今回、反復着床障害があり、最終的に妊娠に至った患者と妊娠に至らなかった患者について、その患者の特性および体外受精周期の特性を比較した論文を紹介いたします。

 

〜IVFにおける反復着床不全:最終的に妊娠に至る周期の特徴〜
Recurrent implantation failure in IVF: features of cycles that eventually ended in conception.
Bord I et al
Arch Gynecol Obstet. 2016 Apr;293(4):893-900. doi: 10.1007/s00404-015-3954-0. Epub 2015 Nov 11.

体外受精周期の新鮮胚移植が3回以上着床に至らなかった35歳未満の患者を対象とした後方視的研究です。FSH値、刺激周期の特性、受精率、移植後の黄体補充の種類、子宮腔の評価/分析、前周期掻爬(内膜スクラッチ)とその後の移植転帰の関係、妊娠率について
184症例、体外受精854周期について分析した結果です。
卵巣予備能力および排卵誘発剤注射の効果で妊娠に至った症例と、至らなかった症例に統計的有為差は認められませんでした。最終的に妊娠に至った周期の特徴は、卵巣刺激期間が短いこと(10.87±2.17 vs 11.34±2.33、p<0.05)、hCG投与日のエストロゲン値が高いこと(1661±667 vs 1472±633pg/ml、p=0.009)、顕微授精のよる受精卵数が多いこと(5.04±4.29 vs 3.85±3.45、p=0.002)、移植可能な胚が多いこと(5.98±3.89 vs 5.12±3.31、p=0.002)であった。エストロゲンおよびプロゲステロン併用による黄体補充と子宮内膜スクラッチを併用した後の採卵周期と妊娠率上昇の間には正の相関が認められました。


妊娠に至った周期の特徴
1) 採卵までの卵巣刺激期間が短い
2) hCG投与日のエストロゲン値が高い
3) 受精卵数および移植可能胚が多い
4) エストロゲンとプロゲステロン製剤併用の黄体補充
5) 子宮内膜スクラッチ(前周期掻爬)

妊娠率に差がなかった項目
1)卵巣予備能力およびFSH値
1)3D超音波で子宮形態異常(一番多いのが筋層内筋腫)
 →子宮内腔にゆがみなければ妊娠率に差なし
2)染色体核型
3)子宮鏡検査
  →異常なし群の妊娠率11.3%、異常あり群の妊娠率6.8%と
   異常のない症例のほうが妊娠率は高かったが有意差はなし
4)試験的腹腔鏡検査
5)凝固異常症例に対する抗凝固療法
6)hCG投与日の内膜の厚さ
7)排卵誘発剤の種類(HMG、FSH、rFSH製剤)
8)採卵数
9)黄体補充の投与方法:筋肉注射と腟座薬

結論として、当たり前ですが反応のよい周期に妊娠に至ること、しっかり黄体補充することが重要です。また、なかなか着床に至らない場合、子宮内膜スクラッチ(前周期掻爬)が有効の場合もあります。当院でも、前周期掻爬を施行しております。また、良好胚盤胞を凍結融解胚移植しても妊娠に至らない着床障害症例では25%で、着床の窓のずれがあるとの報告もあり、当院では、前周期掻爬を兼ねた子宮内膜受容能検査(ERA)も行っています。

子宮内膜受容能検査(ERA)について

http://ivf-kyono.jp/medical/era.php

医師部 戸屋真由美

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出典は J Assist Reprod Genet, 2016、デンマークからの報告です。 
2004年の凍結融解卵巣移植による初めての出産報告から12年後の2016年に86名の出産、9名の妊娠継続が報告されました。 
論文の中で40名の赤ちゃんについて報告されていますが、出生は平均 妊娠39週、3168gで生まれて皆さん健康です。 

移植後、半数が自然妊娠でした。 
95名の内、93名は緩慢凍結法によるものでした。 

私達の最近の研究ではガラス化法で凍結して、融解して移植 直前の卵巣組織切片の凍結保護剤の濃度を調べましたが、 
完全にwash outされず、残留しており、臨床に用いるべきではないと考えています。 
また、デンマークやドイツの搬送システムを導入し、30時間以内であれば日本中どこからでも、東京の卵巣組織保存センター(HOPE)に4℃で搬送し、HOPEで凍結保存、原疾患が治って、移植して妊娠を希望された場合、それを-196℃で搬送、地元で移植し、妊娠が可能になります。

The woman stays-the tissue moves.

