたいの。だからお願い、おじさん調べて。お父さんがどんな人で何をしていた人なのか、私お父さんのこと何にも知らない。だからおじさん、ねぇお願い」

「父親のことなら母ちゃんに聞いたら分かるんじゃねえの」

「お父さん、ある日いきなりお母さんに離婚届突きつけて出ていっちゃって、その後テレビのニュースに出たんだって。自殺らしいって。だからお母さんもなんでそうなったのかわかんないって。探偵ってこういうの調べてくれるんじゃないの?」

「話は分かったけど、ガキのおこづかいでできる事じゃない。それに世の中には知らない方がいいこともあるぞ。父ちゃんには父ちゃんの事情があったんだろ。そっとしておいてやれ。娘が今さらそんなこと調べようとしてるなんて、父ちゃんきっと天国で冷や冷やしてるぞ」

「おじさん、でもこれひょっとしたら何かすっごい事件とかからんでるかもよ、大スクープモンかもよ」

「お前な、そんな映画やドラマじゃあるまいし、ガキの妄想に付き合ってるほど暇じゃない」

「あ、おい、彼氏、えーっと名前なんだっけ?」

「ハルトです」

「ハルト、そいつ家まで送ってやれ」

「はい」

「ふ~。分かった。今日のところは帰る。あ、これ、私が知ってる限りのお父さんのこと。はい」

とミチは松田にメモを渡した。

「情報少なっ!」

 

“沢田ケンジ 1970年生まれ O型”

 

「ん?ちょっと待て。お前の父ちゃん沢田ケンジっていうのか。母ちゃんの名前は?」

「リカ。遠野リカ」

「お前、ケンジとリカの娘なのか」

「え?おじさん、私のお父さんとお母さん知ってるの?」

「あぁ、たぶん学生時代の友達だ。ケンジ、死んだのか・・あいつが自殺ってなんなんだよ」

「おじさん、調べてくれるよね!友達なんでしょ!」

「んあぁ、とりあえず今日は帰れ。リカ、あぁ母ちゃんは元気なのか?」

「うん、元気だよ。今、おばあちゃんと一緒に居酒屋やってっる。“あかり”っていうお店。

唐揚げといなり寿司が美味しいの。昔おじいちゃんがお寿司屋さんやってたところだから今度食べに来て」

「あぁ、そのうちな」

 

ケンジとリカが結婚した後、しばらくはこの街を離れていた松田だったが、やっぱりこの街の風景やにおいが好きで、数年前に戻って、なんとなく流れで探偵事務所を開いたのだった。そして目の前に現れた親友の娘と、知らされたその親友の死。

 

 

 

To be continued

 

 

 

 

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「ごめん、リカちゃん、離婚して」

 

リカの20歳の誕生日から5年後リカとケンジは結婚し、愛娘のミチも生まれ幸せに暮らしていた。そんなある日、それはあまりにも突然のケンジの言葉だった。

「え?ちょっと何言ってるの?そんな突然。どういう事?ケンちゃん好きな人でもできたの?」

「とにかくごめん、ほんとリカちゃんごめん。これ、僕の方はもう書いておいたから。あとはリカちゃんが書いて出しておいて」

「ねぇ、なんなの?どういう事?ちゃんと説明して」

「これ、僕の預金通帳。たいして入ってないけどさ、しばらくの生活費くらいにはなると思うからリカちゃん使って。ミチのこと頼むね。リカちゃんも元気でね。・・・本当にごめん。じゃ、俺行くから」

そう言ってある日突然、理由も告げないまま離婚届をリカに渡してケンジは家を出た。

何が起こったのか理解できず呆然としたまま数日を過ごしていたリカだったが、幼い娘を抱えいつまでもそうしているわけにもいかないと気を取り直し、ミチを連れて実家を訪れた。

そこには、父の明が亡くなって以来、母サクラが一人で暮らしていた。

「お母さんいる?」

「あら、盆でも正月でもないのに珍しいわね。ケンジ君と喧嘩でもしたの?」

「喧嘩はしてないんだけど・・別れちゃった」

「ふ~ん、あ、そ。で、帰ってきたの?」

「帰ってこようかな、どうしようかなぁと思ってさ。これからは私も働かないわけにはいかないし。で、考えたんだけど、とりあえずここ掃除して使っていい?」

3階建ての自宅の1階の寿司屋の店舗は、父の明が亡くなってからは店を閉め使っていなかった。

「ここ使うって、あんた寿司でも握るの?」

「お寿司はちょっと無理だから居酒屋でもしようかなって思うんだけど」

「居酒屋でもって、私の知る限りではあんたそう料理が得意とは思えないんだけど、そんなことできるの?」

「お母さん、今はさネットで調べれば美味しいレシピがいっくらでも載ってるのよ。まぁ、何とかなるでしょ。それでさ、出来ればお母さんもちょっと手伝ってくれたら助かるんだけどなぁ・・。ほら、うちさ、お寿司屋さんのくせにさ、なぜか唐揚げが人気メニューだったじゃない?あれ、私も大好きだったのよねぇ。お母さん、作り方分かる?あと稲荷寿司、あれも好きだったなぁ」

