誰も知らない物語 第六十五話

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その二人に何も言えずただ黙っている朔夜。
彼らはいったい…何者!?

「君たちか、かぐやをここまで導いてくれたのは?」
「えっ?」
突如現れた二人に気を取られすぎ肝心の蓬莱のことを忘れていた。

「紹介するのじゃ、私の恋人。藤原蓬莱なのじゃ。」
「藤原蓬莱だ。」
と深くお辞儀をする蓬莱。
それにつられて俺たちもお辞儀をする。
「この度はなんとお礼を言えば…。」
「いや!待て待て!」
蓬莱が真顔で話しているというのに、晴彦がそれを阻止するかのように割って入ってきた。

「あれ誰!つか、ここどこ!」
とあちらことらを指差しながら言う。
確かに晴彦の言いたいことは分かるけれども…。
「そうだな。ちゃんと説明しなくてはだな…なぁ、かぐや。」
「そうなのじゃ。」
と蓬莱を見て頷く瑠奈。

まずはこの場所らしいが…。
確かに青木ヶ原のはず。
それにも関わらずこのただっ広い草原はいったい。
「ここは高天ヶ原という場所だ。」
「たかまがはら?」
口を揃えて聞き返した。
青木ヶ原ではなく…高天ヶ原って…。

「おい、それって…天神の世界じゃないのか?」
と健三は冷静に聞き返す。
「はっ?天神って、神様!?」
美保は健三に聞き返す。
「そうだよ。神の世界ー高天ヶ原。本当にの高天ヶ原なのか?」
と健三も再び蓬莱に聞き返す。

「神話ではね。でも、ここは青木ヶ原をちゃんと抜けたら来れる場所だよ。」
「ちゃんとって…。」
「自然を大切にし、思いやる気持ちがあれば道はこんなにも閉ざされることはなかった。」
と蓬莱は話を続ける。

竹取物語の時代は、自然も大切にし、思いやる気持ちもあった。
だから、高天ヶ原への道ーつまり、青木ヶ原はこんなにも不気味な森ではなかったと言う。

「たが、君たちを見ていると現代はそうでもないようだな。」
「そうかな…。」
と健三は言うが、俺は蓬莱の言いたいことが分からなくもない。

「まぁ、この場所が高天ヶ原だとしたら…あの二人は…。」
と指差す。
相変わらず朔夜は縮こまり恐縮しているような感じだ。
あの朔夜をここまで恐縮させるのは…。

「あの男性は私の父上なのじゃ。つまり、兄さんの父上でもあるのじゃ。父上は月読と言う。」
「んで、あっちの女性は…天照。」

「ちょっ、ちょっと待て!」
健三は今までにないくらい驚いた。
その訳は俺でも分かる。

月読に…天照…だと!
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誰も知らない物語 第六十四話

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「朔夜…千年ぶりだな。」
降り下ろされたはずの刀が優香の目の前で止まっている。
というより、刀で止められていた。

さっきまで雲で月明かりが薄くなっていたが、晴れてきた。
その姿がはっきりと映る。
月明かりが掛からない部分は真っ赤な翼だが、明かりが掛かっている部分は正真正銘の人間の姿だった。

「貴様は…。」
「ほ、蓬莱殿…。」
彼が…藤原蓬莱。

月明かりが完全に全身に当たると真っ赤な鳥の姿から完璧な人間の姿となった。
着物を纏い、腰に刀を提げている。
優香に降り下ろされた朔夜の刀を、自らの刀で受け止めていた。

「かぐや。久し振りだな。」
「蓬莱殿。」
瑠奈の目に涙が浮かんでいた。

「貴様…!」
「朔夜、刀を引け。この者達に刀を向ける必要はないはずだ!」
「愚民の言うことが…なっ!?」
そう、そのいつもの愚民の言うことが…と言うはずだった。
しかし、朔夜は何かに驚いたようにその刀を引いた。

「大丈夫か?優香!」
その間に俺は優香のもとに辿り着けた。
「だ、大丈夫…。」
と言う優香の手と足には切り傷がいくつもある。
ここまで逃げたときに出来た傷なのだろうか…どちらにしろ危険な目にあわせてしまった。

「守…。」
「なんだよ…。」
睨んでくる。
優香は手を振り上げた。
はっ、ビンタ!?
と思った瞬間。
「良かった…守、生きててよかった…。」
と抱きついてきた。
それも泣きながら。

「お、おい…。」
突然のことで俺は何もできなかった。
ただ、優香の頭を撫でることしか…。
「二人とも大丈夫か?」
健三たちも駆け寄ってきた。

「あっ、優香泣かした!」
「はっ?優香が勝手に泣いてんだ…」
「勝手になによー!心配したんだから!」
と泣いて俺を怒る。
「あっ、はい、すいません。」
その勢いに圧倒されて何も言い返せなかった。

まぁ、優香が生きてる。
これだけで…ほんとに良かったんだけど。

「そういや、朔夜は!?」
そういえば、やたらさっきから静かだ。
愚民!愚民!と叫んでいた朔夜の声がしなかった。
「あれ。」
と健三が指差す。

そこにいたのは…
「あっ。」
「あ。」
朝、バスで会った…お婆さん。
いや、月の明かりが当たるとたちまち若返り、美人の女性となった。
その隣には見知らぬ男性だがいた。
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誰も知らない物語 第六十三話

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だからなのか、真っ赤な鳥がやけに急いでいるような雰囲気なのは…。
「健三ー…どこまで行くんだ?」
晴彦が弱々しい声で言う。
「知らないよ、でも…。」

そうだ。
やけに視界が良くなってきた。
というより、木が減ってきた。

「樹海を抜けるのか?」
「そんな感じだよね。」
長い通路のように立っていた木々がまるで歩道の並木のように並んでいる。
その先で真っ赤な鳥が鳴いている。
なにかに威嚇しているようだ。

「抜けるぞ!」
長かった樹海を抜けた。
そこは今まで見てきた風景を一変させた。
今まで不気味に立っていた木はどこにもなく大きな広場に出た。
草原のように草が生い茂っていて風が気持ちよく吹いている。

「おい、ここ…青木ヶ原だよな…。」
青木ヶ原のイメージとは丸っきり違う。
日本地図にはこんなただっ広い草原なんてなかったはずだ。

呆気にとられていたが、真っ赤な鳥の鳴き声でハッとする。
「守!」
優香がいた。
まだちゃんといた。
瑠奈も一緒だ。

ただ、
「愚民が運良く生きてたか?」
朔夜もそこにはいた。
「しつこい奴等だな。次は本気で斬るぞ。」
と腰に提げた刀を抜く。
きっと、正真正銘の刀だ。

「先ずは、貴様からだ!」
と言って優香に切っ先を向ける。
「やめろ!」
もう、なりふり構わず走っていた。
刀相手だ。
今度こそ死ぬかも知れない。
でも、優香…君を失いたくはないんだ。

「守!」
「あのバカ!」
間に合うか…間に合わないか…。
知らねー、でも、あと一歩。
もう一歩。

「愚民、自分の死よりも怖いものだろ?」
「兄さん!」
瑠奈も制止も届きそうにない。

ダメだ。
間に合わね…。

「優香!逃げろ!!俺は…まだお前に言わなきゃいけないことがあるだ!逃げろ!!」


朔夜の刀は優香に降り下ろされた。

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