映画 「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」
不思議な力というものは、実は、誰でも持っている。
岩井俊二監督の名作が、アニメーションでよみがえる。
いや、生まれ変わると言った方が、正しいかもしれない。
もともと、TVドラマ「イフ」のエピソードの1つだったのが、
あまりにも出来がいいので、劇場公開までされた物語。
45分くらいだったのが、90分と尺が倍になり、
小学生だった設定も、中学生になった。
夏休みというのは、色んな妄想が浮かんでは消えていく、面白い時間。
とある田舎町で、花火大会の当日、不思議な体験をする…
打ち上げ花火って、下から見ると丸いけど、横から見たら、やっぱり丸いのか?
まるで、小学生の自由研究みたいなお題ですが、
その疑問の奥にある世界が、人間関係を象徴しているようで、興味深い。
構図的には、男子が2人、女子が1人。
男子は両方、その女子を好いています。
しかし、それをお互いに、秘密にしています。(バレバレですが)
女子は、何か、重い悩みを抱えています。
男子は、女子の気持ちがさっぱりわかりません。
男子の言動を見ていると、同じ男として、イライラしますな。
でも、思春期の男子って、そんなもんでしょ。
女子の方がすっと大人で、物事をストレートに言う。
しかし、男子は、ふざけてはぐらかして、逃げてばかり。
ああ、甘酸っぱいなあ。
劇場のポスターを見て、女子の方が背が高いってのも、ある意味、狙っているのかも。
主導権は、女子の方にあるようで、
でも、やっぱり子供だから、できることには限界があって、
手を引っ張る方が終始入れ替わって、実に微笑ましい。
もともとのドラマでは、奥菜恵のあどけなさが、健康的なお色気を放っていた。
同い年の男子からすれば、大人びて見えるもの。
無邪気さと、大人の雰囲気を半分ずつ持った美少女は、やっぱり魅力的。
そんな女子から、真剣に何かを頼まれたら、そりゃあ、オドオドしちゃうわな。
映画の総監督は、新房昭之監督。そう、あのシャフトである。
うっはー、やっぱり、お色気が増幅されてますなあ。
俺は最初、高校生かと思いました(笑)
中高生って、基本的には無邪気で子供っぽいけど、
抱えている苦悩によって、大人以上に大人だったりするんですよね。
俺は、灰色の思春期を過ごした人間なので、
恋愛だとか、友情だとか、そういう“青春”は、体験しておりません。
だから、彼等を、羨ましいと思う。 いいなあ、ちくしょう。
「イフ」というドラマは、選択肢によって、2種類の展開がある、パラレルワールド。
だから、“戻される”のも、1回だけのはず。
宣伝でネタバレしているので言いますが、何回も戻ってしまいます。
そこが、曲者。
一度きりではなくて、何度も戻れちゃうと、これは混乱しますな。
いわゆる、「時をかける少年」状態になってしまいます。
SFサスペンス・ラブファンタジーとでも言いましょうか。
さあ、不思議な力を手にした少年少女の運命は?恋の行方は?
「君の名は。」は、一般的にわかりやすくて、退屈しない作品でした。
しかし、こっちは、手強いですよ~
1つ1つのシーンに、深みがあるので、想像力と感性を刺激します。
テンポはゆったりで、ああ、夏休みだなあって感じがします。
男子は、タラタラしていて、そこがいい。
変わったことは、何も起きなさそうで、
変わったことを体験している本人だけが、やたらと興奮していて、
バカでマヌケで、そこが、何だか親しみやすい。
人間は、同時に、2つのことができないようになっているもの。
ながら何とかができる人だって、どちらかがメインで、一方は副脳がこなしていたりする。
違う場所に同時に立つことはできないし、違う人間と同時に話すこともできない。
今、目の前にあることだけが、一番重要なのだ。
それは、制限と言うべきか。
特殊能力と言うべきか。
他のことを考えながら、ぼんやりと過ごしていると、
時間は、瞬く間に経ってしまう。
人生だって、青春だって、夏休みだって、おんなじ。
せっかくだから、楽しんだ方がいいし、ちゃんと、味わった方がいい。
どうでもいいことを、真剣に考え、
答えの出ないことに、挑み続ける。
この映画には、ロマンがある。
俺的には、男子目線で楽しむ作品かな、って思います。
物事を楽しむという行為は、不思議で、特別な力。
誰でも潜在的に持っている、特殊能力。
口を開けてぽかんと、ただ受け身になるんじゃなくて、
本作は、前のめりで、積極的に楽しんで見て欲しい。
…この映画、劇場で見るか?DVDで見るか?
選択も、感じ方も、自由です!