「知ってるも何も、その2つは私の担当だったから。あれは寿司屋の娘のくせに生ものが嫌いだったあんたが唐揚げ食べたい唐揚げ食べたいってうるさいからあんたのごはん用に作ったんだけど、多めに作ったのをサービスでお客さんに出したらこれがけっこう評判が良かったのよ。お父さんはちょっと複雑そうだったけどね。でも、これうまいなって言ってくれたわね」

「あの唐揚げと稲荷寿司を看板メニューにしたいの。作り方教えて」

「そうだねぇ。昔は忙しくてあんたのこと全然かまってあげられなかったもんね。私が生きてるうちに一つくらい母親らしいことしておこうかね。」

そうして小さな居酒屋『あかり』はオープンした。

『あかり』の噂は寿司屋だった時の常連客から口コミで伝わり、なかなか良いスタートをきった。ケンジと離婚から2年、明が残してくれたお店と常連客のおかげで居酒屋『あかり』は順調でリカもケンジとのことをくよくよ考えないで済んだ。

 

「次のニュースです。」

仕込みがひと段落して店の上の部屋で休憩しているところに流れてきた、ニュースを伝えるテレビの声に、リカはドンと心臓を叩かれたような衝撃を受けて、思わず息を止めた。

「今朝6時ごろ、公園の横に停められた車の中から男性の遺体が発見されました。身に着けていたお守りの中のメモから男性は30代くらいで住所不定の沢田ケンジさん。遺体の状況などから自殺ではないかとみられています。では次の・・・」

「え?ケンちゃん?・・」

そこにお茶を持ってきたサクラは様子のおかしいリカに声をかけた。

「どうかしたの?」

「ケンちゃん、死んじゃったかもしれない・・・」

「え?どういう事?」

「今ニュースでケンちゃんの名前が・・・自殺?ケンちゃんが?なんで?そんなことあるはずないわ」

突然つきつけられた離婚届け、そして遺体で発見されたケンジ。リカは悪い夢でも見ているんじゃないかと動揺しながらもひょっとしたら人違いかもしれないし、と、なんとか自分を落ち着かせていた。

 

 

 

To be continued

 

 

 

 

 

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大きめのプレートに盛られたデザートが運ばれてきた。

 

リカの前に置かれたデザートのプレートには3種類ほどのケーキとたっぷりのフルーツが盛り付けられ繊細な飴細工で飾られていた。そしてチョコレートソースで書かれた「Happy Birthday Rika」の文字。デザートの時に一緒に持ってきてくれるようにお願いしてあった20本の薔薇の花束がケンジからリカへと渡される。

 

「リカちゃん、あらためて20歳のお誕生日おめでとう」

その瞬間、Esquisseのスタッフと他のテーブルの客から拍手が沸き起こった。

「わあ、なんだか恥ずかしいわ」

と言いながらリカは周囲のテーブルの客に会釈で応えた。

しばらく拍手が店内に響いた後、他のテーブルの客たちは徐々にまた自分たちの会話へと戻って行った。

 「でさ、リカちゃん、え、あの今日はもうひとつ言いたいことがあって・・」

「え?なに?」

「リカちゃんと俺たちが知り合ってから4年。ずっと友達として仲良くしてくれてありがとう。で、これからなんだけど、えと、あの、その・・これからは僕の彼女として仲良くしてください!」

「え?え?ちょっと待って、ケンちゃんいきなり何?え?」

驚いた顔で松田を見るリカ。

「何って、そのまんまだろ。そういう事だよ」

「ちょっと待って、いきなりすぎて私・・・」

「そうだよね。ごめん。びっくりしちゃうよね。あ、いいから。返事は今日じゃなくても」

「うん、ケンちゃんごめん。ちょっと考えさせて」

「うん、待ってる」

「あ、ケンジ、俺、明日早いから先帰るわ」

「あ、私も、今日は帰るわ」

「うん、じゃあ、お腹もいっぱいだし今日はこれでお開きにしよう。リカちゃん、返事、待ってる」

「あ、うん」

 

