リフレックスの便秘についての考察 | kyupinの日記 気が向けば更新

リフレックスの便秘についての考察

リフレックスの副作用で便秘を訴える人がいる。酷いものではないけど、時々そういう人がいるので、便秘薬を併用することがある。承認前のメーカーの説明では、12.7%の発生率となっている。これはリフレックスの副作用としては、決して低くはないものである。(リフレックスでは10%を超える副作用が少ない)

リフレックスの10%を超える副作用
便秘    12.7%
倦怠感   15.2%
口渇    20.6%
アラニン・アミノトランスフェラーゼ増加 12.4%
体重増加  10.3%
傾眠    50.0%

  
この便秘の副作用は旧来の抗うつ剤的だと思う。(口渇も同様)

一般に古典的抗うつ剤の服用の際に便秘が起こる理由は抗コリン作用の役割が大きい。アセチルコリンは副交感神経を刺激し、徐脈傾向になり、消化管の動きを活性化する。だから、これを抑制すると消化管の動きが弱くなり、唾液も減少する。だから特に古典的3環系、トリプタノールでは便秘や口渇が生じやすい。抗うつ剤のうち最強の抗コリン作用を持つ薬物はたぶんトリプタノールである。消化管の動きを止めすぎると、時にイレウスが起こることもある。

ところで、過去ログでタバコが便秘を改善するという話が出てくる。タバコに含まれるニコチンは少量で神経節を興奮させ、大量で遮断する作用を持つ。だから一般的に喫煙する程度では、向精神薬を服用する人の便秘は緩和する。実際、喫煙しない患者さんは便秘が悪化する傾向があると思う(たぶんイレウスの発生率も上昇する)。

タバコはトータルでは肺癌や血管性の問題を除いても、精神疾患ではマイナスの方が大きい。なぜなら抗精神病薬の効果を下げ、口渇などの原因にもなる上(多飲水を来たす)、たぶん悪性症候群の発生率を上昇させるからである。(1つは抗精神病薬を結果的に多めを飲まないといけないことと関係がある)

違法薬物、ヘロインは酷い便秘になることで有名である。これは上に書いた抗うつ剤とは機序が異なる。ヘロインは胃や肛門の括約筋やS状結腸を収縮させる。S状結腸が酷く収縮すると腸の蠕動が肛門方向に円滑に動かなくなるので便が出なくなる。いわゆる「興奮性結腸」の便秘である。

一般的に、女性ではこのタイプの便秘が良くみられ、左側の腹部が張って苦しい。腸は出口辺りでは便は左側通行だからである(解剖学的なことを言っている)。このような便秘は下手に刺激性の下剤を使ったりすると、一層、便秘や疼痛が酷くなるので、専門医に相談すると良いと思う。普通、このようなタイプの便秘は桂枝加芍薬湯(ツムラ60番)が良い。桂枝加芍薬湯はお腹を暖め、腸の興奮を緩和し、腹痛を改善するからである。

一般に、抗うつ剤のうちSSRIは便秘の副作用が出にくい。これは古典的、3環系、4環系とは大きな相違である。それどころか下痢の副作用がある(特にジェイゾロフト)。ただ、パキシルは抗コリン作用を持つため、口渇や便秘がまだ出現するタイプのSSRIである。

SSRIで下痢が生じる理由は、セロトニンが増加し5-HT3受容体を刺激することが大きい。ジェイゾロフトはこの作用のために下痢が生じやすいが、デプロメールは下痢はそこまで多くなく、悪心、嘔吐の原因になっている。微妙な相違があるように見えるのは不思議だ(悪心、嘔吐、下痢は一連のものである)。リフレックスは自らが5-HT3受容体を遮断し、セロトニンの影響が及ばないようにしているため、悪心や下痢が出現しにくいが、それが逆に便秘を生じやすくしているのかもしれない(うつ病ではそれだけで便秘になるので、消極的に副作用が出ているといったところ)。

そんな風に思う理由は、もともとリフレックスは強い抗コリン作用を持たないからである。動物実験などの結果を見ても、そんな風である。総合的にみて、リフレックスの抗コリン作用は中程度といったところである。

リフレックスを処方していると、これを飲むと下痢になると言う人が時々いる。これもリフレックスの副作用で、実際、承認前の調査では3.0%と記載されている。この下痢はリフレックスのSSRI的要素なのかもしれない。(人によればリフレックスが5-HT3受容体に結合するだけで悪心や便秘が出現するように見える。過去ログを参照)

参考
タバコ
マイルドセブン1日40本
狩猟民族と農耕民族
リフレックスの5-HT3遮断作用