4月16日 魅力満載の京フィル定期! リレーコメント no.7 有馬純寿 | 京都フィルハーモニー室内合奏団のブログ

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1972年に結成。2022年で創立50周年を迎える。
一人一人がソリストの個性派揃いのプロの合奏団。

 4月16日の京都フィルハーモニー室内合奏団の演奏会で世界初演される山本和智さんの《韻律の塔》のエレクトロニクス・パートを担当いたします有馬純寿です。

 室内オーケストラの演奏会にも関わらずエレクトロニクスとは? と思われる方も多いと思いますので、現代音楽作品における電子音響、そして今回の作品について少し解説させていただきます。

 

 1940年代後半から50年代にかけて、テープレコーダーに録音した音を編集して音楽を作る「ミュジック・コンクレート」や電子回路から生み出された音を元に作品を作る「電子音楽」という新たな音楽の技法が現代音楽の世界に登場しました。これまでの楽器や声に加え、電子音響による新しいサウンドは作曲家たちを刺激し、以後多くの作品が生み出されていきます。

 当初これらの作品は、多くの編集作業を経て最終的にテープに録音されたものが完成形でしたが、その後、さまざまな音響機器を演奏の現場で用いて声や楽器の音をその場で加工していく「ライヴ・エレクトロニクス(live electronics)」という手法が登場していきます。80年代に入るとコンピュータが音楽制作や演奏に導入されはじめ、ライヴ・エレクトロニクスでもコンピュータによるリアルタイムでの音響加工が行われるようになります。音響をリアルタイム処理するには高い処理能力が必要となるため、当初は専用に開発されたコンピュータが使用されていましたが、コンピュータの性能が飛躍的に向上した現在では、一般的なコンピュータでもかなりの音響処理が可能となりました。そうした背景もあり、現在では、コンピュータを用いたライヴ・エレクトロニクスは、一般的なものとして多くの現代音楽作品で取り入れられています。

 こうした作品では、コンピュータや音響機器を操作する専門家が不可欠となりますが、それらを担う人は、楽譜を見ながらスコアの指示にしたがい各種機器を操作していくほか、全体的な音響バランスも管理しないとならないので、音響に関する専門知識はもちろん必要ですが、それ以上に音楽、とくに現代音楽に関する知識や理解が必要となります。

 

 山本和智の《韻律の塔》は「女声、アンサンブルとライヴ・エレクトロニクスのための」という副題にもあるように、コンピュータをリアルタイムで用い、ソプラノが発するさまざまな声を素材に、たとえば残響をつけたり、まったく異質な音響に加工するなど20種近い数のエフェクト(効果)を曲の進行にあわせて切り替えていくほか、事前に準備しておいた音素材の再生などさまざまな「演奏」を行いっていきます。

撮影:松蔭浩之

 これまでにも山本さんの作品のエレクトロニクス・パートを何曲も演奏してきましたが、この《韻律の塔》では、使用するエフェクトの種類も多いほか、ソプラノのソロ部分も含め、曲全体で100近い操作を行うなどもっとも規模の大きな作品で、エレクトロニクスのパートはソプラノとともに第二のソリストとしての役割を担っています。

 

 ソプラノの声がどうのように変化し、室内オーケストラとともにどのような響きを展開していくか、ぜひ会場でお聴きください。

 

有馬純寿