自宅に帰りついたリカはぼんやりと考えていた。

松田やケンジとはいつまでも変わらず友達としてずっと一緒にいられるような、そういう関係だと思っていたけれど、何かが変わってしまう事になるんだろうか。そして自分はそれを望んでいるんだろうか。ケンジからの予想外の告白にリカの心は自分でも理解できない妙な揺れを起こしていた。

 

窓の外の月を眺めながら、コンビニで買ってきた缶ビールを開けてゴクゴクと喉へ流し込みながら、松田もまた何か複雑な思いを消せずにいた。

ケンジはケンジで帰宅してベッドにもぐり込んだものの、リカに気持ちを伝えた安心感と興奮でひとりニヤニヤしてなかなか寝付けないでいた。

 

誕生日から3日、リカはまだケンジに返事ができずにいた。

学校帰りに駅のホームで偶然会った松田とリカ。

「おう、ケンジとはどうなった?」

「あ、うん、まだ返事してない」

「好きじゃないのか?あいつのこと」

「好きじゃなくはないけど・・松田君はどう思う?」

「・・あいつ優しいしさ、気も使わなくてすむし、いいんじゃないの?」

「本当にそう思う?」

「嘘なんかつかねえよ。あいつが良いヤツだってリカだってわかってんだろ」

「うん、それは分かってるんだけど、そうじゃなくて・・・」

「なに悩んでんだよ。別に結婚とか言ってる訳じゃないんだからそんなに難しく考えるな」

「う、うん・・そうだね」

 

リカの誕生日から一週間、松田の携帯電話が鳴った。ケンジからの電話だった。

「もしもし、松っちゃん?えー、ご報告致します。私、沢田ケンジはこの度、遠野リカさんとお付き合いすることになりました」

「おお!やったな」

「はい、やりました!」

「え?やったの?」

「あ、違う違う!そうじゃなくて」

「わかってるよ。おめでと」

「うん、ありがと」

そうしてケンジとリカは大学生の時に付き合い始めた。

 

 

 

To be continued

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キミとの思い出は

ひとつひとつがキラキラとまぶしくて・・

それなのに

キミを想う時はいつも

心がちょっとだけ、ほろ苦い・・・

 

 

今日のDan Mens

ティンカーベルの

天然酵母 紅茶オレンジ。

 

むっちりして、ドスンと重い

ティンカーベルの天然酵母のパン。

ティンカーベルは

大好きなパン屋さんの1つ。

 

ほんのり甘い紅茶の味の生地の中に

たっぷりのオレンジが

切っても切っても現れる。

甘さに包まれた

オレンジのほろ苦さがたまらない。

たまらなさ過ぎてキュンとくる。

 

大好きだった人とのまぶしい思い出を

思い出すたび

ほんの少しだけ心が痛い、みたいな

そんな感じ。

 

あ、一応念のために、

これはパンを食べた感想です。

食べてみればきっと、たぶん、おそらく、

願わくば・・・

分かってもらえると思うんだけどなぁ・・

 

青春時代の恋って

うまくいってもいかなくても

たいていはちょっぴりとかたっぷりとか

後悔とかあるよね?

それを思い出す時のような味なのです。

甘くてほろ苦い・・

そして美味しい、紅茶オレンジでしたん。

 

 

これはやっぱり

紅茶が一番合うのかな・・

あ、でも緑茶でもいいかも。

 

 

 

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松田と沢田ケンジは高校の同級生、そして二つ下のリカ、剣道部に所属していた三人は、なんとなく気が合って部活終わりにはたいてい一緒に帰ったりしていた。

大学は別々の所に通っていたけれど、時間のある時には会って高校生の時と変わらず三人で遊んでいた。

 

「あ、もしもしリカちゃん?来週のリカちゃんの誕生日さ、いつもみたく三人でゴハン行こうよ。俺、美味しいお店予約しておくからさ期待してて」

「わぁ、本当?嬉しい、ありがとう。うん、楽しみにしてる~」

 

 

「あ、松っちゃん、こっちこっち」

 