まさに患者中心の医療と考えます。


もちろん卵子や受精卵の凍結も積極的実施しています。 
ご相談・ご質問はHOPEまでお願いします。

http://hope-kyono.com/
Tel +81-3-6408-4720 
Fax +81-3-6408-4702 
hope@ivf-kyono.com 


京野アートクリニック高輪、京野アートクリニック品川 
京野アートクリニック(仙台市) 

理事長 京野廣一

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Ovarian Stimulation for In Vitro Fertilization and Long-term Risk of Breast Cancer

JAMA

 

 乳がんは女性に発症する癌としては罹患率1位です。芸能人や著名人の乳がん闘病生活が話題にもなっています。乳がん発症のリスク因子に女性ホルモン(エストロゲン)があげられることから、体外受精を行っている患者からも乳がんの発症と治療との関連を質問される事があります。今回紹介する論文はオランダで行われた体外受精と乳がん発症の関連を調査した、後ろ向きコホート研究(過去に遡って要因と疾患発症の関連を調べる研究)の結果です。この研究はJAMA(The Journal of the American Medical Association)という、非常に権威の有る医学雑誌に掲載されました。内容は以下の通りです。

【対象】
体外受精グループ:オランダの12のIVFクリニックで通常の卵巣刺激を用いた体外受精を受けた女性19,158名
治療期間1983~1995年
平均フォローアップ期間23.5年
平均フォローアップ終了年齢53.8歳
未経産38%
非体外受精グループ:オランダの2つのクリニックで一般不妊治療を受けた女性5,950名
治療期間1980~1995年
平均フォローアップ期間20.7年
平均フォローアップ終了年齢55.3歳
未経産28%

【方法】
体外受精グループの乳がんリスクを一般集団と非体外受精グループと比較(後ろ向きコホート研究)

【結果】
① 体外受精グループで619名、非体外受精グループで220名の乳がん発症を認めた。
② 一般集団と比較して体外受精グループでの乳がん発症リスクの上昇なし。
③ 非体外受精グループと比較して体外受精グループの乳がん発症リスクの上昇なし
つまり、体外受精を行っても乳がん発症リスクは上昇しないという結果でした。

それでは、治療開始からの期間、体外受精回数、採卵数、出産歴との関連はどうでしょうか。
④ 治療開始20年以上でも乳がん発症リスクの上昇なし。
⑤ 採卵回数が7回以上で有意に乳がん発症リスクが低下する(ハザード比0.55)。
⑥ 採卵数4個未満の患者は有意に乳がん発症リスクが低下する(ハザード比0.77)。
⑦ 経産婦では有意に乳がん発症リスクが上昇(ハザード比1.35)するが、これは体外受精グループと非体外受精グループ間で有意差なし(つまり、治療によらず妊娠自体がリスクを上昇させる)。

 これらの結果はこれまでの報告と反するものもあります(経産婦はリスクが低下する、FSH製剤はリスクを上昇させる)。しかし、これだけ大規模で長期にわたる解析結果は信頼に足ると考えられます。採卵回数が多いとリスクが減ることに関してはhCG投与とプロゲステロン投与が関与している可能性が挙げられています。現時点では私たちは乳がんのリスク上昇を心配すること無く、生殖医療を提供できると考えます。

 

京野アートクリニック 院長 五十嵐秀樹

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Am J Obstet Gynecol. 2016 Dec;215(6):684-703. doi: 10.1016/j.ajog.2016.09.075. Epub 2016 Oct 4.

Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure.

Moreno I, Codoñer FM, Vilella F, Valbuena D, Martinez-Blanch JF, Jimenez-Almazán J, Alonso R, Alamá P, Remohí J, Pellicer A, Ramon D, Simon C1.

 

 「子宮内膜の細菌環境が不妊治療に及ぼす影響について」

 人間の体重の1-3%は細菌と言われています。人間はたくさんの細菌と共存して、健康を保っています。

 最近は、腸内フローラ、皮膚フローラについてTV番組でよく取り上げられています。腸内フローラが乱れると、便秘や下痢だけでなく生活習慣病や老化などにも関係すると言われています。肌フローラが乱れると、肌荒れや吹き出物などを引き起こすと言われています。今回は、子宮内膜にいる細菌が、生殖に大きな影響を与えているかも知れないという論文です。

 女性の生殖器における細菌の役割で、よく知られているのが膣の自浄作用です。
健康な膣内にはラクトバチリスという常在菌がおり、女性ホルモンの働きで作られるグリコーゲンを発酵させて乳酸を作り、これにより膣内を酸性に保ちます。このことが、大腸菌などの病原菌の繁殖を防ぎ、膣内を清潔に保っています。膣の細菌環境の乱れは、流早産などの産科合併症と関係があるとされています。

