栗コーダー&フレンズのツアーが終了して昨日の深夜にバンコクを出発、本日早朝の羽田空港に帰国しました。少々無茶なこのプロジェクトにおつき合いいただき素晴らしい演奏を聴かせてくれているビューティフルハミングバードのお二人、知久寿焼さん、吉澤実さん、そしてお世話になった各国の方々、本当にありがとうございました。

さて、ツアー中に発行した月刊笛仙人にヤンゴンの環状線に乗った話を書かせていただきました。今回は月刊笛仙人との連動企画として、月刊笛仙人に書いた記事に写真を添えてみたいと思います。ミャンマーの空気が伝われば幸いです。


■ 関島岳郎の今月の雑記帳

第四十四回 ヤンゴンの休日

2017年の栗コーダー&フレンズ ミャンマー・タイツアーが始まった。

1月27日に羽田からヤンゴンへ移動、翌日の28日がヤンゴンでの唯一の休日だ。休日でも寸暇を惜しんで土地の人々の暮らしや文化に馴染むのが栗コーダー&フレンズの流儀。春節で賑わう中華街に出かけるも良し、街角の屋台の低い椅子から通りを行き交う人を眺めるも良し。僕はと言えば、ヤンゴン中央駅へ向かったのであった。



ヤンゴン中央駅に向かうと陸橋の上から引込み線に車両が多数止まっていて、気分が盛り上がってくる。


初めてミャンマーを訪れた2013年、ヤンゴンには環状線があると聞いた。実は地下鉄ではない通常の鉄道の環状線がある都市は、世界的に見て多くはない。日本では山手線と大阪環状線が知られているが、他に環状運転をしている鉄道はベルリンとヤンゴン、それにチッタゴンくらい。これはぜひ乗りたいと思ったが、一周するのに三時間ほどかかるそうなので、ヤンゴンで全くの休日が無いと乗車は難しそうだ。いつか機会があればと思っていたが、ようやく願いがかなった。



環状線の路線図。ミャンマー文字で書かれている。


昼時ということもあって、広い駅舎内は人影もまばらだった。駅のコンコースの片隅に地元の通信会社ooredoの売店を見つけ、プリペイドsimを購入し、simフリーの端末の設定もしてもらう。最近の海外ツアーでは現地のsimを購入するのが常になっていて、ホテルの電話線から四苦八苦してモデムにつないでいた2000年頃のツアーと比べると隔世の感がある。ちなみに今回購入したsimは2ギガバイトまでのデータ通信込みで7000チャット、日本円にして600円ほどだった。



コンコースから駅の待合室に入ると、そこそこ人がいた


駅の構内に切符売り場が見当たらないので、ホームに行ってみた。ホームは7番線まであり、環状線(Circle Train)は6,7番線とあった。連絡階段を6,7番線のホームに降りると、パラパラと人がいる。6番線に、青と緑に塗り分けた古めかしい車両が止まっていた。近くの駅員にこの列車が次の発車か聞くと、次の次の次の列車との答え。ホームの進行方向前方を指差し、次の列車に乗るのならあっちの方へ行けと言う。ホームを歩いていくと、次第に人で溢れかえって来る。切符売り場を発見すると、次の列車の時刻が手書きで貼ってあった。10分後に来るようだ。とり急ぎ、一周乗りたいと言って切符を買った。最初2000チャット(170円)と言われたような気がして5000チャット札を出したら4900チャットのお釣りをもらった。どう聞き間違えたのかわからないが、切符は100チャット(8.5円)だった。ちょっと安すぎるような気もするが、確かに切符には100チャットと書いてある。



6番線に止まっていたイカした客車。



これが切符。手書きで100チャットと書いてある。


まもなく7番線のホームに列車が入ってきた。6両編成の気動車の先頭車両の方向幕には「ワンマン普通」の表示。日本製の車両だ。ヤンゴン市内では、古い日本製のバスやトラックを見る機会が多い。例えば僕が普段利用している神奈川中央交通や西武バスなどの古い車両が、車体の色もそのまま走っている。また、「給食センター」などと書いたトラックが走っている。ミャンマーの鉄道で日本の古い車両が走っていても不思議はない。



7番線に入線した古い日本の気動車。これは最後部の写真なので、方向幕には「回送」と書いてあります。



ちなみにヤンゴンで見る日本の古いバスの例。クジラ号と書いた幼稚園バスからお坊さんが大勢降りてきました。


さて、昼時なので列車はおそらく人も少なく、のんびりと風景を眺めながら三時間を過ごせると僕は思っていたのだが、列車が入線して自分の考えが甘かったことに気がついた。まず、入線してきた列車の中を見ると、車内はかなり混んでいる。そして広いホームに散らばっていた人が、列車のあたりに群がってきた。取り急ぎ、比較的空いていそうなあたりから列車に乗り込む。



