モーズレイのガイドラインによる「抗うつ剤と自殺傾向」 | kyupinの日記 気が向けば更新

モーズレイのガイドラインによる「抗うつ剤と自殺傾向」

一般に向精神薬に限らず薬には副作用が必ずあると言ってよく、向精神薬に関しては、昔は「副作用もない薬は効果もない」などと評されていた。

それでもなお、古い世代の向精神薬と現代の向精神薬の大きな相違の1つに、副作用の減少が挙げられる。

薬には副作用が容認されやすいカテゴリーにあるものとそうでないものがある。例えば抗がん剤などはかなり重篤な副作用があったとしても、最終結末が死亡など重篤なこともあり一般の人に受け入れられやすい。

一方、汎用される胃薬や、長期に服用せざるを得ない降圧剤などに重大な副作用が認められた場合、マスコミでセンセーショナルに取り上げられやすい。

向精神薬の副作用が比較的辛い評価になりやすいのは、1つは精神疾患は癌のように死に至りやすい疾患ではないことがあるが、もう1つは精神疾患と服薬の必要性がかみ合いにくいこともある。

病識がなく服薬の必要性も本人がわかっていない場合、副作用は重大なことに捉えられる。必要でないものを飲んで副作用なんてとんでもないといったところである。

本人がわかっていなくても家族が服薬の重要性を理解していることはあるし、精神疾患が死に至らない疾患という理解も間違っている。それは精神疾患には自殺という重篤な結末もあるからである。また、自殺に至らなくても、「人生として成立していない」という重篤な病態もある。

モーズレイのガイドラインの記載によるとうつ病では、全く無治療に対する抗うつ剤のNNTはなんと3である。またプラセボに反応する人もいるので、プラセボに対する実薬のNNTも5と記載されており非常に有用なことがわかる。

ここでいうNNTとは(過去ログから再掲)
薬にはNNT(Number needed to treat)という概念があり、「治療必要例数」と呼ばれている。これは言い換えると、1人をあるエンドポイントから救うために何人を要したか?というもので、一般的に小さいほど効果が高いと言えるが、重要かどうかの吟味はエンドポイントの内容にもよる。

モーズレイのガイドラインには「抗うつ剤による自殺傾向」という記載がある。あの向精神薬に辛いモーズレイでさえ以下のように記述しているのである。

抗うつ剤治療は特に思春期、青年期の患者において、希死念慮ないし自殺行動に関連するとされており、このようなリスクを患者に注意喚起すべきである。全ての抗うつ剤に自殺関連の副作用があり、うつ病の適応がない市販薬、例えばストラテラにも同様の問題がある。以下の点で注意すべきである。

1、ある患者群に対する自殺傾向の相対リスクはプラセボより高い可能性があるが、絶対リスクは非常に小さい。

2、うつ病を治療することが、希死念慮や自殺行動を防ぐ最も効果的な方法である。

3、現時点で最も効果的なのは、抗うつ剤治療である。

ほとんどの場合、自殺傾向は抗うつ剤治療で大きく減少する。しかし、ある抗うつ剤で希死念慮や悪化が生じた患者では、その後の治療でも同じような問題が起こることが多い。


参考
リーマスとNNT(Number needed to treat)
人生として成立していないほどの精神状態