全然、言うことを聞かないじゃないか! | kyupinの日記 気が向けば更新

全然、言うことを聞かないじゃないか!

過去ログで「向精神薬は相対的なもの」と言う話が度々出てくる。

ある精神疾患にはふさわしい用量があり、病状の推移により必要な量も変わっていく。病期が変われば元々必要だった薬が必要でなくなることもある。

逆に、まだ十分な量が必要な時に、薬を減らしすぎたり止めてしまうのは、病状を複雑化し予後を悪くする。

稀に、向精神薬中止後しばらくして完全に治癒に至る人がいる。このような人は向精神薬を止めたから治ったのではなく、「自然治癒もありうる病型だった」と言える。

こういう人がいるから、「向精神薬有害説」のようなものが生じるんだと思う。

その思考経過には、自分以外のいかに多くの人々が、向精神薬の恩恵を受けているのかが理解できていない。つまり想像力が乏しいのである。

①向精神薬の薬効
②その副作用


のバランスの上に精神疾患の改善がある(他に、カウンセリング、デイケア、訪問看護などももちろん関与する)

上記のような完全治癒に至る人は、おそらくADHD系の精神疾患(うつ状態や双極2型)にみられるように思う(個人的意見)。

僕の一部の患者さんは待合室でお互い情報交換しているようで、他の患者さんの病状について結構知っていることがある。

「○○さんは最近調子が良いみたい」という話が診察中に出てくることがあるから。

しかし、他の患者さんは診断も違えば薬も違う。だから普通は同じような治療にはならない。

ある時、ちょうどその話が出た時、○○さんは僕の言う通り薬を飲んでくれるが、

君は全然、言うことを聞かないじゃないか!

という話になった(2人で大笑い)。

彼は数年前より服薬量が3分の1になっているが、減量は受け入れるのに、増量は全く受け入れてくれなかった。これでは試行錯誤にならない。

しかし、この日でさえ処方変更は難しかったのである。

その数週間後、あまりに調子が悪いという訴えがあり、やっと僕が考えていた処方変更が受け入れられた。

単純な増量であったが、それでも幻覚が急に半分以下になったという。しかも副作用も全くないらしい。

彼には僕は信頼されていると思うが、やはり自分で服用する薬は特別なものなのだろう。