先日、SECから9冊の本が送られてきました。昨年度の1年間で「SEC Book」として出版されたもの全てだそうです。中にはわたしも関わった「プロセス改善ナビゲーションガイド ~虎の巻編~」もあります。
SECの委員会に参加して約2年。諸先輩方からよく「プロセス改善はまだ十分普及していない」とか「理解されていない」という言葉を聞くことがありました。わたしもそう思って、本の出版やセミナーの開催などを通して、少しでもプロセス改善を理解していただき、それぞれの現場を良くするための一助になればと思って活動してきました。
それでもやっぱり、まだ十分に理解されていないと思うことは多いです。また、自分が思うプロセス改善の重要性とは違うことを、プロセス改善の価値として考えている方もいらっしゃいます。
そんな状況をときには憤懣やるかたない思いになることもあったのですが、この頃はちょっと考え方を変えています。
最近、宮大工の西岡常一さんとそのお弟子さんの話の本を読んでいるのですが、宮大工という仕事は飛鳥時代あたりには既にあった仕事で、それを今の時代に生きている人も受け継いでいます。そんな長い歴史を受け継いで仕事をしている宮大工の人たちは、実際に自分たちができる仕事の数はそんなに多くありません。1つの建物の修復工事ですら2年とか3年などとても長く、現役の大工でいられる間に手がけることができる仕事の数は、宮大工の歴史に比べればとても少ないのです。
これをアジャイルでいうところのイテレーションで考えてみると、宮大工という1つのストーリーの中で、ある宮大工が関われるのはせいぜい1イテレーション。もしかしたらそれ以下かもしれない。
だから、宮大工の人たちは自分たちの技術を生涯かけて磨くのですが、それは自分の代で完成させるということは考えていなくて、自分が学んできた技術が次の世代に受け継がれ、そしてその時代に合わせて宮大工という仕事が「食える仕事」として残っていくことに、今は尽力されているそうです。
以前とあるセミナーでドラッガー研究をされている大学の先生が
「まだまだIT業界は始まってせいぜい50年。これからもっと長い歴史の中でも産業として成長していくのですから、まだいろいろうまくいかないことがあったって当たり前ですよ。」とおっしゃっていたことを思い出しました。そう、まだITは産業として生まれたばかりと言ってもいいぐらいのものなのです。
まだIT業界にも、様々な変化があると思います。ソフトウェアがハードウェアの一部として生産されていただけの時代から、ようやくソフトウェアに価値がある、ということが普及してきた今。ビジネスだけでなく社会の重要なインフラとして認められるようになってきた今。
そしてようやく、このソフトウェアを作る人たちが「よりよく働く」ということでよいソフトができる、という考え方が生まれてきたばかり。だから、まだ普及していないことを嘆く段階には早いのかもしれない、と思うようになりました。
だからここで「普及」ということを自分の中で再定義しようと思いました。
より多くの現場にプロセス改善を理解してもらい、自分たちの仕事をよりよくしてもらいたいという気持ちは大切なのですが、たとえ幅広くなくてもいいから、自分たちのこのプロセス改善への思い入れが、次の世代にも価値のある考え方として、確実に誰かに残していければいいのではないかと。
自分たちの代で全てが叶うほど、世界を変えるって簡単なことではないと思います。でも、それを諦めることなく、そして次の世代を信じて自分の役割をしっかり果たしていけば、いつかはきっと世界は変わる。
ひと一人の人生は短いものですけど、それがまだ見ぬこれからこの業界を背負っていく人たちと繋がっていけることって、すごいと思うんですよ。それを大切にしていきたいと、今は強く思っています。
- 木のいのち木のこころ―天・地・人 (新潮文庫)/西岡 常一
- ¥900
- Amazon.co.jp