自衛官は民間では使えない? | 数多久遠のブログ シミュレーション小説と防衛雑感

自衛官は民間では使えない?

私が現役自衛官だった時、定年などで退職した自衛官が再就職先で苦労するという話を良く耳にしました。雇用者側とすれば「使えない」となる訳ですが、果たして本当にそうでしょうか。
今回は、社会に出てからの十数年を自衛隊で過ごし、現在は民間で働いているという私の経験から、自衛官(特に幹部自衛官)が民間に移ることについて書いてみます。

わたし自身、自衛隊に十数年もいた訳ですので、文化の違いに戸惑うことはあります。しかし、自衛官として過ごした経験が、マイナスになっていると感じることは全くありません。(現在の就業先は、いわゆる防衛産業ではなく、自衛隊とはなんの関係も無い民間企業です。)
それどころか、多くの先輩にご指導してもらったお陰で、働けているように思います。そのことは、一重には、私の自衛隊勤務の半分以上が各級司令部における幕僚勤務だったこともあるとは思います。
レポートやプレゼンの作成の作成は、口調を変えただけで、他には自衛官時代と変えてはいません。むしろ、現役自衛官だった頃の方が厳しい指摘を受けたくらいです。(民間は指摘される事なく評価だけされるため、こちらの方が厳しいか?)
ビジネスの世界で使用される経営戦略分析手法などは、その元をたどると、軍事発だったというものが結構あるのです。
有名な例を上げると、オペレーションズ・リサーチやランチェスターの法則などがその典型です。
自衛官の軍事知識は、自衛隊の外に出たら使いものにならないものではないのです。

アメリカのビジネス界では、軍出身という人は珍しくありません。軍自体が階級のピラミッド構造を維持するため、途中退職をし易いシステムをとっているということも一因ですが、必要な知識は異なるものの、経営戦略も思考のプロセスについては、軍事戦略とそれほど違いはなく、ウエストポイントなどの士官学校で教えていることを応用すれば、ビジネスにも対応してゆけるからなのでしょう。
なにせ、「戦略」という言葉自体、もともと軍事の専門用語です。戦略と戦術、目的と目標、選択と集中、どれも自衛隊の教育で教わり、その後の幕僚活動の基礎とし、今はビジネスに役立てている思考の方法です。
ビジネス書にも、わざわざ軍事関係が元ネタであることを宣伝しているものまであります。孫子やクラウゼヴィッツもその範疇に入るかもしれません。

日本の社会全体で、終身雇用はもはや崩れたと言ってもいい状況です。ですが、自衛隊の人事は、未だに、終身雇用を前提に計画されています。自衛官は民間において決して使い物にならないものではありません。民間企業の意識が変わる必要はあるでしょうが、こと幹部においては、途中退職をし易い環境を作れば、現状で歪になっているピラミッドも正常に近づけられます。