精神科ではSOAPで書かれたカルテをあまり見ないこと | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科ではSOAPで書かれたカルテをあまり見ないこと

過去ログではカルテについてたまに触れている記事があるが、最近はほとんどアップしていない。今日の話題は、

精神科ではSOAPで書かれたカルテをあまり見ないこと。

全然ないわけではなく、過去に2回だけそういうカルテを見た。だから、かなり少ないのではないかと思う。たぶん、ほとんどの精神科医はそのようなカルテの記載をしないのである。

まず総論から。

精神科の入院カルテでは、最初のページの裏表紙くらいに病歴を書くスペースがあり、ここに主訴を含め、これまでの経過が記載されていることが多いが、そうでないものもある。

忙しすぎる時、僕は入院カルテの本文(いわゆる2号用紙)の最初のページに概略を書いているが、時間がある時にパソコンで詳しい病歴を記載するようにしている。パソコンで書かないと、汚すぎて読めないからである。

パソコンで整理する際には、生活歴、障害年金の受給の状況、キーパーソンが誰か、学歴、職歴、家族歴、内科・外科の既往症、合併症なども記載する。あと、B及びC型肝炎などの有無や身体所見である。

入退院が何度かある場合、治療経過も書いておくが、書かない場合もある。できれば長くだらだらしたものにしたくないからである。1ページで書ければ理想であるが、往々にして2ページ目まで行く。3ページというのは過去に一度もなかったと思う。

実は精神科の場合、病歴に加え精神所見を記載しなくてはならない。しかし、今は僕はこれ(詳細な記載)をあまりしていない。

この精神所見の書き方については、研修医時代にかなり詳しく教わった。たぶん精神科医以外の医師では、この精神所見がほとんどまともに書けないと想像する。

精神所見には書く順序があり、ビデオカメラで言うと、遠くから徐々にその人に近づいていくような流れで記載する。だから、幻聴とか妄想などの精神所見が最初から出てきたらおかしい。まず遠くからでも見えるものから記載していくのである。

詳細は省略。

駆け出しの頃は、まずこの精神所見の書き方を練習しなくてはならない。これは「精神症状」と書くべきではないかと思うかもしれない。これは「精神所見」でないといけないんだそうだ(謎)。

このような決まりごとには(謎)というのはかなりあり、時々オーベンに質問していたが、理由があるものと、「どうしてもそうでないといけない」と言う決まり事の2種類が存在した。当時のことは、今では良い思い出である。

外来カルテは入院カルテに比べ時間もないこともあり、より簡潔に書かないといけない。主訴は当然として、現病歴だけは必ず記載する(初診時)。その後、家族関係や家族に精神疾患がある人がいればできる限りの範囲で聴いておく。家族歴は精神科では非常に重要である。

実際、外来だけの人は入院歴のある人に比べ詳細に取られていないことも多い。これは必ずしも時間がないだけでなく、「詳細にわたり聴くことが本人に負担になることがありうるから」である。

病院によると、予診をPSWや看護師に取らせるところもある。大学病院ではその流れが多く、研修医が練習も兼ねて予診を取っていた。

しかし、僕はそうしない方針である。それは患者さんが同じことを2度話すようになることと、詳しく聴くべきか、あるいはそうしない方が良いのか、PSWや看護師では判断できないことがあるからである。

今日のタイトルは、再診の際のカルテの記載の仕方。精神科以外では、いわゆるSOAP形式でまとめられている記載もあるが、他科でもそうでないカルテも多い。

他科のカルテでも、精神科医のカルテのようにルーズ?なものも多いのは、リエゾンをしているとよくわかる。他科のカルテが精神科のそれと決定的に異なるのは、

現病歴の物語性の欠落。

である。例えば、

47歳 高血圧
52歳 胃潰瘍
64歳 脳梗塞
72歳 腎不全

と箇条書きで書かれているだけというものもある。そういう時は、他の病院からの紹介状や看護師のサマリーの方がよほどわかりやすい。それに比べ、特に才能のある精神科医の現病歴や精神所見の記載はある種の芸術だと思う。

話が逸れてしまったが、いわゆるSOAPとは、簡単に言うと、

S:主訴
O:客観的なデータや検査所見
A:アセスメント
P:プラン、アセスメントに対応した治療計画


である。精神科でこういう風に書き辛いのは、たぶん、精神科治療における時間の流れの遅さも関係している。治療計画なんて、最初からそうそう変わるものでもない。

SOAPで書かないことにより、精神科のカルテが自由度を増しステレオタイプにならないメリットはあるが、ルーズになりやすいのも難点だと思う。

過去ログに、電子カルテになると、ちょっとした落書きのような記載が減り、ステレオタイプに陥りやすいと言う記事がある。

参考
精神科医のカルテ
激しい幻聴のある強迫神経症
カルテは文学的に書いてはならない