チセはタクシーを拾い家につくと

ゆっくり茶碗蒸しを冷蔵庫に入れた。

夫は歩くことが不自由でトイレにいくまでの間

あるいは、トイレに着くなり我慢できず失敗することが多い。

そのため、トイレはいつも汚れている。

今日もトイレで失敗していた。

チセは舌打ちをした。

かといって、自分も疲れているのだ。

夫を捕まえ「何で毎日、毎日こうなんだ。

お前なんて、お前なんて」といいながら足を蹴っている。

けして見えるところに傷はつけられない。

夕方焼酎を飲んでいる夫はよろよろしてなすがままだ。

チセの気持ちが収まるまでじっとしているしかない。

チセは若い時夫に殴られた事を思い出すととまらなくなるのだ。

かといって体力がそれほどあるわけではないので疲れてしまう。

                               つづく
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この物語は虐待ケースを数々こなし解決に導いた筆者が、それをデフォルメしたものです。
実在しません。


茶碗蒸し

久保チセは今日も深夜のマーケットでタバコと茶碗蒸しを大量に買い込み
タクシーで帰路についた。

チセは道南の農家の長女として生まれた。
貧乏を絵に書いた家で6人の妹、弟を食べさせるため高等小学校に通いながら
農家を手伝い、卒業後は営林署に勤めた。

卵はご馳走だった。
ましてや茶碗蒸しは高値の花で食べることが出来なかった。
いや、茶碗蒸しの存在を勤めるまで知らなかった。

お正月、上司の家で生まれて初めて茶碗蒸しを食べた時は天にも昇る気がしたくらいだ。

だから、茶碗蒸しさえ食べていれば、栄養満点で暮らしていけると思っていた。

夫はわがままで、焼酎しか飲まないから、茶碗蒸しは欠かせないと信じていた。

夫は車椅子で要介護4.

しかし、風呂だけはチセが入れていた。
いや、どんなことをしても入らせていた。

風呂はお湯がどろどろだった。

「さ、帰らないと・・・・・」大好きなタバコで一服して立ち上がった。
マーケットの喫煙所のタバコを心行くまで楽しんだ。
                            続く
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