レッドクリフ PART Ⅱ 未来への最終決戦 | 映画熱

レッドクリフ PART Ⅱ 未来への最終決戦

男たちの “熱い駆け引き” に目が離せない! …1人1人の小さな火は、力を合わせて炎となるのだ!


世界を沸かせた世紀のアジア映画、待望の続編。製作・監督・脚本は、義理と人情の男・ジョン・ウー。アクション監督は、コリン・ユー。音楽は、岩代太郎。主題歌は、アラン。日本語ナレーションは、大塚明夫。


出演は、トニー・レオン、金城武、チャン・フォン・イー、ユウ・ヨン、チャン・チェン、フー・ジュン、バーサンジャプ、ザン・ジンシェン、リン・チーリン、ヴィッキー・チャオ、ドン・ダーウェイ、中村獅童。


さて、映画ですが、アナログの魅力に満ち溢れた作品に仕上がりました。ダイナミックな戦闘シーンは圧巻。あの 「ベン・ハー」 を思い出しました。これは、ぜひとも劇場でご覧下さい。


赤壁でにらみ合う曹操軍80万と、孫権と劉備の連合軍5万。圧倒的な戦力差を前に、奇策はあるのか?疫病、裏切り、密偵…そして、戦いの時は迫った!


周瑜を演じるのは、トニー・レオン。前作の記事でも少し触れましたが、ウー監督が最初にオファーしたのはトニーだったらしい。しかし、当時の彼は体調を崩していたらしく、監督に迷惑をかけてはいけないと思い、丁重に断った。しかし、チョウ・ユンファがドタキャンしたという知らせを聞いて、すぐに監督に連絡。『…私でお役に立てるなら、お手伝いしましょうか。』 ウー監督の窮地を救ったという話です。(産経新聞のインタビュー記事より)


トニーには、荒々しいイメージはない。しかし、思慮深い男としての魅力がある。前作に引き続き、本作での彼を見ていると、役柄に対する “覚悟” が感じられる。戦いが始まる後半では、だんだんといい顔つきになっていきますのでご注目。


孔明を演じるのは、金城武。彼のつかみどころのない演技もまた、ミステリアスで面白い。策士というのは、ずるがしこいイメージがあるものですが、彼のひょうひょうとした雰囲気もまた、相手を油断させる効果があると思う。


孔明のアイテムは、団扇。これをヒラヒラさせながら、相手を煙に巻いて、人の心をサラッと流す。団扇一振りで、内輪モメも解決…なんてね。ユラユラヒラヒラ、諸葛亮。遠くを見る目は、何を想う。言わば、“壁際の魔術師” といったところか。撮影時は酷暑だったそうだから、鎧なしで軽装でウチワ持っていられるのも、やっぱりオイシイ役柄ですね。(本人もTVでそう言ってました)


実は今回は、横山光輝のマンガ文庫12巻と13巻を読んでから行きました。前作を見た時は、内容をあまりにも知らなさ過ぎたので、今回は少しでも予習しておこうかと。マンガの周瑜と孔明の関係は、ギラギラしていて笑えます。悪そうな孔明と、スキあらば孔明を殺そうとする周瑜とのスリリングな駆け引きが面白い。その視点で本作を見ると、実に興味深い。


映画は、周瑜と孔明の友情がテーマになっていますが、双方ともかなり濃ゆい人物なので、そう簡単に友達にはなれんでしょう。しかしながら、トニーと金城という組み合わせで見ると、これがなかなかバランスがいい。わずかな表情や会話、琴の饗宴などを通して、天才同士にしかわからない駆け引きがあったのではないかと想像したくなる。


個性が強い者同士では、さぐりあいが延々と続くもの。こいつ、ただもんじゃないな、と思った瞬間から、男の意地がぶつかり合う。手強いからこそ、敵に回すのが恐ろしい。得体のしれない力を持った男というのは、尊敬と同時に、恐怖の対象でもあるのだ。


史実に忠実にやろうとすればするほど、ドロドロした雰囲気になるのかもしれない。しかし、ジョン・ウーは男の美学を追及する男。人間として魅力がなければ、多くの人はついて来ない。彼は、映画の中でちゃんと人の心を見つめているのだ。ウー監督がトニーと金城を起用した理由は、画面を見ていれば納得。彼らにしか表現できない世界を、俺も1人の男としてしっかりと見させてもらいました。


周瑜の妻・小喬を演じるのは、リン・チーリン。演技力はないけど、美しいという一点でOK。今回は捨て身の行動もあって見せ場が多いので、彼女をよく目に焼き付けておきましょう。たぶん、今が一番ピークだと思うから。


孫権役のチャン・チェンは、兜をかぶった姿が周瑜よりカッコよかった。尚香役のビッキー・チャオは、美しくないけど、演技はリン・チーリンより上だと思う。彼女はきっと、息の長い女優になるかも。関羽と張飛は、見た目で爆笑して納得。今回初登場したトン・ダーウェイは、どうでもいいキャラだったけど、ウー監督のヒューマニズムを伝ええるためには、ある意味重要な役柄と言えるかも。


