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【風は吹いているか 第9話】

 

『魚座の住む川』     千野 龍也

 

光は2月とは違うものに変化している。

丹沢直美の着ているジャケットは革製のものから2段階ほど軽い繊維のものへと変化した。

 

「子供ってさ。全身全霊で泣いて、全身全霊で怒って、全身全霊で笑うじゃない。だからこちらは全身全霊でそれに応えようとするじゃない。でも私はその解答を持っていないの。だから私は子供が苦手なの」

 

昨晩の友人との会話を思い出す。

なんの脈略もない。

子供が苦手というより、正確に言うと子供が怖い。

自分が試されていると感じる。

 

向かいに小学生の女の子と父親らしき男性がたたずんでいる。

畦道は狭い。

 

「魚たくさん捕まえたね。見て。これは私が捕まえたのよ」

女の子は小さな魚の入った缶を父親に見せた。

「知ってる。ユカが捕まえた。お父さんはそれをずっと見ていた」

「この魚なんていう名前?」

「知らない。なんという名前だろうね」

「この花はなんていう名前?」

「さあ、なんという名前だろう」

「お父さんは何も知らないのね」

「何も知らないけど、ユカがこの魚を捕まえたことは知っている。ずっと見ていた」

「あの車が走っているところは?」

「中央高速道路」

「この川の名前は?」

「ママ下湧水」

「ママ?」

「お母さんとは関係ない」

「へんな名前」

 

父親は有利だ。時間が圧縮されている。

母親はその濃密性に比べ時間が間延びしている。不利だ。

直美は心の中でつぶやいた。

 

その父娘の傍らを通り過ぎようした時。

 

「おねえちゃん!これは私がつかまえたのよ」

 

えっ?私のこと!?

 

「えっ、ええ。すごいね。あなたが捕まえたのね」

「この魚なんていう名前?」

「なんだろうね。メダカ?ちがうよね」

「この花はなんていう名前?」

「なんだろう、ごめんね。詳しくないの」

「あの道路は?」

「中央高速道路よ」

 

中央高速を見た。

オートバイに乗りたい。

オートバイに乗っている時だけ私は自由になれる。

スロットルを開く分だけ心が解放される。

 

「川の名前は」

「えっと、ママ下湧水だっけ?」

「わたしの星座は?」

「せっ、せいざ!?

 星座って生まれた星のこと?」

「うん。わたしは何座?」

 

あなたの世界は?)

逆に質問したかった。

あなたのその柔らかな世界はいったいなにでできてるの?)

 

「ユカは星座なんて言葉を知ってるんだ。すごいね」

「知ってるよ」

 

父親が助け舟を出した。

 

「ユカは魚座だよ。このまえ誕生日だったね」

「うおざっ!さかな?

 だめだあ〜、それなら川に逃がしてあげなきゃ。缶の中じゃあかわいそう!」

 

父娘が魚を逃すのを見届けながら直美はその場をそっと離れようとした。

 

「あっ、おねえちゃんが行っちゃう!待って。私とあそびなさい!」

「ええっ?!」

 

「だめだよユカ。おねえさんは忙しいんだ」

父親がたしなめた。

 

 

丹沢直美は部屋に戻り、アパートの駐車場のバイクに向かった。

去年の11月に親友から譲り受けた古いHONDA GB 250だ。

シートに大股に跨り、キーを差し込み、美しい姿勢で正面を見つめた。

 

「ユカちゃん。私も魚座だよ。

   缶の中にいるよ。

   川の中に住みたいよ」

 

私は全身全霊で応えられたのか。

どちらでもよい。私は大袈裟だった。

答はもっとシンプルだ。

 

あの子が幸せになればいい。それだけだ。

 

ギアを入れ、スロットルを少し開き、ゆっくりとオートバイを発進させた。

 

 

 

<書いている人 : 千野龍也>

 

第2話「私と遊びなさい」のユカと第5話「桜通りを10往復 秋」の丹沢直美がつながりました。

国立以外を歩いている時は風景に集中できますが、国立を歩いている時だけは、次回の物語を考えて疲れてしまうことがあります。

でもやはりこうして符号が合うと嬉しいもので、もう少しだけ書き続けてみようと自分を励ます今日この頃。

国立の風を見ながら。

 

 

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