広汎性発達障害は真剣に治療しようとすると滅茶苦茶な処方になりやすいという話 | kyupinの日記 気が向けば更新

広汎性発達障害は真剣に治療しようとすると滅茶苦茶な処方になりやすいという話

広汎性発達障害の人たちの呈する精神症状は多彩なので、個々に対応していると、薬の種類がやたら多くなり、遂には大変なことになる。

つまり、多剤併用処方になりやすい。

この記事の多剤併用は、精神医学の狭義の?多剤併用とは異なり、多くの種類の薬という意味で使っている。(抗精神病薬だけでなく抗てんかん薬、ベンゾジアゼピンなど)

僕は広汎性発達障害の人たちで、薬物治療をせざるを得ないほどの重い精神症状がある場合、ある程度の多剤併用はやむを得ないという考え方である。例えば、

この子が家にいると、家族が一睡もできない。

という訴えを家族から聞くことがある。このような状態は、相談を受けた以上、放置はできないし、薬なしで急速に治療することは難しい。またうまく薬が奏功し家庭での適応が良くなると非常に感謝される。

サイエントロジーの人々はこのような現実から目を背けている。

彼らを薬物治療する際には、いくつかの精神症状を同時に改善する可能性のある薬を選ぶようにする。それは多剤併用が酷いものにならない1つの方法である

広汎性発達障害に幻聴(器質性幻聴)が伴う場合、一般の抗精神病薬を処方しても、砂に水を撒くがごとく全く効果がないことがある。そのような時、あまり同じ薬で深追いしない方が良い。

しかし当初は逆の反応が出ている(賦活だけとか)ことがあるので、ある程度の処方期間は必要と思う。この辺りの判断は熟練を要す。中毒疹が出たとか、QT延長が出現した場合は例外であり、すぐに中止する。

広汎性発達障害による器質幻覚(幻視・幻聴)は、統合失調症の人の内因性幻覚(ほとんどが幻聴)に比べ、抗精神病薬が効果的でないこともしばしばである。

これは脳全体の機能のバランスが崩れていることも大きいように思う。

なぜそう思うかと言うと、広汎性発達障害の急性期の増悪が改善すると、しばしばターゲット症状以外の精神症状も改善するからである。過去ログで、アナフラニールで幻覚が改善したのはこのパターンである。

当初、多剤になったとしても、次第に薬の種類を減らすように心がける。特に不安に対する効果を持つ抗うつ剤、抗精神病薬、抗てんかん薬を追加した機会に、できるだけベンゾジアゼピンは減量したい。

多剤併用ではあるが、極めて病状が安定しているケースは、最も対応に迷う局面である。このような時は、その人がどのようなレベルにあるかを考慮する。例えば就学していて、このままいけば無事卒業できそうな時は、薬を変えて悪化させるリスクはとらない。つまり減量は自重すべきだ。ただし明らかに無視できない副作用が出ている時はその限りではない。

広汎性発達障害の人たちに抗精神病薬が重く入っている場合、長期にわたり服薬していると、ジスキネジアやジストニアが出現しやすい。

広汎性発達障害の人たちは一般に向精神薬の副作用に弱い。これは向精神薬に弱いと言うより、化学物質全般に一般の副作用やアレルギーが出やすい傾向を示している。


抑うつのスコアがいくらとか、不安の程度がこれくらいあるとか、また幻視・幻聴もあるなど、全ての精神症状の面倒を見るのは、つまりは縦割り行政のようなもので相互の連携が乏しい。

過去の記事に以下のような文章がある(「3人目の女性患者」から。彼女は広汎性発達障害ではないが)。

経過中、抑うつがひどい時期もあったが無視した。これはそういうことを合わせてしようとすると、局面が複雑化するから。二兎を追うもの一兎も得ずという結果になりかねない。もともと、この治り方の鮮やかさを見ると、抗うつ剤が悪影響を及ぼした可能性もある。結局、8月の終わり頃には、全く症状がなくなっていた。表情も自然になっており、プレコックス感もなかった。

このように特定の精神症状を重要視しない治療方針もあるのである。

また、過去ログの「謎の器質性精神病①」から始まる一連の記事も、のらりくらり治療しているように見えると思う。それは処方の複雑化を避ける意味もあったのである。(それでもかなり多剤だが・・)

特に広汎性発達障害は、精神症状の長期的趨勢を考慮し想像力を働かさせながら薬物治療を行うべきだ。精神症状が複雑化したり、(器質性)荒廃のように見える病態を呈した場合、その地点からは更に治療が難しくなるからである。

参考
治療イメージについて
短期決戦に構える
器質性妄想とトピナ