借りぐらしのアリエッティ | 映画熱

借りぐらしのアリエッティ

小さい体でデッカい態度。 …非力でも、精神力なら負けないわ!


原作は、イギリスの作家メアリー・ノートンが1952年に執筆した、児童向けのファンタジー小説「ボロワーズ」(シリーズ全5巻)の第1作「床下の小人たち」。


監督は、米林宏昌。企画は、宮崎駿。脚本は、宮崎駿、丹羽圭子。作画監督は、賀川愛、山下明彦。音楽・主題歌は、フランスの歌手でありハープ奏者でもあるセシル・コルベル。


声の出演は、志田未来、神木隆之介、大竹しのぶ、竹下景子、藤原竜也、三浦友和、樹木希林…あはは、声優が1人もいません。ついにここまできちゃいましたねえ。


さて、映画ですが、わかりやすくてシンプルな作品に仕上がりました。全ての世代をカバーできる作品だと思うので、何でもいいから面白いのが見たいと言う人には、無難な1本でしょう。小技が効いている、小粒だけど楽しい映画です。


療養のために、母親が昔住んでいた古い屋敷にやって来た12歳の翔は、庭先で小人の少女と遭遇する。彼女たちは、この家の床下でひっそりと暮らしている種族であった。彼らにとって、人間は危険な存在。彼らの運命の歯車は、この瞬間に大きく狂い始めたのであった…。



米林宏昌監督は、大学生の時に「耳をすませば」を見て憧れ、平成8年にスタジオジブリに入社。「耳をすませば」といえば、新潟県が誇る偉大な近藤喜文監督(故人)の名作。そうでしたか、そういうことなら見に行かねばならんですなあと思い、娘を連れて映画館に行きました。


この映画の見どころは、何といっても美しい色彩感覚だと思います。それから、映画館ならではの音響効果。人間も植物も、ちゃんと呼吸をしているように感じました。観客も小人になったつもりで、全身の五感で味わい ながら楽しみましょう。



主人公アリエッティの声を演じるのは、志田未来。うまいかどうかはともかく、これがちょうどいいのかも。どうも俺は、声優にどっぷり浸かったアニメ世代なもんで、まだ違和感があるんだけど、最近はだんだん抵抗がなくなってきました。だから、評価うんぬんではありません。まあ、今どきはこんなもんかと。


翔の声を演じるのは、神木隆之介。「サマーウォーズ」ではヘタレ役がピッタリで笑えましたが、本作では、病弱な少年。これもまた、ちょうどいいのかも(笑)。俺みたいなおっさんではなく、思春期の女の子たちの視点でストライクゾーンならOKなのだ、ってことで。


藤原竜也が演じたスピラーが、「未来少年コナン」のジムシーに似ていたのは爆笑でした。だって、あんなもんぶら下げてあんなこと言うんだもん。まさしくジムシーですねえ。俺はこの兄ちゃんが何となく気に入りました。


アリエッティの両親の声は、三浦友和と大竹しのぶ。寡黙でクールな父親と、おしゃべりで賑やかな母親は、これまたちょうどいい組み合わせですこと。翔のばあちゃんの妹が竹下景子で、屋敷の管理人のバアさんが樹木希林…うぷぷ。


とにかくこの映画は、わかりやすくてちょうどいい。あんまり考えなくていいから、精神が疲れている人にオススメしたいです。ちょっぴりワクワクドキドキ、ほどよく緊張、ほどよくハードな展開、そして、ほどよく癒されていく…せっかくだから、しばし現実を忘れましょう。




小さいということは、周りの世界がとっても大きく見えるということ。人間、視点が変われば見えるものが変わる。走っている時には見えないものも、歩けば見える。立ち止まればもっと見える。見えるものが変われば、感じる世界も変わる。世の中は広い。一方向だけでは、視野が狭くなってしまうものだから。


“借りぐらし”という言葉の響きがいいですね。俺は借家に住んでいるので、自分の家を持っていません。あくまでも、ここを借りて住んでいる立場です。極端な言い方をすれば、地球上のものは全て、人間ごときが所有できるものではないと思う。あくまでも、生きている間だけ一時的に借りているだけのものなんじゃないかと。



アリエッティの家族は、人間の家の床下に住んでいます。賃貸契約ではなく、こっそり内緒で住んでいます。だけど、うしろめたさは感じられない。姿形は人間だけど、彼らには彼らの人生哲学があるのでしょう。物静かな父親の雰囲気から、彼らがたどってきた世界を想像してみましょう。


翔にとっては、いま住んでいるこの屋敷も、間借りした住居。居心地の悪い思いと、生きることへの情熱を失っている気持ちが複雑に絡み合った状態で出会ったアリエッティが、とても魅力的に見えたんだと思います。よかったねえ、アリエッティ。元気なガキんちょじゃなくて。おいおいすげえぞ、みんな来いよ!なんて大騒ぎされたら、きっとすぐに殺されてしまったかもしれないからね。



俺は、20代の時に、引っ越したばかりのアパートで幽霊に遭遇したことがあります。恐かったけど、今日からここに住むことになりました、怪しい者ではありません、って必死に訴えたら、翌日からはもう出ませんでした。どんな人が来たのか、興味を持ってあいさつに現れたのかなって思ったもんです。(わたしの恐怖体験の記事参照)


今思うと、そういう体験がいくつかあったから、住んでいる家が自分だけのものだっていう意識を持たなくなったのかもしれない。家賃を払ってるんだから俺に所有権があるなんてのは、その場所にずっといる者にとっては関係ないもんね。19歳の時に松山の寮にいた時なんか、壁を這っているゴキブリを見つけた時も、ごくろうさんなんて言ったもんです(笑)。