 現在、子宮内膜の細菌についてはあまりよくわかっていません。この論文では、従来の細菌培養とは異なり、次世代シークエンサーという遺伝子を調べる機械で、子宮内膜から採取した組織にいる細菌のDNAを調べ、子宮内膜にどのような細菌環境があるかを調べました。この研究グループは当院で行なっているERA(子宮内膜受容能検査)を依頼しているグループで、ERA検査と同様の検体を使って研究を行っています。

 論文で調べているのは以下の3点です。
 ①子宮内膜と膣の細菌環境の違い
 ②子宮内膜の細菌環境が性ホルモンの制御を受けているか
 ③子宮内膜の細菌環境が及ぼす生殖医療 体外受精への影響

 論文の研究方法と結果です。
 ①13人の妊娠歴のある女性から黄体ホルモン投与後2日目着床期前と7日目着床期後の細菌を調べた結果、膣と子宮内膜の細菌環境はラクトバチリス優位であることは共通ですが、その割合や他の細菌の種類などは差異があり、異なる細菌環境でした。
 筆者らは他の論文を参考に、ラクトバチリス優位な子宮内膜(ラクトバチリスが90パーセント以上、lactobacillus dominant microbitoa):LD群とラクトバチリスが優位ではない子宮内膜(90パーセント未満である)非LD群に分類しました。

 ②22人の妊娠歴のある女性から44のサンプルをとり調べました。黄体ホルモン投与後2日目着床期前と7日目着床期後の細菌を調べました。結果、両者に有意差はなく、子宮内膜の細菌環境は性ホルモンによる制御は受けていないという結果でした。
  

 ③体外受精中のERA検査子宮内膜受容能検査で受容能ありとされた女性35人から41サンプルを調べました。非LD群では体外受精における着床率、妊娠率、妊娠継続率、生児獲得率が有意に低くなりました。
 
 LD群 vs 非LD群

着床率       60.7vs23.1%      p=0.02
妊娠率       70.6vs33.3%      p=0.03
妊娠継続率   58.8%vs13.3%    p=0.02
生児獲得率   58.8%vs6.7%     p=0.002

 論文では、子宮内膜にも膣と同様の自浄作用あるのではと、子宮内膜の酸性度を測定しましたが、LD群と非LD群では差がなく、非LDの細菌が起こす炎症が病因ではないかと筆者らは推測しています。

 最後に、今回の研究は、子宮内膜の細菌環境が不妊原因の一つであることを示唆しています。論文では治療法については記載されていませんが、今後、治療法についての研究が進むだろうと考えられます。子宮内膜の細菌環境の検査は、まだ日本の臨床の現場では実用化には至っておりません。この分野の研究が進み、臨床の患者様の福音になることを期待しています。

 

京野アートクリニック仙台  小泉雅江
 

論文紹介

高輪 橋本朋子

Semen quality of young adult ICSI offspring: the first results                     

Human Reproduction, pp. 1–10, 2016 doi:10.1093/humrep/dew245 Hum. Reprod. Advance Access published October 5, 2016

 

男性不妊症で治療される方から、自分の体質(男性不妊)が子供に遺伝してしまうのか、というご質問を受けることがあります。ICSI(顕微授精)が男性不妊症の治療として登場し初めての妊娠出産に成功したのが1992年(ベルギー)で、以来その手技が世界中に広まり有効な治療法として定着したものの、児の長期的な予後についてのデータはまだありませんでした。ICSIにより出生した児は、父親の男性因子が原因でICSIが行われ妊娠に至ったため、特に男児においてはその父の男性因子を受け継いでいる可能性が示唆されます。以前、それらICSI出生男児の思春期発育ならびにセルトリ細胞・ライディッヒ細胞機能が正常であることは報告されましたが、これまで彼らの精液所見については情報がありませんでした。

世界中でICSIが行われはじめた最初期の出生児がやっと成人期を迎え、漸く彼らの生殖能力について調査が可能となったということで、本論文はベルギーからの報告です。

 

父親が男性不妊症であったためICSIが行われ、18-22年前に出生した若年男性の精液所見はどうだったでしょうか?

