仮面舞踏会・5 | お気楽ごくらく日記

お気楽ごくらく日記

白泉社の花とゆめ誌上において連載されている『スキップ・ビート』にハマったアラフォー女が、思いつくままに駄文を書き綴っています。

巷で噂のコミックス37巻の裏表紙と折り返しのイラストからの妄想と言うか暴走デス。

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~ 回顧編 ② ~

ファサっと、自分の頭に何かが乗った感触がして、なんだろう?と手をやると、それは花冠だった。

「やっぱり、クオンは妖精の国の王子様だけあって花冠が似合うね。」
そう言って、キョーコ本人はニコニコ笑っている。

さっきから、キョーコは花を摘んで花冠を編んでいたのだが、まさかそれがレンのために編んでいたとは思いもよらず、驚いた。

「ねっねっ見て見て。クオンのね、黒い髪と瞳にぴったりの花を選んでみたのよ。」

キョーコに手を引かれて小川に近付き、その水面に顔を映すと青い花を基調とした花冠が乗っていた。
心中複雑なものがあったが、それでも自分のために一生懸命作ってくれた物だと思うと、レンの心の中に温かい物がジワリと広がり始めた。

「これはね、クオンはお父さん以上に良い王様になれる魔法なの。今はまだ子供で無理でも絶対、クオンはいい王様になれるわ。」

レンは、キョーコが自分のことを妖精だと勘違いしているのを利用して、少しづつ自分の気持ちを吐露したのだ。
そして子供ながらに一生懸命考えた末、キョーコが取った行動はこれらしい。

「ありがとうキョーコちゃん。」

レンはこの時ここ数年ぶりに心からの笑顔を出す事ができた。けれど、ちょっと困らせてみたいとも思い、レンはキョーコに意地悪な質問をしてみた。

「キョーコちゃんは、俺が良い王様になれるって信じてくれてるけど、どうやったらなれるかな?父さんの羽も手も大きすぎるんだけど。」

レンの思惑など意に介さない様子で答えた。

「えっとね。私もお母様の力になりたいのに、何も出来なくて落ち込んでたらある人にこう言われたの。
『あなたが何も出来ないのは当たり前です。それは、あなたが子供で何も力を持たないから。力が無いと言うことは、何も知識がないからです。あなたはその知識を身に付ける真っ最中なのです。知識を身につけるには勉強をする事が必要不可欠です。しかし、人生、往々にして勉強で身に付けた知識だけで全ての事が解決する事はありません。ですから、色んな事を見て聞いて、体験してあなた自身の血肉にしなさい。』って。だからね、苦手だけど私も今一生懸命お勉強してるのよ。」

レンはその言葉に目から鱗が落ちる思いがした。キョーコの言葉は、乾ききった土に水が染み入る様に、レンの心に入って来た。
これが周囲の大人達から言われた言葉だったらこれほど、ストンと自身の心に入って来なかっただろう。
それを聞き入れられたのは、自分より年下の女の子が、恐らくそれを実践しているであろう事が想像に難くないから。

もう一つ、試しに聞いてみるかとレンは切り出した。

「俺はね。この世から戦と言う戦を無くしたいんだけど、キョーコちゃんはそれが出来ると思う?」

ちょっと難しい質問だったかと思いながらも、キョーコの様子を伺うと、キョーコはたちまち顔を曇らせた。

「私ね、みんなが痛いのも辛いのも嫌なの。」

「うん。」

「戦をこの世界から無くせるかどうかは分からないけど、私が好きな言葉があるの。」

そう言って、キョーコの口から飛び出してきたものは、思いもよらない言葉だった。


「およそ兵を用もちうるの法は、国を全まっとうするを上じょうとなし、国を破やぶるはこれに次つぐ。
軍を全まっとうするを上となし、軍を破るはこれに次ぐ。
旅りょを全まっとうするを上となし、旅りょを破るはこれに次ぐ。
卒そつを全まっとうするを上となし、卒そつを破るはこれに次ぐ。
伍ごを全まっとうするを上となし、伍ごを破るはこれに次ぐ。
このゆえに、百戦百勝は善の善なるものにあらざるなり。」

それは、このヒズリ王国よりはるか東方の国にある孫子と言う人間の教えで、戦をいつか無くしたいと願うレンに、カトウが教えてくれた言葉だった。
実践するのはおろか、理解するのもなかなか難しいこの言葉を空で言えるキョーコを、レンはまじまじと見つめてしまった。

そして、一番好きな最後の一行をレンも一緒に口にしていた。

「「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。」」

キョーコはレンの顔を見て、ニコッと笑うと言った。

「戦を無くせるかどうかは分からないけど、少なくとも努力は出来ると思うの。」

レンはますますキョーコと言う少女に興味を持った。着ている物は清潔に保たれているが、どこか野暮ったい意匠で、どこかの貴族や富裕層の息女とは思えなかった。
けれど、レンが知っている貴族の姫君たちとなんら遜色の無い礼儀作法を身に付けていて、さらにはおよそ大人でも知らないような、知識を身に付けている。

レンはキョーコが被せてくれた花冠をそっと頭から外すと、それをキョーコの頭に被せた。

「ありがとう。でも、このはな冠はやっぱりキョーコちゃんの方が似合うよ。」

キョーコはレンの言葉に照れくさそうに笑った。

二人は日が傾くまで遊んだ。レンを妖精の王子と信じて疑わないキョーコだったが、それでもレンを特別視するような事はなく、レンもキョーコの前では本来の自分を安心して曝け出せた。

「また、明日会える?」

キョーコに訊ねられたレンが頷くとキョーコは嬉しそうな顔をして家に帰った。
そして、レンはこっそりとキョーコの後を付けてみた。

キョーコの入って行った邸を見て、レンはあんぐりと口を開けた。
そこは、モガミ領に着いた日に、父と一緒に訪れた場所だからである。

「モガミ家の令嬢だったのか。」

邸の中から、「キョーコ様、ピアノの先生がお待ちかねですよ。」と言う男性の声と、

「ええ~。ピアノ苦手だから、休んじゃダメ?」

と先ほどレンと一緒にいた時とは打って変わっって、子供らしい駄々を捏ねるキョーコの声が聞こえてきた。

「キョーコ様は、何処もお体が悪くないのでしょう?お母様のお力になりたいと願ってるのだったら、ピアノも一生懸命習わなくては。」

「は~い。」と拗ねたような声が聞こえたかと思うと、たどたどしくピアノを弾く音が聞こえ始めた。

「あっ。間違えてる。」

今までのレンなら、相手が簡単なことでも間違ったら、内心バカにしてきた(その度に、カトウやヤシロに窘められた。)のだが、キョーコのそれは何だか愛おしく感じた。

キョーコのピアノを聴いているうちに、長年わだかまっていた物が溶けて行くような気がした。

《つづく》

孫子の兵法は、雪乃紗衣先生の彩雲国物語を読んで初めて知りました。
ちなみに文中のは、兵法の中の謀攻編に収められてます。←byグーグル先生。

意味は、意味は・・・分かりません←オイ。
各々がたで、お調べ下さい。無責任、万歳~!!丸投げって、素敵~。