魯粛役のホウ・ヨンが、ユーモラスで面白い。マンガとおんなじキャラでした。周瑜と孔明の間を右往左往する姿は、親しみやすくて何だかホッとします。大島渚監督の 「御法度」 で、怪物キャラばっかりの中で唯一普通の男だった、トミーズ雅を思い出しますね。


特筆すべきは、やはり中村獅童でしょう。出番は少ないですが、戦いで見せてくれます。セリフもカッコよかった。「男たちの大和」 の頃の、骨太キャラを思い出します。竹内結子という “スリバチヤマ” は奪還できなかったけど、本作で男を上げました。よかったねえ、ウー監督に感謝しよう!


この映画は、コアな三国志ファンには賛否両論でしょうが、内容を知らない人のための入り口としては、立派に機能を果たしていると思います。俺もその口ですから。正義と悪は、双方の心の中に宿るものなり。人の意見よりも、自分の感性で見抜くべし。その時にこそ、真の英雄を見極められるのだ。




男が男に信頼される条件は、約束を守る、ということ。これは、本作のテーマでもあると思う。本作のサブタイトルは、「未来への最終決戦」。これは、国の存亡をかけて戦う男たちの、未来へのメッセージでもあるのだ。


志なくして、死闘はできない。命を懸けるに値するからこそ、本気で戦うのだ。戦いの意味は、歴史が証明してくれる。だから、今できることを精一杯やる。男たちは、そうやって戦い続ける存在なのだ。


男なら、約束を守れ。男なら、恩義を忘れるなかれ。男なら、弱い者を守れ。男なら、本気で戦え。強い者には、責任がある。弱い者には、役割がある。自分にしかできない、大切なことは何か。それを見極め、最大限に努力することが大切なのだ。そういう力を合わせることによって、奇跡は起こるのだ。それは、“力を合わせる” ということ自体が、素晴らしい奇跡であることの証明なのだから。


前作の記事でも触れましたが、ジョン・ウー監督は、クロサワ映画で育った世代。本作のラスト近くのセリフにも、「七人の侍」 が垣間見えました。やっぱり、男は素晴らしい生き物です。女には理解できないし、うまく説明もできない部分がある。それでいい。男であるからこそ、わかってあげたいのだ。


光り輝く表の顔を、裏で支える馬鹿がいる。これは、「修羅の群れ」 の主題歌の一節。英雄の影で、多くの命が散っていった。英雄はそれを忘れてはならない。彼らのおかげで戦えたことを忘れてはならない。そして、英雄を生み出した力もまた、民の中にあったことを忘れてはならない。


戦士たちがこの世にいなくなった後に、伝説は残る。それは、命を懸けて守り抜こうとした大切なものを、忘れないためでもある。それが、未来を生き抜く力となるのだ。


ウー監督、大変お疲れ様でした。偉業を成し遂げて、黒澤監督もあの世から惜しみない拍手を送ってくれることでしょう。あなたの起こした奇跡は、しっかりと語り継いでいきたいと思います。


炎が上がり、血しぶきが舞う。矢が飛び交い、猛者たちの雄たけびが響き渡る。その中を飛ぶ、一羽の白い鳩。けがれのない、純白の翼が、大空に舞い上がる。迷うな、一途に飛べ。 …未来の光が見えるまで!





【鑑賞メモ】

鑑賞日:4月24日 劇場:ワーナーマイカル県央 21:40の回 観客:約20人

YD君と一緒に行きました。ふたりデイ割引で1000円。おかげでパンフが買えました。


【上映時間とワンポイント】

2時間24分。俺が見たのは字幕版。冒頭に日本語のナレーションがありました。


【オススメ類似作品】


「レッドクリフ PARTⅠ」 (2008年アメリカ・中国・日本・台湾・韓国合作)

監督・監督:ジョン・ウー、出演:トニー・レオン。やはりコレを見ずしては始まらない。本作をより楽しむためにも、チェックしておきましょう。


「呉清源 極みの棋譜」 (2006年中国)

監督:ティエン・チュアンチュアン、出演:チャン・チェン。本作で呉の君主である孫権を演じたチャン・チェンが、呉という男を演じます。こちらは、碁のプロ棋士の物語。丸メガネの向こうに光る、静かな眼光が美しかった。本作といい、この映画といい、思い悩む役がよく似合う男ですな。


「シクロ」 (1995年フランス・ベトナム・香港合作)

監督・脚本:トラン・アン・ユン、出演:トニー・レオン。「インファナル・アフェア」 にしようかとも思いましたが、今回はあえてこれでいきましょう。タバコをくわえたヤクザ幹部のトニーが、メチャクチャカッコよかった。物を言わずにただひたすらタバコの煙を燻らせる姿に、大物の風格を感じたものです。ナイーブなイメージの彼からすると、以外な感じがして面白かった。