結論からいうと、ICSIにより出生した若年成人男性54名の精液所見は、自然妊娠により出生したコントロール男性に比べ、平均精子濃度、総精子数ならびに総運動精子数において有意に低いという結果がでました。

本研究は2013年3月から2016年4月まで、ベルギーのブリュッセル大学病院において、射出精子を用いたICSIにより妊娠・出生した18-22才までの若年成人の生殖能力および代謝機能に注目する大規模なフォローアップ研究の一部として施行されました。縦断的にフォローされたコホートの一部として若年成人ICSI出生男性と、横断的にリクルートされた自然妊娠により出生したコントロール集団の間の、身体検査(泌尿器科医による診察)および精液所見が比較されました。

若年成人ICSI出生男性54名と自然妊娠出生男性57名の1回の精液検体の結果が報告されました。各若年成人の健診結果はアンケート方式で完成されました。データは多重線形回帰、多重ロジスティック回帰分析により分析され、共変量について調整が行われました。さらに、ICSIを行った父親たちのICSI治療時の精液所見との相関が分析されました。

若年成人ICSI出生男性の検査結果中央値はそれぞれ、精子濃度(1770万/ml)、総運動精子数(3190万)、総運動精子数(1270万)であり、自然妊娠により出生した男性(それぞれ3700万/ml、8680万、3860万)の所見よりも低い値を示しました。総運動率、前進運動率、正常形態率、精液量については2群間に有意差を認めませんでした。交絡因子(年齢、BMI、性器奇形、射出から検査までの時間、禁欲期間)を補正した後も、ICSI出生男性と自然妊娠出生男性との間の統計学的有意差は存在し、後者では前者に比べ約二倍の精子濃度(比率1.9、95%CI 1.1-3.2)、前者は後者に対し二倍低い総運動精子数(比率2.3、95%CI 1.3-4.1)ならびに総運動精子数(比率2.1、95%CI 1.2-3.6)を示しました。さらに、自然妊娠出生男性に比べ、ICSI男性はWHOの基準値である精子濃度1500万/mlよりも低い数値である確率が約3倍(調整オッズ比2.7; 95% CI 1.1-6.7)、総精子数3900万以下である確率が約4倍(調整オッズ比4.3; 95%CI 1.7-11.3)でした。

 

さて、ICSI出生男性の父親の治療当時の精液所見はどうだったかというと、72%(39/54)が精液濃度1500万/ml以下、48%(26/54)が500万/ml以下の高度乏精子症、70%(38/54)が総精子数39万以下でした。

父親の精液濃度ならびに総運動精子数は、息子の数値と相関は見られませんでした(相関係数r= -0.2; p=0.09, r= -0.2;p=0.07)。さらに、父息子間の前進運動率、総運動率にも相関を認めませんでした(r=0.2;p=0.14, r=0.0;p=0.83)。54組の父-息子ペアからなるこの小さなグループの中では、父の総精子数は息子の総精子数と弱い負の相関を認めました(r= -0.3;p=0.02)。

ICSI出生男性は、彼らの父の精子濃度が1500万/ml以下であった場合、彼ら自身の精子濃度が1500万以下である可能性は低いという結果が示されました(OR 0.4; 95% CI 0.1-1.2)。同様に、ICSI出生男性は、彼らの父親が高度乏精子症(500万/ml以下)であった場合、彼ら自身の精子濃度が1500万/ml以下である可能性は低いことが示されました(OR 0.4; 95% CI 0.1-1.2)。総精子数39万以下のICSI出生男性の父親たちは、息子の総運動精子数が39万以上である可能性が高く、(OR 0.1; 95% CI 0.0-0.4)、総運動精子数39万以下の父親たちの40%のみが、その息子の総運動精子数39万以下であるという結果が示されました。

 

著者らも考察している通り、本研究の限界は、調査対象母集団が小さいことです。親が情報(不妊治療について)を子に開示しない家庭もあったり、あるいは親または子が調査への協力を希望しないケースも存在したため、元々はデータベース上215のICSI家庭(男児を出生)があったものの、調査協力者は最終的に54名まで減少しています。さらに、本研究の結果が、男性不妊を適応とした射出精子を用いたICSIであるところも、全てのICSI出生児には当てはまらないといえます。近年ICSIの適応は拡大し、かつ非射出精子を用いてICSIが行われることもあるため、今回報告されたコントロール群との差は変動する可能性があると指摘しています。

 

ICSIにより出生した男性の精液所見について、小規模ではあるものの本研究が初の研究報告となります。結果的に、父親の男性因子のためにICSIが施行され出生した若年成人男性の精液所見は量・質ともに低かったことが示されましたが、父親の治療当時の精液所見が不良だったとしても、必ずしもその息子の精液所見が低いとは限らないということも示唆されています。また、現在男性不妊因子がある場合、どれくらいの確率で子が男性不妊症になるかということまでは、まだわかっていません。今後の調査継続、ならびに各国の研究報告が待たれるところです。

 

京野アートクリニック(高輪)

副院長 橋本 朋子