ホームが急に混んできた。


車内は意外とうす暗い。車内の窓が半分くらいブラインドを閉めたような状態になっているように見える。あとで気がついたが、窓の半分に遮光シートを貼ってあった。混雑している車内で、比較的居心地の良さそうなデッキで立っていることにする。



デッキに立っているのも良いものです。


市街地を走っているうちは、駅間も比較的短い。混んだ車内をいろいろな物売りが行き交う。ほとんどの物売りは一駅から数駅乗ると降りていく。おそらくその駅間を往復しながら商売をしているのだろう。ちなみに車内で見た物売りは、水などの飲み物、桃、スイカ、柑橘類などの果物、うずらの卵(ゆで卵と思われる)、とうもろこしなどの野菜、落花生、新聞、携帯電話のプリペイドカード?などなど。列車に乗る際に改札は無かったし、検札にも出会わなかったので、物売り達は切符を買っていないだろう。女性の物売りは、頭に商品を置いたお盆を載せ、片手に小さな椅子を持って歩いている。お客が声をかけたら、椅子を置いて座って商談を始めるのだ。若い物売りは椅子を持っていない方の手を頭のお盆に添えているが、ベテランは揺れる車内にもかかわらず、手も添えず器用に頭に商品を載せていた。



ヤンゴン環状線の車内。エアコンは無い。通路で頭に盆を載せて右手で小さな椅子を持っているのは、物売りのおばさん。


物売り達は車内だけでなく、駅のホームでも店を広げている。駅によって多い少ないはあるが、ホームのいたるところで様々なものを売っている。椅子を並べて屋台の食堂を開店している強者もいた。市街地を抜け、ヤンゴン中央駅から一時間以上乗った頃にDANYINGONという駅に着いたが、そこはホーム一面が露店になっていて、駅がそのままマーケットになっているようだった。この駅は停車時間が全線で一番長かった気がする。



野菜を売っているけどホームです。


果物も売っていますがホームです。


カリフラワーも売っていますがホームです。


なんだか勝手に屋台をやっていますがホームです。


麺料理屋をやっていますがホームです。


ジャンク品を売っていますがホームです。


駅のホームなんです。

その頃には車内もだいぶ空いてきて、僕も座席で車窓を楽しむことができた。この路線は、庶民の生活空間に極めて近い。家の中で昼寝している人、線路に干してある洗濯物、働く人、遊ぶ子供。郊外のあたりはそこかしこの水田で草を収穫している。あとで聞いたら、空芯菜とのことだ。



僕も子供の頃に線路のそばで遊んでいたなあ。



空芯菜の収穫を初めて見ました。


そして、僕は対面式のシートに座っていたが、僕の向かいの人も次々に入れ替わっていく。最初に会釈して若者が座ってきた時に、たかのてるこさんだったらすぐに友達になってしまうんだろうなあと思ったが、元々言葉が不自由な上に、前日の飛行機で喉をやられて声がドナルドダックともんたよしのりを足して2で割ったようなことになっている。言葉が不自由でマスクをした怪しい人として、車内で浮いた存在であり続けた。



柱の前に座っている女の子は細々した物を売っているのですが、冷水も売っています。注文があると右側の赤い椅子の上のバケツから水をすくって、上部の氷の入ったロートに注ぎ、ロートの下からペットボトルに受けてお客に渡すという流れ。僕が飲んだら、まずお腹を壊すでしょう。


約三時間後、再びヤンゴン中央駅に到着したが、その後中華街に足を伸ばそうと思ったので、中華街に近い駅までもう一駅乗ることにした。その際に車内がだいぶ空いてきていたので、一旦ホームに降りて先頭車両まで行ってみた。この列車はキハ48という車両なのだが、先頭車両は運転席が片側にあって、真ん中の部分は前に車両をつなげた時に、車内もつながるように貫通する仕様になっている。驚いたことに、その貫通部を開けたまま走行しているのだ。僕のつたない説明でご理解いただけるだろうか。列車の正面のドアを開けたまま走っているのだ。一駅だけだが、列車の先頭で正面から受ける風を味わうという貴重な体験をした。これはぜひ機会を改めて先頭車両でもう一周したいところだ。



つまり、外から見ると、先頭車両がこの状態で走っているのです。



中から進行方向を見るとこうなるわけです。あ、そんなところ歩いていると危ないっすよ。


ヤンゴンの生活感を10円未満で味わう三時間の旅、誰にでもおすすめするものではないが、もし皆さんがミャンマーに旅行した際にヤンゴンで時間の余裕があったら、選択肢のひとつとして考えてみるのも悪くないと思う。



ヤンゴン中央駅の隣の駅。気だるげな感じが良かったです。


中華街は春節(旧正月)で賑わっていました。本番は夜。

写真が多くて重くなっていたらすみませんでした!!

関島