名前のない女たち

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何年か前、日本滞在中にふと手にしたこの本。

 

 

AV女優へのインタビュー集だった。AV女優といっても、テレビのトーク番組に出て来るような名前をよく知られた人ばかりではない。(そういう有名女優は単体でDVD作品を出すことができるので単体女優というらしい)いつもその他大勢の扱いで名前も知られることがなく消えていく女優もいる。そういう女優は企画女優と呼ばれる。この本は後者の女優を紹介している。実は単体女優というのはAV女優の中でもほんの一部で、ほとんどはとても安い日当で、目も当てられないような卑猥なことをするだけの企画女優なのだそうだ。

 

著者の中村さんは、企画AV女優のインタビュー集「名前のない女」シリーズを何冊も上梓している。上記はその中でも人気のあったインタビューを集めたベストセレクションだ。

 

しかし正直、読んでいてあまり気分が良い内容ではなかった。

私は関西空港から飛行機に乗るため、空港近くのホテルへと向かう電車の中でこの本読んだ。スポットライトの当たらない所で裸を晒す、名前のないAV女優たち。そのバックグラウンドは暗さに満ちていた。

ホームレス一家に生まれ、近親相姦が日常だった女性とか、正気でスカトロに抵抗ないとか。

 

私はこの本を持っていくと飛行機が落ちそうな禍々しさすら感じた。なので宿泊した空港間近のホテルへ置き去りにした。ホテルの部屋の、机の中の引き出しにそっと入れておいた。誰かこの部屋に泊まった人が、この本を見つけて読んでみようという気になるかもしれない、と思って。

 

著者の中村さんは、「名前のない女たち」シリーズをこれで最後にしようと思っていたようだ。この業界に長く身を置いて、多くのAV女優たちを取材するうちに、色々な理由から疲労を感じるようになっていた。それは恐らく、私があの本に感じた禍々しさに似たものだったのだと思う。中村さんは、彼女らにできるだけニュートラルに接し、ありのままを文章で伝えようとしている。真摯であろうとしている。しかしそれだけに、取材対象から受けるネガティブオーラをまともに受け取ってしまったのではないかと思われた。

 

そして、この本を最後に、彼は文筆業から身を退き、介護業界に転身した。

 

ところが、それから5年後、中村さんは戻って来た。「名前のない女たち」シリーズの最新作が発表され、それがこれだ。 ↓

 

私が前回読んだ本はひょっとして、ベストセレクションということで、特に悲惨もしくは変態的なインタビューだけ集めていたのかもしれない。

この最新作では18人の、それぞれ異なったタイプの企画女優たちが出てくる。

一人一人が個性的で、バックグラウンドも異なる。国立大学卒や元日本代表のバレリーナもいれば、十代から学校に行かず売春をしていた人もいる。現在の生活も、都内に一軒家を構え、子供もいる何不自由ない主婦もいれば、どんなに値段を下げても買春客がつかない、廃人同様になった(著者の正直な印象を借りれば)「豚」もいる。

 

驚きなのは、多くの、というかこの本に出てくるほとんどの女性が、「AV女優になってよかった。」と語っていることだ。この仕事があったから、私は精神的にも経済的にも救われた、と。前出の主婦は子供が手が離れたのでAV女優に復帰したし(そのため人気AV男優の夫とは離婚となったが)、「豚」の女性は人生最良の時としてAV女優時代を懐かしむ。

 

かと思えば、中にはAV女優になりたくてもなれない女性、なったけど全く売れずに仕事がなく、かといって他の仕事もできなくて困っている女性も出てくる。

ああ〜人生いろいろカラオケ  と思わず歌いたくなってくるが、救いようのない暗さ一辺倒だった前回よりはずっと明るさを感じた今回の「名前のない女たち」だった。

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