リカの誕生日にケンジが予約したのは素描を意味するフランス語Esquisse(エスキス)というフレンチレストラン。

三人がいつも行くようなお店とはかなり違う落ち着いた感じだけれど、気取りすぎない、いい雰囲気の高級レストランだ。

待ち合わせの10分前に着いた松田を、30分前にすでに到着していたケンジが呼んだ。

眼鏡をかけて紺色のブレザーに赤い蝶ネクタイのケンジ。

「お前コナンかよ」

そう言われたケンジは蝶ネクタイのゆがみを直しながら

「松っちゃんのもあるよ」

そう言ってポケットからおそろいの蝶ネクタイを取り出して松田に渡す。

「え、俺はそれはいいよ~」

「だって高級フレンチだよ。さ、早く松っちゃんもつけてつけて」

「マジかー・・」

そう言いながらケンジから受け取った蝶ネクタイをしぶしぶ松田はつけた。

しばらくして現れたリカも今日はいつもより、メイクも服も大人っぽい雰囲気だ。

「わぁ、リカちゃんなんだか今日大人っぽいなぁ。うん、いいね、いい。ね、松っちゃん」

「お、おう」

「揃ったところでちょうどいい時間だし、さ、さ中へ参りましょう」

 

 

三人が案内されたのは、入り口から少し先の中央辺りのテーブル席。

静かにワイングラスを傾ける、品の良いスマートなジャケットを着なれた感じで身にまとった男性とシンプルなベージュのワンピースを着た女性の大人のカップルや海外旅行のお土産話に盛り上がる、メイクに抜かりの無い4,50代の女性4人のグループ、落ち着いたお店の雰囲気の中でもそれぞれのトーンで会話や食事を楽しんでいる。

 

「なぁ、俺たち浮いてないか?」

「本当、なんだか緊張しちゃうわ」

「大丈夫、大丈夫。だってリカちゃんはこの中で一番きれいだし、松っちゃんと俺にはコレがあるし」

と、ケンジは蝶ネクタイをつまんでみせた。

「いや、ケンジ、むしろ俺にはコレが浮いてるように思えるんだけど・・」

「もう、松っちゃん、大丈夫だってば。俺の見立てどうりばっちり似合ってるからぁ」

「ダイソーってホント便利だよね」

「100円かよ」

 

食前酒のシャンパンが三人のテーブルに運ばれてきた。

「はい、じゃあ、リカちゃん、20歳の誕生日おめでとう。」

「おめでと」

「二人ともありがとう。そしてこれからもよろしくお願いします。」

大きなプレートに品よく季節の野菜や白身の魚が盛られた前菜にはじまり、スープ、そしてメイン料理へと絶妙なタイミングで丁寧に一皿ずつ料理が運ばれてくる。白いプレートの上に思いのままに描いた素描のような大胆さと素材に対する繊細さ、Esquisseの料理はどれも芸術的で美しく、美味しい。緊張しながらも三人はいつの間にかこの非日常の世界に地上から3㎝浮いたような気分で引き込まれていた。

 

「素敵すぎてなんだか夢見てるみたいだわ。それにしてもケンちゃん、よくこんなお店知ってたわね。誰かとデートでもしたの?」

「してないしてない。リカちゃんの二十歳の誕生日だしさ、ほら19でも21でもなくて20歳の誕生日ってなんかちょっと特別な感じじゃん?だから、せっかくならさグイ~っと思い出に残る誕生日にしようかなと思ってさ。」

「うん、一生忘れられない誕生日になった。本当にありがとうね。」

口直しのソルベの後に肉料理、そして、クリーミーなブリー、綺麗なオレンジ色のミモレット、白と緑のマーブル模様でピリッと刺激的なロックフォールの三種類が少しずつ盛られたチーズ。

「チーズとワインてやっぱり合うんだね。こういうチーズにワインなんてなんだか急に大人になった気分だわ。初めてだけど美味しい。」

「だよね~」

「な、言ってもいいか。俺、ワインの味とかわかんねぇ。あと、カビのはえたチーズとかもちょっと・・」

「うん、私も本当はワインはよくわかんないんだけどね」

「あ、もうなに二人とも~。実は俺もわかんない」

「なんだよ、それ」

「だってさ、たまにはさ、こういうことしてみたいじゃん。」

「うん、そうね。だってハタチだもんね」

「そうそう、ハタチだから」

 

 

 

 

To be continued

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今日の二時間目は英語。すでに授業が始まっている2年3組の教室。

教室の後ろ側の引き戸をそーっと開け低い姿勢でそろりそろりと自分の席を目指して進んでゆくミチ。目指すミチの席は一番奥、窓際の後ろから2番目。

 Good morning, Michi. How are you?

