凝ってみよう~追加装丁という方法~ | くじら製本の日々

※長いです

完成

同人誌を作りなれてくると、「もう少し違ったことがしてみたい」と、思う時が来たりするものです。
「でも、特殊なことは高いし……そんなに部数がないし……」と思ってしまうこともあります。
「装丁よりも大事なことがある」と組版や作画にレイアウトなどの技術向上も確かに大事かもしれません。
けれども、手に取ってもらうこと……すなわち、本として読んでもらうこと、というのはデータや見るだけの媒体違ってどれか一つだけでは出し切れない難しさがあるのも事実です。

お金がなくて部数もない……そんな人でも良い本を作る方法があります。
そう、ひと手間かけてみることです。組版でもデザインでもレイアウトでもひと手間かけて、本の仕上げにもひと手間かけてみましょう、というのが今回のテーマです。

ひと手間かける、とはどういうことかといいますと、ほんとにひと手間です。
と、いうのもお金がなくて部数もなくてという時の凝った装丁というのはどうしても手製本分野の作業になりがちです。確かに製本をゼロから組み立てれば劇的に安くはなるのですが……きちんとした道具をそろえていくとなると、これがなかなかに大変です。
そこで、大事な製本部分はプロに任せて、ヨーロッパで歴史のある「再装丁」の知恵を借りてやってみましょう。

再装丁、というのはフランスなんかが盛んだったと思いますが、簡素な状態で本を作り、購入後に装丁師などが装飾を施す事のことを指します。現代では破損した本の修復などにも使われている方法ですね。

あ、注意点として、細かいことを書いてなかったりします。
こういうことを話したがりなのに絶望的に説明がわかりにくい人もいることを予めご理解ください……

・今回の材料

今回の製本材料

1、製本済み冊子
 今回は印刷していない色上質の厚口に遊び紙で色上質の厚口、という形で作りました。
 再装丁として別に表紙を作って貼り込むため印刷は必要ないのと、遊び紙と表紙を同じ紙にすると完成品では「貼り見返し」になります。

2、表紙貼り込み用紙
 画像では絵柄のある紙ですね、今回の装丁で一番大事な部分です。
 通常の表紙と基本的には同じつくり方ですが、周囲のヌリタシや貼り込みのノリシロなど違いがある点に注意です

3、芯材板紙
 表紙を貼り込む台紙ですね。今回は計算の手間やらを考えて180㎏のポスト紙を準備しました。
 あまり薄いようだと、貼り込み難易度が上がります。300㎏位までなら作業性に問題がないのでお好みで。
(300kgを超えると厚みが出るので背の計算などがちょっと面倒になるよ)

今回はテストも兼ねるし、実際の製本したものとプリントした表紙が必要だったので、毎度お世話になってる、株式会社RED TRAINのワンブックスを利用しました。
ので、テンプレその他が必要な場合はRED TRAINのメールフォームで「くじらを見た」とか言いながら請求してみるといいと思います。たぶん準備できていないと思いますが、話は通じて増すので……。

中身の本については、「表紙の色上質+遊び紙+本文スミ刷り」が可能であれば基本的にはどの同人誌印刷会社で基本料金+オプションで作れると思いますが、セット外はないよ、という会社もあるので確認の上というところで。

・作り方
まず、貼り込み表紙を切り出します。
折り返しは2cmで、上製本や手製本関係などでは切り落としは真っすぐというところも多いですが、鈍角のほうが角に心材がおチラする事故もなくいい感じです。

貼り込み準備

ガイド線を引くとあとの作業が楽になります。
折り返し部分が2cmなので、方眼のあるカッターマットなどで紙端から2cmを図って線を引くのが楽です。
裏面なのでよほど濃くしない限りは隠れますが、ペンよりは鉛筆のほうが良いです。
表紙の紙は今回、日本製紙のb7トラネクスト86㎏を使いました。オフセットでもオンデマンドでも発色がよく手触りが良いので個人的には最近一番のおススメ用紙です。
出来上がった本にさらにカバーをかける、というのもよい仕上がりですので、その場合は表紙の絵柄などはシンプルに仕上げたりするのもよいでしょう。

さて、表紙の貼り込みですが、ここで今回の装丁についてご説明します。
今回はA6の本にチリ出し3ミリで作る、「なんちゃって仮フランス装」になります。
仮フランス装、というのは本場フランスで作られていた「再装丁を前提にした製本様式」を日本版に機械化したもののことを指します。(本フランスはアンカットで手作業仕上げとか定義はいろいろありますが、仮フランス装は貼り込み表紙でクルミ製本というのが大体の共通見解ですね)
同人誌でよくいう「フランス表紙」というのはただの両袖折で、なんでそう呼ぶようになったのかは調べてもわかりませんでしたが全く別の製本手法ですのでオーダー時には注意が必要です