俺は、可能な限り他人の居心地のいい世界を乱したくないと思って生きています。おせっかいとか、押し付けがましい親切ってのも苦手。人を苦しめてまで、自分の利益を獲得したいって思わない。だからきっと、いつもビンボーくじを引いちゃうんですね。怒られ役も多いけど、それもまた重要な役割ってことで。



俺がもし、アリエッティを見たらどうするだろう?その時になってみないとわからないと思うけど、気がつかないふりをしてあげるべきなんだろうか。でも、彼女はちょっと無防備過ぎるから、そのままだとヤバいよってことは教えてあげないといかんのかな。放っておくと、どんどん調子に乗ってきそうだから(笑)。


この世は、人間だけの世界じゃない。そう思えば、そう見えてくるもの。想像力や妄想力があるからこそ、違う世界にコンタクトできるのだ。そんなものあるはずがない、と思っている人には絶対到達できない。それでいいのだ。見たい人には見える。見たくない人には見えない。それで世の中うまくいっているのだから。



アリエッティの種族には、借りぐらしをしている生きている者以外に、サバイバルをして生きている者もいるらしい。絶滅危惧種らしいので、見つけた人はそうっとしておいてあげて下さいね。彼らには彼らの事情があるようなので。


ファンタジーというのは、どこか非現実的なところが鼻についてしまうものなんですが、本作は、実にさり気なく表現されています。もしかしたら、ホントにいるかもしれないって思えたら、きっとその瞬間に新しい感覚が目覚めたかもしれませんね。


映画を見た日の夜は、耳をすまして聞いてみましょう。アリエッティの息づかいが、小さな足音が、かすかに響いてくるかもしれないから。でも、聞こえたとしても、気がつかないふりをしてあげましょうね。



う~ん、でももしかしたら、それを狙った空き巣スタイルを考える輩がいるかもしれんなあ。ずいぶんデッカい足音で、ずいぶんデッカいアリエッティが、真っ赤な衣装を着て…うっへ~!お嬢ちゃん、あたしアリエッティよ、なんてダミ声であいさつされたら、絶叫しましょう!全力で相手の全存在を否定しましょう。逃げていったら、塩じゃなくて角砂糖を投げつけてやりましょう!鬼は~外!


まあ、それは冗談ですが、ゴキブリの這いまわる音がしても、おお、アリエッティじゃん、って思えたらサイコーじゃないですか。(違うか)


小人って、いると思います。理由はカンタン。いた方が面白いから。いると思えばいるのです。ほうら、あなたの傍らに…ウッヒッヒ。


でも俺なら、スピラーと友達になりたいなあ。あいつはきっと、胃袋が丈夫だぞ。『…おっさん、いい獲物をゲットした。酒のツマミにしてくれ。』 いいねえ、そういう関係。飛んでいるハエとか、弓で射抜いてくれそうだし。その場で食っちゃいそうだし。いいじゃん、スピラー!今度は、俺ん家に来いよ!



アリエッティは、好奇心旺盛な14歳の少女。気が強くて繊細。真っ赤な服に身を包み、洗濯ばさみで髪をセット。腰には、待ち針ソードを装着。そして靴は…おお、こいつはすげえ!お前、くの一か!


小さいからってナメんなよ。デカけりゃいいってもんじゃなくてよ。小さいからこそ、見えるものがあるのよ。粋な姉ちゃん、アリエッティ。少しのごはんでお腹はいっぱい。 …エコロジー民族万歳!





【鑑賞メモ】

鑑賞日:8月11日(水) 劇場:ワーナーマイカル県央 18:05の回 観客:約20人

ずいぶん早く劇場に着いたんですが、店員の対応が遅くて、開場ギリギリでした。おいおい、売店がずっと無人の状態なのは、やっぱりよくないと思うよ!


【上映時間とワンポイント】

1時間34分。ケルト音楽のBGMも、何だか心地いい感じで、ちょうどいい。


【オススメ類似作品】


「西の魔女が死んだ」 (2008年)

監督:長崎俊一、原作:梨木香歩、出演:サチ・パーカー。本作の色彩感覚に近い映画は、やっぱりこれじゃないかと。中学3年生の女の子が、“魔女”の屋敷でお世話になることに。魔女修行の第一歩は、イチゴジャムを作ることから始まります。見た後で、観客にも魔法がかかるような、心地よい1本。もしかしたら、ここにもアリエッティがいるかもしれませんね。


「ボロワーズ」 (1997年イギリス・アメリカ)

監督:ピーター・ヒューイット、原作:メアリー・ノートン、出演:ジョン・グッドマン。俺は残念ながら未見なんですが、本作の実写映画が存在するので一応紹介しておきます。イギリスでは、TVシリーズもあったとか。興味のある人は調べてみて下さい。


「ジャージの二人」 (2008年)

監督・脚本:中村義洋、原作:長嶋有、出演:堺雅人。おっさん2人が、山の中にある別荘で夏を過ごす物語。全然さわやかじゃないところが笑えます。ジャージを着る時のカッコいい音楽は爆笑でした。


「ゴキブリたちの黄昏」 (1987年)

監督・脚本:吉田博昭、出演:小林薫。これもある意味、類似作品かと。実写とアニメを合成した異色作品。烏丸せつこが演じたゴキブリ女は、セクシーでかわいかったなあ。


「聖戦士ダンバイン」

説明するまでもないでしょう。ショウ君の肩の上に、小さい女が乗っかって…ダンバインじゃん!チャム・ファウ、エルフィノ…懐かしいなあ。俺のオーラちからで、アリエッティに羽をつけてあげたい。