 ミス・タニの声が、教室の後ろの真ん中あたりまで進んだミチに向かって飛んできた。

すくっと立ち上がったミチは

I’m good

と答えて席につく。

きちんとアイロンをかけられたシンプルな白いシャツにグレーのタイトスカート、眼鏡をかけて、ごくナチュラルなメイクしかしていないけれど、けっこう美人な英語教師、谷ユリコ、25歳。

ミス・タニとミチの交わすこのスタイルの挨拶は、まぁいつものこと。

 

 

「なぁ、ミケ、ミケは将来なにになりたいの?」

「え?まだよくわかんない」

夕暮れの道を並んで歩くミチとハルト。

ミチをミケと呼ぶ同級生でバスケ部の中川ハルトとは幼なじみで家が近いので、なんとなくいつもこうして二人で帰る。

 

「ハルト、はい、これ」

 

後ろから突然ハルトに話しかけてきたのは、1つ上の3年生でバスケ部の奈緒子。ハルトとは手紙のやり取りをしているらしく、可愛らしい封筒をハルトに手渡して

「じゃあね」

と、ミチたちを追い抜いていった。

ハルトはなぜか年上の女子に可愛がられていた。いつだったかも、二人が街を歩いていたらハルトに気付いた二十歳くらいの女性が

「またカッコいいレコードみつけたからいつでも借りにおいで」

と、ハルトに短く告げて軽く手を振って去って行った。

レコード、今どきレコードだなんて・・と、声には出さなかったけれど、そうミチは心の中でつぶやいていた。

 

「で、ミケ、なりたいものとかないの?」

「だから、まだわかんないんだって!」

なぜか少し強い口調で答えたミチ。

「え、なに怒ってるの?」

「別に怒ってないよ!」

「ほら、怒ってんじゃん」

「・・・怒ってないよ・・。ハルトはなりたいものとかもうあるの?」

「う~ん・・俺はサラリーマンとかは何か違うかなぁ・・とは思ってるんだけど・・俺もやっぱりまだよくわかんないや。あぁ、んじゃあな」

ミチの家の前に着いてハルトは軽く手を挙げてもう少し先の自分の家へと歩いて行った。

 

「ただいまー」

ガラガラーっと住居兼店舗になっている小さな3階建ての1階の居酒屋の木製の引き戸を開けて入ってゆくミチ。

「おかえりー」

カウンターの中から開店の準備をしているミチの母親の声が返ってくる。

遠野リカ、45歳。数年前に病気で亡くなった父、明(あきら)が生前営んでいた寿司屋の店舗を使い、今は居酒屋『あかり』としてリカの母、サクラと一緒に女二人で切り盛りをしている。

 

 

「ねぇ、松っちゃんさぁ、俺、実はさぁ・・好き、みたいなんだよね」

「え?お、おいちょっと待て、俺たちは友達だ。今までもそしてこれからもずっと永遠に友達だ」

「そう、そうなんだよねぇ、今までは俺もさ、ただの友達ってそう思ってたんだけどさ、なんかさ、好きみたいなんだよね。でさ、ひょっとして松っちゃんもそうなのかなぁって・・」

「いや、ケンジ、ごめん俺は別にそういうんじゃなくて・・」

「え?違うの?じゃあさ、俺、告白していい?リカちゃんに」

「え?あ、あ~・・だよなだよな、そうだよなぁ」

「松っちゃん気付いてたんだ、俺の気持ち」

「ん、あぁ、まあな」

「じゃ、いいよね。俺、リカちゃんに告白していいよね」

「あぁ、いいんじゃねぇの」

「でさ、来週リカちゃんの20歳の誕生日じゃん。その時に俺、告白しようと思う」

「おぉ」

「ビシッと決めてさ、いい感じのレストランで、こうディナーなんか食べながらさ、良さげなタイミングで薔薇の花束とか出しちゃうワケよ。どうよコレ。いいよね、いいよね?」

「いいんじゃねえの」

「じゃあさ、レストラン予約していいよね?三人分」

「ちょ、ちょ、ちょっと待て。お前そのタイミングに三人ておかしいだろ」

「だってさ~、なんかさ~二人だけって、いつもと違って緊張しちゃうからさ、お願い、松っちゃんも一緒に行こうよ~。ね。きっと美味しいよ~高級フレンチのディナー。ね、だから行こうよ~。ね、ね、行ってくれるよね?」

「う~ん、しょうがねぇなぁ。その代わりお前のおごりな。」

「うん、そこはもちろん俺がビシッと」

「でも話がまとまったら俺は帰るからな」

「松っちゃんありがと~」

 

 

 

 

To be continued・・・

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