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【風は吹いているか 第10話】

 

『矢川からはじめる』     高杉 竜也

 

西荻窪で仕事の打ち合わせを終え、国立に着いた。
国立東、府中との境界線付近に部屋はある。
ドアが開き、車内から降りようとした瞬間に思い直し、そのまま見過ごした。
ドアが閉まり、オレンジ色の電車は動き出し立川に着いた。

 

階段を上り、駅構内の人混みを避けながら8番線の階段を下る。
南武線が、名波さおりが乗車するのを待機している。

 

矢川から歩きはじめる。

 

そう思い国立を通り過ぎた。
それが今日のさおりのごく小さな決断だった。

 

西国立を通り過ぎ、矢川に着く。
エスカレーターを登り、改札を抜ける。
左に折れ、階段を下りる。

 

歩きはじめる。

 

冬をやり過ごした。
いや、やり過ごしたという言葉は今年に限って適切でない。
きちんと冬の空気を大切にした。白い吐息と一緒に。
あの日あのカフェでホットココアを飲んでから。
冬を大切にしての今は春。
いつものなげやりな春とは違う。

 

南武線の踏切方向から強烈な南風が吹き、名波さおりの身体が持って行かれそうになるのを耐えて赤信号を待つ。

 

「ママーっ!」
「なに?」
「風がゴ〜ゴ〜って言ってるよ!」
「そうね」
「ママ、私は魚座なんだよ!」
「あら、すごいわね。ユカは自分の星座を知ってるの?!」
「うん。だから水の中に住むんだよ」
「そんなこと、どこで覚えてきたの」

 

同じ赤信号を待つ母子が会話をしている。
さおりは微笑み、その子を見つめた。
目が合った。

 

信号が青に変わった。
本屋が自転車屋に変わっていることに気がついた。

 

国立二中の交差点に出る。
東に向きを変える。

ここからさくら通りと大学通りを歩いて部屋に帰る。

 

名波さおりはいま来た矢川駅方向を振り返った。
もしかしたら私はこの2分間が最も好きなのかもしれない。
影のない光はただの平面にすぎない。

 

黒茶色の古いオートバイがさおりの前を大きくきれいにUターンした。
操縦しているのは女性だった。
一瞬さおりと目が合った。
今日はよく目が会う日だ。

 

よし、10往復。
そう聴こえたような気がする。
空耳かな。

 

南風が名波さおりのスカートをバタバタと大きな音をたて揺らした。
軽い繊維でできている。
南風はそれと同時に髪と枝と信号機を含めた交差点全体の空気を大きく動かした。

 

OK!
私はきちんと風に集中できている。
私は風の中に住んでいる。

 


<書いている人:高杉竜也>

街全体の風と桜ではなく、ごくごく個人的な風と桜があると仮定します。
風が吹いているかの3人の登場人物は、この4月の極めて小さなフレームを国立でこのように過ごしたという、これも極めて小さな説です。

 

≪バックナンバー≫
第9話 『魚座の住む川』

第6話 『ホットココアをくださいな』

第5話 『さくら通りを10往復 秋』

 

 

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