シワなし最強


寸法は貼り込みの折り返しも含めて、
紙端から20+108+背+108+20ミリ、天地は20+154+20です。
絵柄は折り返し先5ミリまで必要になります。(本文は左右105の天地148です)

糊は木工用ボンドなど、いろいろ候補はありますが、失敗しにくさや作業性を考えてお勧めするのはスティックのり、その中でも「シワなしPIT」はシワが出にくく紙反りも少ないので、道具をそろえたりすることを考えるとダントツ一押しの糊になります。
ただし、スティックのり特有の「パリッと剥離」が起きやすいので、バリッと音がしたりするのが気になる人は、木工用ボンドを塗る腕を鍛える必要があります。

スティックのりの作業の場合、反りや紙の塗りやすさから、心材側に糊を塗っていきます。
貼り込み表紙の上で位置決めをしてから塗ると、はみ出した側は貼り込みに使うノリシロ部分だったりするので後処理が楽です。

貼り込み作業

糊を塗った芯材をひっくり返して、貼り込みの紙と接着します。
シワや汚れが気になる場合は柔らかい布や軍手越しに撫で押して接着します。
折り返しのの部分にも糊を塗って、折って貼ります。
ポイントとしては端の重なる部分は画像のようにまっすぐに折っておくことでしょうか。
紙目と逆になる長辺部分は折りにくいので曲がらないように気を付けましょう。

貼り込み完了

貼り込んだ後は、少し糊が落ち着くまで、平らなもので挟んで重しをかけておくとよいでしょう。
水分が多い場合は波打ちますので、糊や環境によりますが1時間~24時間でしょうか。

表紙装飾

いよいよ本体接着です。
仮フランス装では背のみを糊つけするのが一般的ですが、本作はなんちゃってであることのほかに作業性と表紙と本体の関係から、上製本と同じく「ベタ貼り見返し」に仕上げます。
と、いうのも背だけできちんと貼るのは大変面倒なのとスティック糊から持ちかえるというのは「ちょっとひと手間」に反するとことかな、と。

貼り位置は本文に比べて表紙は3ミリ大きい、ですので紙端から3ミリの位置です。
背は、刃を出してないカッターの先などで筋押ししておくと折るのが楽ですが、慣れないと背が大きくなってしまって完成品の背がななめでホットメルト製本の本文との差で気になるかもしれません。

ベタ貼りにはするのですが、背は貼りません。なんでかというと、背までびっちり貼ると、ホットメルトですでに製本されてる本を板紙で強化する形になるので、開きが悪くなるんです……
なので、見返しのベタ貼りといっても背の側数ミリには糊の入れない方がいいでしょう。
ちょっとしたオープンバック製本と同じ効果が得られるうえに、背に貼らないことで背の部分は遊びが生まれますので、背のない薄い本でもこの仕上げをすることができます。

それから追加で背にスピン貼ってもOKです。
背の部分は貼り込み表紙で見えませんので、適当に貼ってもわかりませんので。

完成見返しの状態背の状態


見返しをベタ貼りしたら、少しの間、重しをかけて置いておきます。
手製本のコピー本などと違い、仕上げにもうひと断裁、という作業がありませんので、これで完成です。
落ち着いた頃合を見計らって開けば、ちょっと立派な本になっていると思います。


・最後に
と、いうわけで作ってみましたがいかがでしたでしょうか?
なるほど……わからん。という感じだと思いますが、現物はRED TRAIN本社に置いてありますのでお近くの方は事前確認の上でお願いします(貸出持ち出しの場合もあるので)

手製本作業実験中にどうしても背固めが素人材料では難しく、これじゃ手製本をしようっていう決意も一緒になって大変だ……と、いうことで、パーツごとに手作業とプロ仕事を混ぜる、という方法に行きつきました。

計算は面倒ですけど、チップボールを使った上製本風な仕上がりも近いうちにやる予定です。

B5の4色表紙のPPで……あとは中身で勝負!という世界とは違った、装丁の世界。
個人的には装丁が少しでもこっていた方が出番があったりするので、みんな興味持ってください、という感じです。

装丁は凝りだすときりがないですが、ちょっとの手間で、より手に取ってもらえたらいいなと願いつつ、実は娘の1歳の誕生日に作るフォトブック用に考え出した、くじら製本でした